バカと七不思議と俺たちの伝説(になるはずだった話)
放課後。
俺の幼馴染が突然、
「伝説になろうぜ」
とか言い出しました。
普通に帰りたかったです。
これは、
バカと、
ちょっと変な高校生たちが、
七不思議を調査して、
猫に負ける話です。
よろしくお願いします。
「柊、俺たち、伝説になろうぜ」
放課後の教室に、大地のその一言が落ちた瞬間、俺の中で何かが——正確には生存本能が——全力でサイレンを鳴らした。
窓から差し込む西日がオレンジ色に溶けて、埃っぽい教室をやけにドラマチックに照らしている。チョークの粉の白い匂い。遠くのグラウンドからブラスバンドの音。どこかのクラスのホームルームが終わった気配。完璧に「青春の放課後」な空気感なのに、俺の友人・神田大地は机の上に仁王立ちして、目をギラギラさせながらとんでもないことを言っていた。
俺——柊 蓮司、17歳、偏差値38の蒼南高校2年3組所属——は、消しゴムのカスを払っていた手を止め、深呼吸を一つした。
「……大地」
「なんだ」
「机の上に立つな。先に言っとく」
「細かい」
大地が机から飛び降りる。身長180センチ、スポーツ万能、顔は悪くない。そのくせ頭の中身だけが著しく充填されていないこの男は、俺の幼馴染であり、毎日俺のHPを削り続けるラスボスでもある。
隣では瑛介がすでに顔を青くしていた。
「……伝説って、具体的に何するの?」
「決まってんだろ」
大地は腕を組み、芝居がかったポーズで言い放った。
「蒼南七不思議を、今日全部解明する」
三秒の沈黙。
俺と瑛介が同時に椅子を引いた。「帰ろ」「帰ろう」のハーモニー。
「待て待て待て!」
大地が両腕を広げて出口を塞ぐ。その後ろで、ずっと黙って窓の外を見ていた零が静かに振り返った。
「面白そうだ」
零の低い声。短い一言。
それで詰んだ。
岡崎 零という男は、うちのクラスの謎枠である。成績は学年トップクラスなのに蒼南に来た理由が不明。口数が少なく、いつも何かを「観察」しているような目をしている。ただし年に数回、「面白そうだ」と言った日は、必ず何か大事件が起きる。それがジンクスとして3組に定着して久しい。
「零まで言うか……」
俺は額に手を当てた。窓の外、グラウンドを走る野球部が小さく見える。ああ、あっちの世界に生まれたかった。
「ちなみに蒼南の七不思議って何?」俺はため息交じりに聞いた。
「それを今から調べる」
「……順番おかしくない?」
◆ 第二幕 七不思議リスト、作成中
大地がホワイトボードに七不思議を書き始めた。マーカーをキュッキュッと走らせながら、「うん、うん」と一人でうなずいている。
【蒼南高校・七不思議リスト(暫定)】
① 音楽室のピアノが夜中に鳴る
② 三階女子トイレの鏡が曇ったまま
③ 旧体育倉庫に入ったら出られない
④ 理科室の人体模型が毎朝位置を変えている
⑤ 屋上のドアが開かないのに屋上に人影が見える
⑥ 図書室の本棚の奥に「もう一つの図書室」がある
⑦ 校長先生が実はロボット
「最後なんだよ」
俺が即突っ込む。
「いや、これ去年の学園祭で誰かが言い出して以来、まじで信じてる奴いるんだけど」
「それはただの風評被害だろ!」
「でも校長、笑顔が無機質じゃない?」大地が真顔で言う。
「人間の笑顔がそんなにバリエーション求められると思うな!」
瑛介がおずおずと手を挙げた。
「あの、俺、七不思議関係なく、この活動自体に反対票を——」
「棄却」
「早い」
零がリストをじっと見ながら言った。
「①から順番に回るのが効率的だ。音楽室は一階南棟。今の時刻は午後四時十分。部活動の終了は六時。二時間で七か所回る」
「零、なんかノリノリじゃない……?」
俺が信じられないものを見る目で言うと、零は少し目を細めた。
「退屈だった」
短い答えが、なぜか俺の胸にすとんと落ちた。
ああ、そうか。こいつも退屈だったのか。なんかそれは——ちょっとだけ、わかる気がした。
