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08 次なる不穏

こんにちは。こんばんは。


この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。

あと、ご容赦ください。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

―――リバーシブル・フィールドの自然発生を確認。リバーシブル・フィールドの自然発生を確認。怪異警報。怪異警報。


 病室に木霊する警報を聞き、アリアネルさんに追加治療を施されたリザドラルさんが一瞬だけ、殺意を目に宿す。

 だけど、即座に呆けたような目に戻ってしまった。

「ナイトメアさん。あなたは社内で待機ですよ」

「はい。支社長にも言われているので・・・ここで待っているつもりです」

 アリアネルさんの言葉にうなずき、私はリザドラルさんの病室で事の成り行きを待つこととした。

 そうして、アリアネルさんとカマイタチさんはリザドラルさんの病室より出て行く。何かあれば、呼び出し用のボタンが壁にあるから。と、教えてもらい、呼ぶようにと言われる。


 そうして、病室には私とリザドラルさんのみとなった。

「すみませんでした。せっかく逃げる時間を稼いでくれていたのに、敵に掴まってしまって・・・」

「しゃーないさー。ふたりくみはむりすわー・・・しかも、かまいたちさんすらくせんするようなやつあいてしゃねー」

 確かに・・・。

「あの時、何かに掴まれたとか、壁に激突したとか、そういう感覚は無かったんです。けれど、身体がまったく動かなくなって・・・」

「あー・・・それはおそらく、ほるたーかいすとけんしょう。たとおもうなー」

 ・・・ほるたーかいすと懸賞?

 ・・・・・・あ、ポルターガイスト現象!?

 たしか、心霊現象の代表みたいなヤツだったかな? いきなり者が動いたり、部屋が震動したり、などなどの怪奇現象の一つ。

「あれ、いわはさいこきねしすみたいなやつなんすよー」

 ・・・サイコキネシス?

「きみのからたをつつむように、ちからてかこんて、こー・・・たいふくみたいにしてかためたんたとおもうっすー」

 ・・・う、うん?

 ・・・えー、私の身体を包むように? 力を禍根・・・いや、囲む・・・で? たいふく? 隊服? いや、包むのだから? あ、大福! 大福みたいにして固めた!

 ・・・その場合、私は餡なのでしょうか? イチゴなのでしょうか?

「いえ、まぁ、餡かイチゴかは置いとくとして・・・」

「おれ、くりたいふくかすきなんすわ」

 ・・・あ、はい。

「とにかく、私をサイコキネシスみたいな力で栗大福のように固めた!ってことでいいですか?」

「そっすー」

 なるほど・・・それで私は身体が動かせなくなっていたのか・・・。

「その場合、どう対応するのがいいのでしょうか?」

「はー? とーなんしょー?」

 リザドラルさんでも知らない?

「おれはみけいけんすから、かくしつしゃないすけとー・・・たふん、しふんのたいないていてすはりーこうをねって、そとへほうしゅつするかんしてこうけきすれは、なんとかなるんしゃないかなー」

 ・・・う、うん?

 ・・・えーっと、リザドラルさんは未経験だから確実じゃないけど、自分の体内でイデスバリー光を練って、外へ放出するように攻撃すれば、なんとかなる。かも?ってことだね。

 長文は聞き取りづらいです。

「イデスバリー光を練る・・・それはつまり、気を練るってことですよね?」

「そっすー」

「私、練り方とか知らないんですが?」

「え? むけんいっとうりゅーって、つかってますやん?」

「夢幻一刀流は、剣術ですし・・・」

「いや、それてわさをつかうときにねってますやん?」

「え? 練ってるんですか?」

 

