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結婚(仮)の幼馴染夫婦(仮)にただの幼馴染が惚気を聞かされる話  作者: 涼風悠


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1/3

秋月 緋真と加藤 大和のやり取り。

 加藤(カトウ 大和(ヤマトには一目惚れした好きな女性がいた。


 その彼女の名前は白鷺シラサギ 采奈サイナという。


 彼女は高校では有名人であり、学校一の美少女と噂される人物である。


 告白した男子は数知れず、そして、全て玉砕していった。


 だが、大和はそんな、数知れずの男子の一人になるつもりなど毛頭なかった。


 自慢ではないが自分はモテると自己認識している大和なのである。


 身長も180超え、顔も良い。


 成績も優秀であり、運動神経も良く、野球部のエースで四番打者――そう二刀流である。


 ただ、ひとつだけ気がかりなことがあるとすれば、白鷺 采奈には付き合っているのではないかと噂されている男子がいることだ。


 同じ二年で、大和とは同じクラスの秋月アキヅキ 緋真ヒサナという名前の男子生徒である。


 秋月 緋真は、大和の中では俗に言うぼっちで陰キャな人間だった。


 正直、クラスメイトと喋っているところなど一度も見たことがない。


 髪は常にボサボサで、いつも眠そうにしていて――とても平凡な見た目の男子生徒である。


 大和からすれば、否、生徒達から見ても学校一の美少女である白鷺 采奈とは全く釣り合ってない男子生徒といえた。


 しかし、この噂自体は彼らが入学して早々に流れ始めたもので、現在も続いている。


 理由はもちろん、緋真が采奈と一緒に居るところを数多くの生徒達がよく目撃するからであった。


 そこで大和は、勇気を出して緋真に噂の真相を聞き出そうとしていたのだ。


 憂いは早々に断つべし。


 というわけで、大和は昼休みに窓際一番後ろの席に座って、ぼーっと窓の外を眺めている緋真に話しかけに行った。


「秋月……お前に聞きたいことがあるんだけどさ」

「……なんだ?」


 陰キャだと思っていた緋真から、ぶっきらぼうにそう返され、陽キャでクラスの中心人物であり、クラスカースト最上位の存在である大和は内心でムッとする。


 しかし、そんなことで怒っては大人げないと、心を落ち着かせ、正面切って問いかける。


「…………お前さ……白鷺さんと付き合っているのか?」


 大和の直球な問いに対して、ふむと目を閉じ両腕を組んで考え始める緋真なのである。


「……付き合っては……ない……かな」

「そうか……まぁ、そうだよな」


 数秒考えた後に目を開きぶっきらぼうな返答を返す緋真に対し、予想通りだと安堵した大和だった。


 これで要件は終わりとばかりにこの場から去ろうと背を向ける大和に対して、緋真が口を開く。


「まぁ……夫婦だから……付き合っているか? と問われると……違うとなるだけなんだけどな」

「……は?」


 突拍子もない事を緋真が口にしたことで、慌てて振り返り思考回路がフリーズしてしまう大和なのである。


 そんな大和を放置し、腕を組んで天井を見上げると、緋真は語り始めた。


「そうだなー……あれは幼稚園年長の時だった……俺から彼女に指輪を渡し……結婚してくれとプロポーズをした……そして、彼女はそれを受け入れてくれた……つまり、俺達はカップルではなく夫婦という理由ワケだ」

