月明りの下で、彼と彼女は見つめ合う
僕らの未来を決める会議の後、僕はフィーナとシルエットの部屋を訪ねた。
扉をノックすると、「はーい」とオリエラが出てくる。
「ハヤト! ……フィーナ、ハヤトだよ――!」
そう言って彼女は、中に入って行った。
そしてフィーナは、頭の毛を撫でつけたり、テーラーカラーのパジャマの裾を引っ張ったりして出て来た。
「ハヤト、どうしましたか?」
「いや、ちょっと会いたくなっちゃて……」
僕はアハハって笑った。そんな清潔のある笑い方に見える感じであって欲しい……。
「じゃあ、外へ行きますか?」彼女は、ちょっと慌てた感じで、外に出てくる。
僕は彼女の肩に手を置き、「そんな可愛い格好で外へ出ちゃダメだよ。僕の部屋……」
と、部屋の中を見ると、「ダメよ」と、いつもより少しエッチな感じのネグリジェ、いやエッチさはいつも通り? な感じのシルエットが、ベッドに寝っ転がりながらそう言った。
「ほら、あそで話せばいいのよ」
そう言って彼女が指差した場所は、バルコニーだった。
「そうですね。あそこなら、外の人には見えないですよね」
そう、彼女は言い、僕はシルエットとオリエラの注目を浴びながら、彼女に手を引かれて、彼女たちの寝室を通る。
――ここで、僕が彼女の手を引いて歩くのも、違うし、引かれて歩くのも目指すべき姿とは違うんだよな……。
「あっちょっといい?」
もう、目指すべき姿とはかけ離れてしまったのだから、僕はカーテンを可能な限り閉めてバルコニーに抜け出た。
フィーナとバルコニーへ出ると、今出て来た窓側に向かい手をあげ、その手を横にすべらせる。
僕の手のひらから水が流れ出て、防音のための水の膜を作る。
そしてその上をチョン、チョンの触ると小さな魚が、色鮮やかに踊りだす。
「わぁ――」彼女は、声をあげて喜んでくれたが、金色の瞳が少し哀しみをおびているような……。
「あの時みたいですね……。きれいな魚がいて私たちの前を泳いでいる」
「あの!……あの時、事は今でわからない……」
あの日の僕らは、水族館にいてそしてアポストロフィによってこの地に運ばれてた。その意味は今もわかっていない。
もしかしてその意味を知るためには、人間の寿命では短すぎるのかもしれない。
そして僕は後ろを見ている、彼女をゆっくり振り向かせる。
月明かりの下で、彼女が泣いているのがわかり……。僕はそっと……彼女の手を包みこむ。
「それでも……会いに来たよ。この世界に」
「はい」
「そしてここでの君の居場所。いや、僕らの居場所を作ったよ……だから。君の事を抱きしめていい?」
彼女はゆっくり僕の腰に手をまわし、僕の胸に顔を埋める。僕もゆっくり彼女細い腰に、手を回す。
「ハヤト、そうやって聞くなら、私が先に抱きしめちゃいますよ」
フィーナは可愛い顔を僕に向けて、イタズラな子猫のようで、彼女のもふもふな狐の耳にキスをした。
スルッ――。
……彼女いきなり、僕の腕から逃げて、目の前の床で狐の耳を隠ししゃがんでいる。
「フィーナ?」
僕も彼女の横にしゃがむ。
「耳は、ダメです。びっくりしちゃいます」
「ごめんね」
――そうか、狐の耳は、敏感なんだ……。うんうん。そうか……。
しかし彼女は、いきなり僕の前にシューッと立った。
「フィーナ?」
彼女はちょっとこっちをみるが、「待ってください。まだ、……ダメなんです」
彼女は、ちらっとこちらを見るけれど、まだ恥ずかしいようだ。
――そんなに敏感なんだ……。
そんな僕らを月の光が照らし出す。
僕は、一歩一歩、歩き彼女を追い越して、手すりを掴む。
ここからなら、屋根に邪魔され部分の星も見上げれば、見る事が出来た。
「さっきはああ言ったけど、異世界に来ても……君が来てくれなかったら会えなかった。ありがとう。僕の恋人はやっぱり凄い、魔王の部下で、凄く可愛いし……」
彼女の後ろからやって来て僕の横に並び、手すりを掴む。
「よしのさんやシルエットの励ましのおかげなんです。私は一人では、ここへ来る事なんて、考えも及びませんでした。そして凄く、可愛い言い過ぎです。私の前でしか言っちゃダメですよ」 そう言ってふふふと笑う。
僕もつられて笑うけど、今なら抱きしめもいいのだろか?と、考えている。
