09 トカゲ式戦車『コモドラル』
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。
あと、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
リザドラルさんの病室を出て、自室に戻った私は・・・先ほど、夢の中に近い空間で剣の稽古をしてもらった事を、復習することにした。
・・・う。ちょっと見っとも無い姿を見られてしまったけれど、無駄ではなかったので良しとする。
まだ、私物などほぼ何も入っていない秘密結社メシア日本・東京支社内にて貰った自室を見回し、リザドラルさんが調達してくれたレジャー用の折り畳みテーブルを片付けて、準備を進める。
自分の刀に手を掛け、知識と経験の擬人化さんに習った事を復習し始めた。
ここ最近・・・というか、たった数日で多くの事が起こり過ぎていて、私自身もその変化に理解が追い付いていないのは間違いない。
剣を振るいながら、足の動かし方を気にしながら、知識と経験の擬人化さんより受けた攻撃を思い出しながら、今日までの事を改めて整理していく。
いえ・・・ちょっと情報量が多過ぎて、頭痛がしてきた。
その場に座り込んで、私はため息を吐く。
普通の女の子なら、ショックのあまりに寝込むような事だってあったのに・・・もう、次から次へといろんなことが起こり過ぎている・・・そもそも今の自分が普通ではない状況にあるというのも大きい。
ハッキリと言って、数か月は経過しているでしょ?って情報量ですよ・・・たぶん。
「うう・・・嘆いている暇すらないからこそ、こうしていられるのかもしれないけれど・・・」
静かな部屋に戻ると、やっぱり、ツラいと感じた事を真っ先に思い出す。
男二人組に身体を触られた事が、もっとも記憶に新しいせいで思い出してしまう・・・今の自分が、本当に普通じゃないのだと理解しなくてはいけないことを、理解してしまう出来事だから。
「・・・この記憶にある。平穏な日常は・・・戻ってくるのかな?」
リバースデイによって捏造された16歳までの日常という記憶。
戻ってくると・・・信じよう。信じたい。
「でも、今は・・・」
―――びー。怪異警報。怪異警報。怪獣怪異の接近を確認。怪獣怪異の接近を確認。出撃可能な職員は戦闘準備。出撃可能な職員は戦闘準備。
アナウンスと警報に、私はすぐさま刀を鞘に戻して部屋を飛び出す。
私にできることがあるのか?は、分からないけれども・・・部屋でジッとしているわけには行かない。
敵の狙いが私なら、私こそが情報を得ていないと動けない。
廊下を出て、警報から部屋を飛び出す人たちの姿を確認し、その人たちの後を追うように走る。
「ん? あんた、ナイトメアだね!?」
「はい!」
「新人は待機してな! 邪魔になるよ!」
「狙われているのは私ですから! 状況の確認だけでもしておきたいんです!」
ベテランの職員だと分かるオーラを感じ、その人に自分の気持ちを伝える。
「ふん。それもそうだ! 付いてきな!!」
「ありがとうございます!」
いい人だ。
今度、戦闘訓練とかのやり方などを教えてもらえたら、教えてもらいたいな。
そうして、廊下を走って数分すると・・・男女共に駆け込んでいく部屋を見つける。ベテランさんに手招きされながら、私もその部屋へと入った。
「んじゃ、あんたは部屋の隅で待機だ。いいね?」
「はい。案内してくださって、ありがとうございました」
丁寧にお礼を述べて、私は大人しく壁に背を向けて室内を見回す。
みんな真剣な眼で・・・ん? あれ? なんか私を見てる?
・・・皆さん。何かを考えているようだけど・・・なんだろう?
