開催されるエキシビジョンマッチ
僕たちのプロポーズ成功を祝う食事を終えて、魔王城の黒い廊下を、右手を上げ壁を触りながら歩く。
人生にそう何度もない、結婚が決まった事を祝うための祝いの思い出。しかし僕はそれが終わった後の今は、違う事を考え歩いていた。
魔王城の壁の黒さは血の色を、黒で覆い隠しているからだと、ありふれた事を以前から考えている。
だから今の僕の行為は度胸試しみたいなものだ。そして魔王の棲家に挑んだ者たち、もしくは、以前の魔王の蛮勇さを体に取り入れたいという思いもあった。しかし呪術が一般的にあるこの世界で、この行為は危険な事でもあるかもしれない。
けど……魔王の力が外にまでおよんでいるから、大丈夫だろうと言う気持ちもある。魔王の庇護に隠れるような気持ちがある内は、勝ちは見えないかもしれない。
しかし、今、自分でも驚くほど魔王に勝ちたい!
廊下にもたれかけ、もて余しぎみの自分のそんな気持ちに戸惑っていた。
「ハヤト、こんな所に居たんですね。明日の一通りの説明しちゃいますね」
「フィーナさん、僕はぁー、明日勝ちたいです」
僕は彼女の腰の後ろに、手をまわし大きくわっかを作り、その中に彼女を閉じ込める。
「僕はぁーってなんですかー? 勝ちたけれ勝てばいいんてすよ。はい資料です。魔王様に勝てる人は、私の知っている限りいません。でも、大きな意味で、魔王様を戦闘不能にすればいいのです」
「ありがとう。そうは言っても簡単に勝たせて……くれるの? もしかして?」
「そんな事していたら、エキシビションマッチになりませんよ。お箸飛んできちゃいます」
「ですよねー。一応、隠し玉の大技はあるけど、呪術的に凄くやばいらしいんだ。魔物もえぐい事になるらしい」
「呪術がですか? うーん、ハヤトでちょっと失礼します」
そう言って彼女は僕の心臓を触り、そして離れるとそのまま心臓を右から左から見ている。
「わっ」
視線の先、廊下の角からミッシェルが、顔を出し叫んだ。そして驚きの声と共に引っ込んでいった。なぜよりによってミッシェル?
「うん?」
彼女は、後ろを振り向くが誰もいない。
「素晴らしくはありますが、一般的に見て、魔王様に届けばですねー。とりあえず私に、打ち込むイメージを教えてください」
「1回目100メートルの距離から攻撃してみる。床が割れ君の魔法の植物のツルがうねうねと出て緑の壁を作る。それに魔法が当たって草木を枯れさせるが、それから先はイメージできない……。そもそも親しい人に魔法を使うイメージがわかない……」
考えれば考えるほど、フィーナや魔王の間近で、映像はブラックアウトする。
「あぁ……。危険なものは人に向けるなって育ったから、親しい人に向けては距離が近ければ近いほど、イメージが構築できないかもしれない。えっ!? 今更それが、ここで発覚する?」
僕は顔を、上に向け顔を覆い隠す。
この世界に置いての魔法の決定的な弱点が、今、発掘されてしまった。
「じゃー直接攻撃をしない方向で、考えてみましょうか。それもみんなで」
フィーナは学校の先生ぽくはあるな……、フィーナ先生の学校を、僕がこの世界で……、子どもは何をやらかすかわからないからやめよう辞めよう。尻尾に子どもが群がりそうだし……と、いう事をフィーナについて歩きながら考える。
こうして僕らはまず僕たちの部屋へ行き、説明しようとしたが……。
「ハヤトさん、フィーナさん、僕は何も見てません。だから口止めなど必要ないありませんから」
部屋へ入った途端ミッシェルが、僕たちにそう言い放った。その声を聞きつけ、長椅子のソファで、単行本を読んでいたルイスはこちらへやって来てくる。
「そろそろ来るんじゃないかと、思っていました」
「えぇ……、何をやる気ですか!?」とドン引きしているミッシェルをほっぽいといてひたすら、初心貫徹の考えを持つルイスが、魔王をエキシビションマッチの中でだけでも倒す提案をするようだ。
「まず考えている戦術など、あったらお教えください」
ド――ン!! 前触れもなく、いきなり扉が開かれた。
「あ――居た! 魔王戦に備えて戦術を、考えるんでしょう? 一緒に考えればいい案が浮かぶと思うよー」
そう言って、オリエラを先頭に、ルナやウンディーネとその肩に、よしのさんがおすまし顔でついてくる。
「また、お前か……」
ぬいぬいは呆れ顔だったが、「お前は間違っている、エキシビションマッチは楽しむためにあるのであって、仲間はずれは良くない!」
よしのさんは羽でぬいぬいを羽差し言った。
「すみません、俺もどういうものか興味があって来てしまいました」
そう狐の耳をシューンとさせた、時治君が出てきた時、ぬいぬいの負けは確定したのだった。
☆
「魔王城、近くこのコロシアム会場、今年は時期遅れの4月!、そしてトーナメント戦も魔王対勇者のエキシビジョンマッチのみという形なってしまいました。ですがー、それでも戦いは血沸き肉踊るものがあります。それを皆様にお伝えしていきたい! 司会に魔王の側近のフィーナです」
「解説の鳥です」
「そして今回から新たに、魔王ファミリーに加わった新たなもふもふこと」
「時治と申します。至らぬ点もありますが、お引き立てのほどよろしくお願いします」
僕は控室に居て、スピーカーから流れる音に、僕は固まった。司会挨拶って進行表に書いてあったが、がちな司会を入れて来るとは……。
各魔族から人材とお金を出し合い、チケットと販売ブースを提供するって聞いた時、なんかお誕生日会ぽいなって思っていたが、思った以上に商業的なイベントとして、利用されていて朝からどん引きした。そしてフィーナももふもふ枠だったのか……。
「失礼します。今、大丈夫ですか?」と、時治君がやって来た。フイーナの代わりに応援に来てくれたのかな?
