長年の思い
見ていただきありがとうございました。
またどこかで。
「人は皆、箱舟の様なものだ。遺伝子の箱舟でもあり、時には何かを成すための箱舟もある。今、ここで話す我でさえもその1つに過ぎないかもしれぬ。例えば、そう珍しい毛色した狐たちに新しい世界を渡すためのな。そこに正解は必要なく、可能性だけただ持ち寄られる。まぁ、それは我の希望だがな。人生の道は1つかもしれぬからの」
「でも、可能性は無限なのでは?」
「それは我にもわからん。だが、向こうの世界でただの学生をしていたお前がよく言う。その後、お前はどこへ行く? 決めた相手の手を取るのではないのか? そこに偶然はあると思うのか?」
魔王は椅子にゆったり座り、お腹の上で腕組みをする。
「わかりません。必然でも、偶然でも僕は彼女の手が取れたらいいなと、今は考えます。正直、あった当初はそう考えていませんでした。僕が変われたのは彼女の意思の強さに触れたから。運命はそこに出る幕はないでしょう。選択はいつでも、人間にゆだねられます。僕はそれだけあれば構いません。好きに回ったらいいと思いますよ、世界は」
「実にお前らしい答えだ。異世界の魔王を受け入れ、異世界を受け入れそして娘のそばに居ようとしている。お前がそれでいいのなら、それでいいだろう」
「ええ、もちろんです」
と、答えたが文法的に正しいだろうか? まぁいいか。異世界に国語の先生は居なさそうだ。
「それでは話を戻そう。今は狐の里の白煙は、今なお健在だ。フィーナの叔父の樹月と白雪の間には、フィーナとそう歳の変わらない白銀の毛皮を引き継いでいる、従兄弟の湊がいる。そして彼にも当主を継ぐ資格を持っている。ある面からフィーナ以上にその位置の近くにいる。だからその祖父である白煙は、体の弱まった白雪の代わり彼の後見人として結構な財産を自由に出来る。それはあの子が狐の里に戻っても、従兄弟次第で続く可能性がある」
「まだ、わかりませんが、人間界での一連の事件の犯人が狐の里と限定すると、やはり白煙と言う人物が怪しいですね。理由はわかりませんが、商売って点が共通しているし」
魔王の知る、狐の里はこれくらいだろうか?
では、次は改めて狐の里について聞く必要がある。今の状況を知るために潜伏する。もしくは近場で潜伏するのは最初の計画だったが出来るのだろうか?
「では、狐の里を一度調べるとして、狐の里では魔物ではない僕らが、行けばすぐに異質な存在として捕まってしまいそうですか? フィーナやシルエットには僕らは違和感は感じませんが、魔物からはわかってしまうものなのですか?」
「それはお前の居た世界が、寛容過ぎだからだろう」
魔王は吐き捨てるように言うと「それはありますね。こちらの世界の私たちでも驚く魔物に、ゲームみたいだ……、テレビみたいだと言って納得してますからね」 と、ルイスまで同意する。
「だが、仕方ねぇ……映画を見ると人生変わるぜ……。俺も仕事(魔王が仕事をやっている)の合間に映画鑑賞をするんだが、俺も豊臣秀吉のような出世をしたり国を変えたかった」
「でも、幼いフィーナと一緒に楽しげに、暮らしたのだからいいじゃないですか」
「だがな、あの娘はすぐに俺を、ツタでぐるぐるまきしてだなぁ……」
「やはり、人間だけで乗り込むのは難しいでしょうか?」
脱線しそうな僕の頭上を、ルイスが線路を正しく引いてもとに戻した。
「2つの事実がある。1つ目は、魔界の魔物と一口に言っても千差万別ある。と、いう事は、人と変わらず争いを生む結果になりうる。2つ目は今、仮の姿をしていても、実はどんな種族かを確認する手段は、物理か、高度な解除魔法だけである。物理はなーわざわざ火種を拾いに行く種族はさすがに、狐の里には入れん。だからみんな適当に仮で過ごしている。そんな魔界らしい適当さを利用し、争いをうまない無害な種族、捕食対象の姿を仮の姿とするもの魔界には多くいる。それが人間がなのだ。」
「なら、私たちが容易に潜入出来るのですね」
光明が見えて、ルイスの声も明るくなるが、自分の話しをさえ切られたよしのさんがニヒルな声色で、ルイスの喜びを断ち切る。
「潜入出来るのは男だけだ、俺たちの時はサラが人間とばれて捕まりかけた」
「どうやら女の匂いを敏感嗅ぎとる魔物も多い、食欲をそそる匂いなのかもしれん。注意しなくてはならない。しかし男は狐とそう変わらないようだ」
「なら、白銀狐のフィーナはどうなんですか?」