「ところで、私に話ってなんですか?」
彼女は、僕を見上げて言う。僕は急にいいにくい話しをしなくてはならなくなり、少し焦る。
彼女は、後ろで手を組み、少し腰を曲げつつ、こちらを向いた。そんな可愛いポーズはどこで覚えるのだろう? 僕は凄く何かに感謝したい気持になる。……しかし僕が、これからする話は真逆の話かもしれない。
「僕と契約してくれたウンディーネの事なんだけど……」
「とても、楽しい方ですよね。いつも一緒と聞くと、嫉妬しちゃいますが。それにしても本で読んだ知識ですが、彼女たちの御一人と会う事が出来るなんて思っても見ませんでした」
「そう、ウンディーネが地上で生活する事は珍しい、……その珍しい、地上にあられた彼女たちは、僕が知る限りは必然か、偶然か人間と恋に落ちてしまう」
「彼女もそうなんですか?」
「それはわからない。しかし当初はそうだった。彼女は僕には過去の事というように話したけど、僕らの距離は今も、そして未来も近過ぎる」
ここでフィーナは、何も発言せず僕の答えを待ってくれる。その気持ちに答えられる返答が、出来ればいいのだが……。
「僕は、ウンディーネを無下には出来ない……。でも、僕には好きな子が居て、彼女と幸せになる為にここにいる」
「それ知っています。ハヤトは彼女についてどう思うのか、どうしたいのか? それをまず教えてください」
「僕には力が必要で、その為にはウンディーネ、彼女の力が必要不可欠だ。それはここで、そして魔界へ向かう為には絶対の要素だと思う。そしてこちら側から求めた契約をたがえる事はしたくない。それは絶対。僕を主様って呼ぶ彼女に、僕が出来る唯一の紳士的な行いなんだと思う。それで卑怯な事を君に言う様だけれども、君にとっての浮気のラインがまず知りたい」
「ハヤトと彼女の契約については、私もわかります。私も魔界で力が無いばかりに、消えしまった幸せについて知っていますから……。浮気のラインですか……そうですね……」
彼女は、僕の上着を軽く引っ張り、僕は彼女に合わせるように動く……彼女は静かに僕の唇に、軽いキスをする。
それなのに僕らのつながりが離れると……彼女は体ごと向こうに向いてしまう。
僕はその衝撃に、体が動かなってしまった。
「これが、私の中で恋人と浮気のラインです……わかりましたか?」
「わかりました……」
彼女から伸ばされた手が、僕の指先にふれまる。僕は彼女の手を軽く握ると、ゆっくり彼女を振り向かせてさっきより少し長めのキスをする。
そのまま僕達は見つめ合い。僕は彼女の額に僕の額を合わせて僕は目を瞑る。
「逢いに来ました、フィーナ」
「うん……」
さっきからうるさいほど響いていた、僕の心臓が少しずつ、いつもの落ち着きを取り戻して来ていた。
額を離すと、彼女の瞳が僕を見ていて……彼女は、ゆっくりと優しく笑った。僕も同じ様に笑えているだろうか? 彼女に好きでいて貰える位には……。
「そろそろ中に入ろうか?」
「そうですね」
彼女は下を向くいて、少し上げた自分の靴のつま先を見ている。
「でも……」
――でも?
「浮気は、だめですよ絶対」
「うん、わかった」
「もう、なんで笑ってるんですか! 凄く真剣なに」
「いや、僕の恋人は、ちょっとクールな人なのかな? って思ったけどやっぱり可愛い人だったから」
「なんですかそれ!?」
そうして、僕が水の膜に手を伸ばした時、水の向こうにガッツリ窓に手をつけた誰かがが居た。
その横に、気になるそぶりのオリエラとシルエットも居たが……。僕は、水を気にせず扉を引くと、その人物、ミッシェルがこちらに向かって転がり出た。
「何やっているのミッシェル……」
「勇者パーティー資金繰りについて、ハヤトさんに聞こうと思ったら、ルイスさんがこっちだろって言うから……」
「うん……そっかわかった。で、なんでそんなところで?」
「フィーナさんに失礼な事をすれば、人間界と魔界の戦争にもなりかねない事態になるので、一応ハヤトさんの振る舞いについて、確認しておいてくださいってルイスさんが……」
「そんな事、魔王が!?……魔王がやる?」
続く
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また、どこかで!




