第27話:魔王、質問攻めにうんざりする
赤門が青門へと変貌した——。
その前代未聞の現象は、瞬く間に世界を駆け巡った。
これまで赤門とは、“ブレイクしたのちに討伐され、消滅するもの”というのが常識だった。門は破壊する対象であり、救うものではない。
だが今回は違う。
主を倒す代わりに“救済”が起こり、門そのものが青門として安定化した。
前例はないし、記録にも残っていない。
結果として——世界中が混乱した。
研究者、ギルド、政府、教国。
立場も思想も違う者たちが、ただ一点、“説明を求める”という理由だけで一致団結する事態となった。
——その余波は、当然のように当事者へ向かう。
・電話:数百件
・メール:数千通
・問い合わせフォーム:ほぼ爆発
ベルフェの仮住まいは……控えめに言って、地獄である。
「魔王様ぁぁ……!!メールが……!千通超えましたぁぁ!!」
スマホを抱え、涙目で叫ぶ天音。
『妾のPCも悲鳴を上げておるのじゃが!?返信しても返信しても……なぜか増えるのじゃが!?』
アラームは尻尾で必死にキーボードを叩きながら、目から魂が抜けかけていた。
「それになぜか教国にも大量の問い合わせが……!『公式サイトから送りました』って……!」
『教国……公式サイトあるの!?現代に順応しすぎじゃろ!!』
その横で——
当のベルフェは、クッションの山に半分埋もれたまま、ひょこっと顔だけを出して欠伸していた。
「……会見、開けば?」
「えっ?」
薄目のまま、さらに短く言い放つ。
「全部返すより、そっちの方が早いだろ」
「た、確かに……!なんで最初から思いつかなかったんでしょう私……!」
『怠惰なのに……正論……!?悔しいのう!!』
ベルフェは目を閉じ、無感情に呟いた。
「……めんどくさいことは、まとめて終わらせろ」
「じゃ、じゃあ教国とテレビ局に連絡して、緊急説明会を……!」
「おう。お前たちでやっとけ」
「魔王様は!?」
「……だるい」
『うわあぁぁ!!!本音ぇぇぇ!!!』
天音は頭を抱え、アラームは震えた。
だがその“怠惰で合理的すぎる結論”に、誰も反論できなかった。
そこへ、慌てた様子のギルド職員が扉を叩き飛び込んでくる。
「し、失礼します!!大至急のご報告です!!」
「えっ、まだ何か……!?」
差し出された書類を、職員は息を切らしながら読み上げた。
「すでに……政府とギルド本部が動きまして……!“魔王と聖女による緊急会見” の準備が整いました!!」
「ええええぇぇ!? もう!?」
『早っ!完全に先回りされておる!!』
「控え室、スタジオ、警備、放送枠……すべて確保済みです!また、上層部より——」
職員は一瞬ためらい、続けた。
「ベルフェ様は……“このまま寝ていて構いません”と……」
ベルフェは、ゆっくりとまぶたを開いた。
「……それ、もっと早く言え」
「す、すみません!!」
天音はその場に膝をつき、アラームは天を仰いだ。
『無駄に苦しんだだけじゃった……!』
「でも……国の行動も早かったですね……」
半分泣き笑いの天音の横で、ベルフェは再びクッションに沈んでいった。
◇
玄聖の願いにより、遺物は千年前の英雄たちの墓所へ丁寧に埋葬された。
天音が祈りを捧げる横で、玄聖は静かに頷いていたという。
そして——予想通りというべきか、あるいは必然か。
玄聖と榊原は、“知識欲の変態同士”として、瞬く間に意気投合した。
きっかけは、玄聖がダンジョンから送り出した一体の式神。
ベルフェが抱えていたクッションによく似た、ふわふわ丸い存在——モフ1号である。
中央に五芒星が描かれた、もふもふ生物(?)だった。
理由を問うと玄聖は、『紙よりも癒しの方が情報伝達効率が高いと判断しまして』と、理解に困る理屈を述べた。
「癒しの情報伝達効率ってなんだよ……」
ベルフェはクッションに顔を沈めながらぼそっと呟く。
そして、そのモフ1号がギルドに現れた瞬間——
「ク、クッションが歩いてるううう!?」
「やめろ近づくな!!……え、なんで曲がった!?こわっ!!」
当然ながら大パニックであった。
しかし二回目の来訪ではこれである。
「モフちゃん今日も来た〜〜!かわいい〜〜!」
「おいで〜もふもふ〜!」
そんな様子にベルフェは聞いてため息をつく。
「……この時代、適応力すげぇな」
『完全同意なのじゃ……』
モフ1号が持ってきた封筒の中には、玄聖直筆の質問がぎっしり。
榊原はそれを読んだ瞬間、震え上がった。
「す、すごい……!!これだけで論文十年分ありますよ……!!」
その勢いのままダンジョンへ向かい、玄聖との“学術地獄”へ突入。
護衛のハンターたちは、もう生気が無かった。
「二日で……知識百年分浴びた気がする……」
「なんであの二人、呼吸の隙にも講義すんだよ……」
様子を覗いたベルフェは、一言だけ告げた。
「……近づくな。死ぬぞ」
「ですよね……」
『あれはもう、理の戦場じゃ……』
世界は依然として大騒ぎだったが——
ベルフェの周囲には、どこかゆるい日常が戻りつつあった。