 ・・・・・・・・・・・。


 室内に、何とも言えない微妙な空気が流れた。

「むしかくてつかってんすか・・・てんさいかよ」

「褒められていると受け取りたいですが、バカにされている気がするのでムカッとしておきます」

 口をへの字にしておく。

「いやいや、ましてすこいことなんすよ? そういうのって、ますはくんれんしょてしっかりとおしえられるんよー。おれもそやったからねー」

 ・・・そういえば、今の私は本来の手順を飛ばして、いきなり実戦をしている状態なのだと言われていた。

 気の練り方も、そういう基礎的な訓練を受けて習得するものなんだ・・・知らないわけだ。

「ほんと、ナイトメアちゃんのせんせはとんなひとやったんやろね? ひとつたけいえることは、たつしんてもかなりうえのひとたったろうってことー」

 ・・・そろそろ聞き取り辛くなってきた。

 でも・・・そうか。それだけの実力があったのであれば、やっぱり教えを乞うのが一番なのかもしれない。

「リザドラルさん。私、自分を強くするためにも前世の知識に稽古を付けてもらいたいと思っているんです。なにか、いい方法をご存じですか?」

「さぁ? そういうのはししゃちょーとかのほうかくわしいきかするよ?」

 確かに、やり方は支社長に教えては貰ったけど・・・リザドラルさんなら、もっと簡単なやり方を知っているかな?って期待してしまった。

「・・・まー。てっとりはやいほうほうは、せんせのせんすをせんめんきょひしてやれはいいとおもう。おれも、かっこいいヒーローをイメージしてたら、このとかけかいしんすかたたからねー。すっともんくしかいえんかったわー」

 ・・・。

 ・・・・・・えぇーっと、さすがに長すぎて聞き取れなかった!

 手っ取り早い方法は・・・て、知ってるんじゃないですか! で? せんせ・・・前世の扇子?いや、センスを洗面鏡・・・全面拒否?すること・・・て、それは支社長が「最終手段」とか言っていた方法じゃないですか・・・。

 まぁ、トカゲ怪人の姿に文句を言いたくなるのは、理解できますけども・・・。

「それ、支社長には最後の手段にしておけ。と言われました。下手すると、ボッコボコにされてしまうようです」

「そーなん? おれのときは・・・なせ? とかけたちのみりょくかわからないの!?と、えんえんととかけのみりょくをかたられつつけ・・・つよくなりたいなら、とかけとなれ。といわれたすね・・・」

 トカゲの魅力を理解しろ・・・て、かなり過酷な・・・前世がトカゲ好きだというのは分かったけれど、それを来世に押し付けるというのは・・・。

 さらにはトカゲの魅力を語られ、強くなる方法がトカゲに成れ・・・は、うーん。

「しゃーないんて、とないのはちゅうるいをあつかうみせをめくって、とかけをみてまわったんよー。なんもみりょくがわからんくてつらかったわ・・・」

 ・・・前世の趣味を押し付けられただけですものね。

 私だって、この格好にどんな意味があるのかが、理解できませんからね・・・。

「まぁ、きみなら・・・ほうけんとかはかなくても、けいこをつけてほしい。ってつよくおねかいすれは、おうしてくれるんしゃね?」

 私なら宝剣? いや、冒険? ちがう。暴言かな?とか使わなくても、稽古を付けて欲しいと言えばいい。ってこと?

 なぜ私なら?

「なんで私なら。とか言うんです?」

「・・・いや、たってねー?」

 私の胸を見ながら、何を言い淀んでいるんですか? か?


―――リバーシブル・フィールドの消失を確認。リバーシブル・フィールドの消失を確認。各戦闘員は順次帰還を開始してください。通常空間復帰まで、およそ5分。人工フィールド展開準備。各戦闘員は順次帰還を開始してください。通常空間復帰まで、およそ5分。人工フィールド展開準備。


 ・・・言っていた通り、今回はずいぶんと早いフィールド消失だ。

 敵の狙いは、部隊展開の隙間を突いて、私を連れ去る事だった・・・あの二人だけじゃない。今日に、リザドラルさんと二人で浮遊霊退治をしていたならば、昨日の二人組以上の人数が・・・。

