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目覚めたら弟子が勇者になってて師匠の私にぐいぐい迫ってくるんですが  作者: ・めぐめぐ・
第一章 物語の始まり編

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第5話 お師匠様は信じられなかった

 対象の時間を止める力……?


 理解が追いついていない私の耳に、シオン(仮)の言葉だけが通り過ぎていく。

 彼の言葉は理解できる。だけどそれを受け止められる気持ちの余裕があるのは、また別問題だ。


「俺は覚醒した力であなたの時間を止め、あなたから頂いた転移珠を使って逃げ出しました。その時の俺には、死の魔法を使って弱体化したとはいえ、魔王を倒す力はありませんでしたから……」


 確かに、死の魔法を使ったあとの魔王は、同一魔王か? と思えるほど、弱体化してた。もしあれほどの弱さだったら、私が命を投げ出さなくて勝てたレベルだったと思う。


 とはいえ、通常の勇者候補が簡単に倒せるレベルではなかったことには変わりない存在を、普通の人間であるシオンがどうにか出来たとは考えられない。


 今だって、魔王と勇者候補たちとの苛烈な戦いは続いているはず!


「俺の力で、あなたにかけられた死の魔法の進行を止めることはできましたが、一時凌ぎでしかないことは、俺にだって分かっていました。あなたを本当の意味で救うには、魔王を倒すしかない。そのために俺は十年かけて修行をし、ようやく魔王を倒したのです」


 シオン(仮)が口を閉ざした。話はおしまいってことなんだろう。


 一応、話の筋は通ってる。

 通ってるけど……時間を止める能力って、そんなお話の中だけにしか存在しなさそうな力に目覚めたとか、都合良すぎん?


 でもまあ本当に十年時間が経ったかどうかは、外に出れば分かることだし……現に、私だって生きてるわけだし……私が生きてるってことは、魔王は倒されているわけで……


 …………

 …………

 …………

 …………


 へっ?


「あ、あの……確認したいんだけど、魔王……倒したの?」

「はい、先日倒しました」

「……だ、誰が倒したの?」

「俺ですが」

「え、えと……じ、じゃあもう魔王はいないの?」

「俺が倒しましたからね。もういませんよ」


 ………………えっ? 

 えええええええ――――――――――――っ⁉


 魔王エレヴァが倒された!?

 あの、歴代魔王の中で、最も強いとされたエレヴァが、私以外の人間によって倒された!?


 『今だって、魔王と勇者候補たちとの苛烈な戦いは続いているはず!(キリッ』、と心の中でドヤった私、超恥ずかしいんだけどっ‼


 私は咄嗟にシオン(仮)の右手をとると、そこに浮かび上がった丸いレース状の痣を、穴が開くかと思われるほど見つめた。


 し、信じられない……

 この痣は、魔王を倒した勇者候補にだけ浮かび上がるもの。


 甲全体に丸い円が描かれ、中央に描かれた黒丸から放射線状にレースのような複雑な模様が浮き出ている。黒丸から伸びて広がる模様が、まるで発芽した種のように見えるので【種の痣】と呼ばれている。

 

 人の手によって施術可能な限界を超えたそれは、魔王を倒した勇者に与えられる証なのだ。


 これがあるということは、目の前の男性は間違いなく、魔王エレヴァを倒した【勇者】。


 今までの戯れ言が、全て本当だと言うのなら、


「……あなたが本当にシオンだというのなら……私たちが初めて出会った場所について言えるはずよね」


 そう訊ねる私の声は、僅かに震えていたと思う。まるでこれから口にすることが懐かしいと言わんばかりに、彼は微笑んだ。


 少し陰のある顔に、少年シオンの面影がまた被る。


「……アラムサラムの奴隷小屋です。成長しすぎて奴隷の価値が下がったとして、処分という形でモンスターと戦わされそうになっていた俺は、金色の太陽を抱く白金翼の女神に救われたことで、死んだように生き続けなければならない絶望に一筋の光を見いだし……」

「もういいっ! 分かったから、それ以上言わないでっ!!」


 皆まで言うな!

 金色の太陽を抱く白金翼の女神ってなんなの!? 嫌み? 冗談?

 

 白金翼って言ってるから私のことなんだろうけど、小っ恥ずかしすぎるからほんと止めて――!


 なのにシオン(仮)は頭を下げ、


「申し訳ございません。あなたが戦う美しさを、言い古された陳腐な言葉でしか言い表せなくて……」


 なんて呟きながら心底シュンってしてるけど、そこじゃないから!