「……は?」


 いきなり饒舌に采奈にプロポーズをしたときのことを語り始めた緋真に、呆気にとられる大和なのである。


 な、何を言っているんだ?こいつ!?と思考回路がぐるぐると回り、軽いパニック状態に陥る大和に、緋真はため息を零す。


「いや、だから、付き合ってはいないけど、夫婦ではあるということだ」

「ふ、夫婦って……ま、まだ結婚できないだろ!?」


 なんとか正気を取り戻し、言い返す大和だが、内心は穏やかではない。


 想い人である采奈が、目の前の陰キャと結婚しているなど、大和にとっては信じがたい話であった。


「そう……日本の法律では婚姻関係を結べるのは18歳以上だ」

「だ、だろ!? だからお前らは夫婦でもなんでも……!!」

「つまり……結婚(仮)と言うわけだ」

「……は?」


 大和は緋真に話しかけてから終始彼のペースにのまれている。


 そんな大和に、緋真は自分の首につけているチェーンを引っ張り出して、そこについている指輪を見せつける。


「な、なんだそれ?」

「さっきも話した結婚指輪だ」


 ドヤ顔でそう言い放つ緋真に呆気にとられる大和なのである。


 幼稚園のときにプロポーズしたとかなんとか言っていたなと思い出す。


 初恋の相手が、まさか既婚者(仮)だったと知って動揺する大和だが、律儀に緋真の話を聞いてあげているようだ。


 マジマジと見せつけられた指輪は見るとものすごくシンプルな作りの指輪だった。


 しかし、幼稚園のときに購入したという物にしては、結婚指輪は非常に良さそうで高そうに見えた。


「な、なんか高そうじゃねーか……」

「ああ、結婚指輪は給料三ヶ月分と言うだろ? 当時のお小遣いの三ヶ月分でオーダーメイドした」

「い、いくらだよ……」

「あの時のお小遣いは……確か……月十万だったから、まぁ、三十万くらいだな」

「お前、頭おかしいんじゃね!!!!」


 思わず叫ぶ大和。


 当時の幼稚園のガキが、三十万の指輪ってどういう世界だ。


「特注品だからな」

「お前、もしかして資産家の息子とか……か!?」


 大和の言葉に、ニヤリと笑みを浮かべる緋真。


 そんな彼を見て、大和は、なるほど、この態度のデカさも納得だとなる。


 しかし、だからといって、結婚(仮)しているなどと認めたくはない大和なのである。


「そ、そもそも、夫婦って言ってもどうせ別々に暮らしてんだろ? それで夫婦って言えるのかよ!」


 かなり心に傷を負った大和だが、正直、陰キャだと見下していた相手にいいように言いくるめられ退散するのは彼のプライドが許さない。


 ゆえに言い返す。


「一緒に暮らしているが?」


 しかし、苦し紛れに出た大和の言葉に対して、あっけらかんと答える緋真に目が丸くなる大和。


「は? なんて?」

「いや、一緒に暮らしてるぞ……幼稚園の時からな」


 夫婦なんだから当然だろと言わんばかりにそう言い切る緋真に呆気にとられる大和。


「あ……あぁ……ど、どっちかの家に居候でもしてるのか? それか……義理の兄妹とかか? そうだろうな! 義理の兄妹だろ!」

「……いや」


 大和が名探偵よろしくとばかりに推理を披露するも、即否定を返す緋真なのである。


「家が隣同士で小さい時から一緒にいる……まぁ、関係で言うと幼馴染ってやつだな」

「お、幼馴染!?」

「両親に頼んで高級タワーマンションの一室を買ってもらってな……そこで二人で暮らしてるぞ……中学二年くらいまでは家政婦さんを雇っていたが、今は家政婦さんもいない……夫婦仲よく、二人で暮らしてるぞ」

「みょ、苗字は!? 白鷺さんだろ!?」

「学校では旧姓を名乗ることもあるだろ?」

「ねぇーよ!!」

「まぁ、結婚(仮)だから、采奈は秋月 采奈(仮)もしくは、俺が白鷺 緋真(仮)ってとこだな」

「つまり、まだ籍入れてね―じゃね―か!!」

「だから、結婚(仮)だと言ってるだろ」


 頑なに認めたくない大和と、淡々と采奈との関係を語る緋真。


 この口論では分が悪いと思ったのか、大和は話題を変えることにした。


「はぁ~、しかし、お前……白鷺さんの旦那(仮)っていうなら……心配じゃね―のか? 彼女……かなりモテるぞ」


 事実、自分も好きだしなと、挑発混じりの大和の言葉に緋真は鼻で笑う。


「心配? お前は自分の妻のことを信じることができないのか? 悪いが、俺は采奈を信じているからな……束縛したりはしない……夫婦上手くやっていくコツだ……夫婦歴10年の俺からのアドバイスだ」


 恋愛とは無縁そうな陰キャに、恋愛に関してアドバイスされ大和のプライドはズタズタである。


 だが、仕方ない。


 いかにクラスカーストトップで陽キャで野球部のエースで四番打者とはいえ、彼女いない歴=年齢の男が、陰キャとはいえ、結婚(仮)までしている男に恋愛で勝てるはずもないのである。


