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流転の國 vol.6 〜天よりの侵入者〜  作者: 川口冬至夜


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14/20

⑭弔い

「ジェイ、クラヴィス、此度は本当にご苦労だったわ」

「はっ!」

流転の國に帰還した二人を前に、マヤリィは労いの言葉をかけた。

ティーメの遺体は今、事前に指示しておいた通り第4会議室に安置されている。

「…では、彼女に会いに行きましょうか」

マヤリィはそう言うと、すぐに皆を連れて第4会議室に『転移』した。

そこは、桜色の都へ行く前に彼女が過ごしていた部屋である。

「…ご主人様。開けてよろしいでしょうか?」

納体袋に包まれたティーメを前にして、クラヴィスが聞く。

「桜色の都では顔しか見せて頂けませんでしたので、恐らく身体の方は損傷が激しいかと…」

「構わないわ。開けて頂戴」

「はっ!」

皆が見守る中、クラヴィスは納体袋を開く。

「っ…」

ティーメの顔は綺麗なままだが、身体はどこが手か足か分からないほど真っ黒になっていた。そして、失敗に終わった黒魔術の禍々しい残滓がティーメの身体から漂っている。

それを感じて、反射的に目を背ける者もいたが、マヤリィは彼女の身体を直視する。

「顔が綺麗に残ったのは奇跡としか言いようがないわね。もし全てが黒に包まれていたら、判別も出来なかったでしょう」

「はい。爆発は床の近くで起きたようですな。肩の辺りはかろうじて原型を留めておりますので」

ネクロも冷静に分析する。

「魔術に足を掬われて逃げることも出来ず、身体のほとんどを侵蝕されてしまったというわけですわね」

シャドーレは遺体を観察する。

「…可哀想。こんな状態になるなんて、凄く苦しかったんじゃないの?」

ミノリは少し離れたところから見ている。

「聞いた話ではほとんど即死だったとのことでしたが…実際はどうだったのか分からないですね…」

クラヴィスはそう言って俯くと、

「…ご主人様。先ほども申し上げた通り、ティーメに『シールド』を習得させなかった私にも責任があります。本当に申し訳ありませんでした!」

マヤリィの前に跪いて頭を下げた。

しかし、

「先ほども…って何のことかしら。それに、魔術の使えない貴方が彼女に『シールド』を教えられるわけないでしょう?」

「あっ…えっと、その……」

先ほど一緒だったのが本物のマヤリィではなかったことに気付くクラヴィスだが、うまく説明が出来ずしどろもどろになる。

そこへ、助け舟を出したのはジェイだった。

「マヤリィ様、クラヴィスは桜色の都での会話について話しているものと思われます。『記憶の記録』をご覧になりますか?」

「…そうね。貴方達がヒカル殿とどんな会話をしたのかも気になるし、玉座の間に戻ってから発動してもらうとしましょうか」

どうやらジェイの『変化』が完璧だった為に、クラヴィスは混乱してしまったらしい。

「皆は先に戻っていて頂戴。私がティーメの遺体を火葬するから」

「お待ち下さい、ご主人様。そのお役目、ミノリにお申し付け下さいませ」

アルトに殺されたユキとバイオの遺体を火葬したのはミノリだった。だから、今回もミノリが…と思っていたのだが。

「いいえ、これは私がやるべきことよ。…ミノリ、貴女にはこれ以上つらい役目を負わせたくないの。分かってくれるわね?」

マヤリィにそう言われ、ミノリはその場に跪いた。

「はっ!ご主人様のお優しいお言葉に感謝致します。出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」

「気にしないで頂戴。ユキとバイオの件では、貴女は本当によくやってくれたわ」

「勿体ないお言葉にございます…!ご主人様にそう言って頂けてミノリは幸せです!ああ、ご主人様…!」

久々にミノリワールドが始まりそうだったが、ルーリが迅速にそれを阻止した。

「では、私達はマヤリィ様の邪魔にならないよう玉座の間で待機することにしよう」

「ええ。皆を頼んだわよ、ルーリ」

マヤリィも早く仕事を済ませたいので、万事ルーリに任せることにした。

