表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

地雷系祓い屋と感知系ホスト2




『Rose』店内――。

その店のナンバーワンホストの出勤日は客の数も多くなるものだが、その日もそこそこ人が多かった。

 

 あまり目立たない方がいいのでということで、ゆりあはともかく俺は変装をして別々のテーブルにつくことになった。

 今回は話を聞くために来たではなく、怪しければ晴人を捕らえるために来た。――『【AGELESS】のナンバーワンホストとその姫が一緒にホストに来た』となるとそれだけで目立ってしまう。それは困るので、わざわざ別のテーブルにつくというわけだ。


 結果ややテーブルは離れたが、お互いがお互いの位置がわかるので、まあいいだろう。


(……にしてもすごいな。今まで誰にも気づかれなかったぞ、俺だって)


 さっきこの店のナンバー入りがヘルプについてきたが、俺の顔を見ても「男性の客久しぶりに見た」くらいしか言わなかった。

 メイクを施したのはゆりあだ。俺も化粧くらいできるが、変装レベルのものはできない。


(多彩というかなんというか。祓除師っていろんなことできないといけないのか?)


 面倒くさそうな仕事だな。また、面倒くさくない仕事なんてないんだが。


「こんちはー! どーも、新人のユウスケです。お兄さんめっちゃかっこいいですねー」

「おー。ども」


 卓についた新人を軽くあしらいながら、よし、と全身に力を入れる。

 そして、霊力を広げていく。広げる時は、足元から霊力をじわじわ落としていくイメージだ。水が広がっていくように、面積を広げていく。

 

「う……」

「どうしたんですかお兄さん。具合悪いんすか」

「あー、大丈夫だから」


人が多いからか、【AGELESS】の敷地面積よりもやや広いからか、『Rose』内を霊力でスキャンしてみると、いつもより頭が重くなった。

 

 ――これでは、うまく感知できない。

 

なにせ人が多いということは、負の感情も多いということだ。

 晴人は結構手広く色恋営業をしているようなので、それだけ奴に沼っている姫も多く――だからこそ、晴人目当てでやってくる客たちは彼をテーブルに呼ぶために鬼気迫っており、憑いている妖も多い。


(式神……)


 念じてみる。

 今までできたことはないが、頭が痛むのでとりあえず試してみる。

 ゆりあのように、鳥か。犬とか猫とかの獣か。はたまたでかい虎とか。


「あ……」


 一瞬、抽出された霊力が塊になった感覚があった。霊力の塊が足元から僅かに浮き上がり、何か、形を結ぼうとしている。

 式神ができるかと思って顔を上げたが――しかし、その塊はすぐに泥のように溶けて消えてしまった。


(やっぱりイメージ足りないとダメなのか)


 どんなのがいいんだろう。

 情報を細かく、一つ一つ拾い上げながら、分析をしてくれる式神。

 それを作れたら、俺は自分の力を自分の意志で制御できたことになる――。


「……でさ、売り上げなんだけど全然ダメで……あ! シャンコだ。おれ行ってきます」

「はいよ」


 適当に話を聞いてやっていたら、どうやらシャンパンの注文があったらしく、俺についていたヘルプがそのテーブルに行く。

 従業員総出のシャンパンコールとなると、そこそこの高額注文か。『Rose』のシャンコはどんなのかなと思って見ていると、テーブルの中央にいるのはどうやら晴人のようだった。隣にいる姫は、あの時見たみれいちゃんじゃない。エース以外にも高額注文をする姫がいるということだ。


(まあ当たり前っちゃ当たり前か。『Rose』のナンバーワンだろうし……、

 

――あれ?)


俺はそこで、違和感に気がついた。

 

 晴人は、以前会った時、目に見えるようなオーラを纏っていた。だが、今はそうでもない。

 確かに他のホストに比べると、気配が強い。だが以前ほどではない。

 俺はグラスを持ったまま、シャンコをよく見ようと腰を浮かす。


(……やっぱり……)


 おかしい。

 晴人のオーラが見えない。


「なんでだ……」

「どうしたんですか?」 


 シャンパンコールが終わって帰ってきたホストが、怪訝そうな顔で俺を見る。

 ――やっぱり、気配が弱い。恐らく、オーラ……つまり霊力の()()も違う。質、が違うというのだろうか?

 自身の霊力を広げて感知網を敷き、感知の精度を上げているからだろうか、はっきりと違いがわかる。

 

 今の晴人に関しては、人皮を被った妖、人皮とかいう闇深アイテムを作った霊能者、どちらにもとても思えない。

 

 ……なんでだ?

 あいつがあやしいんじゃなかったのか……?


