僕を助けるものと僕が助けるもの
いつも厳かな王座の間だが、兵士により扉は、開かれ固定される。それとともに、どんどん人が行き交う様になった。
「あのすみません、今、よろしいでしょうか?」
巫女が、僕にそう尋ねた。黒い髪を1つにまとめた。服装も髪の乱れも1つもなく、目ぢからのある女性だ。
僕は慌てて立ち上がろうとするが、僕の生還を手助けとなる御守りなどがそれを妨げる。
「はい、ハヤトと言います。日いずる国の姫巫女様、本日は来ていただいてありがとうございます」
「いえ、私は、姫様のお付の未菜と申します。あやさと姫様は、あちらに」
彼女の手を伸ばした先を見ると、そちらには巫女姿で、白地のを基調に色あざかな刺繍などが入ったかぐや姫の様な女性が居た。
耳の横の髪は、三つ編みに編まれ、そこには幾つかの赤や青など色鮮やかな石の様なものも編み込まれている。
彼女は、僕と未菜さんを見つけると、ずかずかと言う感じでこちらへ歩いてやって来る。
「お前が今宵の贄に選ばれた男か、お前から面妖な妖気を感じる。う――んお前、今回の呪いを飲み込むなよ」
「飲み込む?」
だが、彼女は僕の問いには答えずに、巫女の衣裳の袖で、顔を隠し僕を上から下まで見下ろす。
僕を大変警戒している様だった。まぁそれはわかる。
魔よけのペンダントやら、御神木やらつけられている僕自身も動く度に驚くから……。でも、やはりそんな事は理由では無いだろう。
契約しているウンディーネに対し、警戒しているのだろうか? それともぬいぬいの言う、僕を守護する存在にか?
う……ん。しかし彼女もうちのパーティー候補なんだが、この警戒ぶりから考えて、彼女は僕たちと同行してくれないかもしれない。
しかし逆に、僕を警戒してくれる彼女なら、若い男女の旅にありがちな、恋や愛について悩む事はなさそうで同行をお願いしたいのだが、ダメだろうか?
「あっ、すみません。挨拶が遅れました。草彅ハヤトと言います。本日は宜しくお願いします」
あやさと姫は、完全に僕を警戒しているようで、まだ、名前も正式には名のられておらず、座る席まで未菜さんを挟んで座るようだ。
だが、ここは僕の寝る場所なはず?
そうすると、ウンディーネが、さくらの花1つ分ほどの大きさのケーキをたくさん持ってやって来た。
「主様、これ見てケーキ、見てたらコック長がたくさんくれたの」
彼女は、手に持つ皿を差し出して僕に見せる。
――ウンディーネ……それはたぶん、ケーキを渡して追い払われたんだと思うなぁ……。
「良かったね。ウンディーネ」
「主様、何、食べる? これなんて美味しいと思うよ」
「じゃあ、いただこうかな」僕はケーキを1つ手に取って食べた。
「美味しい?」
「凄く美味しいね」
「あっ」
あやさと姫の声。ウンディーネが退治されてはとってもまずい。僕はウンディーネを隠す様にして2人の方を見た。
未菜さんは僕を、目を見開いて見ていた。あやさと姫は僕と目が合うと、ふん! と、ばかり目をそらす。
未菜さんは、ウンディーネを連れた僕に驚いているようだが、姫様はそうでは無いようだった。
「ウンディーネ、今日お世話になる、日いずる国のあやさと姫様と未菜さんだよ。彼女達にもケーキをあげて貰えないかな?」
「主様がお世話になります。主様の2の子分ウンディーネです。良かったらこれどうぞ」
ウンディーネの気持ちが、手に取る様にわかる。これは出来る子分アピール。
「ありがとうございます。どれをいただいていいのでしょうか?」
さすが、一国の姫に使える未菜様! 気遣いが違う。
「これとこれなんて、美味しいですよ」
ウンディーネは、チョコとチーズケーキを指さす。彼女の好きなケーキは、フルーツがふんだんに使われたケーキだから、それ以外を指してしているのだろう。
「いただきます」未菜さんは、チョコケーキを。
「では、わらわは、これをいただくとしょう」
