表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/67

第31話:魔王、妖精国の絶望を見る

 王国へ向かう途中——


 『ギャギャギャ!!』

 『はあぁっ!!』


 ザシュッ!ザギュッ!


 茂みから魔蝗が何度か飛び出す。

 だが、その都度ワスプルが音もなく剣を振り抜き、瞬時に斬り伏せていく。


 倒れた魔蝗は地面に転がる間もなく、黒いモヤとなり消えた。


「……なるほど。そりゃ一人で現世まで飛んでこれるわけだ」


 ベルフェは感心した声で呟く。騎士団長の称号は伊達ではなかった。

 そして森を抜けた瞬間——


『着きました!』


 ワスプルが指差した先を見て、一同は言葉を失った。


 ◇


 妖精王国——

 本来、美しい花の城下町だったはずの場所は。


 すべてが、喰われていた。


 石造りの家々は壁が丸い穴だらけ。

 かつて花で溢れていた通りには黒い粉の残骸が舞っている。

 遠くから聞こえるのは風だけで、生命の気配がほとんどない。


 その静寂の中、ベルフェは足元に「何か」が落ちているのに気づいた。


 古びた土偶のように見えた。

 しかし違う。


 天音が小さく息を呑んだ。


「……これ……妖精……?」


 それは——

 乾ききった“妖精の遺体”だった。

 全身が土のように乾き、ところどころ欠け落ちている。


 触れただけで、ほろりと崩れる。


『……妖精の遺骸です……』


 ワスプルの声は震えていた。


『妖精は魔力で生きる生命体……魔力も魂も喰われると……こうして土に還ってしまうのです……』


 天音は両手で口を覆い、目を潤ませる。


「あ……こんな……」


 ベルフェは屈み、粉になった部分を指先でそっと払う。


「魂ごと吸われてるな。……根こそぎだ」


 アラームも神妙に頷いた。


『……ここまで酷いのは、尋常ではないのじゃ』


 周囲には、同じように崩れた妖精たちの残骸がいくつも転がっている。

 ワスプルは拳を握ったまま膝をついた。


『これが……妖精国の今なのです……我々の文化も、生活も、未来も……すべて……』


 ベルフェは無言で周囲を見渡し、瞳を細めた。


「……やっぱり、最悪のパターンか」

『最悪……?』

「魔蝗の気配がほとんどない。つまり……もう“喰い尽くして”、別の所へ動いてるってことだ」

『……!!』


 天音が絶句する。


「ま、待って……魔蝗ってそんな広範囲に広がるんですか……?」


 アラームは震える声で答えた。


『これは……自然発生の魔物ではないのじゃ。“誰か”が意図して作った“災害”。……魔王級の仕業じゃろうな』


 ベルフェは崩れた妖精に祈るように手を合わせた。


「出るぞ。ここはもう終わってる。隣国とかあるか?」

『ありますが……徒歩ではどれだけ時間が……!』


 ワスプルが焦ったその時——


『団長!!』

『だ、団長だ!無事だったのか!!』


 背後から、ボロボロの妖精騎士たちが駆け寄ってきた。


 翅は破れ、鎧はひびだらけ。

 それでも、彼らの瞳には生き残った誇りが宿っていた。


 ワスプルは涙を浮かべた。


『お前たち……!!よくぞ……よくぞ生きてくれた!!』


『申し訳ございません……!!守りきれませんでした……!』

『王も行方不明になり……民も飢餓で死にかけています……!』


 天音は胸を押さえ、痛みに顔を歪めた。


「……そんな……」


 ベルフェも表情を引き締めた。

 ワスプルが振り返り、騎士団たちに紹介する。


『安心しろ!我々には魔王ベルフェゴール様が力を貸してくださる!』


 騎士団の顔に、わずかな希望の光が宿った。


 ◇


 天音が「民を回復させたい」と申し出て、隠れ家へ案内された。


 案内されたのは、教会の地下にある小さな広場。


 そこには——

 数十人の妖精たちが力なく座り込んでいた。


 翅は折れ、肌は色を失い、魔力の光はほとんど残っていない。

 天音は唇を震わせた。


「……これ以上魔力を吸われたら……この子たち……本当に……」


 その時だった。


 ぽふっ。


 ベルフェが抱えていたクッションから、モフ2号がひょこっと飛び出した。


「は?お前……モフ2号だったのかよ……」

『今気づいたんか!!!』


 アラームが全力でツッコむ。


 モフ2号は、ふわふわと妖精たちの前に進み……

 五芒星の中央をぐわッッ!と、物理法則を嘲笑うように四方へ裂け、空間そのものが裏返る勢いで開いた。


 空気が吸い込まれてゆがみ、周りの妖精たちが「ひぃっ!?」と身をすくめるほどの迫力。


『こわっ!!なんじゃその開き方!!!』

「いやいやいや!?なにそのギミック!!?」


 裂け目の奥から——


 どっっっさぁぁぁぁぁ!!!!!


 色とりどりのクッションが、津波のように広場へ流れ込んだ。


 白、桃色、淡黄、もふもふ、ふわふわ。

 数は100どころではなかった。


 妖精たちが驚きの声も出せぬまま、そっと手を伸ばし——

 ぎゅ……と抱きしめた。


 すると。


 妖精たちの翅に光が灯り、頬に色が戻る。

 魔力がゆっくり、確かに満ちていく。


『あ……あったかい……』

『魔力が……流れ込んでくる……』

『生き返る……』


 天音の瞳に涙がにじんだ。


「……そうか……スキルで作られたものは魔力の塊……妖精にとっては“食事”なんだ!」


 ワスプルが震えた声で叫ぶ。


『ベルフェゴール様……!これだけの魔力が……!ありがとうございます……!!』


 その時だった。


 クッションを受け取った妖精騎士たちが……

 一人……また一人……

 クッションを4つ、5つと両腕いっぱいに抱えはじめた。


『お、おまえら!取りすぎじゃないのか!?』

『団長!魔力回復が急務なので!』

『クッションが……美味しくて……っ!!』


 ワスプルは頭を抱えつつ、諦めたように笑った。


『……いや、良い!我々も早く回復して……ベルフェゴール様のお力にならねばならん!』


 その横でモフ2号がクッションの角をV字に折り、グッと突き出した。

 完璧なグッドサイン。


『器用すぎるじゃろモフ!!!』


 ベルフェは額を押さえた。


「……玄聖のやつ……ほんと何してんだよ……」


 しかしその声には、妖精たちが息を吹き返したことへの安堵が、微かに滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