「んー。さっきからずっと思ってたんですけどお兄さんまじでイケメンですよね。メン地下っぽさがうちの売りなのでちょっと系統違いますけど、服でだいぶ変わりますよ。よければウチでホストに――」

「あ、俺悪いけどちょっとトイレ」

「えっ、ちょ、お兄さ……」


 こっちの顔がちょっといいと見ればスカウトしにかかってくる――新人に見えて引き抜きの手ぎわはよさそうだ――新人を無視して席を立つ。

 トイレとは言ったが、あくまでも建前だ。

 俺はトイレに行くふりをして、ちょうどホストが出払っているゆりあに近づいていく。


「ゆりあ」

「あれ、れいぴ。どうしたの」

「晴人の様子、おかしくないか?」

「え?」


 ゆりあが晴人を見る。

 そしてややあってから首をかしげ、「ごめん、ゆりあにはわかんないや」と眉をしかめて言った。

 

「人より霊力(オーラ)が強そうだってゆりあも言ってただろ。でも今日はそれがない。弱ってるんだ。……人よりちょっとカリスマがあるだけで、本当にただの一般人に思える」

「弱ってる……? うーん、霊力って体調が悪いと弱ることもあるけど、晴人の体調はよさそうだし……。そもそももともとそこまで強い気配には思えなかったからなぁ。ゆりあにはそんなに違いがわからないかも。

 ――でも、れいぴにはわかるんだね?」

「え。信じてくれるのか?」


 超一流の祓除師であるゆりあでさえ、じっくり見てもわからないことなら、さすがに理解されないか、と思ったが。

 面食らっていると「あったりまえだよ」とゆりあが言う。


「ゆりあがわからないところを補う、そのために来てもらったんだから。――さすがはれいぴ!」

「……っ!」


 さすがはレイヤ。

 そんなことは何度も言われてきたし、なんならゆりあにも何度も言われたことがある。

 けれども当然、忌み嫌っていた(これ)のことで真正面から褒められるのは初めてで、思わず、ぶわ、と顔に熱が集まった。


 ――店内は暗い。

 だから、赤くなった顔を、誰かに見られていることはないはずだ。

 それに、マスクしてるから、目の前にいるゆりあにも――気づかれてないよな? 

 

「でも動くのはちょっと後にしよう。ゆりあも注意して見てみるよ」

「……わかった」


 頷いて、とりあえずそのままトイレに入る。

 

 鏡の前に立ち、ライトの下に来ると、自分の頬の赤さがよくわかった。

 それを見て……俺はクソ、と思わず毒づいた。

 これじゃあまるで、逆に俺がゆりあに――。


(違うって、……ああくそ、余計なこと考えんなよ俺)


 頭を振って、邪念を遠ざける。

 そしてトイレから出ると、ちょうど晴人のエース(みれい)が入店してくるところだった。


(……あ?)


 晴人のことを見たときと、同じような違和感に襲われる。

 以前のようにホストクラブの姫らしく装いを整えてやってきたみれいは、いつか見た霊力(オーラ)をその身にまとっていた。


 ――間違いない。

 前回『Rose』に来た時、俺が見て感じたオーラはあれだった。

 

(そうか)


 唐突にピンとくる。

 ――あの時は、俺たちが店にいた時、みれいと晴人は常に一緒にいた。密着して、イチャついていた。


(二人がものすごく近くにいたから、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――)


「ゆりあ」

「! え、あれ、どうしたの」


 ちょうどヘルプのホストがテーブルについたタイミングで、ゆりあに話しかける。

 ホストに「え? 何? この子の男? 乱入?」みたいな目で見られたが、変装もしていることだしこの際少しくらいはいいだろう。


「みれいだ」

「えっ」

「晴人じゃなくてみれいだったんだよ。俺はすっかり勘違いしてたけど」


 それだけで、俺が何を言わんとしているのかを察してくれたらしい。

 ゆりあの表情がにわかに真剣なものに変わり、「れいぴはあの子に()()あると思うの?」と声を低めて尋ねてくる。


「ああ」

「根拠は?」

「カン」

「――じゅーぶんだね」


 ニヤ、と笑ってそう言うなり、ゆりあが伝票を掴んで立ち上がる。ヘルプホストが困惑した顔で俺とゆりあを見比べたが、気にしていられない。


「会計してくる」

「俺がやっとくからゆりあはみれいんとこ行ってよ」

「えっ、でも」

「いいから早く」


 いつもなら絶対言わないようなことを言い、ゆりあを無理やり送り出すと、自分の席の伝票も掴んで一緒に会計を済ましてしまう。

 自分のものでない伝票のことも会計したので怪訝な顔をされたが、「知り合いだから」でゴリ押ししたら信じてもらえた。……良かった。


「ねえ、あなたがみれいちゃん?」

「あれ、ゆりあちゃん★」

「は? ゆりあ? ちょっと何なの、誰……」


 そしてゆりあといえば、晴人にひっつくみれいの元へずかずか歩いていくと、

『お? お? 同担(同じホストを推してる、好きになっている者のこと)同士の修羅場か?』

 というような周りの目を気にせず、笑顔のままみれいの目の前に()()を突き出した。――ここからじゃ見えないが、恐らく突きつけたのは名刺か、祓除師の身分証だろう。あれを見れば、界隈の人間はすぐにゆりあがS級のバケモンだと理解するらしい。


 そして案の定と言おうか――遠くからでも、みるみる、みれいの顔色が悪くなっていくのがわかる。

 さらに。

 反射的にか、逃げ出そうと腰を浮かした彼女の肩を、ゆりあがすかさず押さえたのが見えた。


  

