出発までの道のり
馬車は、ようやく見知った場所までやって来た。
ホイルトツェリオの街並みを見て、こんなに安心したのは初めだ。
満員である狭い御者席へ自ら乗り込んでしまった。それが僕の今回の過失だった。
しかしそれによって居眠りで、こんなに馬車から落ちそうになると思わなかった。生命の危機を何度味わったか……。
だが聖女ルナと話す事が、出来たので成果はあったと思う。
まだ、暗い内に城の城門を抜けると、僕たちは夜勤の兵士達が巡回していた広場で降ろされた。
「「こんばんは」」彼らと挨拶を交わし足早に、勇者の間に向かうと、夜勤のシルスさんが駆け寄って来た。
「おはようございます、ハヤトさん」
「おはようございます、シルスさん」
首の座らない赤ん坊の様に、眠すぎてぐわぁんぐわぁんしている、僕を見て彼は僕を心配している様だ。
「どうしたんですか? ハヤトさん精神汚染系の魔法を使う敵でも居たんですか?」
「ハヤトは無理やりに御者の席に乗り込んで、眠れなかっただけなので、気にしないでいいですよ」
ルイスが僕とシルスさんの間に入って説明をしてくれている。
「はぁ……」と僕らの様子と返事に戸惑っているようだ。それでもシルスさんはすぐに平常心に戻り、小さなメモ用紙を手提げ鞄から取り出した。
「今、ギルドマスターが城に来ているので、一度会って話がしたいそうです。午前9時までは、会議室に居るとこの事でした」
僕と、ルイスとシルスさんは三人顔を見つめ合う。
「「どうします? ハヤト(さん)」」
「少し、したら向かいます……」
「はい! わかりました伝えてきます!」そう言いシルスさんは、暗い城内を駆けて行った。
彼を見送り僕らはやっと玄関のドアをくぐる。燭台の上の蝋燭の炎が揺れている、それだけで人の文明のありがたさやあたたかさを感じてしまう。
僕らの世界に居たときもこんな風に思っていたっけ? もう遠い昔のようで、忘れてしまったなぁ。
「ウンディーネちゃん! ウンディーネちゃんや!」
「どうしたのハヤト?」
リビングルームの方からフィーナが蝋燭の燭台を持って、顔を覗かせる。僕はそこまでゆっくりと行くと、腕を組みながら――。
「君も来て欲しいのだが、これからこの国のギルド長に会う事になった。それで少しでも、ウンディーネに回復してもらえないかと思って……」
「ウンディーネならもう長椅子で、眠ってしまったみたい」
彼女に続いて、リビングルームに入ると長椅子の上で、ひざ掛けをかけられたウンディーネが眠っていた。子供の様に眠ってしまい、ほっぺをつついても全然起きやしない。
フィーナはテーブルの上に燭台を置き、僕の手を引きもう片側の長椅子を指さし、「こっちに寝て」と彼女は言う。
僕の木の魔法は彼女ゆずりの魔法で、僕よりは回復の能力は高いのだろう。でも、それとは別に彼女に「こっちに寝て」と言われるのはとてもいい。
ソファの上でゆっくり横になる。
「むっ」
「むっ?」背中が、ゴキィと音を出す。痛い!
「なんか、ちょっと猫背になってますよ!」ゴキィッ、痛い! 痛い!!
それが終わると体全体を、ゆっくりマッサージをしてくれる。そして木の魔法をかけられる。じんわりと体の疲れが減ってきている実感かあつた。
「終わりました」彼女は、顔の横から僕に声をかける。半分眠っている僕は「ありがとうございます」と丁寧いに正座をしてお礼をした。
フィーナは、クスクスと、少し笑い『背筋が少し丸まっているので、気を付くて下さいね』。と僕に言う。
眠いのはまだ、眠いけど背中のだるさが不思議と全然なくなった。
二人で台所へ行くと、ルイス、ぬいぬい、オリエラが、立って飲み物を飲んでいた。
「コーヒーとミルクがありますが飲みますか?」
ルイスがそう聞き、僕達はコーヒーを頼み、ミルクを多めに入れた。
「今から会議室へ行くのは、この5人です」
僕も壁にもたれながら、「やはり道中の魔物を、倒して欲しいとかあるのかな?」と、発言する。
「それは十分あるでしょうね、勇者のパレードもここだけはないでしょうし」
僕はパレードと聞くと、遊園地のパレードを思い出していた。そこには、夢と希望が必要で、「やはり宴会芸も必要か……」
「まぁ、無いよりあった方がいいでしょうね」僕とルイスがそう話していると、残りの3人も難しい顔をする。
☆
夢と魔法の異世界には、宴会芸は無用の長物であったのかもしれない。試しやってもいまいち受けなかった。
ーー全員で、ダンス系の方がいいのだろうか?