 無数の手が、指が、私の身体を掴み、なぞる・・・そんな幻覚を見てしまう。

「こきゅーをするんよー」

 ハッとなって、私は息を吸う。

「ゆっくりとはいてー、すってー、りさとらるさんすてきー」

 ゆっくりとはいてー、すってー、リザドラルさんすて・・・。

「なにを言わせようとしているんですか!!?」

 危うく思ってもいない事を口走ってしまうところでしたよ。

「ええやん? すてきやろん?」

 左手を自分の頬に寄せて指をたて、茶目っ気たっぷりにウインクをしてくる・・・。

「どの辺がステキなんでしょう? ステーキの方が似合うと思いますよ?」

 なので、私は目が笑っていない笑顔で返答した。

「うひー。こっわ」

 ニカーッと笑って誤魔化しても、誤魔化されませんからね?

 まったくもぉ・・・あれ? でも・・・あ・・・。

 ちょっとだけ、リザドラルさんの顔を見たら、なんだか私の顔が火照ってしまった。く・・・。

 自分で想像して、自分がまだ見ぬ敵に襲われる幻覚を見てしまったけれど、この人が思考を別の方向に引っ張ってくれたから・・・。

 あとで、リンゴぐらいは剥いてあげようかな?


「ま、ま、せっかくたし? ここてせんせのちしきにけいこをおねかいしてみれは?」


 ・・・ここで、前世の知識に?

 うん。やってみよう。ここなら、リザドラルさんもいるし・・・不安はない。

「分かりました。やってみます」

「うんうん」

 私は、一応目を閉じる。

 こういう精神を統一させるような事は、やっぱり目を閉じるのが一番だと思うから・・・。

 そうして、前世の知識に働きかけて・・・稽古を付けてもらえるようにお願いを強く念じる。今日までに、念じることが大切であることは学んだつもりですので。

 閉じていた視界に、パパパッと光が点滅する。


―――稽古か?―――


 目を閉じている私の視界に、字幕のように言葉が表示されると・・・だけど、声などは聞こえてこない。

 ゆっくりと、閉じていた目を開いてみれば、目の前には剣道の防具を身に纏い、その手に竹刀を持って静かに佇む男性がいる。

 前垂れに『夜乃』と刺繍されていることから、私の前世・・・前世? 防具の面・・・その奥にあるだろう顔が黒く塗りつぶされていて、光がどのようにあたっても、顔は見えないだろう状態にある。

「は、初めまして? 私の前世さんでしょうか?」


―――違う。知識と経験―――


 前世の記憶は『変身する能力』に使われいるため、ここにあるのは前世の知識と経験のみ。つまりは、その擬人化?ということかな?

「そう・・・ですか。あ、私は―――」


―――無用だ。稽古か?―――


「そ、そうです! 私、自身を守るためにも、他の方々の足手まといにならいためにも、強くなりたいと思いまして!」


―――わかった。―――


 言うや否や、その竹刀を私に向けて構えてくる。けれど、話しが早くて助かるのだけど、ちょっと待って欲しい。

「あの、気の練り方ってご存じですか?」


―――知らん。―――


 えぇ・・・。


―――知識と経験に、気の練り方というものはない。―――


 あ、そうか・・・『気』というモノは、考え方としてあったとしても、普通の人間だっただろう前世では使うことなどできなかっただろうから・・・きっと、そういう訓練はしてないんだ。

「すみません。余計なこと聞きました。稽古をお願いします!」

 私は、夢幻一刀流・抜刀術の構えを取り、今度こそ稽古を始めるべく身構える。この技は、夢幻一刀流の初手。この技より始めることに意味がある。

 使っていると、そういう意識が芽生えてくるわけだけど、その理由などは分っていない。なので、丁寧な説明を受けられるかな?とも思ったけれど、口数は少ないみたい。

 

 他の方々も、同じような感じなんだろうか?