私が少し困惑していると、どんどん室内に戦闘員が走り込んできて、そうして支社長の紅葉朱雀さんが入ってくる。
「集まっているな!」
その言葉と共に、まずは現状の説明が始まる。
つい先ほど、東京都の外れに巨大な鳥型怪異が飛来した。すでに、ここ数日で東京都の外から怪獣怪異が集結している状況だが、さらに面倒な怪獣が出現したとのこと。
これには、ベテランの方々も「マジかよ・・・どんだけ必死なんだ連中・・・」と私をチラッと見て呟く人がそこそこにいる。
元は異世界人だった現在の怪異たち。再び生物への転生を求めて、イデスバリー戦士に自分の転生先となる身体を産ませることを目的にしているとのことだった。
「連中は、この鳥型怪獣怪異でここへ一気に攻め込む算段だろう。怪獣のサイズと、飛来時の速度などから打って出るのは戦力を無駄に分散することとなる。よって、鳥怪獣がこちらへ向けて移動を始めるまでは動かない方針だ」
支社長の説明に、頷き返している人たちは結構いるみたい。
「また、先ほど大阪支社から予定されている増援のメンバーが決まり、出発準備に入ったそうだ。今、こちらの状況を伝えているが・・・さて、予定通りに新幹線で来るのか・・・飛行機で来るのか・・・とにかく、数時間後には到着すると思われる」
これには「おおーッ」という歓声が上がった。
「敵の狙いは、先日、当支社に加わった新人『イデスバリー・ナイトメア』であることは明白である。彼女を守ることが、最重要目的だ。敵を殲滅することは二の次で構わん」
皆の視線が、一斉に私へ向いた。
・・・重圧を感じる。
「すでに、皆には連絡済みだが・・・彼女は現代の我々とは異なる最初期の異世界人式イデスバリーで『リバースデイ』を迎え、このような状況に陥っている状態だ。大変な事態となったが、どうか頑張ってもらいたい」
全員が「はい」と声をそろえて応じてくれる。
「質問があります!」
集まっている方々の中から声が飛ぶと、支社長の朱雀さんが促す。
「なぜ、連中はイデスバリー・ナイトメアを狙うのでしょう? いくら『イデスバリー光』が抑制されている私たちと、抑制されていない彼女で違いがあるとはいえ・・・ここまでしつこく攻めてくるのは、解せません」
確かに・・・。
私が『誘蛾灯』みたいな状態にあるとはいえ、イデスバリー戦士は他にも居る。なら、私ばかりを狙わなくても・・・。
「明確な答えは、異世界人たちにも出ていないようだ。が、彼女・・・イデスバリー・ナイトメアが再誕する以前から、今日までに捕まえることに成功した人間憑依霊たち。連中に対して行われた尋問の記録を再確認したことから、ある推測がされた」
「・・・その推測とは?」
「うん・・・非常に不愉快なことだが、『イデスバリー光』が抑制されている我々は、ただの石ころと同様であり、抑制されていない・・・つまりは、光り輝く彼女は『宝石』に等しいのではないか?というものだ」
・・・え、えぇ。
私が、光り輝く宝石!? ありえないでしょ!!
なんでも「あの頃は良かった。宝石のような『光』に溢れていた」などの昔を懐かしむような証言を得ることが多いのだとか。
「尋問にて、そういう証言をするヤツが多い。というだけだが・・・」
「いえ、質問に答えてくださり、ありがとうございました」
とても「なるほどね」と言えるような推測ではないのだけど、ないのだけど・・・この場に集まった方々はどこか納得した顔になっていた。
「そりゃ、宝石が石ころばかりに混ざってりゃ、欲しくなるよな」
「確かに」
という感じのやり取りをしている人が、あちらこちらに・・・。
でも、想像してみれば・・・。
石が大量に積まれた山の中で、妙に光るモノがある・・・それを確認してみれば、それは宝石だった。と想像して・・・山を掻き分けてでも、宝石を手にしたくなる。と言われれば、分からないでも・・・いや、分かりたくないです・・・。
「ま、つまりは宝石強盗を撃退しろってことだろ?」
「お、そう考えると、ちょっと燃えて来るね。ル〇~ン。逮捕だーっ!てか?」
「そうそれ。やる気出て来た」
「俺も」
「そりゃいいね! でも、私としては怪盗〇ッドの方がいいわ。捕まえたい」
「あ、それ私も」
「はいはーい。その泥棒なら私もつかまえたーい」
・・・・・・みなさん。ありがとうございます。
「よし、敵が動き出すまで、各員は準備に入ってくれ! 徹夜も覚悟しろ! 防衛戦だ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
〇
私は、知識と経験の擬人化さんに、再度の稽古をお願いした。
敵が再び攻めてきている事で、また、あの二人組・・・いや、それ以上の敵に襲われるのではないか?という不安で身体が震えだしたから。
少しでも、彼らに抵抗する力を身に付けたくて・・・。
でも・・・。
「・・・急所を攻撃からの頭や首をバッシバッシ叩き過ぎなんですよ・・・」
今は、もう目を覚まして復習をしている最中であるけれど、夢に近い空間での稽古で初手『面』に見せかけた急所攻撃により、私は膝を付いて崩れ折れ・・・・それによる隙に頭と首と胴を滅多打ちにされた。
弱めに。
その結果、擬人化さんは口数が少ないけれど、つまりは「急所への意識が足りない。ルール無用の実戦に遠慮など無用。叩き潰してしまえ」という事を言われた。
実際に、あの稽古場で私はしばらく立ち上がれなくなり、ボッコボコにされたわけで・・・。
「うう・・・次は絶対に私がボッコボコにしてあげますからね・・・」
イメージのみの稽古に、自身の動きを加えた復習を行う事で、確かな技術を習得して・・・習得できているのだろうか?