「――ちょっとツラ貸しなよ」

「ひ……っ」


 

 そのさまは、もはや完全に恫喝するヤクザとその被害者の構図だった。

 ……怖。



 

 「それで。……あの手帳見て顔色変えたってことは、君は()()()の人間ってことでいいんだよね〜?」

「っは、なしてよ……ッ! やめてよ! 誰か助けて……!」


 人気のない路地裏で、ゆりあはみれいを壁に追い詰め、その首元に刀を突きつけていた。

 誰かに見られれば一瞬で通報ものだが、人もいない上、ゆりあは愛刀である黒刀を自由自在に消したり出したりできるらしいので、特に問題はない。

 俺はその様子を変装を解いて――まあウィッグを取っただけだが――見守っていた。必要ないとは思うが、念の為の見張りも兼ねている。感知網を広げていたら、死角からだろうと近づいてきたらわかる。


「だれか……むぐっ!」

「ちょっとお、うるさいよぉ? 防音の結界を張ったから、叫んだって誰も来ないよ? 静かにしてよね〜」

「ひっ……」

 

完全に悪党のセリフじゃんすかゆりあさん。

 

「な、なによ防音の結界って……意味わかんないこと言わないでよ……っ」

「えぇ〜、いまさら一般人ヅラするのぉ? 君が普通のヒトならゆりあの手帳見てあーんなに怯えた顔して、逃げようとまでするわけなくない? 嘘がへたくそだな〜」


 ここ見て怖くなって逃げようとしたんでしょ――とゆりあが手帳を開いて『S』のところを叩く。


「さ。とりあえず身分証出して。怪我しないうちに」

「……」

「はぁ〜やぁ〜くぅ〜」

(恐喝……)


 俺がドン引きしているうちに、ゆりあがさっさとみれいの手から運転免許証を奪い取る。

   

「ふーん、本名は矢代美玲か……。年は二十二歳。職業は? あ、もちろん表の方ね」

「……キャバ嬢」

「店名は」

「NOIR」


 ゆりあがすかさず、空いている左手でスマホを調べる。「……たしかに君と同じ顔のキャバ嬢がいるね〜」


「そ、そうでしょう。わたしは嘘なんてついてないってこれでわかった?」

「んー……」

「ふ……祓除師のことは知ってる。知らないフリをしてごめんなさい」みれいは慌てて言い募る。「わたしも()()()人間だから。でも、S級なんて人は初めて見て……だから驚いて! それで怖くなって思わず逃げ出そうとしただけで」

「まあ納得できない理由じゃないねぇ」

「で、でしょう? あ、あなたなら分かるでしょ? わたしが霊能者って言えるほどの力の持ち主じゃないってこと。妖を祓う方法なんて知らないし、知ってたってわたしみたいな弱い人間には無理よ」


(……たしかに。この女からはゆりあみたいな強さは感じない)


 戦えない、弱いというのは嘘じゃないだろう。

 ただ――今回の件(人皮騒動)と関わっていない、とは断言できない。


「……じゃあみれいさんは、妖が見えるだけのただの一般人だってコト?」

「そ、そうよ。そうなの」

「祓除師の存在は知ってるけど、知り合いとかはいないってこと? 界隈に詳しくはないし、なんの力もないって?」

「そ、そう」

「……本当にぃ? にしては選ぶ職業がね〜」

「な、なによ。キャバの何が悪い?」

「悪いってわけじゃないよ? でもなんでキャバクラで働いてるの? 妖、ウジャウジャいるでしょ。夜職は、見える人間には特に精神衛生上よろしくないのに変だな〜って。祓える力があるなら雑魚はどうとでもなるだろうから、わからなくはないけどぉ〜」

「う……」

(う……)


 何も考えずホストになった俺に流れ弾が来た。

 多分、俺と彼女じゃ唸った理由が違うということも心に来た。

  

(どうせ田舎者で妖に関する常識も知らずに上京したアホだよ俺は……)


「だっ……だってしょうがないじゃない。お金が手っ取り早くほしいんだもの。……担当のために、手っ取り早く稼がなきゃいけないの。昼職じゃ絶対にできないことでしょ!」

「えー? そんなことないと思うけどぉ。今の時代ヤングセレブなんて星の数ほどいるよ」

「……S級なんていう化け物(あなた)にはわかんないでしょうけど、お金は湧いてくるものじゃないの」

「聞き捨てならないな〜。ゆりあたちだって命賭けて戦ってるんだけど?」

「な――なによ。ここに来てるのだって、ただの失踪者と失踪の真相の調査でしょ。そんなんで命賭けてるって言えるわけ」


 その言葉に俺は思わず目を見開いて、みれいを見た。

 ゆりあも言い返さず、じっ、とみれいを凝視している。


 みれいはゆりあの様子に不気味さを感じたらしい。

 肩をすくませながら、「な、なに……」とかすれた声を漏らす。



「気づいてないの? 今、語るに落ちたこと」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