「行きます!」

 相手との距離を一気に詰めて、刀を抜刀する。

 そこに、相手もまた剣道の『面』を打ち込んできた。

 刀と竹刀がぶつかるわけだけど、どう考えても刀の方が切れ味があるのだから、相手を切ってしまうのではないか?

 そう思った時・・・。

 

 ぱきん


 軽快な音とともに、私の刀が折れて・・・相手の竹刀が刀を越えて私の額を強打した。

「あたッ!!」

 そのまま地面に倒れ込んで、そして折れた刀を見る。

「・・・なんで?」


―――斬る相手に、手加減したな。折れた原因だ―――


「え?」

 なんで手加減したら折れるんですか・・・。


―――ここは、夢の中に近い場所だ。イメージが反映される。手加減したことで、刀が脆くなり、俺の竹刀の一撃で折れた。それだけのこと。―――


 あ。

 竹刀ごと相手を切ってしまうのでは?というイメージ・・・アレが原因。


―――戦いに手加減など無用。敵は殺すつもりで斬るべし。―――


「でも、相手は怪異に憑依されている人間であって・・・」


―――関係ない。―――


 そうかもしれませんけど・・・。

 今の時代に・・・人殺しなんて・・・でも、不意に体をまさぐられた事を思い出す。自分が彼らの命を尊重して、そういう目に遭う事を許容するのは、とてもじゃないけれどできない。

  

―――心構えだけでいい。敵とて、生きるため、簡単には死なない。―――


 ・・・そっか。私が手加減などを考えずとも、相手が防いだり避けたりしてくれる。そう考えて、全力で打ち込めばいい。

 そういうこと?

「・・・もう一度、いいですか?」


―――来い。―――


 私は、もう一度・・・夢幻一刀流・抜刀術の構えを取る。

 いつのまにか、折れた刀は元通りになっており、さっきよりも手に馴染む感覚を得る。この一撃ならば、きっとこの人に届く。

 駆ける。

 地を蹴るように飛び出して、知識が放つ『面』の一撃に正面から抜刀術をぶつける。

 そして、刀は竹刀の半ばまでを斬るも・・・止まってしまった。


―――わずかな躊躇いが原因だ。―――


 うう・・・すぐには心構えも出来ませんよ。


―――だが、いい太刀筋だった。稽古を続けよう。―――


「はい!」

 そうして、抜刀術から斬撃術など、私が前世の知識に働きかけて得た技を次々に叩きこんでいく。も、それらを竹刀で軽々と捌かれ、技の掛け方や組み合わせを変えたりして何度も挑んだ。

 知識と経験の擬人化さんは、それはもう鬼のように強く、そして孤高と言える圧を放って、私を正面から叩き伏せてくる。

 私が息切れをしてきたところで、稽古は終了となった。


―――ここは夢に近い空間。イメージのみの稽古となる。そちらへ戻ったら、自身の身体でしっかりと復習しろ。―――


「はい。ありがとうございました」



「あ、おかえりー」

 ・・・リザドラルさんの声で、私は目を開いた。

 ふかふかのベッドに頭を突っ込んでいて、両手で身体を起こして見れば、口から涎が流れ出ていることに気づく。

 ・・・気づくけど、頭が妙に重く感じる上に、全身が怠い。

「す、すみません。寝ていたようです」

 涎をそのままに、寝ていた?ことを謝っていると・・・リザドラルさんがティッシュの箱を私に差し出しながら問いかけて来た。

「あれ? せんせのちしきにけいこをつけてもろたんとちゃうんかー?」

 ティッシュ箱を受け取り、数枚を取り出して口元を拭いながら、私は訂正する。

「いえ、確かに・・・稽古をお願いしたら、思いのほかあっさりと出てきました。口数は少ない方でしたが、とても丁寧な指導を受けまして・・・痛かったですが・・・」

「ほーん? おれのときとはちかうね・・・ひとによってちかうんかなー?」

 軽く頭を傾げつつ、頬のあたりをポリポリと掻いている。

「そうなのかもしれないですね・・・」

 私は、先ほどの時間に行われた稽古の内容をリザドラルさんに話した。


「ふむふむ・・・なるほとねー。まぁ、さきゅはすせんはいのゆめにはいるのうりょくとおなしすな」

 あ、そういえば・・・サキュバスさんは夢に入る能力があって、徹夜したのと同じになるって言ってた。アレと同様の状態だったのかな?