こればかりは、実戦で確かめないといけないことだけど・・・。
「・・・敵は男性ばかりなのだし、効果抜群なのでは?」
急所攻撃が男性には圧倒的な効果があるということを思い出し・・・擬人化さんの指導はそれも加味されているのでは?と考えを改める。
不意に、男性の股間を蹴る。という想像をしてしまったのだけど、なぜだかリザドラルさんの股間を蹴り上げている自分を想像してしまった。
なんで?
≪やっほー! ナイトメアちゃーん!≫
心臓が爆発したような衝撃が全身を駆け巡り、すぐさま妙なイメージを頭から消して部屋のインターホンに走る。
そうして、インターホンの画面に表示されるリザドラルさんの姿を見て、私はちょっとだけ息を吐いた。
「はい。リザドラルさん・・・どうされたんですか? まだ退院じゃないですよね?」
≪そーなんやけども、敵が来るってことで残りの治療を前倒しにされたんよー。で、ナイトメアちゃんに付けって命令ももろたんやでー≫
・・・そっか!
「今、開けますね!」
部屋の鍵を解除して、リザドラルさんを招き入れる。
「どうぞ、何もない部屋ですが」
「どもども・・・あ、シャワー前で脱衣中だったとかじゃないよね?」
「ないです」
思わず胸元を抱きかかえるように隠してしまった。
前の失敗を思い出して顔が赤くなる。けれど、今回は大丈夫・・・。
「ちょっと前世の知識さんに再度稽古をつけてもらって、実戦に役立ちそうな戦い方を教えてもらったんです」
「ほぉーん。どんなん?」
「急所を蹴ってからの追撃って感じを」
リザドラルさんの股辺りを凝視しながら言うと、彼は顔を青くして両手で股間を隠した。
「なんという最凶の秘伝奥義を伝授されてんの!?」
そんなスゴイ技なんですか・・・。
男性なら、ほぼ間違いなく顔を青ざめさせる技らしい。教えてくれてありがとう。擬人化さん。
「いえ、別にリザドラルさんのソコを蹴るつもりはありませんよ」
「そ、そー? ふぅ・・・」
あからさまに安堵している。
「それよりも、敵の鳥怪獣が動き出したって連絡があった。すぐにでもここへ来るでー」
「そうなんですか!?」
―――びー。確認された鳥型怪獣怪異が移動を開始。確認された鳥型怪獣怪異が移動を開始。予測進路より、当支社へ強襲するものと思われる。予測進路より、当支社へ強襲するものと思われる。全戦闘員は迎撃せよ。全戦闘員は迎撃せよ。非戦闘員は支援行動に移行。非戦闘員は支援行動に移行。
・・・。
「リザドラルさん? 誰から連絡をもらったんです?」
「ん? ともだちからやでー?」
なるほど、怪異を観測している友達の方から、先に情報を貰ったわけですか・・・。
「それ、いいんですか?」
「しー。内緒にしてね~」
まぁ、いいですけど・・・。
「俺らも移動しよう。敵が大群なら、こっちは一騎当千でもしない限り勝ち目は薄いし」
「え? でも、この部屋なら私の光は漏れにくいので、敵からは隠れられるのでは?」
「いやいや、漏れにくいだけで、漏れていることに変わりないんよ? この秘密結社内に侵入される可能性は十分あるし、ここはこっちも万全を期すのがいいわけよー」
いいわけよー。と言われても、この戦闘は私を守ることが重要らしいから、下手な行動は皆さんの邪魔になると思う。
「ナイトメアちゃんのお父さんに会いに行こう。もしかしたら、君用の武器が試作できているかもしれんしー」
・・・武器。お養父さん。
「そうですね! 行きましょう!!」
私は、リザドラルさんの手を取って、部屋を飛び出した。
▽
〔ユキト!?・・・じゃなくて、ナイトメアだったな〕
リザドラルさんの案内で、武装開発などを行っている研究室の一室までやってきた私は、入室許可を得て中へ。
「ううん。ユキトでいいよ。お養父さん」
〔おぅ。で? どうした?〕
「うん。私の武器開発って、どんなかんじかな?って思って」
研究室には、他にぬいぐるみ人形が数名と、イデスバリー戦士の方が十数名ほどいる。
