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プロローグ

初投稿です!

突如東京に現れた“魔王”が、なぜか人類を守ります。

気楽に読んでいただけたら嬉しいです!

 百年にわたり、人は人と争い続けた。

 領地を奪い、血で血を洗い、覇を競った果てに——世界は疲弊しきっていた。


 だが、ある日。

 空が裂けた。

 黒き“門”が現れ、そこからあふれ出したのは獣でも人でもない、異形の群れ——“魔物”。


 それは、戦の相手が“隣国”から“異界”へと変わった瞬間だった。


 以後、世界は幾十年にもおよぶ魔物との死闘に突入する。

 人は生き延びるために魔法という未知の力を手にし、数多の英雄が立ち上がった。

 そして、無数の命が散っていった。


 幾億の犠牲を重ねた果てに、ようやく“門”の暴走は止まった。

 魔物の群れがあふれ出すこともなくなり、焼け焦げた大地に風が戻った。


 崩れた城壁の向こうで、人々は泣き、笑い、抱き合った。

 人類は、生き残ったのだ。


 ——だが、終わってはいなかった。


 かつての“門”は形を変え、いまも世界のあちこちに残っている。

 いつ再び魔物が現れるのか、誰にもわからない。

 それでも、人々は束の間の平穏に酔いしれ、祭りのような喧騒が街を包んでいた。


 そんな喧噪の中、ひとりの男がふらつく足取りで歩いていた。

 血と煤に汚れた鎧を脱ぎ捨て、数年ぶりに自分の鍛冶場へ戻る。

 壁には錆びた鉄槌、炉にはもう火が入っていない。


 男はそこに腰を下ろし、膝の上に重い槌を抱えた。


 ——大英雄のひとり。

 鍛冶師でありながら、自ら剣を振るい、最前線で戦い続けた男。

 限界などとうに超えていた。

 筋も骨も悲鳴を上げ、もう二度と癒えることはないだろう。


 背後から、街のどよめきが微かに届く。

 歓声、笑い声、再生を祝う鐘の音。

 それらを遠くに感じながら、男は静かに呟いた。


「……やっと、休めるな」


 言葉が空気に溶ける。

 次の瞬間、彼の意識は暗闇に沈んだ。


 ——だが、その沈黙の底で、声を聞いた。


『休ませてやりたいが、頼みがある』


 澄んだ、しかし抗えぬ響きを持つ声だった。

 男は顔をしかめ、かすかに唇を動かす。


「まさか……また俺に世界を救えってのか?」


『ああ。七つの罪を冠する魔王が、千年後に再び目覚める。このままでは人類は滅ぶ。——ゆえに、お前に守ってほしい』


 男は乾いた笑いを漏らした。


「……ふざけるな。俺は十分に戦った。千年後なら、その時代の人間に任せればいいだろう」


 沈黙。

 風が焼けた城壁を通り抜ける音だけが響く。


 やがて、光のような声が告げた。


『守り抜いた暁には、願いを一つ叶えよう』


 男は目を伏せる。

 胸の奥で、忘れたはずの“何か”が疼いた。

 それは、戦いに飲まれ置き去りにしてきた願い。

 ——だが、まだ消えてはいなかった。


「……条件がある。俺は破壊者じゃない。創る方が性に合ってる。次も、“創る”力をくれ」


『うむ。ならばお前に与える器は——“怠惰”の魔王、序列二位』


「……は?魔王?怠惰?」


『省くと書いて“怠ける”と読む。お前は働きすぎた。今度は“最小の手”で“最大”を成せ』


「おいおい……十分働いた奴に“また世界を救え”って言った直後に、“怠けろ”だと?理不尽にも程があるぞ」


『だからこそ、お前にしかできぬ』


「……ほんと神様ってやつは、ろくでもねぇな」


 理不尽な理屈に、男は思わず吹き出した。

 長年、鉄を打ち続けた掌が、再び“柄”を握る感覚を思い出す。


 光が淡く揺れ、男の胸に黒き紋が刻まれた。

 それは眠りの印、王冠の影。


『新たな名を授けよう。——怠惰の魔王、ベルフェゴール』


「……長いな。ベルフェでいいか?」


『好きに呼べ』


 光が弾ける。世界が裏返り、視界が白に飲まれる。

 遠くで、再び“門”が開く音がした。


「……“最小の手”ね。なら一度くらい、怠けてみるか」


 呟きは風に消え、男の身体は光の中へと溶けていく。

 別の空へ、別の時代へ。


 七つの紋章が天に滲み、人々の営みの上に不穏な影を落とす——


 ——ただし。


 そのとき神は、ひとつだけ重大なミスを犯していた。


 ……この魔王が“人類の味方”であることを、誰にも伝え忘れていたのだ。

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