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第21話:魔王、骸の理を見る

 赤門ダンジョンが現れたとはいえ、すぐにブレイクが起こるわけではない。

 早くても一日はかかる。

 とはいえ——三分前に気配を察知できるというのは、本部にとってはありがたすぎる報告だった。


 ◇


 埼玉南部・赤門ダンジョン内部。

 調査のために先行して潜ったハンター部隊から、続々と報告が上がってくる。


「視界、最悪です。全域に濃霧が発生しています」

「中は……古びた街並みのような構造です。石畳、瓦屋根、そして……崩れた城壁。まるで1000年前の都市をそのまま切り取ったような……」

「現在、確認できる魔物は……人型、ですが、肉体が腐敗……いや、アンデッドです!」


 通信越しに響く報告の一つひとつが、重苦しい空気を運んでいた。

 ハンターたちの声には、緊張と、どこか言いようのない恐怖が混じっている。


 ◇


 本部では、解析班とギルド代表、そしてベルフェたちが集められ、先行組の映像記録をモニターで見ていた。

 霧の向こうに広がる廃墟の街——その瓦礫の中には、古代語で刻まれた碑文のようなものが埋もれている。


「……この地形……やはり“都市型”とみて間違いないな」

「まるで千年前の戦場を再現したみたいですね……」

「都市型ということは、専門家は来ているのか?」

「はい、政府の考古学部門から、この遺構の専門家が来ています」


 都市型というのは……過去の都市や集落がそのままダンジョン化したものだ。

 階層構造が複雑で、ソロ攻略禁止とされている。


 映像を見ていたベルフェが、ふと口を開いた。


「……そのダンジョン名は“朽ちた霊廟”か?」

「!?ご存知なのですか!?」


 天音が慌てて立ち上がる。


「そのダンジョンは、俺が千年前に一度攻略した場所だ。……どうやらまた開いたようだな」


 まさかの“既知のダンジョン”。

 それに会議室の空気が凍りついた。


「……遺品くらい拾っとくか。めんどくせえが」

「ま、魔王様……!」


 かつて、このダンジョンでは仲間が何人も倒れたという。

 攻略には成功したが、ダンジョンが閉じる寸前で、遺体を回収する余裕はなかった——。


 その記憶の残滓が、今のベルフェの横顔に一瞬だけ滲む。

 怠惰の理を背負った魔王になってなお、胸の奥の痛みだけは鈍らせられない。


 千年前、誰よりも多くの命を背負った“大英雄”。

 その影は、今も変わらず静かに彼の中に残っていたのだ。


「それならちょうど送ってきた“教聖国”のアンデッド対策を持って行った方がいいですね!」


 本部の職員が慌てて段ボールを持ってくる。

 蓋を開けると、聖水の瓶、十字架、さらには聖なる剣まで並んでいた。


「ひゃっ!?これ、全部アンデッド対策用です!」

『ほう、アンデッド討伐というわけじゃな。……って天音ちゃん顔真っ青じゃないか』

「う、うう……わ、私、お化けとかアンデッドとか、本当に苦手なんです……」

『聖女なのにか!?いや、自覚してるなら良いのじゃ……』


 ベルフェは顎に手を当て、何気なく呟いた。


「……お化けというのは霊のことか。そういうのは昔、陰陽師の領分だったな」

「えっ!?陰陽師って本当にいたんですか!?」

「あぁ。魔法職の中でも最強格だった。呪詛や結界も、全部扱えていた」


 その瞬間だった。


「な、なんとぉぉぉぉ!?それは大変興味深い!!ぜひ詳しくお聞かせ願いたいっ!!!」


 ズザーーーーーッ!

 

 床を滑る勢いで現れたのは、乱れた茶髪を無理やり撫でつけ、分厚い眼鏡をかけた男だった。

 その異常な登場に、ハンターたちは口を開けたまま固まる。


 腰にはメモ帳、背には古文書の束。

 いかにも“考古学者”といった風貌である。


「……お前、誰だ」


「失礼!!ええ、私は1000年前の遺跡専門でして!発掘現場で当時の武具が見つかり──」

「(遮って)長ぇ。名前と要点だけ言え」

「考古学の専門家、榊原さかきばら けいと申します!!お願いがあって参りました!」


『……なんか、すごい濃いのが来たのじゃな』


 ジト目になるアラーム。


 榊原は興奮で眼鏡を曇らせながら、周囲の視線などお構いなしに身を乗り出した。


「ある英雄パーティが滅んだと伝えられる場所に、新たなダンジョンが出現したのです!しかも先ほどの話だとアンデッド系!!これは考古学的にも重大な意味があるとビビッときまして!ですが私は戦えない!護衛が必要なのです!それに、1000年前を知る——英雄ご本人様に是非同行させていただきたいっ!!」


 一同「「「…………」」」


「……はぁ……勝手にしろ」

「ありがとうございます!!!!!!!」

「えっ……ほんとに!?」


 榊原はその勢いのまま、今度はアラームの方にぐいっと近づいた。


「それとっ!!嫉妬の魔王、レヴィアタン様にもお伺いしたいことが軽く100個ほどありましてっ!!」

『ひゃ、ひゃく!?聞きたいことが多すぎるのじゃ!……まぁでも悪くはないのう』


 意外にも、アラームはまんざらでもない様子だった。尻尾をぴこぴこと揺らしながら、ふんすと胸を張る。


 どうやら嫉妬の理を持つ魔王は、”求められること“そのものに幸福を感じる傾向があるらしい。

 面倒くさがるベルフェと対照的に、アラームは妙に嬉しそうだった。


 こうして——朽ちた霊廟ダンジョン攻略隊が結成された。

 怠惰の魔王、聖女、嫉妬のマスコット、そして妙に暑苦しい考古学者。


 次なる理、“骸の理”が眠る廃墟へ向けて、人と魔王の奇妙な共闘が、いま始まろうとしていた。

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