 とにかく、私とシオンがどこで出会ったのか、それを知っているのは当事者である私たちだけ。さらに私を『白金翼』と言った。


 それを知っている目の前の男性は――


 掴んでいた彼の右手を解放すると、彼の前の床に座り、視線を同じにした。青い視線が混じり合う。


「あなた……本当に、シオン……なのね?」

「……はい」


 静かでありながらも芯の通った真っ直ぐな声が、私の鼓膜を揺らす。


 初めて見たときは初対面だと思った。

 だけど全てを知り、彼から弟子の面影を見た今は……


「大きく……なったね、シオン」

「……信じて、頂けるのですか?」

「ここまでシオンである証拠が揃っていたらね……」


 信じられない気持ちはまだある。

 だけど……


「あなたが無事で、本当に良かった……」


 気づけば、言葉が唇から零れていた。


 心の隅につっかえていた何かが、スッと溶けていく。

 魔王の前に残してしまった弟子の無事な姿を見て、心底安心してるんだ、私。


 だけど同時に、心の中を占めていた何かが無くなり、大きな空白が出来て戸惑っていたのも事実。


 これは……魔王を倒すという、文字通り私の命と人生をかけた目標が失われた喪失感だ。


 魔王が倒され、世界が平和になったことは非常に喜ばしい。


 だけど、魔王を倒すために幼い時から厳しい修行をし続け、たくさん戦ってきた、


 あの時間は、

 苦労は、


 一体何だったんだろう。


 魔王エレヴァが倒された今、私の存在意義は?

 私から魔王との戦いをとったら、一体何が残る?


 私は――


 だけど、すぐさま軽く頭を振って思い浮かんだ暗い気持ちを振り落とすと、正座したままのシオンに意識を戻した。


 そういえば私、なんか大切なことを忘れてる気がする。

 どうしてシオンに、ベッドの横で正座させてたんだっけ?


 確か目覚めたら、目の前の男性に押し倒されてて、キスまでされて……それで怒って正座をさせて……


 …………

 …………

 …………

 …………


 あれ?

 でも目の前の男性って大人になったシオン……だよね?


 つまりシオンが私を押し倒し、キス……した?


 でもこの子は私の弟子で……


 …………

 …………

 …………

 …………


 いや、ちょっと待って。


 えっ?


「お師匠様」

「はいっ!?」


 呼ばれて顔を上げると、すぐそばにシオンのどアップがあった。


 近いすぎる! 

 まだその大人の姿に慣れてないっ‼ 


 若干彼から距離をとったけれど、すぐに間合いを詰められしまった。さらにシオンの顔が近づく。


「お師匠様、覚えていらっしゃいますか? 十年前に交わしたあの約束を……」

「や、やく、そく?」

「はい。十年前、俺が魔王を倒したら、何でも言うことを聞いてくださると、お約束してくださいましたよね?」


 そんなこと、言ったかなー……


 私の記憶は少し前の過去へと遡った。

 そう、あれはまだシオンが少年だった頃、彼との何気ない会話がきっかけだった。


『お師匠様は魔王を倒した後、何がしたいのですか?』

『魔王を倒した後? 私死んでる予定だから、何も考えてないなあ』

『えっ? しっ、死んでる⁉』

『だって魔王エレヴァって超強いから、私、エレヴァと刺し違えて死ぬつもりだし。私の命で、これから先三百年、平和になるなら安いもんでしょ」


 魔王と刺し違えて私も死ぬ。


 これは私が魔王エレヴァの強大さを知ってから、ずっと考えていたことだ。


 でもシオンは、何故か顔を真っ赤にしながら怒って、


『俺が魔王を倒します‼』


 なんて、滅茶苦茶可愛いことを言ったんだよね。だから私も思わず、


『あはははっ、分かった分かった‼ もしシオンが魔王を倒せたら、私何でも言うことを聞いてあげる』


 て笑って、それを聞いたシオンがますます顔を赤くしながら、


『絶対ですよ⁉ 約束ですよ、お師匠様っ‼ もし俺が魔王を倒したら、何でも言うこと聞いて貰いますからね‼』


 と、必死になりながら、何度も念押ししてたっけ。


 …………

 …………

 …………

 …………


 してたわー、約束……


 思わず額に手を当てる。

 それを肯定と捉えたのか、シオンの目が怪しく光った……ように見えた。


 彼の身体がさらに近づく。


「ということで、お目覚めになられて早々、申し訳ございませんが、早速約束を果たしていただきたいのです」

「は、早すぎない? 今って言われても、何の準備も……」

「特別な準備は必要ありません。今ここで、果たして頂ける願いですから」

「え? でもここで叶えてあげられることなんて、たかが知れてると思うけど……いいの?」

「はい」


 シオンは力強く頷いた。


 本当にいいのかな? てか逆に今の状況で何をして欲しいのか気になる。


 一抹の不安を感じつつも、私は彼の申し出を了承した。


 私は彼の師匠だもん。師匠が約束破っちゃ弟子に示しが付かない。


「分かったわ。シオンも頑張ってくれたし、約束はきちんと果たすわ。で、私は何をすればいいの?」


 訊ねた瞬間、シオンが私の手をとり、ゆっくりと持ち上げたかと思うと、自身の唇に押し当て――って……


 押し当て!?


 温かいものが手の甲に触れ、軽いリップ音が響かせて離れていく。


 離れた唇の代わりに、シオンの大きな両手が、私の手を包み込んだ。


 切れ長の青い瞳をトロンと蕩かせながら、私を見る。


「あなたのことを、ずっと愛していました。だから……俺の妻になって下さい、お師匠様」


 …………

 …………

 …………

 …………


 なっ、なっ、なっ、なっ、なっ、なっ、なんだって――――⁉


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