ふたたび出会う、僕と彼女
土曜日の朝、家族連れの楽しそうな声が窓の外から聞こえる。これから楽しい冒険へ行くのだろうか?
東側にある窓からレースのカーテン越しに、朝の光が僅かに差し込み、魔王の金髪をキラキラと光らせる。
その魔王が、僕に相談を打ち分けた。
「実は……部下について悩んでおる」
「はぁ……」
――魔界においても人間関係は、魔王の心も悩ませるのか……。はたして下剋上を狙う系の部下なのか? 自由に動く系の部下なのか? 想像するが、人類でないので、想像の限界はすぐきた。
魔王の表情は、険しく、第三の目は、心なしか他の目より悲し気だ……。
「部下はとても有能であるが、まだ若く人間界で言うところの、ジェネレーションギャップを感じるのだ……」
「なるほど……」
そう、さもわかりましたという様に、僕は答えた。
「魔族は個人主義であるが、それぞれに野望を持ち動くのはいい。我も推奨しよう。しかし人間界の携帯まで欲しがるようになった。あれは便利ではあるが、代理のきくものでもある。しかしあの娘はどちらかと言うと人間に近い種族の生まれだ。魔族の血が濃いだろう我にわからない部分も、多分に出てこよう……なので、人間の知り合いに心当たりがあるとすれば勇者位だが、お前はどう考える?」
そう言って魔王は、僕を見据えた。
――勇者って魔王にとって、知り合い枠なんだ……。と、思いはしたが、いまさら言うことではない気がする。
部屋を確保されている僕に、逃げ場はなく。ただ魔王の相談にのる事をつとめ考える。
「魔王、貴方の部下の人となりがわからなければなんとも、お答えしようがないです。貴方の部下が、サキュバスやインキュバスなら、こちらとしても少しの問題しかないですが、知能の高い人間もぐもぐ食べちゃう系の魔人であればこちらとしても大問題なので、写真なりで姿や、その娘さんの種族に対して教えてください」
魔王は、サキュバスを例にあげた時、僕をギロリとその目で睨んだ。可愛がっている部下を、淫魔呼ばわりされてすこし腹がたったのだろうか? しかし僕の話を最後まで聞いて、仕方ないという感じに、ため息をつきキッチンの方を向いた。
何かあるのかと、僕も僕のキッチンを見る。殺風景と言っていいほど何もない。だが、その後すぐに神秘な出来事が起こった。
キッチンと僕達の間の空間に、点が、現れる。黒にも、光にも、虚無にも見えるその点は、2つに別れ右と真下に別れた線を描いて移動して行く。
カクカクと線が曲がりながら進み、大きな長方形を描いていく。その2つの線の先端が、ふたたび交わった時、その中の空間が揺らぎ、何かを映し出す。
白い何本の横線、カメラの位置がかわったのだろう……その白い何本の線が、厚い本を横から拡大して見た映像だったという事がわかった。何冊もの本が見えるようになると、その本を掴む手が現れる。白い人間の手。
カメラはすぐその人物を追い、白いレースの使われたジャケット、可愛いだけではなく美しさも兼ね備え、派手でもない、上品な造り。そして銀色の長い髪。
ガターン
僕が突然、強引に立ったので椅子が倒れた。
画面の映像は、カメラが少し引いて、本を見つめる彼女の顔を映し出している。つい最近僕の前に現れ、そして別れの言葉を残して、風と共に消えてしまった彼女が、あの時と同じ等身大の姿で、謎の画面の向こうにいる。
「勇者!? お前何をしておる!」
「えっ?!」
魔王は、そう言った。画面は、水面の様に波紋を起こしその中心が、僕の腕だった。その腕はひじまで、画面の中に入っている。
「あ……。すみません」
でも、僕の指先に確かにその感覚があって……、絡み合っている……。
だから、力いっぱい引き抜いた。彼女を。画面の中から。
僕は出来るだけ、彼女を触らない様、つないだ右手、そして空いてる左手で彼女の腰を支えた。
「おひさしぶりです」
僕は言った。気の利いた言葉など、僕には出ない。
彼女の金色の目が僕を、見つめる。驚いた様に……。でも、口もとが笑っていてくれて、僕は凄く小さく胸を撫でおろす。
「お前達……」
魔王が、立って僕達を見ていた。驚きを煮詰めて凝縮したような顔で、右手を机の上に置き、体を支える様。
「魔王様!?」
彼女の顔をうっとりと見つめている僕と違い、彼女はこの中で一番、先に我に返った。
「魔王様!? それにここは?」
「フィーナ!? こっこれは……」
一旦は、狼狽えた魔王だったが、すぐに態勢を整え彼は、彼女を見る。心の内を探る様に……そして魔王は言った。
「フィーナ、帰るぞ」
魔王は有無を言わせずに、彼女を連れ去ってしまう。そして彼女も、魔王の後ろについて行ってしまう……。
「あの!……」僕は両手を強く結びそう言った。その声を聞き彼女は、僕に駆け寄る。
「ごめんない……、この花はたぶん貴方の運命を、変えてしまう毒の花です。それでも貰ってくれますか?」
彼女はいつの間にか持っていたのだろう……白い百合を一輪、僕に両手で差し出した。声は少し震えている様に思う……。
不器用で、重い感じの答えしか出せない僕は、上手い事はいえやしない。
「君のすべてが好きだよ」
そう何回となく練習した言葉を、僕は言った。そして僕は両手でその白百合花を受け取り、胸元に持って行く。
「私も永遠に好きです。だから、ごめんなさい」
そう言って彼女はきびすを返し魔王のもとに向かった。魔王は、少し悲しそうな目で「いいのか?」と、短く聞いた。
「私達は、愛を伝えた事についての後悔は、絶対にありません」
「そうか……」
そして魔王は僕を見て言った、「ハヤト、お前にはまた会わねばならんようだ」
そう言うと彼女がもうどこにも行ってしまわない様、そのローブの袖の中に隠して帰って行く。
僕はため息をつき、彼女から貰った白百合の花を見たが、それは影も形も無かった。まだ、むせ返る様な花の匂いだけ残り、花は消失してしまった。
続く
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また、どこかでー