「そーいやー。おれもさんさんとかけのはなしをきかされて、なんかてつやしたようなかんかくになったっすなー」

 散々、トカゲの話を聞かされたんだ・・・。

 他の人たちにも、いろいろと聞いてみても大丈夫かな?

「リザドラルさん。私、強くなれるでしょうか?」

「さー? あとはナイトメアちゃんのやるきしたいしゃね?」

 ・・・ここは「なれるよ」って言うところでは?

「おれししん、そんなつよくはねーから・・・あんいになれるていえねんわー」

 ・・・。

 ・・・・・・。

「そんなことないですよ。私のこと、逃がすために身体を張ってくれたじゃないですか」

「うへへ。かっこつけたかったのもあるんたなー」

「頭が陥没するほどのダメージを受けて、それでも救援を呼んでくれました」

「あー・・・そのへんのきおくはほほないんたなー・・・なんか、こう・・・どこかからなにかをみていたかんかくてー」

 記憶がない? どこかから何かを見ていた感覚?

 ・・・それ、本当に死にかけていたんじゃないですか。ほ、ホントに・・・。

「うぉ!? なんてないてるん!?」

「だ、だって・・・」

「ぉぉぉぉ・・・なんかこめんよー?」

「いえ、別にリザドラルさんが謝ることじゃないですから」

 まだ持っていたティッシュ箱からさらに数枚を手に、零れてきた涙を拭う。

「ま、ま、てもさ? とりあえすは、せんせのちしきからけいこしてもらえはええやん? いまはそれをかんはっておけはたいしょーふやで! おれも、とかけをしるためにへっとしょっふをまわったからか? ちょっとだけうこきがよくなったんよー?な、きかするようなー?きかする・・・」

 今は前世の知識に稽古を頑張っておけば大丈夫・・・。

 リザドラルさんも、ペットショップを回ったら動きがちょっとだけ良くなった?気がするような気がする?

「なんですかそれ・・・ふふふ」

「お、わらったねー? よたれかおもええけと、えかおのほうかかわいいて!」

 ・・・途端、私は顔が真っ赤になったと分かるほど、頬が火照った。




●-東京。某所-●


 東京都。

 日本の首都と言われれば、きっと高層ビルなどがたくさん並ぶ大都市。をイメージする者は多いだろう。そんな都の外れにある昭和時代の古いビル。

 ここに、人間憑依霊たちは集まっていた。

「どういうつもりだ!? 勝手な事をしてくれて!!」

「おや? 先に私を含めてみんなを除け者にして行動していたのは、ドタマさんではありませんか?」

 ここに、二人の男が殴り合える距離で睨み合っている。

 そんな二人を囲むようにして、数名の男たちは静観するようだった。

「俺の計画なら、あの『光』を! 今日! イデスバリー戦士どもから奪取できたんだ! そのための戦力だって用意していたし、実際に送り込んだ! それがどうだ!! 話が違う!と、クレームの嵐だ!! 俺の信用問題に関わるんだぞ!!」

 ドタマと呼ばれた男は、それはもう顔が真っ赤になるほどに激昂している。

 それもそうだろう。彼こそが、ここ数日におよぶイデスバリー戦士への襲撃を企てた存在なのだ。そして、その企てを聞いて便乗する者たちが、ここに集まっている。

 しかし、そんな計画を知らされていなかった男・・・ナンシーは、ここ最近はよく行動を共にするランボーと共に、勝手な行動を取った。

「あなたの計画だということは、すぐに分かりました。その狙いもね。向こうも、怪獣怪異の集結やらなにやらで前例がないことに戸惑い、その動揺によって部隊配置などが杜撰になったことも、なかなかよくできた計画だったと言えるでしょう」

「なんだ? 俺の計画には穴があったと言いたいのか?」

「そうです。 あなたの計画には大きな欠陥があったのです」

 その欠陥とは?