「……わかった。一個目だけ付き合う」
俺がそう言った瞬間、大地が「よっしゃ!!!」と叫んで机を蹴り、瑛介が「え待って俺は?俺の反対票は!?」と叫び、零が「行こう」と静かに立ち上がった。
こうして、俺たちの最長の放課後が始まった。
俺たち四人の時が止まった。
一音。たった一音。でも確かに聞こえた低いド。余韻が音楽室の壁に反響して、ゆっくり消えていく。
「……」
「……」
「……」
「……」
瑛介が一番速かった。廊下に飛び出して「無理!!!」と叫ぶのと、大地が「本物じゃん!!!」とテンションを上げるのが同時で、俺が「落ち着けお前ら両方!」と叫ぶのが一秒後だった。
零だけがすたすたとピアノに近づいていく。
「零!?」
「調べる」
零がピアノの蓋を開け、中を覗き込んだ。しばらくして「来い」と言った。
俺は恐る恐る近づく。大地も後ろからついてくる。瑛介は廊下から首だけ伸ばしていた。
ピアノの内部——弦と響板の間に、茶色いものが見えた。
「……猫?」
そう。丸まった子猫が一匹、ピアノの内部で眠っていた。恐らく外から入り込んで、暖かいこの場所を寝床にしたのだろう。俺たちが扉を開けた振動で、寝返りを打ちながら鍵盤を一つ押したらしい。
子猫が目を開ける。黄色い目が俺を見た。
「……めちゃくちゃかわいい」
大地がそっと顎を撫でる。子猫が目を細めた。
「七不思議①、解明。原因:猫」
零がポケットからスマホを出して記録する。俺は笑いを堪えながら言った。
「……猫、か。なんか拍子抜けだな」
「蒼南の怪異の正体がだいたいそんなもんだと思う」
零が言う。その口の端が、ほんの少し上がっていた。
俺はそれを見て——なんか笑えた。本当に笑えた。
「瑛介、入っていいぞ。猫だ」
廊下から「猫!? 本当に!?」という声がして、次の瞬間音楽室に飛び込んできた瑛介が子猫を見て「可愛い〜〜」とデレデレしていた。お前さっき死ぬほど怖がってたじゃないか。
◆ 第四幕 トイレの鏡と倉庫の謎
七不思議②は三階女子トイレの鏡だ。
当然ながら、男子は入れない。
「ここは調査不可能だろ」と俺。
「違う」
大地が人差し指を立てた。
「女子に頼む」
「誰に!?」
大地がすたすたと教室に戻り、三分後に同じクラスの佐倉さんを連れてきた。
佐倉さんは「え、何、何の調査?」と不思議そうな顔をしている。
「七不思議の調査です」
「……七不思議?」
佐倉さんが俺を見る。俺は「すみません、巻き込まれてるのは俺も同じです」という顔をする。
佐倉さんがくすっと笑った。
「いいよ、見てくる」
二分後。佐倉さんが戻ってきた。
「あの鏡、換気扇が壊れてるから湿気が抜けなくて曇ってるだけだよ。私、前から気になってた」
七不思議②、解明。原因:換気扇の故障。
「……設備の話か」
俺がつぶやくと、大地が「でも怖く見えるよな!」と無駄に興奮していた。
佐倉さんが「じゃあ私、行くね」と言って歩き出し——ふと振り返った。
「残り全部、解明できたら教えて。なんか楽しそう」
その笑顔が夕日に照らされて、俺は一瞬だけ言葉を失った。
後ろで大地が「お前、顔赤い」と言った。
「うるさい!!」
七不思議③、旧体育倉庫。
校舎の裏手、錆びたトタン屋根の下にある倉庫。「入ったら出られない」という伝説の場所。
ドアを開ける。スポーツ用品と防虫剤と古いゴム臭が一気に流れ出てくる。
大地が中に入った。
「……あれ、出られる」
「それはそう」
俺は即答した。
「でも伝説は?」
「大地、ちゃんと確認しろよ」
零がドアの裏を調べた。
「わかった。ドアの内側のノブが取れてる。これだ。閉めたら内側から開けられない」
「じゃあ——」
バタン。
瑛介がドアを閉めてしまった。
外から。
中には大地と零が閉じ込められた。
「……瑛介」
俺が呼ぶ。
「あ。やってしまった」
瑛介が小声で言った。
「……なぜ閉めた」
「なんか、確認したくて……」
倉庫の中から大地の「おいコラ!!」という声と、零の「……なるほど」という声が聞こえてきた。
