第64話:魔王、階級の話を聞く
昼下がり。リビングのテレビから、穏やかなニュース音声が流れていた。
『——各地でのダンジョン対応を受け、ハンターの再評価が進んでいます』
画面には、防具姿のハンターたちが映し出される。
『現在、S級ハンターは全国で六名。その中でも、ひときわ注目を集めているのが——』
映像が切り替わった。
金色の髪に鋭く細い、獣を思わせる縦長の瞳。
槍を手に構え、全身にはバリバリと小さな静電気が走っている。
『半年前、史上最年少でS級へと昇格したハンター、瀬名 蒼真。十八歳という若さながら、複数の高難度ダンジョン攻略に貢献し——』
『……強そうじゃのう』
床でとぐろを巻いていたアラームが、素直に感心したように呟いた。
「すごいですね……」
天音も画面を見つめる。
近寄りがたいほどの鋭さと、雷属性特有の威圧感。
『今更じゃが……ハンターの階級というのは、レベルで決めておるのか?』
「レベル、ですか?」
テレビを眺めながら、アラームが首をかしげる。
天音は振り向き、少し考えてから頷いた。
「完全に、というわけではありません」
『ほう?』
「レベルはあくまで“経験値”に近い指標です。どれだけ魔物を倒してきたか、どれだけ場数を踏んだか、ですね」
天音は指を一本立てる。
「でも、階級の判断にはもう一つあります」
『もう一つ?』
「戦闘力です。スキルをどれだけ使いこなせているか、ダンジョンを攻略する力がどの程度あるか——そういう実地評価ですね。私の場合は、神聖スキルでどれだけ影響を与えられるかで決まります」
『なるほどのう。しっかりしておるのじゃな』
アラームは感心したように頷いた。
「だから、レベルが低くても……」
そこで、天音はちらりと横を見る。
大量のクッションに半身を沈め、ほとんど動いていないベルフェ。
「……ダンジョンに入っていないだけで、とんでもなく強い人がいたりします」
『なるほど、わかりやすいのじゃ』
アラームは納得した様子だった。
そのとき、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「あ、誰でしょう?はーい!」
天音が立ち上がり、扉を開ける。
そこに立っていたのは、配達員の制服を着た青年だった。
体格はいい。
肩幅があり、背も高い。
だが、制服の帽子を深くかぶっており、さらに黒髪の前髪が目元を隠していて表情はよく見えない。
姿勢もどこか控えめで、おどおどしているような雰囲気があった。
そしてその両手には人ひとり分はあろうかという大きな箱が、二つ。
「えっと……お届け物です……」
気弱そうな声だった。
天音は思わず、箱のほうを見る。
「そ、それ……重くないんですか……?」
「え?あ、はい……大丈夫です」
返事は意外なほどあっさりしている。
余裕すら感じられた。天音と同じく怪力系のスキルでも持っているんだろうか。
天音が受け取ろうとしたところで、ベルフェが後ろから覗き込む。
「……早いな。五分前くらいに最速通販ポチったんだがな」
『頼んだのはベルフェじゃったのか。何を頼んだのじゃ?』
「人をダメにするやつの、上位モデルらしい」
『怠惰を極める気満々じゃな!?』
ベルフェは箱を受け取り、軽く持ち上げて中身を確かめる。そして、静かに言った。
「……いい。沈み込みが深くて、包容力がある」
心なしか、声が弾んでいた。
『完全にご機嫌じゃな……』
場の空気は、どこかちぐはぐで少し可笑しかった。
青年はその様子を見て、ほっとしたように小さく息を吐く。
「……よかったです。では、失礼します」
伝票を確認し、深く頭を下げた瞬間。
バチッ——
空気が裂ける音と同時に、床を走る白い雷光。
その一瞬で、青年の姿は玄関先から消えていた。
『……雷スキルか?まるで、さっきテレビに出ていたやつみたいじゃのう』
アラームが呟く。
ベルフェは新しいクッションに身を沈めたまま、ぽつりと言った。
「……ああ。かなり“理”そのものを理解してる」
「え……?」
「感情じゃなく……構造で雷を使ってる。使い込まれすぎだな」
天音は、はっと息を呑んだ。
先程テレビに出ていた金髪のS級ハンター。
強そうな雷の化身。
そして——気弱そうな配達のお兄さん。
(……もしかして、同じ人だったり……?)
『……にしても、五分は早すぎなのじゃ。現代というのはすごいのう』
アラームが感心したように言う。
「その分、値段も倍かかっていたがな」
ベルフェは新しいクッションに身を沈めたまま、どこか満足げだった。
『ほう?では常用しておるわけではないのじゃな』
「週に一回しか使えない」
『制限付きとは、妙に健全じゃな』
「今日はたまたま、枠が空いてた」
淡々とした口調だが、言葉の端々から嬉しさが滲んでいる。天音はその様子を見て、ふと気になった。
「……その……お金って、どこから来ているんですか?」
少し言いにくそうに、尋ねる。
「権能で作った武器をな……アドモンに頼んで、売っぱらってもらった」
「……えっ!?」
『世界を書き換える力を、そんな用途に使ってよいのか……?』
アラームが呆れたように言う。
「使えるものは使う。なにより金があれば、面倒が減る」
ベルフェはそう言って、再び深く沈み込んだ。
「……無駄に働くくらいなら、こっちのほうが効率的だ」
(この人……本当に、怠惰の魔王なんだ……)
天音は、何も言えなくなった。




