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07 強くなるには

こんにちは。こんばんは。


この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われます。お読みになる方はご注意ください。

あと、ご容赦ください。


最後までお楽しみいただけら、幸いです。

〇-夢-〇



 腕を強く引っ張られ、身体が引っ張り上げられるような感覚に眼を覚ます。

 少しぼやけた視界が定まると、ヨレヨレのスーツに疲労困憊という顔色のサラリーマンと、金髪に腫れぼったい垂れ目と鼻と耳にピアスを付けた不良男性が並んで立っているのが見えた。

「・・・な、ナンシー・・・さん。と、ランボー?・・・さん」

 二人が、どこかホッとしたような顔になって互いを見合った後、私に勝ち誇ったような顔を向けて口を開く。

「やぁ、夢の中にお邪魔させてもらいました」

「よぉ、昼間は泣かせて悪かったな」

 なんでこのタイミングで謝るのか・・・いや、今、夢の中って・・・。

「え? 夢の中!?」

 私は、周囲に眼を走らせて・・・リバーシブル・フィールド内の幹線道路・・・交差点の真ん中にいる事を確認する。

 ここが、夢?

「そうです。ここは君の夢の中・・・昼間、君に触れた時に私たちも『夢毒』を打たせてもらっていたのです」

「ま、気付かれないように弱めの毒だがな? おかげで、苦労したぜ・・・」

 本当に、なにか相当な苦労をしたような顔でため息を吐いているようだけど・・・何があったのかな?

 いや、今はそんな事を気にする時じゃなくて・・・。

 夢の中だというのなら、今度こそ抵抗を!

 

 がしゃん


 金属音が響き、私が抵抗するために腕や足を動かそうとしたら・・・両手と両足には、秘密結社メシアの尋問室で使われた枷がはめられている。

 それに、太くて頑丈な鎖が繋がっており、手枷の方は頭上・・・歩道橋と伸びていて、足枷の方は道路に埋め込まれている。

 う、動けない。

「この、状況は・・・」

 パニック気味に周囲へ視線を走らせ、助けてくれる誰かの姿を探す。リザドラルさんは!? フェニックスさん! お養父さん!!?

「まぁ、落ち着いて」

「そうだぜ? もう、おまえさんは負けたんだからな」

 ・・・。

 ・・・・・・負けた?

「負けた?」

 私が、そう呟くと・・・ナンシーは少しだけ口元を綻ばせる。

「はい。君は負けたのです。我々の昼間に受けた行為により、その精神が衰弱・・・我々の精神浸食を受けて、今は囚われの身」

「おまえさんにゃ悪いと思う。が、俺らも生物への転生ってのは譲れない望みだ。こればっかりは、悪いと思いつつも止まれねぇからよ」

 そ、そんな・・・。

 わ、私・・・こんな・・・こんなところで?

「そう!! これから、我々は良い子の子供達には見せられないようなエッチをあなたに行います!」

 エッチを行います?

 エッチを・・・。

 エッチ・・・。

「それ、宣言する必要あります?」

「いや、無いよな?」

 なぜか、私の意見にランボーさんが乗ってくる。

「何を言うんですか!? 我々の望みは破廉恥極まりない行為なのです! 世の女性たちを敵に回し、我々の風評は地の底へと落ちる。そんな悪行なのですから・・・彼女には、覚悟を決めていただかなければ!」

「なるほど・・・」

 それで納得するんですか!?

 もうちょっと疑問に思って考えましょうよ!

「・・・と、いうことで、さっそくと始めましょう」

「おう。まずはどうするんだ? 夢の中だし、やれることなんて限られるだろ?」

 ま、まずい・・・。

 私は、すでに夢を侵食されて負けている。

 そして、手足を拘束されて抵抗もできない・・・こんな状態で、どうしろと?

 

 私は・・・この二人に?


「ところがどっこぉーいッ!!!」

 がっしゃーん。

 そんなガラスの破砕音を響かせながら、空より降ってくるのはイデスバリー・サキュバスさん。

 助けが来てくれた?

「あらやだ! 司会のお姉さんじゃないの!」

「おい、ナンシー。言葉遣いが引っ張られてるぞ」

 ・・・ん? んんん?

 今、ナンシーさんの言葉遣いが?