俺は外から蹴って開けてあげた。
七不思議③、解明。原因:壊れたドアノブと瑛介のうっかり。
◆ 第五幕 人体模型と屋上
理科室。
人体模型が窓際に立っていた。内臓が透けて見える、あのプラスチックの奴。目が虚ろで、どこから見ても視線が合う気がする。
「毎朝位置が違う、か」
大地が腕を組む。
「つまり誰かが動かしてるんだよな」
「先生でしょ普通に」と俺。
「でもなんで?」
零が人体模型のベースを見た。
「キャスターがついてる。恐らく先生が毎日授業の準備で移動させている。加えて、この向きだと——」
零が窓を見た。夕日がちょうど人体模型の顔に当たっている。
「この角度から見ると目が光る。それが怖い」
「……実用品じゃないか」
俺たちが完全に脱力していると、後ろから声がした。
「あれ、お前ら何してんの?」
振り返ると、理科の春山先生が立っていた。四十代、眼鏡、いつも少し眠そうな顔をしている先生。
「……七不思議の調査です」
俺は正直に言った。
春山先生が少し考えてから言った。
「人体模型な、俺が毎朝動かしてんだよ。生徒に覚えといてほしい部位を、その日の授業に合わせて見やすい位置にしてる」
「……ですよね」
「あと、たまに暇なときちょっと違う向きにして、朝礼時に廊下から見る奴らがびっくりするのを楽しんでる」
「ソレですよソレ!」
大地が叫んだ。
「先生が七不思議の犯人じゃないっすか!!」
春山先生が困ったように笑って「まあ、気分転換にな」と言った。
七不思議④、解明。原因:春山先生の趣味。
屋上のドアの前。鍵がかかっていて、開かない。
「人影が見えるってやつだろ。今確認できないじゃないか」
「いや、見えた」
大地が屋上に続く踊り場の窓を指さした。
見ると、金属製のフェンスの向こう——屋上に出る手前の踊り場部分に、誰かの「影」が窓ガラスに映っていた。
人影。たしかに、人影だ。
「……誰かいる」
瑛介が引きつった声で言った。
俺は目を凝らした。影の形が少し——変だ。
頭がある。胴体もある。でも——
「大地、スマホのライトつけてそこ照らせ」
「え、なんで」
「いいから」
大地が照らす。
人影の正体は、清掃用具入れのモップだった。窓の角度と夕日の方向が重なって、外から見ると人の影のように見えていただけだった。
「……モップか」
「七不思議⑤、解明。原因:モップと光の反射」
零が淡々と記録する。瑛介が「なんだモップか、よかった」と胸をなで下ろしていた。
◆ 第六幕 図書室の秘密
残すは⑥と⑦。
図書室は閉館ぎりぎりで滑り込んだ。司書の渡辺さんが「もうすぐ閉めますよ」と言いながら本を整理している。
「本棚の奥に、もう一つの図書室がある」
大地が腰に手を当てて本棚を見渡す。
「お前ら探すぞ」
「六時まであと二十分しかないが……」
俺たちは手分けして棚を調べ始めた。
本棚の背表紙が並ぶ。文学、歴史、理科、語学。古い本と新しい本が混在している。本の匂い——紙と糊とほんの少し黴のような、でも嫌じゃない匂い。指で背表紙をなぞると指先に微かなざらつきが伝わってくる。
俺が奥の棚まで来たとき、ふと気づいた。
棚の一番奥。他より少し隙間が多い場所。本の背表紙をよく見ると——全部、同じ著者名だ。
「蒼南 一郎」
聞いたことない名前。
「渡辺さん、この本——」
渡辺さんが近づいてきて、俺の指さす棚を見た。表情がほんの少し変わった。
「……よく気づきましたね」
渡辺さんが棚の本を一冊引き抜いた。
ガコン、という音がして——棚の一部が動いた。
「え」
本棚の奥、壁だと思っていた部分が、小さな扉になっていた。
渡辺さんがそっと押すと、軋みながら開く。
中は、小さな部屋だった。
四畳半ほどのスペース。壁一面に古い本が並んでいる。埃の積もった木の机。窓はない。天井の低い、隠れ家みたいな空間。
「……本当にあった」
俺は息を飲んだ。
渡辺さんが優しく笑った。