その中で、部屋の奥まったところに人が集まっており、何かを組み立てている?ように見えた。
〔ああ・・・まぁ、向こうから取り寄せた素材と、現代地球の科学を組み合わせた最新武装の開発は、俺が関わるよりも前から進んでいたようでな・・・俺の方で手伝わせてもらって、つい昨日だが試作品が完成した〕
まだ数日なのに、もう完成したんだ・・・試作品だけど。
〔ユキト用ってわけじゃない。あくまでも、長年の研究で開発が進められていた物が完成したってところだ〕
そう説明してくれると、近くに居た異世界人アバターがこちらに寄って来た。
〔ご謙遜を! 我々が長年開発に着手して完成せずにあった物を、わずか数日で問題点を見つけ出し、改善し、試作品の完成に導いてくださったのですから、先生の手腕はお見事です〕
〔そうですよ! 先生が異世界転移して行方不明となってから、ずいぶんと時間が経ったというのに、我々の体たらくっぷりに、自分自身で落ち込んでしまいます・・・〕
〔お、おまえら・・・そう褒めてくれるな・・・恥ずかしいだろ〕
あ、お養父さんがとても恥ずかしそうにしてる。珍しい・・・。
でも、異世界で二勢力から協力を求められるだけの実力が、お養父さんには確かにあるんだ。凄い。
〔さぁ、お嬢さん。こちらへどうぞ〕
「え? 私?」
ぬいぐるみ人形さんに呼ばれ、私は部屋の奥まで案内される。と、集まっていたイデスバリー戦士の方々は退いて、隠れていた武装が姿を見せる。
「・・・すごい」
それは、大砲だった。
取っ手などが付いていることから、手持ちで使う武装なのだと思うけど・・・。
〔これは、地球用の仮名ですが『イデスバリー・キャノン』と言いまして、イデスバリー戦士のエネルギーを供給することで、稼働し、弾丸等をエネルギーで生成し撃ちだす武装なのです〕
〔我々の世界では、すでに古い技術なのですが、地球世界では再現するのに数十年も掛かりました。科学技術の向上により、ギリギリでの再現ですね〕
現代科学でギリギリ再現できた。っていうレベルの差なんだ・・・異世界凄すぎ・・・。
お養父さんが、ちょっと誇らしげにしているのがカワイイと思いつつ、研究室のアバターさんたちから使い方の説明を受ける。
私が最初に感じたモノと同じようで、手に持って運ぶタイプの武装らしい。
一応、戦車などに乗せる予定ではいるらしいけれど、それにはまだ時間も足りないし・・・そもそも戦車の調達が難しいらしい。
表向きは世界的大企業でも、日本で戦車を保有しようっていうのが難しいと思う。
〔ナイトメアさん。コレを持ってみてはもらえませんか?〕
「え!? 私が持つんですか!?」
なんでも、設置状態から発射するのは、ここにいるスタッフでもできるけれど、非戦闘員なので戦線で持ち運ぶことはまずないために、戦闘員の私に試して欲しいらしい。
勧められ、断る理由も特にないので、促されるままに大砲の取っ手を掴み・・・持ち上げてみる・・・んだけどもぉ・・・お、おもいぃ・・・こ、これ、とてもじゃないけど、持てない!!
私が、取っ手しか掴んでいないからかもしれない。と思って、大砲を抱きかかえるようにして持ち上げてみることにする。
「「「「「「おお!!」」」」」」
え? なに? 持ち上がった?
スタッフ一同の歓声が聞こえたので、持ち上がったのかな?って思って確認してみると、全然持ち上がっていない。
・・・んー?
「あの、今の歓声は何ですか?」
「「「「「「すみません。なんでもないんです」」」」」」
全員が私から顔を逸らした。
・・・。
・・・・・・なにかな?
〔こうなると、やっぱり車両に載せるしか運用できそうにねぇな〕
〔いえ、しかし難しいことですよ。表向きの会社は、車両関係には手を出していません。日本企業が技術的に世界シェアを握っていますからね。異世界技術をまるごと持ってくれば、奪取は可能ですが・・・ハッキリ言って、地球文明が大混乱になるので許可も出ませんし〕
・・・大混乱になるほどの車両技術って?