「だぁあ! やっと移動できた!!」

 そう叫びながら、私の腕を拘束する鎖を飛び蹴りで砕き、私の傍に着地するサキュバスさん。

「さ、さきゅ―――「あんたの夢ってば強過ぎでしょうが!! 途中までヒーローショーで司会のお姉さんで独身で彼氏募集中のボロアパート暮らしを満喫しちゃったでしょうが!!」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・はー?

「はぁ、はぁ、はぁ~・・・ええい、そこの二人!!」

 一方的に怒鳴られて、私は萎縮した・・・何がどういうことなんですか?

 ちょっと怒鳴られて涙目になったけれど、サキュバスさんが二人に向き直って怒鳴り出した。

「そこのマネージャーとユギリスギー・メンラー!! よくもまぁ、傷心中の女の子に卑猥な事をしようとしたなぁあ!!」

 んんんんん!!!!????

 マネージャーと、ユギリスギー・メンラーッ!!!!????

「ちょ、おちついてぇん! おほん。コレには訳があるんですよ」

「ナンシー。おまえ、そこそこ精神汚染されてんぞ? 大丈夫か?」

「マズいです。本体に影響出ますねこれ・・・」

 本当に何があったんですか!?

 私の記憶に残っていないところで、この人たちに何かがあったのは間違いない。

「この私、イデスバリー・サキュバスが守りに付いている夢で、ずいぶんとまぁ、好き勝手やってくれたわね!」

「そういうあなたこそ、彼女の夢に呑まれていたじゃありませんか」

「うっさい! まさかここまで精神力が強いとか思わなかったのよ!! 結構、楽しかったしぃ」

「それは同意するぜ」

 三人で頷き合っている。

 ・・・なにこれ?

  

 すると、ナンシーとランボーの二人がボロボロと崩れ始めた。

「おっと、時間切れですね・・・」

「ああ、メシマンズー・ナイトメアに苦戦したのが敗因だなぁ」

 んぐはッ!!!???

 ちょ、ちょちょちょちょ、ちょ!!!

 なんで二人がその名前を知っているんですか!?

「君は良い方ですよ。メシマンズー四天王。ユギリスギー・メンラー役の代理で、そこまで人格に影響がないんですから」

「まぁな・・・おまえなんて、ナイトメア役の女優の卵のマネージャー役だもんな?」

「そうです。ナイトメアちゃ~ん♪ 今日も可愛くカッコよく! 悪役しっかりがんばってぇ~ん♡・・・ですからね・・・いつの時代のジャーマネイメージなんですかね?」

 

 いやあああああッ!! はずかしすぎるんですけどぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!!


「ホントにね・・・前世知識の影響が大半なんだろうけど、さすがになんかこう・・・ねぇ?」

 サキュバスさんまで、ナンシーに同意しているぅぅぅぅ・・・誰かころしてーッ!!


「ま、これはこれでしかたないわねぇん・・・ないですね」

「そうだな・・・今日のところは一勝一敗ってことにしとこうぜ?」

 ・・・え?

 いや、なんかそんな爽やかな感じに言われてもですね?

 この人たち・・・この二人にされたことは、犯罪なわけですからね?

「勝ち負け以前に! 昼間の行為は絶対に許しませんからねッ!!」



〇-夢、終了-〇


 目を開ける。

 室内に、日の光が差し込むことはないけれど、朝が来たのだと分かった。

「はー・・・この技は疲れるわぁ・・・」

 私の隣で、私に付き添ってくれたイデスバリー・サキュバスさんが目に隈を作った顔で伸びをした。

「あの・・・サキュバスさん」

「あー・・・うん。人の夢に入る技を使えるのは、世界広しといえど、私と兄貴・・・と、あと数名いるけど、貴重なのよ。強い夢毒の治療なんかで、外国から来日する奴も結構いるわ」

 そ、そうなんだ・・・。

「だけど、これ・・・徹夜したのと同じだから、ツラいのよねー。まず昼間は爆睡することになるから、今日の私は戦力にならんの・・・ってことで、あとの報告はあなたに任せるから」

「分かりました!」

「・・・あ、あとこれだけは言わせてもらうわ」

「はい?」

「私、彼氏募集とかしてないから、兄貴一人いれば十分よ。次はボロアパートに兄貴を加えてよね」

 バタン。

 そんな音を立てて、ベッドへ倒れ込んだイデスバリー・サキュバスさん。


「・・・そんなことを言われても、皆さんがどんな夢に呑まれていたのか分からないんですけど?」


 ど、どうすれば・・・うぅぅ。

「まぁ、その辺は気にしないでいいぞ」

「ひゃあああああ! あ、インキュバスさん!?」

 なんて失礼な悲鳴を上げてしまったのか!?