「蒼南高校ができたとき、初代図書室がここだったんです。今の図書室が増築されたときに壁でふさがれたんですけど、私の先代の司書さんが内側から本棚でカモフラージュして残しておいたみたいで。私が赴任したとき、引き継ぎで教えてもらいました」
「なんで残してたんですか」
渡辺さんがちょっと考えた。
「……本当に本が好きな子が、一人で読める場所が必要だと思ったんじゃないかな、って」
その言葉が、静かに俺の中に染み込んだ。
大地が「ほんとにあったじゃん!!!」と叫び、瑛介が部屋の中を覗いてキャッキャしていた。
零だけが静かに一冊の本の背表紙を指で撫でていた。
七不思議⑥、解明。原因:本物の隠し部屋。
◆ 第七幕 最後の謎——校長ロボット説
さあ、残るは⑦。
校長先生が実はロボット。
「普通に考えて人間だろ」
俺は言った。
「でも確かめた奴はいない」
大地は言った。
「確かめる方法も問題もある」
「大丈夫、俺に考えがある」
この「俺に考えがある」という言葉は、大地が言う場合、九割九分ろくでもないことが起きる前兆である。
校長室の前。
午後五時四十分。校長先生はまだいる。ドア越しに電話している声がする。
「どうするんだ」
俺が聞く。
大地がドアをノックした。
「……は?」
「直接聞く」
「直接聞くて! ロボットかどうかを!?」
ドアが開いた。
鈴木校長。六十代、小柄、白髪。眼鏡の奥の目が丸い。
「なんですか」
大地がにこやかに言った。
「校長先生、あなたはロボットですか?」
沈黙が流れた。
廊下の蛍光灯がやけに大きく聞こえた気がした。
校長先生が眼鏡を外し、目頭を揉んだ。
「……なんですと」
「いや、七不思議の調査をしていまして」
俺が慌てて割り込む。
「そのう、学校の七不思議に、校長先生がロボットだという噂がありまして、確認のために参りました。大変失礼なことは重々承知しておりますが……」
校長先生が俺をじっと見た。次に大地を見た。瑛介を見た。零を見た。
そして深く、長い息をついた。
「……入りなさい」
校長室。
ソファに四人並んで座らされ、お茶が出てきた。緑茶。ちゃんと茶葉で入れた奴。渋みのある本格的な匂いが漂った。
校長先生が向かいに座り、腕を組んだ。
「七不思議、全部回ったんですか」
「はい」
俺が言った。
「ここで最後です」
「で、他の不思議はどうでした」
俺たちは報告した。
猫、換気扇、壊れたノブ、春山先生の趣味、モップ、隠し部屋。
校長先生が聞きながら、少しずつ口の端が上がっていった。
「……渡辺さんが話したんですね、あの部屋のこと」
「はい」
「あそこは、私も生徒のときに一度だけ入ったことがあります」
俺は目を見開いた。
「校長先生もここの卒業生なんですか」
「そうです。蒼南高校二十四期卒業」
それは意外だった。この変な学校の、ずっと昔の卒業生。
「あの部屋で、初めてちゃんと本を読みました。外が騒がしくても、ここだけ静かで——自分だけの時間みたいで、好きでした」
校長先生の声が、少し柔らかくなった。
俺はそのとき気づいた。
校長先生の笑顔が無機質に見えるのは、ただ「あまり笑わない人だから」じゃない。
たぶん、あの小さな隠し部屋で一人で本を読んでいた、静かな少年がそのまま大きくなったんじゃないか——なんて思った。
「で」
校長先生が背筋を伸ばした。
「私がロボットかどうか、ですね」
校長先生はおもむろに立ち上がり、自分の腕を一回強く叩いた。
ペタン、という肉の音がした。
「……人間です」
「確かに」
大地が言った。
「ロボットならもっと音が違うでしょう」
「そうですね」
「それに——」
校長先生がほんの少し、本当にほんの少しだけ、いたずらっぽく笑った。
「ロボットなら、こんなに疲れません」
その瞬間、俺たちは全員笑った。
声を揃えて、思い切り笑った。
校長先生も笑っていた。
さっきまでとは全然違う、しわしわだけど本物の笑顔で。
七不思議⑦、解明。原因:ただの疲れたおじさん(褒め言葉)。
