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第45話:魔王、黒門の奥で待たされる

 巨大な大扉を押し開けた瞬間、空気が変わった。


 先ほどまでの、静かで澄んだ青門の気配とは明らかに違う。

 重く、冷たく、胸の奥をじわじわと圧し潰すような、異質な理の波。


 アラームが、ぴたりと動きを止める。

 水蛇の身体が、細かく震えていた。


『……待つのじゃ。この気配……“黒門”じゃ!』

「……二重構造、ってことか」


 ベルフェは一歩踏み込み、床に刻まれた紋様を見下ろして低く唸った。

 天音の顔からさっと血の気が引き、瑠波は思わず言葉を失う。


「えっ……!?じゃ、じゃあ今ここ……黒門の内部……?」

『青門の理が表層を覆い、その下に黒門を潜ませておったのじゃ。妾が感じていた違和感は、これじゃな』

「おいおい……黒門って、そんなあっさり出てくるもんだったか?」


 そして一同の視線は、自然と広間の最奥へと吸い寄せられた。


 広間には巨大な棚がいくつも並び、宝箱や貴重そうな剣、装飾品が整然と並べられている。

 その光景は、まるで管理された物流倉庫のようだった。


 そしてその奥。

 場違いなほど白いクロスが掛けられた円卓。

 金細工のティーセットと、湯気を立てるティーポット。


 その席に——ひとりの存在が座っていた。


 白金のスーツに黒いYシャツ。

 背筋を正し、天使を思わせる大きな羽を背に畳んでいる。

 だが、その頭部は無数の白い羽に眼を埋め込んだような、不気味な異形だった。


 羽頭の男は、カップを傾けたままこちらを見た。


『……おや。予定より一時間ほど早いですね』


 落ち着いた声。

 スーツの内ポケットから懐中時計を取り出し、静かに蓋を開く。


『本来であれば、もう少し迷っていただく想定でした。そのため、ティータイムがまだ終わっていません』


「「「……は?」」」


『申し訳ありませんが、一度外へ出てください。終わり次第、改めてお迎えします』

「黒門の最奥で追い返されること、あるんですか!?」

『前代未聞なのじゃ!』


 思わず天音とアラームが同時に突っ込む。

 その横でベルフェは、心底面倒そうにその場でごろりと横になった。


 クッション——モフ3号を枕にする。


「じゃあ寝る。時間になったら起こしてくれ」

「魔王様!?今ここ、黒門の最奥ですよ!?」


 羽頭の男は一瞬考え、真面目に頷いた。


『承知しました。時間になったら起こしましょう』

「えぇえええ!?受け入れるんですか!?」

『合理的判断です』


 混乱が広がる中——


「……なあ」


 瑠波が、そわそわと周囲を見回しながら口を開いた。


「俺もやることねぇしさ。そのへんの宝、漁っていいか?」

「だめに決まってるでしょ!?」


 だが羽頭の男は、あっさりと頷く。


『どうぞ』

「え? マジでいいのか?」

『価値あるものに触れるのは、あなたの本能でしょう。ただし、配置は崩さないでください』

「……マジかよ。ありがてえ!」


 瑠波は目を輝かせ、宝の山へ向かっていった。


 その様子を横目に、天音とアラームは同時に黙り込む。

 視線だけで、会話を交わした。


「……ねえ、アラームちゃん」

『……うむ、なんじゃ』

「……羽いっぱいの人、この黒門の魔王様ですか?」

『気配的に魔王で間違いないと思うんじゃが……妾の知るものとは違うのじゃ』


「新しい魔王ってことですか……?」

『妾の知っている強欲は、あんなに落ち着いて紅茶など飲まんからの』


 その言葉に、羽頭の男——強欲の魔王は、静かにカップを置いた。


『聞こえていますよ』


 羽の奥に潜む複数の眼が、二人を捉える。


『ええ。確かに、あなた方の知る強欲とは違います』


 一拍。


『——以前の強欲の魔王が、あまりにも無防備でしたので』


 声色は変わらない。


『私が、理ごと戴きました』


 空気が、凍りついた。


「……え?」

『……理を、喰った……?』


 アラームの声が、わずかに掠れる。


『強欲の理は、扱いを誤れば獣になります。ですが、管理できるのであれば——価値を集積し、秩序を再構築できる』


 淡々と語るその姿に、天音とアラームは言葉を失った。


『……まだ時間はあります。どうぞ、のんびりしていてください』


 強欲の魔王は、再び紅茶を口にする。


『さて。ティータイム終了まで、あと四十分』


 黒門の最奥で——魔王は眠り、もう一人の魔王は紅茶を飲み、人間は宝を漁っている。


 その異様な光景の中で、確かに“何か”が、静かに動き始めていた。

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