僕は準備をそうそうに終えて、ただ時間を待っているだけだった。
「大丈夫だよ。忙しいのになんか悪いね」
「ありがとうございます」彼は頭を下げ「オッケーです」
うん? うんんん?
「こちら異世界からお越しの勇者のハヤトさんです。司会のフィーナさんと、最近ご婚約されたそうで改めておめでとうございます」
「ありがとうございます。しあわせな家庭を築けるよう頑張っていこうと思います。そして今回、義理の父となる魔王の胸を借りる気持ちで頑張りたいと思います」
「選手控え室からは以上になります。……ふぅ……」
彼は小さく息をはいた。やはり緊張しているのだろう。基本的に彼とそう立ち位置は変わらないが、大人としてなんか申し訳なくなる。
「時治君、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。ハヤト様、御武運を」
彼はそう言って出ていった。しっかりしているなぁ……。魔王、子どもお行儀教室や……駄目だ。一番の問題児、鳥様が講師やる事になっちゃう。
「おーいー勇者出番だぞー」僕を呼んだのは、婆様の息子のオーガだった。今回も春先前なのに上半身裸だ。
「あっ、久しぶりです」
「オッス!久しぶりだな、お前の頑張り次第で、うちの弁当が売れるかどうか決まるから5時間くらいは戦ってくれよ」
そう言って、彼は僕の背中を叩く。
「魔王相手でそんなにも持つ気がしない。……僕はどちらかと言うと今は、奇襲戦法を得意としているし」それに、そんな戦闘の体力消費が少ないなら、他の魔物も半分と考えても体力が違い過ぎる。そんな状態なら人間界は終わる……。
「いや、そこを本気で受け取るな。一瞬で終わるくらいわかるし、今回の余った時間はクイズ大会になってるぞ」
クイズ大会か……思い出作りに出られるかな……? そんな事を考えつつ、コロシアムの廊下を歩いていると、ウンディーネが付いて来て僕の肩を叩く。
僕の大精霊は、開店前の販売ブースに商品名が並べられていくのを見て欲しいなぁ……と、言った後、行方知れずなっていたがやっと帰って来たようだ。
「ルイスが見て得たら呼びに来たの、いろいろ買ってくれて、アイテムは壊れない様に持っててくれるって!」
ウンディーネは戦いに闘志をみなぎらせる様に、僕にそういったが……ただのお買い物結果報告だった。
「式の前にうろうろすると、肝心の式に出られなくなる事もあるから気をつけてね」と、まぁ僕も戦いの前に教えるべき社会常識をこの場で教えているし、緊張感もあったもんじゃない。
そして僕らの進む先、松明より明るい光が僕らを包む。明るい太陽の光、これなら申し分ない。
そしてその光の真下、そこには玉座が置かれている。玉座から勿体振って魔王は立ち上がると、柵を飛び越え、重力など考えない様に僕の前にゆっくりと降り立った。
あの様子だと飛ぶ事さえ出来るかもしれない。勝つ気合いだけで、この場に上がったが、立てた作戦すべて成功しても魔王は平気で立っているかもしれない。
しかし片ひざだけでも地面につけたい。そこから僕は新しい新生活を始めたい。
「始めるか?」
「宜しくお願いします。いざ!」
「「尋常に勝負!!」」
その声と共に、僕の歩いて来た土の上に蒔いた、植物の種たちか地響きをあげて発芽する。そのツタの伸び具合、その脅威の繁殖力で、緑が地面を覆い隠す。それとともに僕と魔王の姿を覆い隠した。
「行けーー! ウンディーネ!」
そして一筋の水が魔王を、狙って突進するが、その力は渦を巻く様にそらされ魔王に吸収される。これではまだまだ魔王の全容は、見極められなさそうだ。
つづく
見ていただきありがとうございます!
またどこかで~。