「違いとしては人間の男くらいであろうな。そうでなければいくら小賢しいとは言え、ここまで生きられまい。まぁ、人間の女は行かない方が無難だ」
そこでよしのさんがクリクリおめめで、ルイスをその羽で指し示す。
「こいつは?」
――いい加減にしないと、ルイスによってわかりやすく、ひどい目あわされるのに、鳥さんは怖い物知らずだなぁ……と、僕は逆に関心した。
「ルイス、人間の男子でも敬遠される分類だ」
「えっ?……なんで……」
僕も少し驚いたが、鳥さんは絶句していた。鳥さんの中のルイスの立ち位置が僕は知りたいと思ったのと、そこまで飛ぶ鳥を落とす勢いだっただろう、アルトの人間に対し失礼なら、それはもめるだろうとも思った。
「たぶん長い歴史の内に、どこかで魔物の血が入っている気がする。どっちかというハヤトやお前の方が好まれるかもしれん」
僕はウンディーネの例もあるし、想像は容易かったが、よしのさんは想定外のようで「お前、俺たち集めてどうする気だ」自分を抱えて、ブルっと震えた。
「お前はこの城に何しに来たのだ?」
「それはもちろんお前を倒しにだ!」
「では、最初の偵察は私たち男性だけで、行く方が無難ですね」
ルイスが強引に結論へもって行くなかで、次に聞くのはだいぶ繊細なことだ。時治君から、話を聞くのは可能か? 狐を裏切る結果なるかもしれず、はばかれるが、彼の知り合いにかかわる事なら回避出来る事もあるかもしれない。
しかしそれを告げた時、魔王から意外な返事が帰ってきた。
「人間らしい考えだが、相手を知った事で苦しむのも人間だぞ。しかし聞くこと事態はとめはしない。だが、時治の事情をお前が受け入れる事態になるぞ」
「それは仕方ない事のように思います。たぶん僕の知る勇者はそういうものですし」
僕の知る勇者は、皆、空想上のものであるが、僕はそんな彼らが好きなので目指せる限りは、そう目指したい。自己満足であるが、まだそれが出来る状態であると判断している。
「疲れる生き方だな」っと言った魔王と、「え?!……」と言って、僕を見つめているのか、可愛い小鳥ちゃんの視線をめっちゃ肩から感じる。
そして横で「お前、俺をそんな風に見てくれていたんだな。俺の事、よしのさんって呼んでもいいんだぞ。師匠は俺のがらじゃないからな」って聞こえる……。一応、彼もフィーナの育ての親でもある。今、後ろで聞いているだろう、ルイスから出来るだけかばう様にしなければ……。
「そうですね……。私たちの故郷にいる時間の間に、ハヤトはフィーナやヤーグ様の事を話してくださった。それから何度も私たちの気持ちを確認し出発してくださいました。でも、普通は出来る事ではないのです。そのまま置いて行った勇者様もいるのですから……」
そう言ったルイスを振り返り見たのち、視線はよしのさんに集まる。よしのさんはぐぬぬっとなった後……。
「ルイス、お前に言うことではないが、あの時はすまなかった。もう一人のルイスの言う事を聞いていれば、お前たちと同じようにヤーグとの出会いも違うものになっていたかもしれねぇ。しかし俺は後悔はしてねぇが、同じ名前のお前えがこだわるって事は、俺はあいつを傷つけたんだろう。だけど、俺はここを離れる事はしたくねぇ。だからルイス同じ名前のお前があいつに伝えてくれねぇか? 俺が謝っていたと……」
よしのさんの事は今を生きるルイスの問題で、僕たちとルイス関係から、彼は先祖のもう一人のルイスとよしのさんの関係を、重ねて見ていたのを僕は知っている。
ここで、クッククとルイスは笑う。
「お断りです。これは私の個人的な考えですが、アルトであれば誰でもわかる事です。私たちが待っているのは伴侶を除けばですが、待っているのは1人だけです。未来に生まれた同じ名前の子孫なんかじゃ決してありません」
「なんでだ……」よしのさんは一言そうつぶやいた。僕はその意味を推し量る事はしたくない。
「わかった。後日、お前の先祖の墓へ我がよしのを連れていこう」
「ヤーグ様ありがとうございます」
ルイスは片足を床につけ、最敬礼をした。そんな彼を見ると、きっとルイスが長年考えてきた彼の中の落としどころに魔王は近い答えを出したのだろう。僕では決して、出せなかった答え。
「ヤーグありがとうございます」
ここでは素直に感謝すべきだと思った。彼も僕を見ただけだったけどね。 きっと通じたはず、心を読まれなくても。
そして数日後、彼の願いは叶ったとだけ記しておこう。
続く