「んじゃま。俺にも試させてくんれーい」
それまで空気状態だったリザドラルさんが、ここで声を上げる。
そして、皆が「あ、そういえば居たんだった」という顔でリザドラルさんを見て、ぜひ試してください。と促した。
「ほーん・・・ちっと重いね・・・」
リザドラルさんはトカゲ怪人の姿をしているためか、それはもう凄いパワーだった。
私が抱きかかえても持ち上げられなかった大砲を、抱きかかえて持ち上げることに成功する。重いけれど、運ぶだけならできるという。
「けど、これ・・・運んで、設置して、発射して、また運ぶ。を繰り返すのはツラいっすわー」
〔確かにな。運びながら発射もできる戦車風にできると楽なんだが・・・〕
「それなら、俺にいい考えがあるっすよー」
〔ほぉ? どんな考えだ?〕
「俺の背に載せるんよー」
・・・・・・・・・・。
研究室が静まり返る。
〔何を言ってんだ? 怪人姿のおまえじゃ、歩きにくくなるだけだろ?〕
「そうですよ。リザドラルさん。機動力が無ければ、ただの背負いものじゃないですか?」
「ふっふー。病室でも話をしたっしょ? 前世の知識にゴチャゴチャ言われたんで、ペットショップを回ってトカゲを観察したんやで?」
「そう言っていましたね」
「それにより! 俺は新たな力を獲得していたのだ!! 使う機会が無かったんで誰にも見せたことないすけどもー」
新たな力を獲得していた!って言われても・・・トカゲ怪人の新たな力というと?
「見せてやるぜぃ! 試した時に、なんの意味があるねん!って思わず叫んじゃった無駄形態!! 獣身モード!!」
獣身モード!!?
リザドラルさんが、その両手を床に付けると・・・四つん這いの格好になり・・・身体の骨格が変形を始めて紛う事なきトカゲになった。
「・・・と、トカゲ」
「あれ、コモドドラゴンか?」
「アレよりもデカいだろ。三倍か? 四倍あるか?」
〔おお、まさかこんな形態変更能力があるなんて聞いた事もないぞ!?〕
〔す、すごい! すぐにデータを取らないと!〕
〔こんな凄い形態を会得して、今日まで秘匿するなんて!〕
イデスバリー戦士の研究者たちは、みんなコモドドラゴンという世界でももっとも大きいとされるトカゲを連想してドン引きしているけれど、異世界人アバターの研究者たちは大興奮している。
私はと言えば・・・ドン引きしたいけど、そこまで嫌悪感は無い。という感じ。
でも、えーっと、怪人姿よりはトカゲ色が強いので、ちょっと、その・・・えーっと、触りたくはないかなー?って思ってしまうんですね。
あ、でもでも、虫よりは爬虫類の方が触れるので、それはそれで・・・なんの言い訳しているんだろうか? 私・・・。
「どやー? このサイズなら載せられるんじゃね?」
〔ああ。確かにこのサイズなら載せられるが・・・こうなると、人型にもどれねーぞ? 大砲を放棄するなどしない限りな〕
「ま、ま、今回はそれでいっすよー。アリアネルさんから右手は完治させたけど、殴るなどで使うのはダメって言われてますんでなー」
え、そ、そうなんだ・・・ムリしちゃダメって言われているんじゃないですか。
「無理しちゃダメなら、まだ安静にしているべきですよ」
「いやいや。ゆっくり休んでられんてー。みんな、戦いに出るんだからさー」
・・・うん。そうですね。
―――びー。鳥型怪獣怪異が当支社上空に到達。鳥型怪獣怪異が当支社上空に到達。怪異式リバーシブル・フィールド展開を警戒せよ。怪異式リバーシブル・フィールド展開を警戒せよ。本戦闘はこれより『ウィアード・フィールド』内戦闘へ移行する。本戦闘はこれより『ウィアード・フィールド』内戦闘へ移行する。各員、装備と薬の確認急げ。各員、装備と薬の確認急げ。
「・・・ウィアード・フィールド?」
「怪異式リバーシブル・フィールド・・・通称『ウィアード・フィールド』やね」
ウィアードって、確か『奇妙』『不気味』『風変り』などの意味を持つ英語だったと思うけど・・・。
「自然発生するリバーシブル・フィールドは、俺たちにも怪異にもメリットがある中立的な空間だけど、『ウィアード・フィールド』っていうのは、怪異の能力を大幅に上昇させ、イデスバリー戦士の体力と気力を削ぐデバフ効果を付与する結界術だと思えばいいよー」
そ、そんなモノを展開できると・・・。
あ、まさか怪獣怪異って・・・。