 集まる者たちが、ニヤニヤと次の言葉を待つ。

「それは、あなたが声をかけて集めた数十名の人間憑依霊ですよ・・・彼ら、まだまだ知性がさほど高くない若者ばかりで、確実に『光』の奪取には失敗したでしょう」

 断言するナンシーに、歯茎をむき出しにして食いかかろうとするドタマであるが、ここで静観していた者の一人から声が飛ぶ。

「あら? ナンシー。どうして血の気が多い若い子たちが失敗すると?」

 艶やかな仕草で尋ねる。

「ニャランさんも、すでに察しは付いている事でしょう。が、説明します」

 一度、息を吐いた。

 正直、ただのサラリーマンでしかないこの身体で、ここに集まる者たちを相手するのはツラいと考える。

 癒しが欲しい。帰りにモフモフカフェへ行こう。そう決めた。

「なぜなら、彼ら若き憑依霊は『光』の魅力というものを知らない。ここに居る皆さんは、古い時代から今日までを生き抜いて来た猛者です。かつて、外を歩けばイデスバリー光に満ちていた時代を知らないために、この時代に再び現れてくれた『光』を間近で見てしまえば、その圧倒的魅力に理性を保てず・・・怪異の本能が、かの『光』に転生先となる肉体を求め、暴走すると予想したのです」

 彼の長々とした説明を黙って聞けば、しかし、この場に集まる者たちは頷き返して肯定する。

 顔を真っ赤にして激昂していたドタマという人物さえ、反論できない。というように、ただ握り拳を震わせるばかりで足を一歩、後退させた。

 

「たしかにねぇ~・・・昔は、外を歩けば『光』に溢れていたものねぇ・・・」

 長い髪をたくし上げて、今は見なくなった過去を思い出す。

「いつの時代からだろうな・・・こんなにも『光』が消えてしまったのは・・・」

 外を歩けば、当たり前のようにいた『光』を・・・いつの間にか見なくなった。

「連中のいう『魔王転生』も、魅力的な『光』がなくなったせいで、ヤル気でねぇしな・・・」

 美しい『光』を放つ者こそが、自分に相応しい。だから、相応しい『光』を厳選し続けた。

「リバーシブル・フィールドが発生して、連中を見つけても・・・肉体を産んで欲しい。と思えるほどの魅力を感じなくなったのは確かだな」

 食料としての不足は無いが・・・光が弱過ぎて魅力を何も感じない。

「今の新人人間憑依霊たちじゃ、確かにあの『光』を間近で見れば、理性を保てるとは思えん」

 思い出す『光』の魅力。それは、何よりも欲しい。と思える力。

 