 私はすぐにベッドの上で向き直って、謝罪を述べながら頭を下げた。

「・・・ナイトメアさん。頭をゆっくりと上げて、俺の手を見てくれないか?」

「え? はい・・・」

 言われた通りに、ゆっくりと頭を上げて、インキュバスさんの手を・・・見て・・・。


――触らせてもらいますね。


 体が、ビクッと震えた。

 それは、あの二人に頭から足の先までを触られた時を一瞬で思い出し、身体がそれらを拒絶する震え。インキュバスさんの手から、目が離せなくなり・・・私は・・・。

「もう大丈夫だ。不意打ちのようですまなかったね」

 すっ。と、その手を引いて、インキュバスさんが謝罪をしてくれる。

 私の心臓が和太鼓のようにドッ、ドッ、ドッと音を振るわせて、耳から飛び出しているように周囲の音が聞き取りづらくなる。

「ある意味で、君の今の状態はこの職場にいる全員が経験する事だ」

「・・・経験すること?」

 インキュバスさんが、妹を慰めるお兄ちゃんのように優しい顔で語ってくれる。


 イデスバリー光が抑制されたことで、敵は戦士たちを見失うようになったが、探していないわけでは無い。

 通常空間での生活においては、光が見えないためにすれ違っても気づかれず・・・。

 夜であっても建物などに遮られてしまうと見えなくなるぐらいには、光が弱い・・・ということを、これまで捕まえる事に成功した『人間憑依霊』などから聞き出しているらしい。

 このため、リバーシブル・フィールドが発生すると、連中は必死にイデスバリー光を吸収するべく駆け込んでくると、とにかく抱き着いて来てエネルギー吸収に全力を出し、そして逃げ去っていくらしい。

 リザドラルさんに似た話を聞いたような気がする。

 その時の、エネルギーを吸収する時に手で身体中を触ってくるし、顔をうずめて息を大きく吸ったり吐いたり、足で身体をホールドしてくるので・・・連中のアレが服越しに押し付けられたりして、大変気持ち悪い経験をすることがあるのだとか・・・。

 しかも、昨今の戦士は人外系が多いために、光が抑制されて姿が見ていても、男女の判別がし辛くなっているらしく、連中は基本的に『女性』を求めるので、男に抱き着いていると分かると露骨にがっかりしてくるのだとか。


「今の君と同じ症状を抱えている女性はもちろん多い。だが、それと同じぐらいには男たちでも同様の症状で震え出す者はいるんだ。私も、まだ新人時代は、自分の手を見ただけで震えていたこともあった・・・」


 ・・・な、なんと言えばいいのか。

 うう。あの連中には、男女関係なく迷惑しているというのを知れただけでも、なんだか救われた気分になるのが複雑です。

「とはいえ、すぐに克服しろ。とは、誰も言わない。いや、言えない・・・その恐怖が、連中を撃退する力になる事もある。要するに、デメリットを味方に付けることも重要だ」

「・・・よく分かりませんが、考えてみます」

「うん。それでいい。よく考える事が大事だ・・・君の場合は・・・うん」

 なななな、なんですか? なにを言おうとしているんですか!?

「っと、すまない。時間を奪ってしまったね・・・妹の面倒は私が見るので、君は覚えている限りの夢の内容を報告書にして、支社長へ提出してきてくれ」

 ・・・支社長に?

 というか、何か言おうとして止めましたよね?

 ・・・いや、聞かない方がいいこともある。ってことで、納得しておこう。

 そうしよう。

「わ、分かりました。あの、インキュバスさん」

「うん?」

「貴重な経験談を教えてくださって、ありがとうございます」

「・・・うん。君の一助となれば、幸いだ」

 なるほど・・・「兄貴一人いれば十分」かぁ・・・。



 報告書。というものを書いたことは無いけれど、報告書という用紙をいただき、報告書の書き方。という説明書もいただいて、私は可能な限りで報告書を書き上げる。

 そして、部屋に備え付けられた内線電話で、支社長室へと連絡を入れた。

 受話器を取ったのは秘書の方で、とても綺麗な声と丁寧な対応で、報告書の提出のために支社長室まで向かうことになる。

 一応、時間指定などでこれまでには来るように。ということだったのだけど・・・こういうのは10分前くらいに行くのが礼儀だよね?