そう言ってあやさと姫は、フルーツケーキを、手に取って食べた。
「ウンディーネのケーキが……」
ウンディーネは凄く悲しそうな声でそう言った。
「姫様、勝手にとってはなりません」
「すまぬ、ウンディーネ。わらわはあやさと言う。そちのせっかくの気遣いだったのに、とてもすまぬ事をした。だが、とっても美味しかったぞ。そうだ! そちが今度わらわの国へ来た際は、これ以上の菓子をそちに山ほど食べさせてやろう」
「本当に?」
「わらわは嘘をつく必要がなかろう。姫なのだから」
「だって、主様、楽しみねぇ」
彼女は、にこにこして左右交互に足を出して嬉しいそうにしている。
「ウンディーネに、良くしてくれてありがとうございます」
僕がそう言うと、彼女は前をツーンと見ながら、「わらわの名前はあやさとじゃ、初めて会ったのだからお前の名前聞いてやろう」
「えっと、僕の名前は草彅ハヤトです。で、こっちがウンディーネです」
「あいわかった。草彅、お前はここで死ぬなよ。わらわは苦しいのや悲しいの嫌なのだ。だから絶対だ。わかったな?」
「はい。わかりました」
僕がそう言うと、彼女は目を伏せ立ち上がる。
「よし! 未菜! 時間まで板前の所へ行きケーキを馳走なるぞ!」そう言って彼女は、王座の間から出て行き、未菜さんは「姫様、そんな時間はございません!」と、言ってあやさと姫様を追って行った。
☆
僕は、ウンディーネと2人、まわりの人々を見守っていた。深刻な顔をして大人たちが話し込んでいる。
人々はあまり僕を見ない……。可哀想に……そう彼らの顔に書いてあるのを悟られたく無いためだろう。
そして入り口付近が、急に慌ただしくなる。
「ウンディーネ、そろそろ時間だ」
「ううん、まだ少しだけ」彼女は子供みたいに首を振る。
「後で、いや、明日かな? 幾らでも一緒に話す事が、出来から」
「うんうん、明日ね。でも……目が覚めた時、ウンディーネがいる様にするから今日かも? だから……」
「ウンディーネ行きましょう」いつから居たのか、ルイスがこの部屋に居たようだ。
「ルイス、ウンディーネをお願い」
「こんな水の大精霊はお願いされません! 御自分で、面倒みてください」
そう言ってルイスは、ウンディーネを連れて行った。彼女に泣かれるとさすがにこたえるから、ルイスはいい仕事するなぁ……。
そして入り口から姿を見せたのは父と同じくらいの男性だった。 僕は慌てて立ち上がる。
長いハチミツ色髪。そしてオリエラと同じ緑の瞳の男性がアニス王であり、そして彼に支えるように歩く金髪で黄色に近いブラウンの瞳の女性がレミナ王妃なのだろう。
もうだいぶ体調も良くないだろうに、最後かもしれない王座への道は自分の足で歩いて来る。
それがこの国の王。
そして2人の後に続くオリエラ、彼女は魔法学校の制服を着ている。
皮肉なもので、腹違いの兄で、ホイルトツェリオ城の第一継承者のあるオリエラの兄は、呪いが彼にも継承される事を恐れた、王妃や家臣の願いによって他国へ留学していて、今回も帰る事はゆるされなかった。
王様は、多くの人々に声をかけ、そして僕の前の人垣が開いた。僕は慌ててお辞儀をする。
王は、僕の横のベッドに案内され、彼は自分の体をベッドに右手をつき支えながら自立している。
「新しくこちらへ転移して来た勇者ハヤトは、君だね。すまいない、君は世界を救うものなのに私のような者に命を掛けさせてしまって……」
アニス王は一目見て体が衰弱し、あとわずかな命であるだろう事が僕にも見てわかる。
それでも王としての誇りと威光、そして名誉を手放さない。死をもってしか屈服させられない程の心の強さ。
そんな王をここまで痛めつけた呪いに打ち勝つ事は出来るのだろうか。しかし死ななければ今回は勝利、それを信じてやるしかないのだ。
続く
見ていただきありがとうございます!
また、どこかで!