「はっ。お任せ下さいませ、マヤリィ様」

ルーリは力強くそう言うと、皆を連れて玉座の間に戻った。

そして、第4会議室に残されたのはマヤリィとティーメだけ。…のはずだったのだが。

「わざわざ『透明化』してまで、これから私が何をするか見たいのね?」

マヤリィはため息をつくと、何もない空間に向かって話しかける。

「怒らないから姿を見せなさい、ジェイ」

「すみません、姫…。貴女のことが心配だったんです」

ジェイはマヤリィを見守る為に『透明化』して第4会議室に留まっていたのだ。

「貴女はこれから何をするつもりですか?」

ティーメの遺体を前にして、ジェイが単刀直入に訊ねる。

「ユキやバイオと同じようにするわけではありませんよね?」

「…貴方、何でも分かるようになったわね」

マヤリィは誰にも言うつもりのなかったことをジェイに指摘されたが、素直に頷いた。

「そう。私は今から彼女を火葬する。…けれど、使うのは『大炎上』魔術よ」

ミノリがユキとバイオの為に使ったのは『弔いの炎』と呼ばれる、死んだ者を丁寧に火葬する魔術。しかし『大炎上』はそれとは全く異なる。

「ティーメには灰になってもらうわ」

そう言ってマヤリィが指を鳴らすと、物凄い勢いでティーメの身体が炎に包まれる。

「姫…!なぜこんなことを…!?」

「勘違いしないで頂戴。灰になった彼女を『抹消』しようとまでは思っていないわ。…私は彼女を二人と同列に扱いたくないだけよ」

『弔いの炎』によって骨になったユキとバイオは、それぞれ骨壺に納められている。

しかし、マヤリィは最初からティーメを二人と同じように丁寧に火葬するつもりはなかったらしい。

「姫……」

ジェイはそれ以上何も言わず、火葬が終わるのを待っていた。

「だから、ミノリには命じたくなかったの…」

マヤリィは複雑な思いを抱えている。

ジェイには、燃え盛る炎を見ている姫の横顔がとても哀しそうに見えた。


やがて、彼女の全てが灰に変わると、マヤリィは用意していた箱にその全てを移し入れた。

「…流転の國の仲間を殺した者の身内とはいえ、ティーメは私に絶対の忠誠を誓った。…ささやかだけれど、これが私の彼女に対する感謝の気持ちよ」

死者を弔う為の小さな箱に納められた無数の灰。それを大事そうに抱え、マヤリィは言った。

シロマの苦しみを聞き、自分の判断は間違いだったのではないかと悩んだマヤリィだが、予想外の出来事によってティーメは死んでしまった。クラヴィスによれば、ティーメは都に行く前の予習もさることながら、魔術学校でも真剣に白魔術の勉強をしていたという。それを聞いたシロマが罪悪感に苛まれていたのは最近のことだ。クラヴィスも彼女のことを気にかけていたようだし、マヤリィはシロマの気持ちを案じつつも、ティーメが戻ってきたら皆と同じように部屋を与えるつもりでいた。…それなのに、流転の國に戻ってきた彼女の身体は冷たかった。

「ユキとバイオを失った悲しみは消えない。かと言って、ティーメを蔑ろにしたくない。…皆が納得するかどうかはともかく、私はこの方法を選んだの」

「…姫。貴女は何も間違っていませんよ。少なくとも、僕は貴女の選択を支持したい」

ジェイはマヤリィの言葉の重みを感じながらも、力強くそう言った。


「…ティーメ、よく頑張ったわね。さぁ、皆の所へ行きましょう」

小さな箱に鍵の魔術をかけると、マヤリィはそう呼びかけた。

その時、ジェイがヒカルから預かったマジックアイテムのことを思い出す。

「姫、ティーメが魔術具を身に付けていたようなんですけど、貴女が授けた物ですか?国王陛下に渡されて、今クラヴィスが持っているんですけど」

ティーメを自害させない為にマヤリィが装着した『自傷不可』のマジックアイテム。

「あれは…何の役にも立たなかったわね」

マヤリィは自分の配下となった後のティーメを思い出し、悲しそうな表情を浮かべる。

「後でクラヴィスに返してもらうわ。教えてくれてありがとう」

「はい。…ところで、あれはどんなマジックアイテムなんですか?」

ジェイは気になって訊ねるが、

「それは秘密よ。…ティーメと私だけの秘密」

マヤリィは思わせぶりな口調で、話を終わらせるのだった。

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