幼馴染ヒロインに敗北はない。
あれから数日後の放課後。
学校の屋上から、つい最近付き合い始めたカップルを眺める男女がいた。
手を繋ぎ、仲睦まじく下校するカップルは大和と絵理であった
どうやら、本日は野球部の活動は休みのようで放課後デートにでも行くのだろう。
それを眺めているのは、緋真と采奈である。
「あの二人……上手くいってよかったですね」
「そうだな……しかし、采奈も罪づくりな女だよな」
「そうですね……なので、こうして罪滅ぼしをしているのですけどね」
普段とは全く違う穏やかな表情を浮かべている采奈に対して、フェンスに背を預けながら緋真は質問を投げかける。
「あいつらが幼馴染同士だからか?」
「もちろん……幼馴染ヒロインに負けヒロインは存在しませんから」
出た采奈の暴論と内心で呆れる緋真なのである。
「しかし……」
ジト目で緋真のことを見つめる采奈は呆れのこもったため息をつく。
「よくも、まぁ、フリマで買った300円のペアリングを30万などとホラを吹いたものですね」
采奈も自らの首にぶら下げたチェーンを引っ張りサイズの合わない指輪を見つめながら、そう言い放った。
どうやら、采奈は緋真と大和の会話を盗み聞きしていたようだ。
「物の価値は本人次第だ……俺が30万といえば、こいつは30万の価値があるのさ」
緋真も、チェーンについているサイズの合わない指輪をいじりながら、そう言い切った。
「それに……何が高級タワーマンションで同棲ですか……二階建てのボロアパートの一室を遊び場にさせてもらっているだけなのに……」
「でも、ほぼ同棲みたいなもんだし……毎日のように行ってるし、土日は二人で泊まってるしな……つまり、嘘ではない。だろ?」
相変わらず、ああ言えばこう言う人だなと呆れ果てる采奈であった。
しかし、実際に半同棲のような状況ではあるので、采奈もこれ以上何も言えない。
「そもそも家政婦さんって……緋真のお姉様のことですよね? あのアパートにお泊りするときに必ず保護者として監視しに来てた……」
「そうそう、姉貴……上京してもうあのアパートに来なくなっただろ? 飯とか作ってくれてたしな……実質家政婦みたいなもんだろ……これも嘘じゃない」
自分の姉を家政婦と言ってのけるあたり、采奈は緋真だなぁと思うのであった。
しかし、こればかりは聞き捨てならない事がある。
「で? 誰が資産家の息子なんですか? あなたの両親は……確か普通のサラリーマンだったはずですが?」
「俺は自分で資産家の息子なんて一言も言ってないけどな……向こうが勝手に勘違いしただけだ」
ああ言えばこう言うと、額を押さえる采奈だが、確かに緋真は自分が資産家の息子とは一言も言っていない。
「だいたい、采奈がなんとか諦めさせろって言ってきたんだろ? これぐらい話を盛らないと……諦めてくれないだろ」
「限度というものがあると思いますが? 限度というものが……というか、今盛ったと言いましたよね? 盛った自覚……あるんじゃないですか?」
緋真が大和にした話は、かなり誇張されたものであった。
「でも、結婚(仮)してるのは本当だろ?」
「ええ、もちろん……その通りです」
その点だけは、まごうことなき事実であった。
「まぁ、ただの平凡家庭の平凡男子より、資産家の平凡息子って勘違いしてくれたほうが、むこうも諦めがつくだろう……それに、話を盛っただけで……ほぼ事実なんだし、何の問題もないだろ」
「……平凡は平凡なのですね」
堂々と自身を平凡と言ってのける緋真に対して、呆れる采奈。
「それだけ、盛らないと釣り合わないほど……采奈が魅力的な女性ってことだ」
「……緋真だって私からしたらカッコいいですけどね」
その采奈の褒め言葉に、緋真は聞き飽きたとばかりにスルーする。
もちろん、緋真の褒め言葉も采奈からすれば聞き飽きたものであった。
そんなことよりもとばかりに緋真は采奈の方を見る。
「だいたい、お前は……盗聴器はやめろって何度も言ってるだろ……また、勝手に鞄に仕込んで……」
そう――大和との会話を采奈が聞いていた理由は、彼女が仕込んだ盗聴器だった。
采奈の愛は、重い。
「フフフ、知ってて私のことべた褒めしてたくせに……本当は束縛強い我儘女って思ってるんですよね? 私の事……」
「まぁ、それは事実だろ……誰が旦那の鞄に盗聴器仕込む嫁がいる?」
「ここにいますけどね」
悪びれる様子もなく、堂々とそう言ってのける采奈に、責める気にもなれない緋真だった。
校門を抜けて街へと消えていく大和と絵理を眺めていた二人だったが、姿が見えなくなると采奈が問いかける。
「結局、どっちが告白したと思いますか? まぁ、私は高田さんが告白したと思いますが……そう仕向けましたし……」
「そうか? 俺は案外……加藤から告白したと思うぞ」
「絶対にないでしょう……告白する勇気があるなら、最初から私に告白してきてる気がしますが……」
「まぁ、恋と愛は違うからな」
「それには同意です」
「なんなら、賭けてもいいぞ……俺は加藤から告白した方に賭ける」
「では、私は高田さんに……」
しかし、二人がその賭けの答えを知ることはないだろう。
なぜなら――二人とも、わざわざ確かめに行くような性格ではないからだ。
しかし、消え去った幼馴染カップルの二人を見送った後に、結婚(仮)をした二人は同時に呟くのだった。
「幼馴染は最高だな」
「幼馴染は最強ですからね」
――二人はそう言って、笑い合った。
幼馴染は最高ですね。
ノリと勢いだけの作品ですが読んでいただいてとても感謝しています。
評価やブックマークしてくれると励みになりますので、どうかよろしくお願いします。
あと、他の作品も読んでくれると嬉しいです。
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。
では、また。




