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第34話:魔王、妖精地下都市へ潜る

 地下都市——樹国トリーグニルの避難拠点。

 ベルフェたちはそこで、グマンティ騎士団と合流した。


 騎士たちの多くは翅を裂かれ、鎧は砕け、壁際に座り込んで息を整えている者もいる。

 それでも、瞳の奥に宿る闘志の火だけは、まだ消えていなかった。


「……モフ2号。例のやつ、出せ」


 ぽふん。

 次の瞬間、地面が揺れた。


 どごごごごごごっ……!!!


 五芒星が不自然に広がり、通路を埋め尽くすほどのクッションが噴き出す。

 あまりに唐突な光景に、グマンティ騎士団は反射的に声を上げた。


『『『えぇえええええええ!?!?』』』


 だが、驚愕は一瞬だった。

 魔力を感じ取った瞬間、彼らは一斉にクッションへ駆け寄った。

 飢えた妖精たちの本能が勝ったのだ。


『……これ……魔力が濃い……』


 半壊状態だった翅が、淡く光を帯びる。

 騎士たちは一人で三つ、四つと抱え込み、必死に魔力を吸収していく。

 普段は沈着冷静なグマンティですら、言葉を選ばず口を開いた。


『はしたなくて申し訳ない……!!だが……もう少し……もう少しだけ……!』


 と追加を求めるほどだった。

 その姿に、ワスプルの騎士団も思わず目を潤ませる。


『……その気持ち、痛いほど分かるぞ』


 ……凄絶な状況であるはずなのだが、なんともシュールすぎる光景だった。

 二国の王が“核”として魔蝗に融合され災厄化した件については、グマンティ騎士団もまた把握していた。


『侵略は、本当に突然でした……。魔蝗の群れが空から降り注ぎ……王宮は一夜で陥落しました。我々も……なすすべがなく……』


『王と民の大半は……喰われました。あれは……計算され尽くした“襲撃”でした』


 アラームが低く呟く。


『魔蝗の再編された体……魔力の喰い方……悪意のある手が加わってるのは確かじゃな』


 ベルフェはわずかに眉をひそめる。


「……だが今は原因より先に、“止める方”が先だな」


 そう言ってグマンティへ向き直る。


「この国の世界樹……“魔核”はここからもいけるか?」

『ああ。王宮が墜ちても、世界樹の根は地下まで繋がっている。この避難都市の奥に、核へ続く根脈があったはずだ』

「なら案内頼む」


 グマンティは深く頷いた。


『ただ……あの化け物は魔力探知があるのだろう?足止めが必要だ』


 その瞬間、二つの騎士団が同時に前へ出た。


『魔王ベルフェゴール殿。我々が囮となりましょう』


 ベルフェは目を細める。


「大丈夫なのか?」

『このままでは……国どころか世界そのものが喰われます。避難させた民を守るためにも、我らは戦い続けねばなりません』


 天音もアラームも息を飲むほどの覚悟だった。

 ベルフェは一瞬、彼らを見つめ——静かにクッションを差し出す。


「……魔力切れで倒れられると面倒だ。これ、持ってけ」

『あ……ありがたく……!』


 騎士団がぎゅっとクッションを抱きしめる姿は一周まわって尊かった。

 ワスプルはベルフェを見つめ、微かに笑った。


『……必ず、生きて再会を』

「無理はすんな」


 その返事に、ワスプルはわずかにうなずいた。


 モフ1号が巨大化を解除し、穴の蓋を解いた瞬間。

 ワスプル率いる妖精騎士団と、グマンティ騎士団の一部が同時に跳び上がり、風を巻き起こして地上へ飛び去っていった。


『王を……必ず足止めします!』


 風切り音とともに、彼らは暴走した妖精王へ向かって一直線に突撃していく。

 その背には、クッションをぎゅっと抱えたままの者も多く、その光景は壮絶でありながらどこか頼もしかった。


「……あとは任せたぞ」


 ベルフェの呟きを背に、一行は地下奥へと進む。

 グマンティの案内に従い進んでいくと、曲がり角の向こうに数体の魔蝗が蠢いているのが見えた。


『任せろ』


 グマンティは一歩前に出た瞬間、大きな双刃鎌のような特殊武器を逆手に構え——


 ザシュッ!

 

 まるで“狩り慣れた”のような動きで、魔蝗を一体また一体と寸断していく。

 翅の欠片が舞い、魔蝗は断末魔を上げながら砂のように崩れ落ちた。


 その表情は、騎士というより——れっきとした“捕食者側”の顔だった。

 天音は思わず後ずさる。


「つ、強い……!けど……あの、なんていうか……怖い……!」


 アラームも小声で頷く。


『味方でよかったのじゃ……』


 そんな緊張の中、ベルフェがふと足を止めた。


「……ん。走るの、だるいな」

「えぇぇええ!?こんな時にですか!?」


 天音が素で叫び、アラームは肩をすくめて言った。


『まあ……怠惰じゃしの。あの“理”を一度味わった身としては、否定できん』


 以前、嫉妬の魔王として権能を受けたとき、全身を縛られたような“動けなさ”を痛感したのだろう。

 アラームは妙に納得した表情をしていた。

 

「これでも十分、“理”に逆らって頑張った方なんだぞ」

『怠惰の理とは……なんとも不条理じゃの……』


 するとグマンティがふっと振り返り、信じられないほど軽い動作でベルフェをひょいっと肩に担いだ。


「……ん?」

『申し訳ないが、魔王殿は私が運ぼう。聖女殿は……そのまま走ってついてきてくれ』

「えっ!?あ、はい!!」


 突然の魔王を肩担ぎ展開に、天音は半泣きでダッシュを強いられ、アラームは爆笑しながらベルフェの肩についていった。


『ベルフェ、こういうの……意外と嫌いじゃなさそうじゃな?』

「……悪くはないな」


 どこか満足げな声で、ベルフェはそのまま運ばれていった。


 こうして一行は、世界樹の魔核を目指し、地下都市の奥へと進んでいくのだった。

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