第100話:魔王、ステータス確認する
魔王オフ会(?)がお開きになり、アドモンは沖縄へ帰り、ラムちゃんはそのまま別室にある榊原の研究室へ戻っていった。
会議室に残ったのは、ベルフェ、アラーム、天音、蒼真、そしてポメ様の五人だけである。
「……最後まで配信の話で盛り上がっていましたね」
『ふふん。このあと諸々準備をするのじゃ』
アラームが嬉しそうに尾をふるりと揺らす。
そのとき、ポメ様がふと口を開いた。
『それより、一度確認しておいた方がよいのではないか?』
「……何をですか?」
『全員のステータスだ』
沈黙。
天音と蒼真が、そろって目を瞬かせる。
「そういえば……最近確認してませんでしたね」
最後に確認したのは、妖精国の件のあとだったはずなので、もう数か月前になる。
「たしかに、今のレベルやスキルがどうなっているのか、知っておいた方がいいですよね」
天音がこくりと頷く。
蒼真は少しだけ視線をそらし、小声で言った。
「……実は、憤怒の魔王を継いでから怖くて見てないです」
「だ、大丈夫です!一緒に見ましょう!」
天音が慌てて励ます。
ベルフェはクッションに埋もれたまま、深くため息をついた。
「……面倒だが、やるか」
『そうとなれば蒼真!まずはおぬしのステータスを見せるのじゃ!S級ハンターがどれほどのものか、気になっておったのじゃ』
「いやいや、そんな大したもんじゃ……」
『S級で“大したことない”は通らぬぞ』
アラームの尾がぴしりと揺れる。
蒼真は少し迷ってから、軽く息を吐いた。
「……じゃあ、まあ。今なら別に隠すこともないですし」
手をかざすと、空間に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
しかし、青く光るはずのウィンドウは、わずかに赤を帯びた淡い紫色だった。
――――――
【瀬名 蒼真】
種族:憤怒の継承者(人間?)
Lv:1023
スキル:error→権能変換中
憤怒の権能:
第一権能⸻逆鱗探査
第二権能⸻雷霆蓄積
第三権能⸻怒雷接地
――――――――
「……」
「……」
「……え?」
最初に声を漏らしたのは、蒼真本人だった。
「せ、せん……?ちょ、え、1023?」
二度見する。
三度見する。
だが表示は変わらない。
「ま、前に見たとき666でしたよ!?半年も経ってないですよ!?」
天音が口元を押さえる。
「ろ、666でも十分すごいですよ……?」
『666も十分やばいのじゃ。さすがS級ハンターというわけじゃな』
アラームは感心したように頷いた。
「そこじゃないです!!」
蒼真が即座にツッコんだ。
「僕まだ人間ですよね!?人間ですよね!?なんで桁が変わってるんですか!?」
指が震えながら、ウィンドウを指差す。
「しかも“種族:憤怒の継承者(人間?)”ってなんですかこの疑問符!?なんで運営側も迷ってるんですか!?」
「え、えっと……」
天音が視線を泳がせる。
『……スキルも“error”と出ておるのう』
「まさか権能変換中ってことは、魔王を継いだから……?」
『くははは!おめでとう。蒼真も人間卒業だな』
ポメ様が爆笑しながら、まったくフォローになっていないことを言う。
蒼真は思わず頭を抱えた。
「……落ち着け」
ベルフェがクッションの山の中に埋もれたまま、淡々と蒼真を見る。
「憤怒を継いだから、憤怒の魔王の経験値が圧縮されて入っただけだろう」
その一言で、蒼真の動きが止まる。
まだ青ざめたまま、自分のウィンドウを見つめた。
「……なるほど。やっぱり憤怒の魔王の分も入ったんですね」
『そうだな、我の分が入ったかもしれんな』
「安心できる材料がひとつもないんですけど……」
その空気を、天音がそっと手を挙げて割る。
「え、えっと……じゃあ、次は私の確認をしますか?」
蒼真が顔を上げる。
「あ、そうですね。天音さんって今どれくらいなんですか?」
「えへへ……ちょっと怖いですね」
天音は両手を合わせ、ウィンドウを展開する。
――――――――
【白崎 天音】
種族:人間(聖女)
Lv:450
スキル:《神託+》《浄化》《回復》《祝福》《怪力+》
――――――――
「450……すごいですね!でも神託“+”って、なんですかこれ?」
蒼真が素直に感心する。
だがその視線が下へ移動した瞬間、気になる部分を見つけた。
「え?」
天音が自分のウィンドウを見直す。
「え、あ、ほんとだ。+ついてます」
さらに下。
「……怪力……+?」
沈黙。
天音の顔が固まる。
「怪力に、なんか+がついてますー!?!?」
その瞬間、室内に悲鳴が響いた。
「え、ちょっと待ってください!?私そんなパワー系でした!?」
蒼真が即座に頷く。
「いや、元からでしたよ」
「そんな断言しないでください!」
天音は慌てて両手を見る。
「+ってなんですか!?強化版ですか!?私また誰か持ち上げちゃいます!?」
ベルフェがぼそりと呟く。
「……自覚なかったのか?前から+相当だった」
「魔王様まで!?」
アラームが尾を揺らす。
『神託の精度向上と同時に、身体強化も進んだのじゃろう。加護が濃くなっておる』
天音が半泣きになる。
「わ、私、聖女ですよね!?方向性ちょっと違いません!?」
蒼真が苦笑する。
「でも450なら……ちゃんと“人間圏”ですよね」
ぽつりと漏れたその言葉に、自分で少し安心したような顔になる。
1023と並ぶと、450が妙に現実的に見えるのだ。
ポメ様が小さく鼻を鳴らした。
『安心するな。あやつも十分おかしい』
「ええ!?」
『たったの450で怪力+は理が偏っておる』
「偏ってるんですか!?」
ベルフェは再びクッションに沈みながら、低く言う。
「全員、少しずつ壊れてるだけだ」
「さらっと怖いこと言わないでください!」
室内に、ようやく軽い笑いが戻る。
「次は魔王様の番ですよ!」
そう言われると、ベルフェは露骨に面倒そうな顔をした。
「……少しだけな」
指先がわずかに動くと、空間が静かに軋み、赤い画面が浮かび上がった。
――――――――
【ベルフェ】
種族:怠惰の魔王(仮)
特異個体:蘇生体(久禮 尊)
Lv:680
怠惰の権能:
第一権能⸻無為鍛成+
第二権能⸻惰材変質+
第三権能⸻怠縛鎖
――――――――
沈黙。
蒼真が、ゆっくりと息を呑む。
「……久禮、尊」
ぽつりと呟く。
「もしかして本当にあの大英雄グレイソンですか!?」
妙に感動したような顔になる。
「歴史の教科書で見ましたよ!千年前の鍛冶……」
「やめろ。そういう肩書きで呼ぶな」
しかし、蒼真の目は少しだけ輝いていた。
ベルフェは目を逸らす。
「……昔の話だ」
蒼真の視線が、再びウィンドウへ戻る。
「……あれ?」
「どうしました?」
天音が覗き込む。
「種族のところ、“怠惰の魔王(仮)”ってなってますけど」
「……なんだと?」
ベルフェの眉が、わずかに動いた。
前回確認したときには気づかなかったが、確かに名前の欄には(仮)と記載されている。
⸻怠惰の魔王(仮)
まるで、まだ完成していないとでも言いたげな表示だった。
補足:レベル目安
一般人:0〜50
C級:50〜200
B級:200〜350
A級:350〜500
S級:500〜700
魔王級:権能存在
神級:原理存在