 それぞれが、過去に思いを馳せているのを察し、しばし無言だったナンシー。

「・・・有象無象の石ころばかりとなった中で、煌々と輝く宝石を見つければ・・・それに手を伸ばさない者などいないのですよ」

「むぅ・・・その可能性を、考えられなかったな・・・ナンシー。言いたいことは山ほどあるが、おまえの言い分はあり得る事態だと認めよう・・・」

 ドタマは、素直に自分の考えが足りなかったことを認め、引き下がる。

 しかし、ただで引き下がるつもりはない。

「だがな? 計画を潰されたことに変わりはない。もちろん、おまえが収集した情報は提供してもらえるんだろうな?」

 ナンシーは、ドタマを見つめながらわずかに目を細める。

 できるなら、得る事ができた『光』に関する情報は独占しておきたい。しかし、ここで秘匿すれば間違いなく静観している彼らが動く。

 逃げるのは得意でも、顔馴染みたちから逃げるのは至難の技。

「もちろんです。ドタマさんの計画だろうと思いつつ、邪魔にならぬよう動いたつもりでしたが・・・なかなかに根性のある戦士がいましてね」

「俺の拳を受けたにもかかわらず、意識を回復させて救援を呼ばれたっぽいんだ・・・あのトカゲ、只者じゃないぜ・・・」

 ランボーが、口の端を楽し気に吊り上げて言う。

 ドタマは、口をへの字にしながらも彼の様子をしっかりと観察し、そして本題の続きを促す。

「もはや終わってしまったことはいい。しかし、得たのだろう? この世に再び現れてくれた『光』の情報を!」

 その瞬間、この場に集まった全員が目を輝かせる。欲望に満ちた濁った光に。


「もちろんですよ。頭の天辺から足の先まで、事細かに、この手でしっかりと触ってきました。じつに見事な造形でしたよ」

「感想はいい。そこの水晶玉に、おまえが得た『光』の情報を転写しろ。そして、ここにいる全員で共有する」

「分かりました。従いましょう」

 ドタマが指差す先にある水晶玉の台に、ナンシーは歩み寄り、その両手を水晶玉へと置く。

 そうして、彼が得た『光』の情報を水晶玉へと転写した。これにより、ただの水晶玉が仄かな光を帯びて、綺麗な色を発する。

「さぁ、どうぞ。私が得た情報は、すべて転写しました」

 ナンシーが水晶玉より離れ、皆を促す。

 もちろん、最初は計画を妨害されたドタマから。ということで、集まる者たちが先を譲る。慌てることではない。

「ほぉ・・・女か! やったではないか!!」

 水晶玉より情報を引き出し。それが自分の知識として集積されると、ドタマは歓喜に声を弾ませる。

「ほぉ? どれ」

 続々と、集まった人間憑依霊たちが水晶玉に触れ、ナンシーの得た情報を受け取り、自身の脳内で再生していく。

「あらぁ~。ちょっと嘘でしょ? この子、美人過ぎじゃない? 誰か、凄腕造形師のフィギュアとかじゃないの?」

「はっはっは! こうして再び現れた『光』が女とは幸運だな。大事に使えば、皆の転生も可能というもの。男じゃ使い捨てにしかならんからな」

「確かにそうですね。問題は、誰が最初に転生を実行するか・・・」

「おいおい。今は争いの火種を口にしないでくれよ・・・それよりも、俺たちの前途が明るいことを祝福し、酒でも飲んで喜ぶのが先だろう?」

「それはいいですねぇ~」

 

 皆が喜びに賑わうと、ニャランと呼ばれた男が言った。

「とりあえず、この情報は末端まで共有しておくべきねぇ~」

「それは何故だ?」

「ばかねぇ・・・ナンシーが言っていた通り、新人達がこの子に襲い掛かったら、それこそ殺してしまうかもじゃないの? それを防ぐためよ~」

 その言葉に、一同が顔を見合って「たしかにそうだ」と頷き合った。

「あ~♪ でも楽しみだわぁ~」

 ニャランと呼ばれた男の言葉に、皆が同意する。


 ナンシーは、そして小さくため息を吐いて、次に起こるだろう事を予想した。

「おい、ナンシー」

「不要です。ランボー君・・・間違いなく、争奪レースになります・・・ドタマさんも、それを分かっているからこそ、すでに次の策を講じているのでしょう」

 そうして、古いビルの窓より空を眺め、空を飛ぶ怪獣怪異の姿にため息を吐く。


『急いては事を仕損じる』


「ドタマさんには、そういうコトワザなど頭には無いのでしょうね・・・」

 助けが来るギリギリまで、顔を涙に濡らしながらも凛として気丈に振舞っていた彼女を思い出し、ナンシーは複雑な気持ちを押し隠した。




次回は、強襲。を予定しています。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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