ギルドマスターのレンさんに会う為に、ホイルトツェリオ城の会議室を僕はノックする。
「どうぞ」と、言う声と共に入ると、会議室の面々がこちらを一斉に見つめた。
見知った顔もあれば、知らない顔もあり。そして現在の時間が、午前8時。
いくら何でも会議をする時間には、早いだろうと思う。しかし電気と言うものが、一般的な物ではないこの世界において、普通の事なのかよくわからず困惑するばかりだ。
「勇者殿が、来たという事で一度休憩と言う事のしよう」
そう言ったのはアニス王で、彼は後ろ髪引かれるオリエラと共に朝食に行ってしまった。
会議室では、残って仕事をする者も居れば僕達の様子を伺う者もいる。レンさんはいつものミニスカートにざっくりしたファンタジーによくある上着を着ているが、前髪は少し長めな感じになっていた。
僕達は上座に座るギルドマスターのレンさんの机の前に椅子を置いて座る。四角に置かれた、机の間から入って内側に、4人座って居る状態だ。
僕はフィーナを彼女に紹介すると、「副長の紫龍に聞いているよ、是非ギルドに欲しい人材だと彼は言っていたよ」そうレンさんは言う。
絶対魔王の城より、ブラックな仕事時間を提示してきて、会う時間のすれ違いで二人の仲がすれ違う状態になりそうだ。
だからそれは勘弁で! と、思っているとそれが表情に出ていたのか、彼女は机の上の組んだ腕の人差し指同士を当たらない様にクルクルとする。
「君が心配する事もわかるが、ギルドでは人種などではなく、能力で人を見る場所だから、彼女の事を色眼鏡で見る者はいないよ」
そう言ってにこりと笑う。いや、そう言う話ではないが?
「こいつは気にしているのは、お前達が、フィーナを馬車馬の様に働かせやしないかと言う事だよ」
ぬいぬいの言葉に、レンの人差し指のクルクルが止まった。
彼女は組んだ手に額を乗せて「その事については、ギルドの一番の課題なんだ。素晴らしい事をやろうとすると、どうしてもリスクが伴うものなんだよ」
否定しないところが怖い。
「この馬鹿が! そんな組織はもう、そこの時点で素晴らしくないんだよ」
「あいかわずぬいぬいは、言う事が手厳しいな。まぁそこら辺も考慮するようにするよ」
「おう、頑張れよ」
と、ぬいぬいは、気軽に応援するが、そんなに簡単な問題ではないだろう……。
レンさんは、下に置かれた大きめの鞄から、大きめの封筒を取り出した。それをルイスの前に置くと、ルイスが次々確認していく。
「みんなも知っての通り、魔界に行くには2つの道しかない。火山帯をつっきる道と雪山を越えて行く道。その2つの道に対応した道の地図だ」
「これが勇者の残したと言う……」
「そしてそこへ行くまでに君たちに倒して貰いたい魔物住処が、記入されている。それらに対応した資料。そしてこっちの紙がこの国を立ち去すまでにこなさなければならない、イベントだ。祝賀パーティー、パレード、教会での催しを行う事の出来る日時も書いておいたよ。最後のパレードでまぁ三日以内にすべて終わるようにスケジュールは組んで貰ったからね」
………………。
「「そう言うとこだぞ(ですよ)」」
僕、とぬいぬいが、同時に突っ込む。
「なんでこんなに過密スケジュール何ですか? 断捨離してもっとこじんまりな祭典にして力を蓄えさせて下さいよ」
「まぁいろいろな利権とか絡んでいるしなぁ」
レンさんが、周りを見て話すと、周りの旨い汁をすすろうとしてる人たちは、次々退席していく不思議……。
「最後にこれはギルドマスターとして、個人的なお願いなのだが、ギルドが機能しているような街中での人々の願いは、出来るだけギルドを通して受ける様にしてくれ。ギルドがある分それだけ困難な土地柄と言う事だと思う。そこで無償の君たちに依頼が集中するとギルドが儲けられない。そして他の冒険者に仕事をふれない。他の冒険者の確保は街の生命線にかかわる重要な事だ」
「心にとめておきます」
「では、連絡を待っている」そう言ってレンさんとは、会議室で別れた。
昨日の夜中に深夜のギルドクエストがあり、家に帰っても朝食がないので最近にしては珍しく城のレストランをうろついていたら、王様とオリエラが居た。きっと王宮での食事はオリエラが遠慮したのだろう。
オリエラの前には沢山の料理が並んでいる。
あれだ……久しぶりに会った子どもに、沢山食べさせてあげたい王様バージョン。
「アニス王もう、本当にたべられないのです」
「そうなのか……」アニス王は凄く寂しそう。
「じゃ……このプリンだけ……いただきます」
「そうなのか? ならもっとそのプリンにフルーツを――」
これは、あかんやつだった……。僕達はいっせいにアニス王を止めるべく二人の元へ向かうのだった。
続く
見ていただきありがとうございます。
また、どこかで!




