表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第4章 真実の座標

奈央は机の上に置かれた座標の書かれた紙をじっと見つめていた。冷たい冬の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中を淡く照らしている。気味が悪い座標が示す場所――郊外の森。そこへ行くべきかどうか、彼女の心は激しく揺れていた。


「こんなこと、普通じゃない…」

奈央は自分にそう言い聞かせたが、それでも紙から目を離せない。ここ数日、SNSを閉じたにも関わらず「影のフォロワー」からの接触が止まらない。恐怖はますます募るばかりだった。


だが、その一方で、すべての謎を解き明かしたいという気持ちも捨てきれなかった。この「影のフォロワー」とは一体何者なのか。なぜ自分を執拗に追い続けるのか。そして、この座標が何を意味しているのか。


「ここに行けば、全部わかるのかもしれない。」

奈央は小さく呟いた。


その言葉は、恐怖に押しつぶされそうな自分を奮い立たせるためのものだった。答えを求めて動かなければ、この状況から逃れることはできない――そんな気がしていた。


奈央は意を決して、座標が指し示す場所を地図アプリで再確認した。郊外の森の中、何もない空白地帯にピンが立っている。車を使えば1時間もかからない距離だが、それが返って彼女の心を重くした。


「こんな近くに…」


奈央は震える手でスマホを握りしめながら、カバンに最低限の荷物を詰め込んだ。何が起きてもいいように防犯ブザーと小型の懐中電灯も入れる。


部屋を出る直前、ふとスマホを見つめた。誰かに助けを求めたい気持ちが頭をよぎったが、結局誰にも連絡を取らないまま玄関のドアを閉めた。


「これで終わらせる。」

自分自身にそう言い聞かせながら、奈央は一歩ずつ階段を降り、駅へと向かった。


***


外は薄曇りの空で、どこか陰鬱な雰囲気だった。電車を乗り継ぎ、さらにタクシーを使って座標の場所に向かう途中、奈央の胸には恐怖と好奇心が混ざり合った複雑な感情が渦巻いていた。


目的地に近づくにつれ、街の喧騒は次第に消え、視界には静かな田舎の風景が広がった。そして、ついにタクシーが森の入口に到着した。


「ここでいいんですか?」

運転手の問いかけに奈央は小さく頷いた。視線の先には、鬱蒼と茂る木々が立ち並び、まるで別世界への入口のように見える。


タクシーを降りた奈央は深呼吸をし、紙に書かれた座標を手がかりに森の中へと足を踏み入れた。冷たい空気が彼女の肌を刺すように感じたが、その先に何が待っているのかを知るため、引き返すわけにはいかなかった。


奈央は森の中を進むにつれて、足元に広がる落ち葉が湿った音を立てるのを聞いていた。座標が示す場所はこの先だ。スマホの地図アプリがあと100メートル先を指している。


「なんで、こんな場所なんだろう…」

奈央は呟きながら進む。そのとき、不意に懐かしい匂いが鼻をかすめた。湿った土の匂いに混じる、どこか甘い香り。胸の奥に埋もれていた記憶が微かに呼び起こされる。


「この匂い…どこかで嗅いだことがある気がする。」


少し進むと、視界に小さな廃屋が現れた。朽ち果てた木造の建物で、長い年月放置されていたのが一目で分かる。苔が生え、壁の板はところどころ剥がれ落ちている。それでも、その形には見覚えがあった。


「まさか…」


奈央の心臓が早鐘を打ち始めた。この場所は、彼女が幼少期に住んでいた街の近くだった。あの頃の記憶はぼんやりとしているが、何度か家族と一緒に遊びに来た場所だ。森の中でかくれんぼをしたり、夏休みに虫を捕ったりした記憶が蘇る。


廃屋の中を覗くと、埃まみれの床が薄暗い光の下に広がっていた。奈央は躊躇いながらも中に足を踏み入れた。木の床がぎしぎしと音を立てるたびに、心の中の不安が膨れ上がる。


部屋の奥には、古い木箱が置かれていた。奈央は膝をつき、恐る恐るそれを開けた。中には、色あせた写真や手紙の束が入っていた。


「これ…私の…?」


写真を手に取ると、そこには幼い奈央と、知らない男の子が一緒に写っていた。二人は森の中で遊んでいる様子で、無邪気な笑顔を浮かべている。男の子の顔には見覚えがないが、どこか懐かしさを感じた。


次に手紙の束を開くと、雑な字で何かが書かれていた。「奈央ちゃんへ」と書かれた封筒が目に飛び込んできた。震える手でそれを開くと、中には短いメッセージが書かれていた。