「ようこそ・・・ふふ。緊張しなくても大丈夫ですよ。さ、そちらの席で待っていてくださいね」

 支社長室の受付をしている秘書の方に席を勧められ、私はお礼を述べて席に座る。

 思わず内装を見てしまう・・・すごい豪華な造りをしている・・・木材なんて、丁寧に切り出して削って加工してあるのがよく分かるし・・・大理石とかも使っているように見える。

 ・・・表企業の規模を考えると、支社でもレベルが違うんだなーって思いました。


 そんな中で、ふと設置されている姿鏡を見つけて覗き込む。

 これに映る自分の姿に、ちょっと違和感を覚えたので・・・席を立って鏡へ歩み寄った。

「ん? 比喩抜きの白雪色だと思ったけど・・・ほんのりと肌色があるような?」

「そうだね。限りなく白雪の色に近しい肌色。というのが正しい気もするよ」

「あ、支社長もそう思われます・・・か・・・あ!?」

 いつの間にか、背後にいた紅葉朱雀さんに驚いて・・・だけど、振り向くことはせずにゆっくりと頭を背後へ向けつつ身体も向き直していく。

「どうかしたのかい?」

「い、いえ・・・その、部屋のシャワールームにある鏡を見た時は、真っ白な肌だったのですが、ここにある鏡で見ると、違って見えたもので・・・どうしたのかな?って」

 そう、確かに肌の色は白かったと思うのだけど・・・。

「ふむ・・・ああ、もしかすると君の部屋は突貫で用意したから、壁は白のパネルで、照明なども白色で統一してしまったからかもしれないな。そもそも、変身時の君は先に述べた通り、白雪色に限りなく近いからね。ライトの色の影響を受けやすいのかもしれないよ?」

 あ。

 そういえば、あの部屋、全部が白色のライトだった。壁も白一色だったし・・・。

 それに比べて、この支社長室のライトは落ち着きのある明るい色をしているから、たしか、温白色って言ったかな?

 とにかく、光の具合で真っ白にも、辛うじて肌色にも、なんとなく見える肌をしている・・・というのが分かった。

 ・・・だからどうした?っていう気もするけど。

 

 いや。たぶん、そういう事を考えたり気づいたりしていないと、気持ちが暗くなってしまうからだとは思う。

 不意に、身体をなぞるように動く指の感触を思い出してしまうから・・・うぅ。


「さぁ、報告書を見せてもらおうか。中へどうぞ」

 支社長直々に案内され、私は支社長室へ・・・そして、シェルさんがテーブルに軽食とお茶などを用意して待ってくれていた。

〔やぁ、よく来てくれましたね。朝食はまだでしょう? 軽いモノですが、食べた方がよいと思いますので、用意しました〕

 ・・・お、オニギリだ。意外! サンドイッチと紅茶などが出ると思ったら、オニギリと緑茶だった。

「あ、サンドイッチとかの方が良かったかな? 私はオニギリの方が好きなんだ」

「いえ、私もオニギリは大好きです」

 こうして、緊張しながらも報告書を提出し、夢の内容を口頭でも説明し、朝食をいただいた。



「ふむ・・・メシマンズー・ナイトメアか・・・私も、ぜひ覗いてみたい夢だね」

「・・・う・・・うぅ」

 なにも言えなくて、私はただただ顔を下に向ける事しかできなくなる。

〔それにしても、我々にも気づけない夢毒を仕込んでくるとは・・・おのれ、変態共め〕

 最近、シェルさんの様子がおかしいような?

〔いや、それよりも・・・大変申し訳ないことです。こうも連続であなたを危険に晒し、あまつさえ、野郎どもに身体を触られるなどと・・・今、私の権限を振り回して、例の二人組は探していますから・・・見つけ次第、憑依対象ごと海に沈めます〕

「いえ、あの、さすがにそれは・・・」

 やり過ぎ。といいたいけれど、自分のされた事を思い返せば、ドラム缶に入れてしっかりと焼いた後に海に沈めて欲しい。という感情がブワッと燃え上がるように湧いて来た。

「まぁ、人間である以上、下手に殺すと警察含めて諸々で対処が大変だからね。連中のトップが私に接待を要求してくるだろうし・・・」

 ・・・あ、お酒を注いだりする感じかな?

