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老人の人生の終わりの時に……。

 危機的状況の中で、やって来た者たち。その中でも向日葵ちゃんは、状況を考えてず湊ともとへ走りよる。


「湊様、こちらへ」


 駆け寄って来た向日葵は、湊の着物が着崩れるのも構わず、彼を引っ張る。


「だが、お祖父様を止めないと!」


 彼は向日葵の両肩を掴み、今や普通車ほどの大狐となった祖父を振り返る。


「湊、しっかりして! 湊が今行っても何にもならない。みんなを困らせるだけです。湊が出来る魔法は優しい魔法だけ、それを生かせる行動をしましょう私とじゃないと……私も一緒に突っ込みますよ!」


「えっ……ごめんわかった。向日葵」


 あの子、マジやる気の様で息を整えながら、そう言い切った。彼は逃げてくれる方向に、湊をいざなった向日葵ちゃんに感謝する。


「湊、後は僕に任せて欲しい」


 僕は足を踏ん張り、彼の方を向きそう言う。その時には、大狐は僕らを見定めて足に力を入れ、今、も走り出そうとしていた。


「何を言ってるんですか、貴方も、フィーナも命を狙われているですから彼らと、後方で控えてください。ほら、魔王様のところまで走って!」


「だが!」


「戦略的、撤退も戦い方の1つです! 早く行ってください」


 ルイスはそれだけ言うと、弓を持ち出して、その場を離れ少しでも、高い位置へ走って行く。


「ごめん、みんな僕らは一時的に避難するが、出来たら狐は生きたまま捕まえたい、それがこの里の新当主の願いなんだ」


 僕はそれだけ言うと、その場を離れた。


 僕とフィーナは、急いで魔王の前まで走ると慌てて、その場の前面をツタで覆う。


「逃げて来たのか……」


 魔王のその声と同時刻、戦闘は始まった様だ。

 ドーン、ドーン、ドーンと連続して魔法の音が響いた。


「そうですよ! あっとよしのさん、狐が来たら知らせてください」

 僕は青い鳥となっている。よしのさんにそう頼む。


 スフィンクスにまたがり、ルナがやって来て僕らに祝福をかけて戦線へ戻る。僕らも慌てて強化魔法をかける。


「なさけなくても生きていれば、勝ちなんで」


「…………考えがあるようだな」魔王は、僕の動きを見てそう言った。


 ドッドドドドと獣の足音の土煙が近くで上がった。 


 心臓が早鐘の様に打ちならされるが、頭の中は魔法への集中力が研ぎ澄まされる。


 急げ! 急げ!


「来るぞ!? 飛び込んで来る!」


 僕は振り返り、フィーナの体をゆるく抱きしめ、この先の出来事を見逃すまいと前を見つめる。


 空高く、伸びていたツタから狐の鼻先が出たと思うと、いともあっさりとツタは突破された! 


 ヤバイ!ヤバイ! 思った以上に、早い速度で、老人は僕らへと突っ込んでくる。


 その速度は僕らの前でもゆるまない、本気で僕らを殺す気の様だ。土煙が目の前が見えにくい。


 バァンリーーン!!!



 どうやら老人と僕の幻影が接触し、一枚目のデコイとして僕らを写しだした大鏡が割れた!


 ドガァーーン!


 すぐさま次の衝撃音、後ろに設置した土の魔法で作っておいた、檻。


 入り口以外、土で作った檻に彼はまんまんとぶつかり止まる。しかしスピードが早すぎて、檻は崩壊の危機だった


 彼の力は後、どれほど残っている? 檻は、先程と同じ速度と力で突っ込まれたら崩壊するのは、目に見えている。


「フィーナ急いで!」

「はい!」


 僕は慌ててこれ以上、崩壊しないように、フィーナは白煙がこれ以上暴れない様に、檻の内側と、白煙のまわりにツタを這わせる。


 老狐の毛皮は、所々赤く染まっていた。そして荒く、早く息をしている。


 老人に僕が声をかけるのは無礼のようで、見ている事しか出来ない。


 そこへ花咲き誇る年頃は過ぎたが、それでも線の細い美しい女性が、下駄を1つ履かずに走ってくる、その後ろに湊と向日葵。


 なら、彼女は白煙の娘の白雪だろう、白煙を『お父様』と叫ぶ声が痛々しい……。


 彼女はツタを手で引きちぎろうとしていたので、オリエラが天井近くで、ツタを切って道を開ける。


 それとともにフィーナの白煙を拘束するツタは、その場で朽ち果てていく。


「お父様、嫌です……死なないでください……」

 そう言って必死に回復魔法をかけていく。僕はルナを見るが、彼女は首を振る。


「やまいではない呪術的なものが、体を蝕んでいます。それも多くの、人の手によるものでしょう……。アニス王の時の手段は使えません。私には貴方を、無駄死にさせる事は出来ませんから」


