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第39話:魔王、燃え尽きる

 妖精国フェガルドの件から一ヶ月後。


 当然ながら世界はひっくり返るほど騒いだ。

 赤門浄化。妖精国との接触。二国同時崩壊。魔王ベルフェゴールの介入。

 どれも前例がなく、ニュースは連日特番を組むほどだった。


 だが、騒ぎというのは不思議なもので……三日経てば落ち着く。

 世界は今日も正常にうるさく、正常に慌て、正常に忘れていく。


 そして——


 日本と“妖精国フェガルド”、正式同盟。


 異界対策機関主導でハンターたちがフェガルドへ物資支援を行い、妖精たちは落ち着いた頃に花の蜜・薬草・樹蜜などの資源を提供。

 騎士団は防衛戦力として地球側の作戦協力に応じる形となった。


 聞けば、ワスプルもグマンティも、人類基準でいえばS級どころではない戦闘力らしい。


 あの災厄がいかに異常だったかがよくわかる。


 ちなみに同盟というのは初めてではない。

 エルフやドワーフなどの青門勢力とも以前から協力関係があった。

 日本は案外、魔物外交に慣れているのだ。


 ◇


 ——そして、現在のベルフェはというと。


 いつもの仮住まいでクッション山の頂で、燃え尽きていた。


「……」


 呼吸してるだけで偉いレベルのダルさである。


 あの三日三晩の戦い——数万体の魔蝗討伐 という正気とは思えない激闘。

 アラームが言っていた“狂気の突貫野郎”が千年ぶりに本気を出してしまった結果だった。


 なお、モフ1号(魔力探知型)はその三日間ずっと同行し、クッションのくせにピクピクと痙攣していたほどである。

(今は回復し、クッション山の中で同化している。)


 ベルフェ自身も、ひどく尾を引いていた。

 精神的ショックもあるだろう。妖精王の死、国の崩壊……だけでなく。


 モフ2号(収納式亜空間型)が吐き出した“例のクッション”の正体。

 あれは以前の黄門ダンジョンで、ハンターたちを巻き込みながら狩り尽くしたビッグダックの最高級羽毛を、玄聖がすべてクッションへと加工しておいたものだった。


 そりゃ妖精が回復したのも道理。

 そりゃ空っぽになってショックを受けるのも道理であった。


 天音が心配そうに背中をつつく。


「魔王様〜、そろそろ元気出しましょうよ。ほら、妖精さんたちからのお礼も届いてますよ!」

『怠惰の理を無理に抑えると……こんなにも引き摺るものなのじゃな……』

「……だる」


 声に覇気がないというよりもう“声を出す行為”すら面倒になっているのだろう。

 枕に顔半分ほど埋めたまま、ぼそっと呟いた。


「……あのあと……レベル、350上がったんだが……」

「えっ、それすごいじゃないですか!」

「……権能……“1つも”解放されてなかった……」

「…………えっ?」


 天音の笑顔が凍った。

 アラームも尻尾をピーンと止める。


『…………お、お主……それは……さすがに……』


 ベルフェはクッションをつかんで天井を見た。


「……普通さぁ……解放されるだろ……?350だぞ……?……なぁ……?」


 完全に虚無の声だった。

 天音とアラームは顔を見合わせ、言葉に詰まる。


「……え、えっと……え、っと……その……」

『……慰めの言葉が……出てこんのじゃ……』


 しばし沈黙。

 そして、天音がおそるおそる話し出した。


「昨日ギルドで、ハンターさんたちが話してたことを聞いちゃったんですが……」


 —— 回想 ——


 ハンターギルドの廊下。


 天音は歴史を調べるために資料室へ向かっていたのだが……ふと、休憩ラウンジから聞こえてきた“会話の断片”に足を止めた。


 そこに夜勤明けのハンターたちが自販機前でだらしなく伸びていた。


「……あー、やばい、眠すぎる」

「だから言っただろ、夜更かしすんなって。先程の緊急演習も途中で寝落ちしかけてたじゃん」

「いやさぁ……まさか“隠し条件”なんてあんの、普通気づかねぇって!」


 疲労困憊のハンターAが頭を抱える。


「隠し条件?」

「俺がハマってるゲームの話だよ!推しキャラをレベルMAXにして、熟練度も全部カンストしたのに……スキルひとつも開放されなかったんだぞ!?」

「いや、普通どっかの段階で気づくもんじゃないか?」

 

「うるせぇ!俺だってさ、途中ちょっと思ったよ?“あれ、これ何も起きなくね?”って。でもよぉ、引き返せないときってあるじゃん……!」

「だから攻略見とけって……」

「俺の昨日の徹夜返してくれ……」


 ハンターたちの会話は、周囲の者にも聞こえていたらしく、別の班がくすくす笑っていた。


 ◇


「……なので、もしかしたら魔王様もその“隠し条件”の可能性ありそうじゃないですか?」

 

 ベルフェはクッションに顔を埋めたまま答えた。


「……隠し条件か……めんどくせぇ……」

『理、じゃからのぅ……普通にありそうなのがめんどくさそうじゃ……』


 ベルフェの虚無感はさらに増したようだった。


 天音は言葉を探していたが、何かを思い出したように、ぱっと笑顔になる。


「そういえば!ワスプルさんから連絡来てました。フェガルドに……世界樹の“芽”が出たそうです!」

『ほう、それはつまり……』

「はい!きっと……妖精王様も、近いうちに甦ります!」


 その言葉にベルフェは、初めて、ほんの少しだけ笑った。


「……そうか。よかったな」


 その表情はとても静かで、まるで“あの国の青空”のように清々しく見えた。

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