⑮二人の白昼夢
シャドーレ、ミノリは貴女のパートナーなのよ!?
果たして、あの悩みは解決するのだろうか…。
全てが終わった後、流転の國の主は配下達に五日間の休日を言い渡した。
実際、一番休みたいのはマヤリィ本人だったりするのだが…。
「シャドーレ!今日こそ、ミノリは貴女と二人でカフェテラスに行くわ!」
流転の國の休日一日目。
マヤリィから与えられた二人の部屋で、ミノリはそう宣言した。
「そんなに意気込まなくても…いつだって行けるわよ、ミノリ」
シャドーレは今にも部屋を飛び出しそうなミノリを見て、不思議そうな顔をする。
「だって、シャドーレはミノリ以外の人とカフェテラスに行くじゃない!ミノリとは滅多に行かないのに!!」
この間ネクロに相談した件に関してはまだ解決していない。
「確かに、ルーリの方が綺麗だし、話してて楽しいかもしれないけど…貴女のパートナーはミノリなのよ!?」
「ミノリ…」
そう言われて、シャドーレはこの間ルーリとカフェテラスに行ったことを思い出す。
「ごめんなさい、ミノリ…。愛する貴女を置いて行くなんて、私は最低な女ね…」
シャドーレは素直に謝ると、ミノリを後ろから抱きしめる。
「…ミノリ、お願い。許して頂戴」
シャドーレの長い腕がミノリを包み込む。
「…ねぇ、ミノリ……」
甘く柔らかい声が耳元でそうささやく。
マヤリィに少し似た、トーンの高い優しい声。
しかし、ミノリの返事はない。
(本気で怒っていますわね…。どうしたら良いかしら…)
シャドーレは困ってしまうが、このままこうしていたところでどうにもならない。
「…少し待っていて下さる?すぐに戻りますわ」
言葉遣いが素に戻ったシャドーレは、ミノリの返事も待たずに部屋を出て行った。
「どこ行くのよ、シャドーレ…」
そう言ってミノリがその場に立ち尽くしたのも束の間、シャドーレはすぐに帰ってきた。
「さぁ、ミノリ。冷めないうちに飲みましょう?」
それは、潮風の吹くカフェテラスで出されているコーヒーだった。
「これって…カフェテラスの…?」
「ええ。テイクアウトしましたのよ」
「そんなことが出来るの…?」
これがルーリやネクロだったらテイクアウトの意味が分からなかったかもしれないが、ミノリには通じた。
「クッキーもありますわよ。…確かにカフェテラスは居心地が良いですが、誰かが通りかかるかもしれないでしょう?二人きりでカフェタイムを愉しむなら、やはり私達の部屋が一番ですわ」
「シャドーレ…!」
それを聞いたミノリは突然シャドーレに抱きついた。
「ミノリは…これからもシャドーレのパートナーでいて良いのよね?もっと綺麗な…例えばサキュバスとかと不倫なんて…しないわよね?」
「ええ。私のパートナーは生涯ミノリだけよ。いつまでもこの部屋で一緒に過ごしましょう。…私達はマヤリィ様にお許しを頂いた仲なのよ?」
シャドーレはそう言ってミノリにキスをする。
「…可愛いミノリ。今回の休日は貴女とだけ過ごすことにしましょうか」
美しい微笑みを向けられ、ミノリの頬が紅く染まる。
「シャドーレ…。そんな顔されたら、貴女を許すしかないじゃない。ずるいわ」
「ふふ♪夜も離さないわよ、ミノリ」
そう言うと、シャドーレはミノリを抱き上げ、ベッドに直行した。
「ちょっと待って。今から…するの?」
「ええ。ミノリが可愛すぎるからいけないのよ?久しぶりに…貴女の身体が見られるのね」
「シャドーレ、ちょっと待っ……」
しかし、ミノリはその先を言わせてもらえなかった。
シャドーレがミノリの唇を奪ったから。
「ミノリ、愛してるわ…」
不倫の事実を問い詰める余裕もなく、ミノリはシャドーレに抱かれた。そして、恋人と過ごす甘く濃密な時間に、ミノリは心も身体も満たされていった。
「大好きよ、シャドーレ…」
二人きりの白昼夢はまだまだ続いてゆく。
ミノリの心を満たすことが出来るのは、シャドーレと過ごす甘く優しく蕩けそうな時間だけ。
シャドーレがルーリに第2会議室(という名のラブホテル)に連れて行かれた事実に関しては、それ以上追及されることはありませんでした。
あろうことかマヤリィ様としちゃったこともありますが…触れないことにしましょう。