表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/249

魔王と彼女が作るおにぎり

 午前5時30分、昨日の騒動から一夜が明けた。


 この季節には、こんなに早い時間にはもう日の出を迎えている事を、僕は今まで知らなかった。昨日からカーテンを開けたままの窓から、朝日が差し込み、彼女の帽子を入れた箱のふたが開き、そこを朝日が照らし出す。


 今日は今までに無く、自然と目が覚めた僕は、一番にその箱の中の変わらぬ帽子を確認した。そしてそのまま椅子に力尽きた様に腰掛け、同じく夢を覚まさせるだろう朝日を、僕は浴びている。


 しかし今でも、そこはかとなく香る白百合の花の香りはすれど、その花自体はやはりどこにも見る事が出来なかった。


「酷い顔だの」


 彼は、僕を後ろから覗き込む様にそう言った。


 一目ぼれした異世界に住む、彼女の義理の父親。異世界の魔王……名前は……フィーナのお義父(とう)さん。


「フィーナさんのお義父さん……。そうだ、百合の花が無くなってしまったのです! 探したのですがどこにも……」


 僕は、思わず立ち上がりそう言った。しかしお義父さんの瞳すべてが、僕を睨みつける……その中に僕を憐れむ気持ちがふっと現れた気がした。僕は真っ向からその目を見ていた。僕の覚悟を知らしめる為に。


「魔王と呼べ、フィーナもそうは、呼んでおらんのに、何故一番にお前を子供にせねばならんのだ」


 魔王は、とてもいやそうに、手の甲を見せ振る。


「それから……白百合の花は、消えたのではなく、お前の中に吸収されたのだ。お前の力となるために。詳しくはフィーナ聞けば教えてくれるだろう」


 そう言い終わると和風の袋からどさどさどさと、おにぎりを幾つも出す。


「これは?」


「フィーナだ。あの娘も心ここにあらずって感じで、どんどん米を炊く。だから一緒に握り飯を先ほど、作って持って来たところだ。で、こっちが水筒だ。どれも人間界で買ったもので出来ているので安心して食べなさい」


 おにぎりはラップにどれもくるんであり、大きいのや、小さいのがある。水筒は、普通の魔法瓶だった。


「すごく沢山ですね。もしかしてフィーナさんが?」


「そうだな、小さいのがフィーナ、我が握ったものは、それより大きい」


「二人とも仲がいいんですね」そう言うと、魔王は一度、考えていることを覗き見る。そんな目をして僕の目をみた。


「一応な」


 彼は、照れている様でもなかった、どちらかと言うと素っ気ない感じだった。


 僕は、コーヒーカップ2つを持って来て、魔王のお茶を注ぎ、僕と魔王の前に置いた。


「魔王、どのおにぎりからお食べになるのですか?」


「我は、我が城で食べて来た。そうして凍らせた物もまだある。お前も食べきれぬと言うなら持って帰ろう」


「いえ、僕も凍らせて食べますよ。わざわざ持って来てもらったのですし、きっと彼女が作ったのなら美味しいはずです」


「我も、握ったがな……、お前がそう言うならそれも良かろう」


 そう言って彼は、深く目を閉じる。


 簡単な料理なら出来る系、魔王……。それならフィーナさんが、夫に求めるスキルも高くなるはず。やれる! やれる頑張れる。そう今は自分を奮い立たせるしかない。


 そうして目の前の小さいおにぎりを食べる。おにぎりは昆布の佃煮(つくだに)の味で、丁度いい握り具合、塩加減、いままでのおにぎりのどれよりも美味しかった。


「お前のフィーナの事をどう思う。好きなのか? 手に入れたいか?」


 ゴホッゴホッ


 僕はもう少しで魔王の一言で、おにぎりで溺れて死ぬところだった。だがやはり、魔王の目は真剣で、僕は正直に答えるしかなかった。


「僕はフィーナさんが、好きですし、手に入れたい。その為ならなんでもしたい気分です。たぶん僕は、愚か者なんでしょう。本当に馬鹿過ぎる考えが浮かびますが、それだけ彼女を好きなのでしょう」


「ふむ……ならお前の乗り越える道を示そう。フィーナは狐の里の白銀狐(しろがねぎつね)と言う血族の当主の娘だ。彼らだけが、銀色の毛皮を身に着け、能力も他の狐よりは秀でており、商業の才能まで持っておる」


「もしかして……優れた血筋のお姫様って事ですか?」


「魔界では魔王の部下の方が、価値があるのに何をいっておる?」


 魔王は、呆れた様に言い。僕は、誤魔化す為におにぎりをもぐもぐと食べる。これだけ素敵なおにぎりを作れるのも相当な価値だよなぁ……っと思った。


「だが、あの()の両親は、普通の狐とのいざこざで、自然災害に見せかけて殺されておる」


 魔王は、淡々と言う。


「待って下さい 殺されたのですか?」


「まぁ一部の人間のみしか聞く事の出来ない幽霊の証言ではな。だからおおやけなる事が無かった。月からのいにしえの昔に落ちて来たやかましい幽霊が、懇願し我を呼んだ。それゆえに我は幼いあの()を引き取った」


 魔王は、伸ばしていた背筋を(かが)め、頬杖をついた。


「それから時の過ぎのは早いもので、あの()16歳になった。成人の18歳になるまであとわずかだ。18歳になれば、あの()は決めなければならない狐の里で生きるか、どこに生きるか、この地で生きるのもいいだろ……」


魔王は、僕を見てニヤリとした。僕は、魔王に認められていると考えていいのだろうか?


「お義父さん……アチっ!?」


 魔王が、僕を睨んだ瞬間、電気が走った。

 これは魔王に運命を感じたのでは無く、なんらかの魔法なのだろう……。

 

「しかしあの()の両親を殺しただろう人物は、まだ生きてあの()の他に、もう一人残された白銀狐の祖父として、後継人としてあの()の前に現れる……。で、お前だ。どうする?」


「……僕は……彼女の左手を持って付き添います。その為に勇者の力が必要なら異世界へでも、喜んで向かいます」


 僕の正直な気持ちだが、無力な僕は今はその言葉しか紡ぎ出すことが出来ない。


「なら、その方法はどうする?」


「魔王様、お願いします」


「他人任せか……」

 彼は頬杖をついたまま、プイと顔を向こうにむけた。


「お前が、いきなり魔界に来ても、魔王城から出たら死ぬか、鳥に突かれながら修行するのがオチだ。しかも最悪な事にその鳥は天才肌なので、教わっても要領をえん。お前、が――とやって、そこをスパッとやるんだよ! で、わかるか?」


 僕は、そんな鳥のいる魔王城に、呆れ首を振るしか出来なかった。

 

「我もわからん……フィーナ位だろう、そんなの根気良く聞くのは……」


「魔王、フィーナさんに、そんな鳥近づけるのは、どうかと思います!」


「だが、フィーナの面倒をみたのは、その鳥だぞ?」


「魔王!? 彼女がガサツな女の子になってたら、どう責任取るつもりだったんですか? 本当にもう、しっかりしてくださいよ」


 そう言って僕は、魔王のおにぎりを食べた。魔王のおにぎりも程よいかたさで、美味しかった。彼女の料理の腕は、魔王似なのかもしれない。


   続く

見ていただきありがとうございます!


また、どこかで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