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地雷系祓い屋と霊感ホスト。  作者: かべ


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9/13

霊感ホストのステップアップ2




(……まじでなんもなかったな)


 翌朝。

 むくりとベッドから起き上がった俺は、ぼんやりしながらもそう思った。

 

 男女二人で高級ホテルに入ったのに、まじで何もなかった。

 ――いや別に何かあった方がよかったなんてことはないのだが。


(……とはいえ、まったく男として見られていないと思うと、それはそれでなんというか複雑な気分になるな……)


 結局あのあと、俺はゆりあと霊力同調をした感覚を思い出しながら、霊力を広げる感覚をな試しつつも、式神のイメージを練っていた。 

 どんなものなら、イメージしやすいか。

 どんなものなら、しっくりくるか。 

 

 そして、

 その横でゆりあは丁寧に刀の手入れをしていた。

 

 烏と同じ濡れ羽色の刀身を丁寧に紙で拭い、打ち粉を打ち、丁子油を塗る。しなやかな手つきで、迷いなく。

 俺も、刀に憧れた中学生のころ、手入れの手順ややり方を調べたことがある。俺はすぐに刀に憧れていたことがあったことさえ忘れてしまったが――それをまさか、目の前で見ることになるとは思わなかった。

 

(また高級ホテルで日本刀の手入れとか、普通に考えると相当やべー光景だけどな……)


 昨晩のことを思い返しながら思わず苦笑いする。

 ゆりあとの付き合いは別に短くない。けれどもこの1ヶ月ちょいで、ありえないものをたくさん見聞きした。人生何が起こるかわからない。


 ちらと隣のベッドを見ると、既にゆりあの姿はない。

 いつの間に出ていったんだろう。

 音なんてまったくしなかったが。

 ただ、どこにいるのかは 先にピンと来た。ベッドルームに隣接されたリビングにいる――。


「ゆりあ」

「あっ、おはよーれいぴ! よく寝てたね♡」


 果たして。実際に、ゆりあはリビングにいた。

 目を閉じ、背筋を伸ばし、あぐらをかいていた。瞑想をしていたのだろうか。

 もこもことしたパジャマのままだったけれども、一瞬その光景がやけに神々しいものに思えて目を擦るが、次の瞬間にはいつものゆりあに戻っていた。


「寝顔、可愛かった♡」

「勝手に見るなよなー」

 

 メイクもしておらず髪も巻いていないが、ゆりあの顔の印象はあまり変わらない。

 ただ、髪を下ろしていると、どことなく清楚な雰囲気になる。


『いつかはれいぴも自分のことを受け入れられたらなーって思うな』

 

 その言葉を思い出し、僅かに心臓がはねた気がして――、

 俺は思いっきり自分の頬をはたいた。


「れいぴ!? どうしたの!?

 やめてよぉ〜! ゆりあの最推しの顔になにすんの〜〜〜ッ」

「……」


 涙目で騒ぐゆりあのやかましさに、俺はわりとすぐに調子を取り戻した。

 そうだ。こんな感じだったこいつのノリは。

 

(ハァ、ハァ、俺は一体何を……)


 ゆりあは確かに、いろんな意味で(エースとしても霊能者としても)俺にとって他に代えがたい存在だが、……客だぞ?

 所詮、金でつながっている関係だ。いろいろな意味で対等な関係ではありはしないし、ゆりあは俺のことはただの()()で、普通の人間関係を築くべき相手じゃないだろう。

 だというのに少しでも――ときめくだなんて。どうかしている。


 「それじゃあれいぴ、また店で!」

「おー。待ってるよ」


部屋を出て、ホテルの前で別れる。

――高級ホテルの前にツインテールの若い女と、チャラそうな男(つまり俺)。場違いに見えるのか、ロビーの人々がジロジロ見てくる。

  

「あ! あと修行の成果、LINEで報告してね♡」

霊能力の修業(そういうの)にしては斬新なシステムですね師匠……わかったよ、できるだけやるよ」

「できるだけやるって、それちゃんとやらないやつじゃんれいぴ〜!」

「ちゃんとやりますって」

  

 くだらない話をして、店でまた会おうという約束をする――ホストと姫としてのいつもしているやりとりをしたことで、()()に戻れたような気がしてほっとする。

 けれども。

 ゆりあと別々の方向に歩き出した途端――自分が昨日までの自分とは、全く違うものになっていることを、いやでも理解した。

 

 道行く人々の気配や、

 彼らに憑いてる妖や、

 ひと握りの天才(すごいオーラのやつ)が、

 どこにいるのか、どのくらいいるのか、驚くほどはっきりわかる。


 俺は驚いて立ち止まり、人混みの中をきょろきょろとしてしまった。


霊力(チカラ)を意識するだけで、こんなに変わるのか――)