「奈央ちゃん、また一緒に遊ぼうね。約束だよ。」


その文字を見た瞬間、奈央の胸に強烈な既視感が襲った。この男の子は、一体誰なのか。そして、なぜこの手紙がこんな場所にあるのか。


奈央は写真と手紙を手に持ったまま、呆然と座り込んだ。この座標の場所が自分の過去に結びついていることを知り、彼女はますます深い謎の中に飲み込まれていった。


奈央は廃屋の中で、埃まみれの写真を一枚一枚確認していた。そこには、幼い自分ともう一人の子どもが写っていた。小さな森の中で遊ぶ二人の姿。奈央は自分の記憶を必死にたぐり寄せたが、その男の子については思い出せなかった。


「誰…この子?」


写真の裏には、鉛筆で簡単なメモが書かれていた。薄れて読みにくくなっていたが、「○○くんと奈央 森で遊んだ日」とある。奈央の名前は読み取れるものの、その男の子の名前は、かろうじて「影」という文字が見えたような気がした。


「影…?」

その瞬間、奈央の背筋に冷たいものが走った。


記憶をたどるうちに、子どもの頃、近所に住んでいた幼馴染がいたことをぼんやりと思い出した。彼とはよく遊び、特にこの森では二人きりで秘密の遊びを楽しんだ記憶がある。けれど、その名前が思い出せない。


「まさか…」


奈央は再び写真を手に取り、男の子の顔を見つめた。どこか影のようにぼやけたその姿が、「影のフォロワー」という名前と重なっていく。


さらに手紙を確認していると、一通だけ宛名が書かれていないものがあった。開けると中には短いメッセージが書かれていた。


「奈央ちゃん、僕のこと忘れないでね。ずっと友達だから。」


その筆跡は幼い子どものもので、まるでタイムカプセルのように時間を越えて奈央の手元に届いたかのようだった。だが、名前はどこにも書かれていない。ただ、「友達」という言葉が妙に胸に刺さる。


「影のフォロワー」は、この幼馴染と関係があるのだろうか?


奈央の頭の中には疑念と恐怖が渦巻いていた。もし彼が「影のフォロワー」として自分に接触しているのだとしたら、どうしてそんなことをするのか。彼女の記憶に埋もれた幼馴染の影が、今になって現実に忍び寄っているのだとすれば――それは一体、何のためなのだろう?


写真と手紙を握りしめたまま、奈央は深い森の中に立ち尽くしていた。過去と現在が交錯し、彼女の中で形のない恐怖が膨れ上がっていくのを感じた。


奈央は写真と手紙を手に、朽ち果てた廃屋の中で呆然と座り込んでいた。幼少期の記憶が断片的に蘇り、心の奥深くに眠っていた感情が波のように押し寄せてくる。


写真に写る幼馴染の姿。その名前がぼんやりと「影」という文字と重なる。そして、「影のフォロワー」という不気味なアカウントの存在。すべてが繋がっている気がした。


「影のフォロワー…あの幼馴染が…?」


奈央は声に出してみたが、その言葉の響きに自分自身が驚いていた。彼が本当に「影のフォロワー」なのだろうか。なぜ、自分に接触してきたのか。そして、どうして今になって現れる必要があったのか。


「忘れないでね。ずっと友達だから。」


手紙の一文が頭の中で何度も反響する。奈央の記憶の中にいるその幼馴染の顔はぼんやりとしか浮かばないが、彼が孤独だったことだけはかすかに思い出せる。遊ぶ相手はいつも奈央だけで、彼の家庭環境についても詳しく知らなかった。ただ、どこか影のように静かで、儚い存在だった。


奈央はふと立ち上がった。過去を思い出せば、彼の正体に近づけるかもしれない。家に帰り、古いアルバムや書類を探せば、幼少期の記録が残っているかもしれない。彼の名前、家族、住所――何か手がかりを見つけられる可能性がある。


「今のままじゃ終われない。」


奈央は決意を固めた。SNSの世界で追い詰められ、現実にも侵食してきた「影のフォロワー」の存在を解明しなければ、これ以上の日常は取り戻せない気がした。


過去と向き合うことに、恐怖だけでなく不思議な安堵も感じていた。彼がなぜ自分に執着しているのか、その答えを見つけることで、すべてが終わるのではないかと考えた。


「まずは彼を探さなきゃ。」


廃屋を後にし、森を抜ける道を歩きながら、奈央は次の行動を考えていた。家族に過去のことを聞くのも一つの方法だ。あるいは、住んでいた街の古い記録を調べるか――。


頭の中で計画を巡らせながら、奈央は自分がこれから進むべき道をしっかりと見据えていた。彼を探し出し、直接会うことで、この奇妙な出来事の真相にたどり着くと信じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