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第63話:魔王、手料理に癒される

 仮住まいとして宛がわれた一室に、湯気といい匂いが満ちていた。


 簡素なテーブルの上には、天音が用意した料理が並んでいる。

 特別豪華というわけではない。だが、どれも丁寧に作られたことが分かるものばかりだった。


「……ほう」


 ベルフェは箸を取り、静かに一口運ぶ。


 その隣で、すでに勢いよく食べ始めていたアラームが、目を輝かせた。


『うむ!やはりこれじゃな!!』


 もぐもぐと頬張りながら、満足そうに尻尾を揺らす。


『デリバリーも悪くはなかったが、天音ちゃんの料理が一番美味いのじゃ!』

「ほ、本当ですか?」


 天音は一瞬目を丸くし、それから少し照れたように頬を染めた。


「ありがとうございます……嬉しいです」


 そう言って、もじもじと指先を絡める。

 その様子に、アラームはさらに満足そうに頷いた。


『うむうむ、作り手が良いからのう』


 ベルフェは特に感想を言わず、黙々と食べている。

 だが、皿の減り具合が何よりの答えだった。


 しばらくして天音は箸を置き、二人の方を向いて、改めて頭を下げる。


「……改めて、迎えに来てくれてありがとうございました」


 少しだけ、真面目な声。


「もしあのまま一人だったら……どうなっていたか……」


『当然のことをしたまでじゃ』

「……面倒だっただけだ」


 ぶっきらぼうなベルフェの言葉に、天音は小さく笑った。


「それでも、です」


 その空気を切り替えるように、天音は続ける。


「それと……教国アルメシアの件は、異界対策機関に報告しました」


「……全て伝えたのか?」


 ベルフェが眉をひそめる。


「はい。経緯と、現在の安定状況も含めて」


 数時間後。

 異界対策機関から、正式な報告書形式の返信が届いた。


【教国アルメシアにおける異常事象について、報告を受領しました】

【当該地域の理的安定を確認。現在、二次災害および波及的影響は確認されていません】

【迅速な事後報告に感謝します】


「……あ、すごく事務的ですね」


 さらに、続きをスクロールする。


【なお、強欲の魔王マモン様が使用されていた転移門についてですが、既に許可済みとして処理しましたので、追加対応は不要です】


「……え、転移門……?」

 天音は画面を見たまま固まった。


 アラームが、にやりと口角を上げる。


『流石に把握されておったということかの』

「……なんだ。バレてたのか?」

 

 ベルフェの呟きに、天音は画面を見直して、小さく首を傾げた。


「いえ……ええと……」


 少し迷いながら、続きを読み上げる。


【当該転移門の使用については、強欲の魔王マモン様より事前申請が提出されていました】

【ただし、正式な承認通知を待たずに使用されたことを確認しています】


「……え?」


 天音は、思わず間の抜けた声を出した。


『……申請はしておったが、待たずに使った、と』

 アラームが、納得したように頷く。


「なるほど……あいつらしいな」


 ベルフェは、少しだけ目を伏せてから、ぼそりと言った。

 

 画面の下部には、さらに事務的な一文が続いていた。


【当該行為は緊急性および事後状況を鑑み、問題なしと判断します】

 

『……結果的に、一番ちゃんと筋を通しておるのがアドモンというのも、なんとも言えん話じゃのう』

 

 アラームの言葉に天音も苦笑する。


「……まあ、許可が出てるなら問題ないだろ」


 ベルフェはそう言いながら、欠伸を一つ。


 問題が起きてから、把握されるものの解決したあとで、正式に承認される。異界対策機関も、随分と“現実的”になったものだった。


「……慣れてきてるのが、逆に心配ですね」

『あやつらも大変じゃのう』


 そんな会話をしていると、天音が気まずそうに口を開く。


「あと……その……教国の中で、新しい信仰が生まれているみたいなんです」

「……ん?」


 ベルフェが顔を上げる。


『新しい信仰、じゃと?』

「はい。ええと……」


 天音は少し言いづらそうに視線を泳がせた。


「怠惰の魔王……信仰、だそうで……」

「…………」

『…………』


 一瞬、部屋が静まり返った。


『……いや待て!?』


 アラームが勢いよく顔を上げる。


『どういうことじゃ!?』

「正確には……久禮尊を“信仰すべき存在”として認識した、という形みたいです」


『顔が良いから、とかではないじゃろうな……?』


 ぼそっと呟くアラームだが、天音は首を振った。


「どうも……方向が、違うみたいで……」


 その信仰を広めた中心人物。

 それは——


「お祖父様に吹き飛ばされて、さらに魔王様に《怠縛鎖》で意力を削がれたあの神官の方々だそうです」


『なんでじゃ!?』


 思わず、アラームが叫ぶ。


「わ、分からないです……!」


 天音も困惑した表情で首を振った。


 かつて洗脳された祈りを語っていた者たちが……今度は“怠惰の魔王”を、信仰の対象として語り始めている。


 ベルフェは、ため息を一つ。


「……やっぱり、人ってのは面倒だな」


 そう言いながらも、その口元には、わずかに苦笑が浮かんでいた。


 仮住まいの部屋には、再び穏やかな空気が戻る。


 だがその裏で新たな火種が、静かに芽を出していることに——この場にいる誰も、まだ深くは考えていなかった。

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