 俺はぐ、と拳を握りしめると、

 自分の中の戸惑いをかき消すように、大股で歩き出した。



 

 *


 


「――○○区の○○まで」

「はいよ」

 

 拾ったタクシーの座席で、ゆりあはミニリュック――黒いハートの形で、レースで縁取られている――を下ろすと、中から手帳を取り出した。


 彼女の祓除師としての名刺も挟んである、どことなく武骨なデザインになっている黒革の手帳。――それは、祓除師界隈の者にみせれば、国家怪異対策委員会に認められた階級と出身(どの一門の生まれか)がわかる身分証(ライセンス)でもあった。


 ……ネイルで彩られた指が、そこからいく枚かの写真を取り出す。



【AGELESS】のレイヤ。

[CRIMSONMoon]のセイ。

『Rose』の晴人。

それら三店を運営するグループ、インフィニスグループのオーナー。


 その四人の写真だった。



(……インフィニスのオーナーは警視庁の組対がマーク済み。地元半グレグループと繋がっているのはほぼ間違いない。ただ、()()()の世界の犯罪者どもとの繋がりがあるかは微妙なところ……)

 

 六枚の写真のうち、ゆりあは――玉寺百合愛S級祓除師は、オーナーの写真をつまみ上げた。

 そして、手のひらに満たぬ小さな写真を見つめながら、思考を続ける。


(オーナーが人皮売買の元締めか? ……まあ、有りうる。とはいえ……半グレと繋がりながらも妖とも売買をするなんて、さすがにリスクが高い気がする)

 

 オーナーは祓除師でもなく、ただの人間だ。霊感はともかく、祓除師になれるほどの霊力もなければ、レイヤのように突出したセンスもない。

 妖と取引をするとなると、人間というだけで危険が増えるものだ。ただの人間が、人面蜘蛛のような高位の妖も取り込むようなマーケットを展開などということが、果たして可能なのか――。


(……オーナーは人皮を売り捌いてる奴に利用されてるだけか? 利用され、場を提供させられている?)


ゆりあは手帳のページをめくっていく。

そして、【AGELESS】『Rose』「CRIMSONMoon」の三店舗における失踪者の基本データ、その三店のキャストたちから聞き出した情報、および東京中央部でこの件の情報が共有されている同業者から受けた報告、それら全てを簡潔にまとめてあるページを開いた。


同業者からの報告だと、人皮を使って潜伏していた高位の妖が確実に増加しているとのことだった。

それに比例して、いなくなる人間も確実に増えていると。さらに、人皮のせいで人間に化けた妖を看破するのが困難になり、討伐に行ったはずが、妖に逆に不意をつかれて死んだ同業者もいるという。


  

(――ならやっぱり、この三店の、ホスト(キャスト)たちの中にいる可能性が高い。

 人皮売買ビジネスの首謀者はもちろん、人皮を()()()()異能者も)



「……れいぴ……」


 ゆりあは写真のうち一枚を取り出す。

 レイヤの写真だ。

 ――そこには、『最重要参考人』と書かれた付箋が貼り付けられている。


(……一応、この1ヶ月、いつも以上に張り付いて観察してみたけど、行動に怪しいところはなかった)


普通、妖が見える人間は――調査などで夜の街に潜り込んでいる祓除師は別――、夜職などを避ける。ホストクラブやキャバクラなど、いわゆる夜の店は、きらびやかな裏で妖が多く潜む傾向にある。


だから、彼が見える人間であるのにホストクラブのナンバーワンをしているというのは、ゆりあにとっては不可解だった。

だから少し怪しんだ。


――ただ。


(れいぴは、感知のセンスはピカイチだけど、人皮みたいな呪具を作れるタイプの霊能者じゃないし、妖との繋がりも全く見えなかった。人皮を使っていたあさひが正体を明かした時に見せた驚きも、嘘じゃなかった)


だから、とゆりあはレイヤの写真を折りたたんで手帳に仕舞う。



(だから――彼は、人皮ビジネスには真に無関係だ)



 となると、と。

 ゆりあは『最重要参考人』の付箋を、晴人に貼り変える。


「あーあ。イケメンを疑わなきゃいけないの、つら〜い……」

「どうしたんですかお客さん。彼氏に浮気でもされたの」

「ううん。そういうんじゃないよ。仕事の話。ちょっと大変なんだけど……」


 オーナーと妖に繋がりがあるかどうかは、同業者に調べさせよう、とゆりあは手帳を閉じる。祓除師の資格を持っている者は、警察にもいる。

 ――S級であり、力のあるゆりあは、まさに妖が跋扈し、マーケットが展開されているホストクラブ(前線)を洗うのが役目だ。



「たとえ大変でも、やり遂げなきゃいけないのが――仕事だよね」



 

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