 僕とルナの間を殺伐とした空気が包み込む。


「お二人ともありがとうございます」


 そう言って湊が、僕らの間を通り抜ける。新当主となった湊は、不思議と透明感が引き立った様に思う。


 フィーナが赤い炎の強さをまとった狐なら、今、彼は澄みきった、何でも姿を変える水の様だ。


 彼は今にも消えそうな命に、対して話しかける。


「母さん、お祖父様、私は新当主となりました。だから僕も里も、もう大丈夫です。僕に欠けた部分は向日葵が助けてくれるでしょう。だからお祖父様、今までお務めご苦労様でした」


 そう言って深々と頭を下げた。


 老人はもう力を失い、人の姿になっていた。しかし体を、起こそうとする素振りはするが、それは叶わず。


「湊様、当主ご就任おめでとうございます。この白煙、こんなに嬉しい事は……ございま……せん……」

 

 それだけなんとか言って老人は、もう……。


 老人の最後の時に、湊の選んだ言葉、白煙が選んだ言葉が、老人の人生を表しているようで、僕は言葉もなくうつむく。


 しばらく老人との別れを惜しむ、悲しみだけが辺りに響いた。


           ★


 それからしばらく僕らは、狐の里でフィーナに付き添い過ごしたが、結局、謎の男は現れる事はなかった。彼は彼なりに勤勉に働いただけかと思うと、心中は複雑だった。


 白煙の出来事の全てを話してから、白煙と彼と追うように急死した湊の祖母の葬儀は、家族のみで行われた。白雪さんの家には毎日、向日葵ちゃんも通っている。


「毎日これ出来ないのですが……、って言うと湊みたい一生懸命期待に答えてくださり、少し元気になられたんですよ」彼女はそう言い柔らかく笑った。


 そしてフィーナが里に戻らない事を告げていたので、湊が新当主である事は揺るがなかった。


 それについて決まった時、白銀狐の2人には喜びより、悲しみの色が強かった様に思う。


「当主として、湊が決まった時、嬉しいには嬉しいかったですが……。白銀の当主の不在期間があって、活躍していた人も居たでしょうに、その事に触れられないまま湊に、って事はやはり体質ってなかなかかわらないんだなぁって思いはしましたね」


 フィーナは旅館の手すりを、触りながらそう言うが、「でも、そのおかげで湊が当主になれたんですから、後は湊に任せましょう」


「じゃ、そろそろ……そろそろか、フィーナ! 服は買いに行くべき!? お土産はここで買って帰ろう」


 彼女の故郷は大切だった。悪い意味ではなく、魔界は諦めが肝心で、そこから生まれる素晴らしい考えはあると思う。でも、薄情と……いや、僕がそう言うと、彼女は目をそらす。悪い予感しかしない。

「フィーナさ……ん……」


「よしのさんは鳥じゃないですか……、魔界ではやはり人間、特に勇者に対して、風当たりが強いのです。でも、魔界では強さがすべてなので……」


「なので……?」


「1月1日の魔界の格闘なんでも大会の代わりに、魔王対勇者のエキシビションマッチ的なものを執り行うと言っておられて、魔王の部下の婿が、魔界で認められないようでは困ると……魔王様が聞かないんです」


 そう聞いて、倒れそうになる。そう言えば魔王は、戦いについてはたがが外れたところがあつたような……。


「魔王様にはまだ住む場所は決まってませんとは、お伝えしましたが、お前は何処で暮らしていても、俺たちの家族だから受けておけよ、ってよしのさんまで言い出して……」


 そう彼女は上目遣いな感じで言う。正直可愛い、どこに出しても大当たりの僕の彼女は、魔王の義理の娘として、部下としてそう僕に伝えてくる。


 僕はまたもや頭を抱える事態に、固まってしまった。


     続く






見ていただきありがとうございます!


またどこかで~。

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