「お? その顔は気づいたかな? まさに怪獣怪異こそが結界を展開するための装置みたいなもんなんよ」
「やっぱり、そうなんですね・・・」
「そそ。リバーシブル・フィールドが展開されていたとしても、怪獣怪異にフィールド展開させることで、リバーシブル・フィールドの上書きも可能という厄介さ。だから、怪獣怪異が現れたら、優先して潰さないと、こっちが不利になる・・・って話しらしいんよなー」
「・・・今までに経験は?」
「ないでー。座学では、ここ十年くらいは怪獣怪異によるウィアード・フィールドの展開は確認されてないて話しやったなー」
・・・それが、今日のこの時に発生する。
〔どうやら悠長にしている時間は無いようだ〕
お養父さんがアナウンスを聞いて、機械に走り出す。
〔先生! 我々は避難しないとマズいですよ!〕
異世界人アバターの一人が、機械作業を始めるお養父さんに駆け寄って言うものの。お養父さんは首を横に振って拒んだ。
〔避難することしかできないからこそ、わずかでも戦力になるものは送り出すべきなんだ!〕
機械を操作すると、怪物トカゲとしか言いようのない姿に変形したリザドラルさんに、作業台座への移動を促す。
その移動姿が・・・本当にもうトカゲとしか言いようが・・・いや、もうトカゲなんですけども。
「よし! 俺らも作業に掛かるぞ!」
「イデスバリー・キャノンをトカゲの背に載せるんだな?」
「ちょいまてーい! トカゲ言うなーッ! ライディング・リザドラルとよべーい!」
・・・・・・。
ライディングって、確か『○○に乗る』って意味だったと思うんですが? 私の間違いかな?
「コモドラルでいいだろ」
「コモドラルでいいな」
「コモドラルの響きが妙にウケるーッ」
皆さん、途端に大笑いしながら作業場を走り回りはじめ、キャノンをリザドラルさんの背に載せるための台作りなどを突貫で進めていく。
〔・・・やれるだけのことをやりましょう〕
〔そうですね。できる事を〕
〔先生! 補佐します!〕
〔おう! そっちで8-2回路の調整をしてくれ!〕
・・・異世界人アバターの研究員たちも、それぞれに作業を始め、イデスバリー・キャノン用のマウントラック?というモノが突貫工作されて、リザドラルさんの背に載るように調整しつつ進められていく。
全身に悪寒が走ると、鳥肌が波打つように立って、とてつもない気持ち悪さに吐き気を催した。
「う・・・ぅぐ・・・」
「来たか! ウィアード・フィールドが展開されたんだ!」
私がこみ上げてくる吐き気に口元抑え、胸元に手を当てて堪えている中、リザドラルさんが殺意を漲らせた目で天井を見上げつつ、現状を教えてくれる。
「ひ、秘密結社内だというのに、なんて気持ち悪い空気なんだ・・・」
研究員の一人が言うと、その他も同意していく。
私も同意する。
〔この秘密結社内まで影響が出るってことは、相当に強い力が作用しているってことだ・・・〕
お養父さんが不安を顔に出して周囲を見回し、けれども「やる事は変わらん」と皆を励まして作業を続行する。
そうして、突貫作業となったけれども、リザドラルさん・・・いや、コモドラルさんの背にイデスバリー・キャノンが装着されて、まさにトカゲ式戦車・・・戦車じゃないけど・・・が完成した。
「よっしゃ! ナイトメアちゃんは俺に乗って! 背中の大砲は君に任せた!」
「はい!」
私がリザドラルさんの背に乗ろうする前に、お養父さんからメガネ・・・いや、大きさからして保護メガネと言われるタイプのゴーグルを渡される。
〔照準補正や、キャノンの操作手順などをガイドするモノだ。使え〕
「うん。ありがとう!」
ガイド用ゴーグルを受け取り、コレを装備してから改めてリザドラルさんの背に乗る。
「よーし! 落ちないように気を付けてーッ!」
「では、お養父さん! 皆さん! 行ってきますね!!」
〔頼んだぞーッ!〕
「頑張ってくれーッ!」
研究室の扉が開き、私たちは外へと飛び出していく。
「・・・美少女に乗ってもらえるとか、羨ましいヤツだよ」
「「「「「「まったくだ」」」」」」
最後のは聞こえなかったことにしますッ!!
次回は、秘密結社メシア日本・東京支社、襲撃。を予定しています。敵側視点でのお話になると思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。