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目覚めたら弟子が勇者になってて師匠の私にぐいぐい迫ってくるんですが  作者: ・めぐめぐ・
第一章 物語の始まり編

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6/6

第6話 お師匠様は大笑いした

 ……いや待て私。

 ちょっと落ち着こう。


 『ツマ』という単語を聞いて、咄嗟に『妻』だと思ってパニックになりかけたけど、よくよく考えてみ?


 シオンが私を妻にするメリットが、何一つ思いつかない。


 正直、今の彼なら、容姿も立場的にも、ありとあらゆる女性たちから引っ張りだこ、よりどりみどり選び放題だ。


 なのであえてそこで私を伴侶に選ぶ?


 いや、ないないないない。


 私が絶世の美女とかなら話は別だけど、容姿は普通だし、まあ金色の目の人は見たことないけど、白髪はここマーレ王国の南部に多い色だから特別珍しいわけじゃない。


 体型だって中背中肉だし、お腹は満腹になるとわりとぽっこり出るし!


 じゃあ特技は? って問われると、戦うことしか出来ない。普段の生活はシオンがほとんど世話してくれてたから、彼の方が生活力があるし、何なら女子力も高いしっ!


 ……なんか私、人として終わってる?

 悲しくなってきたんだけど。


 ま、まあとにかく!

 シオンが私を『妻』にしたい理由が見当たらない。


 うん、きっとあれだ。『ツマ』のほうだ。生ものとかに添えてる野菜のことだ。


 なーんだ。シオンってば、私の料理が食べたいの? それならそうと、回りくどい言い方しなくていいのにー。


 やっばー。勘違いして笑われるところだった。あぶねー。


 私は心の汗を拭うと、間違いないという確信をもって聞き返した。


「……ツマ?」

「……添え物じゃないです、お師匠様」


 え、間違ってる?


 他の『つま』なら……『褄』とか『端』とか『爪』とか……


 色々な『つま』が頭の中をぐるぐる回る中、シオンは大きなため息をつくと私の両肩を力強く握った。そして少し怒った表情で、顔を近づけて来た。


「俺と結婚してくれってことです! 夫婦になって、子どもをたくさんつくって、家族になりましょうってことです!!」

「ふ、ふうふ? こ、こども……? ってことは、シオンの言う『ツマ』って……」」

「少なくとも、添え物の野菜のことではないですね!」

「あ、はい……あはは……」


 いや、『妻』じゃんっ‼ 


 妻という単語に気をとられてしまってたけど、最初に『愛してました』とか言ってたし、私の手にシオンの唇が触れて……


 …………

 …………

 …………

 …………


 完全に『妻』じゃんっ!!


 恥ずかしすぎる。

 笑ってごまかそうとしたけれど、シオンが半眼になってこちらを見ているから、笑っている場合じゃなさそう。


 シオンの顔が近い。

 さっきまでなんともなかったのに、今は、全身が心臓になったんじゃないかってくらい激しく心音が鳴り響いている。緊張と焦り、異性に告白されたという羞恥で、頭の中も心の中もいっぱいいっぱいだ。


 相手は、少年時代を知っている弟子だというのに……


 耐えかねて、肩に置かれたシオンの手を振り解いて距離をとろうとしたけれど、私の行動を察したのか、先に強く握られて逃げられなくされてしまう。


 痛くはないけれど、逃がすまいという熱い気持ちだけは嫌と言う程伝わってきて、そいつが非常に重い。


 いやいやいやいや、シオンってそんなキャラじゃなかったじゃん‼ 


 いつも冷静で、他人に対して少し冷めたところもあるような子だったじゃんっ‼


 そこまで考えて、気づいた。


 私、からかわれてるんだって。


 今までの焦りが、まるで水をかけられたようにあっけなく鎮火する。

 代わりにこみ上げてきたのは――笑い。


 くくっと小さな笑いが口から洩れる。すぐにそれは大笑いへと変化すると、時折ヒーヒーと引き笑いをしながら、目の前の弟子の肩をバシバシ叩いた。


「ふふっ……あはははっ‼ もう少しでひっかかるところだったわ! 大人になって意地悪になったねー、シオンは。今まで眠りこけてた私に対する仕返し?」

「……お師匠様、どういう……」


 笑いこける私とは正反対に、シオンの表情が険しくなる。


 ああ、そうだよね。

 いくら師匠だとはいえ、叩くのは駄目だよね。


 彼が不機嫌になったのは、私が大笑いしながら叩いたからだと判断すると、手をとめ、シオンの問いに答えた。


「シオンって勇者になったんでしょ? 勇者になれば、位の高い人物も金持ちも美女もよりどりみどり、選びたい放題なのに、なんでわざわざ私なんか選ぶ必要があるの? そんな冗談には引っかかりませんよーだ」