「で? お前も采奈に惚れた一人って訳か?」

「あッ!? な、なんでわか……」

「バレバレだ。じゃなきゃ俺に聞きに来ないだろ」

「くそっ……! 確認するだけのつもりだったのに……!」


 陰キャそうな相手に、心を見透かされ、もはや、苛立ちを隠さない大和に、両手を組んで口元を隠しシリアスな雰囲気を出す緋真。


「で……お前は采奈のどこに惹かれたんだ?」

「どこって一目惚れだけど……あんな美しい人……見たことがない」

「なるほど……顔か……まぁ、確かに采奈は可愛い……いや、美人……いや、可愛い……いや、美人……いやいや、可愛い」


 突然恋バナが始まったかと思えば、突然惚気だす緋真に対して、もう何も言うまいとなる大和。


 完全に立ち位置は逆転していた。


「まぁ、とりあえず、可愛くて美人な采奈だからな……確かに顔で好きになることはあるだろう……で? あいつの性格は知っているのか?」


 そう言われると、話したこともない大和なのである。


 入学式の日に一目惚れして以降、遠目から彼女を見るだけの日々であった。


「よく聞け……あいつは小うるさいし、神経質だ……しかも、束縛が激しく、意外と自己中心的だ……はっきり言うと……我儘だ」


 さっきまで惚気ていたのに、急に采奈のことをボロクソに言う緋真に、大和は呆気にとられる。


「だが、俺はそのすべてを受け入れ愛している」


 だが、突然真顔でそう言い放つ緋真の瞳は真剣そのもので、大和も真剣な面持ちとなる。


「采奈とは夫婦でもあり、幼馴染でもあるからな……良いところも沢山知っているし、逆に悪いところも沢山知っている」


 真正面から、緋真は大和にそう語る。


 押し黙る大和に対して、緋真は問いかける。


「お前にはそういう……幼い頃から知り合いの女子はいないのか?」

「……まぁ、いるけど」


 不機嫌そうに答える大和に対して、ほぉ、となる緋真。


「幼馴染はいいぞ……どんな子だ?」


 もはや主導権は完全に緋真にあった。


「どんなって……普通だけど……ちょっと、うるさいとこがあるけど……まぁ、腐れ縁と言うか……色々助けてもらっているかな」


 大和は家が隣同士の幼馴染のことを心のなかで思い浮かべた。


 朝寝坊したら起こしに来てくれて、毎日俺の身体のために栄養のつく弁当を作ってくれる。


 野球部でマネージャーをしてくれて、いつも応援してくれる幼馴染の女の子。


「や、野球部でマネージャーしてもらってる……弁当作ってくれたり……でも、あれだぞ! 妹のようで、姉のようでもある……つ、つまり家族みたいな奴だ!」

「お前……そんな甲斐甲斐しい幼馴染がいるのに采奈のことが好きになったのか!?」


 驚愕の声をあげる緋真は、ゲスを見るような目つきで大和を見る。


 その緋真の非難の視線に対して、断固抗議とばかりに大和は声を上げる。


「だ、だから、あいつは違うって!! 腐れ縁と言うか、なんというか……と、とにかく、恋愛対象というわけじゃねぇーから!」

「まぁ、確かに恋はするものではなく落ちるものって言うもんな」


 うんうんと両腕を組んで、一人納得した様子の緋真に、安堵する大和だった。


「だが、しかし!!」


 人に指を指してはいけないのだが、ビシッと大和の方に指を向ける緋真に対して、大和はビクッとなる。


「いいか……恋と愛は違う……よく考えてみろ……」

「……は? え?」

「お前は確かに采奈の顔に惹かれて恋をした……だが、それは本当に愛か?」


 戸惑う大和に、緋真は話し続ける。


「近くに芸能人が居るからお近づきになりたい……アイドルと付き合いたい……そんな感覚じゃないか?」

「……い、いや」

「采奈が学校で一番……いや、学校では収まらんか……この街で……いやいや、街では収まらんか……県で……いや県で収まるか? 日本で一番……いや、采奈が日本で収まるか!? ワールドワイドな気も……世界で一番可愛いかな……まぁ、そうなるのも仕方がない」


 またも、急に惚気始める緋真。


 どうやら、彼の悪い癖のようだと、認識し始め、適当に聞き流し始める大和なのである。


「だけどだ……そこに本当に愛はあるのか?」


 そんな、大和に対して、ビシッと言い切る緋真。


「お前……もしも采奈と付き合いだして……幼馴染と今のままの関係が続くと思うか? お前に彼女ができたら、お前の幼馴染にも彼氏ができるかもしれないぞ?」


 大和を諭すように話す緋真に、居心地が悪そうにする大和。


「いや……あいつは……まだ……そういうのは……」

「恋と愛は違う……確かにお前は采奈に恋をした……でも、本当に心のなかで愛している人物がいるんじゃないか?」


 核心をついたように問いかけてくる緋真に対して、もう何も言えない大和なのである。


 たしかに、彼が言うように、大和は幼馴染との関係が変わるのは嫌だと感じていた。


 意識したことはなかったけど、いままで幼馴染にはお世話になりっぱなしだ。


 もしも、自分に彼女ができたら、幼馴染との関係は壊れてしまうだろう。


 そして、いずれ、幼馴染にも彼氏ができる。


 そう考えるとたしかに嫌だと思う自分がいることに気がつく大和なのである。


「それに、采奈には俺がいるからな……不倫は世間的にも悪いことだぞ」

「いや……だから、お前らまだ夫婦じゃねーだろ」

「確かに結婚(仮)だが……不倫は不倫になるぞ……もしものときは……慰謝料請求するからな」

「請求するのかよ!?」

「まぁ、采奈が浮気するとは思ってないけどな」


 ニヤリと笑ってそう言い切る緋真に呆れる大和。


 もう、すでに緋真に対して、怒りの感情も嫉妬の感情もなかった。


「まぁ、もう一度よく考えてみるんだな……恋と愛の違いについて……」

「て、てめぇにそんな事言われる筋合いはねぇーよ!!」


 やっぱり、偉そうに語る緋真に対して、怒りの感情が湧いてくる大和なのである。


「じゃあ、会話は終わりだ」


 そう言って一方的に会話を打ち切った緋真は、何事もなかったとばかりに肘をついて窓の外をぼーっと眺め始めた。


 大和は、不服そうにしながらも、何かを考えながら去っていくのだった。


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