◆ 第八幕 夕暮れの校舎と、残ったもの
校長室を出たのは六時ちょうどだった。
廊下の窓から空が見える。
オレンジが濃い紫に滲み始めていた。校舎がしんと静まり返っている。遠くで下校を促す放送が流れていた。
「全部解明できたな」
大地が言った。
「うん」
俺は答えた。
「伝説になれた?」
瑛介が聞いた。
大地が少し考えた。
「……なれてないかも」
「それはそう」と俺。
「でも面白かったな!」
大地が高らかに言い放つ。
その声が廊下に響いて、消えた。
俺は少し考えた。
面白かった、か。
そうだな。面白かった。
猫が鍵盤を踏んだこと。瑛介が扉を閉めたこと。春山先生の趣味。隠し部屋。疲れた校長先生の顔。
全部バカみたいな話だけど——
全部、本物だった。
「零」
俺は隣を歩く零に声をかけた。
「退屈、晴れたか?」
零がちょっと間を置いてから言った。
「……ああ」
それだけだった。
でもそれで十分だった。
校舎の出口。
下駄箱の前で靴を履き替えていると、廊下の角から声がかかった。
「あ、いた。解明できた?」
佐倉さんだった。
部活帰りらしくバッグを肩にかけて、少し息を切らしていた。
「できた。全部」
俺は言った。
「全部!? すごい。どんな結果だったの?」
俺は笑った。
「猫と換気扇と壊れたドアノブと先生の趣味とモップと隠し部屋と疲れたおじさんだった」
佐倉さんがきょとんとして、次の瞬間ぷっと吹き出した。
「なにそれ、最高じゃん」
「だろ?」
夕風が吹いた。
佐倉さんの髪が揺れた。
「また何かあったら誘ってよ、次は最初から付き合うから」
俺は——少し驚いて、少し嬉しくて、少し恥ずかしくて、全部まとめて「ああ」と一言だけ言った。
大地が後ろから「お前やっぱり顔赤い」と言った。
「うるさい!!!」
◆ エピローグ 翌朝
翌朝、ホームルームが始まる前。
俺たちが教室に入ると、黒板にでかでかと書いてあった。
『蒼南七不思議、全部解明済み。詳細は3組まで』
大地の字だ。見ればわかる。
「いつ書いたんだよ」
「今朝早く来た」
「なんで……」
「伝説になりたかったから」
大地が当然のように言う。
で、実際どうなったかというと——
一時間目が始まる前にクラスの半分から「何があったの?」と聞かれ、俺が説明する羽目になり、「猫かわいい」「隠し部屋行きたい」「校長ロボット説はどうなった」と騒ぎになり、春山先生が「人体模型の話したの誰だ」と怖い顔で教室に乗り込んできた。
ちなみに校長先生は、翌日から少しだけ笑顔の回数が増えた気がした。
気のせいかもしれない。
でも気のせいじゃないといいな、と俺は思っている。
図書室の隠し部屋には、その翌週から「本を読む生徒に開放」という貼り紙が出た。
渡辺さんが校長先生に話したらしい。
一番乗りで入ったのは零だった。
瑛介はあれ以来、旧体育倉庫に近づかなくなった。
大地は次の「伝説」を虎視眈々(こしたんたん)と狙っているらしい。怖い。
俺は——まあ、今日も蒼南高校2年3組の、ただの柊 蓮司だ。
伝説にはなれなかった。
でもあの夕暮れの校舎と、猫の一音と、隠し部屋の匂いと、校長先生の疲れた笑顔と、佐倉さんの「最高じゃん」は——
俺の中に、ちゃんとある。
それで十分だと、俺は思っている。
「柊、今日も伝説になるぞ!」
月曜の朝、大地が机の上に仁王立ちして叫んだ。
「机から降りろ!!!」
今日も蒼南高校は平和だった。
たぶん。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
七不思議をテーマにしつつ、
「怖い話」よりも、
“高校時代の放課後の空気感”を大切にして書きました。
バカやって、
笑って、
少しだけ誰かとの距離が縮まる——
そんな時間って、いいですよね。
もし少しでも楽しんでいただけたなら、
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