 

 勇者には『勇者の血をできるだけたくさん後世に残す』という目的の下、一夫多妻が認められている。法的に禁止な国であっても、勇者だけは例外なのだ。ちなみに女性勇者の場合はその逆が認められる。


 というのも勇者候補が産まれる確率って、血統に勇者、もしくは勇者候補がいる場合が多い――つまり遺伝の確率が高いから。


 魔王エレヴァは倒されたけれど、また三百年後ぐらいにまた新たな魔王が現れるだろうから、今からちゃんと勇者の血を残し、未来の勇者候補をしっかり作っておきましょうってことみたい。


 ちなみに、家系に勇者や勇者候補が出ることは、とても名誉なのこと。だから、勇者や優秀な勇者候補がいると、地位の高い人たちがこぞって縁談話を持って来るらしい。


 ははっ、シオンやったね。

 勝ち組じゃーん。


 ……って、あれ?

 なんか黙りこくっちゃった。


 てっきり「はは、ばれちゃいましたかー」みたいな反応を予想してたのに、返ってきたのは、


「……お師匠様。それ、本気で仰っているのですか? 俺が、冗談でこんなことを言ったって……」


 恐ろしいほど低い声。

 背筋に寒気が走った。ただならぬ怒りを、低い声から感じ取ったからだ。


 返答する声も、どもってしまう。

 

「だ、だって普通に考えたら、そうじゃない。容姿も、け、経済力も何一つ優れてない私を妻にしたい理由もメリットも、な、ないでしょ? あ、もしかして、後世の為に優秀な血を残したい、とか? まあ私も両翼としてそこそこ力はあるつもりだし、それなら理解できるかな。てかそのくらいしか、生き残った私の有効活用方法がないだろうし……」

「……メリット? ……優秀な血?」

「し、シオン……?」


 私の発言の一部を反芻すると、シオンは黙って俯いてしまった。


 彼が今、どんな顔をしているのか分からない。

 ただなんとなく、私の発言に対する怒りと、失望のようなものが感じられ、ますます戸惑ってしまう。


 どう声をかけようか迷っていると、シオンが顔を上げた。その表情は、怒りと悲しみで満ちていた。きつく結ばれていた口から、怒気を含んだ叫び声がほとばしる。


「何でいつもあなたは……そうなのですか‼ お師匠様の鈍感さと、ご自身の自己評価の低さには、もう呆れを通り越して怒りすら感じますよ‼」


 驚きで、私の肩が大きく震えた。


 こんなシオン、今まで見たことがない。

 だけど弟子の変貌に対する驚きよりも、理由も分からずに突然怒鳴られた理不尽さに対する怒りの方が勝り、思わず私も言い返してしまう。


「いっ、一体何なの⁉ いきなり怒り出されても、シオンが言ってること分かんないっ! 何で怒っているのか、ちゃんと私に分かるように口で説明してくれない⁉」

「そうですね‼ つまり、こういう事ですよ‼」


 次の瞬間、シオンの顔が普通ならありえない程近くにあった。

 そして、私の唇に落ちた温かく柔らかい、何か。


 そいつは私の唇を塞いでいるため、息が出来ずにどんどん苦しくなっていく。


「んん――っ!」


 言葉を発することが出来ないので、今の状態で出せる声と、シオンの胸を叩くことで、息苦しい事を伝える。酸素が足りず、顔が真っ赤になっているであろう私の様子に気づいたのか、シオンの顔が私から離れて行った。


 ただ、肩を掴む手は、力を緩めることなくがっちりホールドされているんだけど……


 肩で息をしながら、私は酸素を身体に取り込む。


 はぁ、苦しかった……


 …………

 …………

 …………

 …………


 いや待て。

 今の……もしかして……え、また……?


「きっ、きっ、きっ、キス⁉」

「はい、口で説明しろって言われましたから」


 口だけど! 

 確かに、口だけどっ! 


 でも、そういう意味じゃないんだけど――――――――っ‼


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