第26話:魔王、骸の門を鎮める
——同時刻。赤門ダンジョンの前線。
「な、なんだこの光は……!」
警備に当たっていたハンターたちが、空を見上げて叫んだ。門の上部から、赤い紋様がザザザッと音を立てて流れ落ちていく。
「お、おい……門の色が変わっていくぞ!」
「待て、あれ……青く……なってる……!?」
赤く濁っていた門が、まるで血が引くように透き通っていく。
次の瞬間、門全体が青白く輝き、夜空を照らすように清らかな光を放った。
「嘘だろ……赤門が……青門になった?」
「赤門が攻略完了で青門に維持されるなんて、前例がねぇ……!」
対異界特務庁へ通信が飛び交い、世間は大騒ぎとなっていた。
◇
ベルフェがふと何かを思い出したように玄聖へ問いかけた。
「そういや、ここ近くに仲間の遺物ってまだ残ってるのか?」
『そういえば、我々が散ったのはこの近くでしたね。記憶が曖昧なので——あの人に聞いてみましょう』
「あの人?」
そう言うや否や、玄聖は手をかざし、『ステータスオープン』と呟いた。
まさかのステータスシステムの画面が出現する。
さらに玄聖は、画面の中に手を突っ込み——まるでアイテムボックスのように、そこから笛を取り出した。
「まって!?!?リッチなのに使えるの!?ていうかステータスシステムにそんな機能あった!?」
『というかお主も使えるのずるいのじゃ!妾は未だ使えぬというのに!』
「羨むのそこかよ……」
『200年前ほど前、意識が魔物に堕ちる前ステータス機能が拡張されておりまして。魔力操作の練習に使っていたのです』
「これはステータスの色が赤いんですね!興味深い……!」
玄聖のステータス画面も、ベルフェと同じ“赤色”だった。魔王以外で同色ということは、古代人特有の仕様だろうか。
ついでに内容を覗くと——
――――――――
【蘆野 玄聖】
種族:死霊王・リッチ(元人間)
Lv:3015
スキル:《統率》《憑魂》《結界》《隷属》《不死》《天地反転》《ダンジョンの主》
状態:理核作成中。怠惰の魔王と盟約したため、ダンジョンが安定。
――――――――
「……つえぇな」ベルフェが素で引いた。
レベルもスキルも規格外。しかも「状態:理核作成中」とか、地味に不穏である。
玄聖は笛を口元へ……しかし骨。
音が鳴るわけもなく、見事に空振りした。
「……迂闊であった」と肩を落とすリッチの姿が妙にシュールだ。
見かねたアラームが笛を奪ってぷうっと吹いた。
すると、遠くから蹄の音が響いた。
『我が主様!笛の音がしたということは……意識が戻られたのですね!?』
現れたのは、あの首なし騎士——デュラハンだった。
だが今は、穏やかな声を持ち、黒馬も首はないままだが、どこか生気を帯びている。
「デュラハン!?喋った!?しかも優しげだ!」
『知り合いというか、千年前の私の従者です』
「従者!?この人も元人間だったってことですか!?」
「あーやっぱりそうか。ずっとそばにいたやつだったな」
まさかの再会に、全員が言葉を失った。
『長い間、人としての意識は薄れておりましたが……我が主様が戻られたことで魔力が安定しました。改めて……ありがとうございます』
そう言って首なしのまま丁寧に頭を下げる。
礼儀が妙にしっかりしている。
『まだ元気そうで安心したよ。我々が倒れた場所を覚えているか?』
『はい、もちろん』
『なら案内してやってくれ。遺物を回収したいらしい』
『全身全霊でお供いたします!』
こうして、デュラハンの案内で遺物は無事発見された。
それらは玄聖のステータス・アイテムボックスにまとめられ、一つひとつ、古代の刻印のような光を放っていた。
「……なんか、こうして見ると、本当に時代が繋がってるって感じがしますね」
天音がぽつりと呟いた。
余談だが、玄聖が暴走していた最中に逃げたハンターたちが、恐る恐る戻ってきて頭を下げた。
「逃げてしまい申し訳ございません……」
ベルフェは淡々と答える。
「まぁ、逃げるのも立派な仕事だろ。無事ならそれでいい」
ハンターたちは複雑な顔をしながらも、少し笑った。
◇
青門へと変わったダンジョンの前。
玄聖とデュラハンが見送りに来ていた。
玄聖が蒼炎の瞳を細め、静かに頭を下げる。
『久禮 尊。貴方の理に、敬意を』
ベルフェは苦笑しながら手を振った。
「もうやめろ。そういうのは柄じゃねぇ」
チリン……
霊廟の奥から、最後の鈴の音が鳴る。
風が吹き抜け、光が消えていく。
ダンジョン門を通り、現世へ戻ると天音が空を見上げる。
銀の月が一つ、静かに夜を照らしていた。
「……これで、千年の夜が明けたんですね」
ベルフェは残ったクッションを抱え直し、「よし、寝るか」と呟いて歩き出した。
その背中に、仲間たちの笑い声が静かに続いた。
——赤門ダンジョン『朽ちた霊廟』、攻略完了。