 会社で高級レストランの予約を取って、豪華ディナーを準備させる感じで・・・。

〔そうですね・・・口惜しい限りだ。殺してしまえばいいものを・・・と、あまり口汚い事は止めましょう〕

 あ、たぶん私の想像はハズレてる・・・もっと違う意味合いがありそう。

「朱雀さんは、過去にそういった経験があるんですか?」

「いや、全力で回避し続けている。こういう時、世界的大企業というのは素晴らしい。と実感するよ」

 ・・・なるほど。ちょっと分からないけども。

〔さて、本題に入りましょう。おそらく、今日もリバーシブル・フィールドは自然発生するでしょう。しかし、短時間で消失するはずです〕

 え? 短時間で?

〔敵の目的は、イデスバリー・ナイトメアの奪取。これはもう明白です。そして、昨日までに少しずつフィールドを拡大させていたのは、我々の部隊配置を間延びさせるため〕

「こうすることで、人間憑依霊の侵入する隙間を作り、昨日のような連中を君の誘拐に差し向ける作戦であると、結論を出した」

〔実際に、あなたを誘拐されかけました。我々の落ち度です。リザドラルがいなければ、我々はあなたが連れ去れたことに気づくのがだいぶ後となったでしょう〕

 ・・・そう。

 リザドラルさんが、頭の半分を陥没した状態で意識を取り戻した。ということが、すでに奇跡的なことだったらしい。そのまま死んでいるほうが自然だからなのだとか。

「そのため、君に付けられる戦士に余裕もない今日は、この社内で待機を命ずる。リザドラルの見舞いや、自主鍛錬で己を鍛えるのがいいだろう」

 そうだ。

 今の私が、一人で戦いに参加しても皆さんの足手まといにしかならないのだから・・・。

〔勘違いはなさらないでくださいね? あなたが足手まとい。ということではなく、本来、あなたはまだ入社して数日の新人研修期間中の新人社員で、新人戦士なのです。まずは座学から初めて、訓練所で訓練をして、それから実戦を経験する。という手順の座学と訓練所を飛ばしている状態なのです。むしろ、よくやってくれている。と評価できるレベルなのですよ〕

 そ、そうなんだ・・・。

「うん。そう考えると、君の前世は相当な腕前の戦士だった可能性が高い。そもそも、リバースデイした翌日には、怪獣怪異の脚と首を斬り飛ばせるなど・・・前例がないわけじゃないが、その数は片手で数えるほどだからね」

 そ、そうなの?

 え? でも、私・・・あの時にスパッと・・・。

〔朱雀が、直々にあなたの尋問をしたのは、そういう事情もあっての事です。リザドラルに変身を促されて、よく分からないままに戦闘を行って、怪獣の脚と首を斬り落とすなど、私が過去にイデスバリーした子らですら、一人もいませんでしたからね・・・〕

 私の前世、実は化け物級の実力者?

 でも、だとしたら、人間憑依霊にまるで歯が立たなかったのは・・・。

「とりあえず、今日、自主訓練をする場合は前世の知識に働きかけて、戦い方をしっかりと学ぶ方がいいだろう。君の力を最高まで引き出すための秘訣を引き出すことができたなら、昨日の二人組にも負けることはないさ」

「・・・できるでしょうか」

「できるとも。私は、若い頃に死にかけたことがある。自分の力を過信した故のことだが、ヤツへのリベンジのため、死に物狂いで強くなるよう努力を惜しまなかった・・・そんな私は今、支社長という地位を得てしまったわけだが・・・」

 ナンシーが言っていた「チャプンさんがあと一歩のところまで追い詰めた」という「チャプン」という憑依霊のことかな・・・。

「自分の前世知識に働きかけて、この身体・・・変身時の力の使い方を学んだ。だから、君にもできる。強く呼びかけることが大事だ。精神を前世の知識に集中し、呼吸を整えながら心を落ち着け、ただ呼びかけ続けてごらん」

「・・・はい! やってみます」

 私は、頷き返して挑戦することを決意する。

「それでも上手くいかないようなら、罵倒するといい。例えば、この役立たず。変身時の姿がダサい。ザコにも勝てない雑魚能力。などなど」

 ・・・え?

「私は、伸び悩んだ時に自暴自棄でイデスバリー・フェニックスに対しての暴言を吐いたんだ・・・そうしたら、唐突に前世を象った知識?が人の形で現れて、ボッコボコにされたよ。顔も声も聞こえないんだが・・・『これぐらいできるようになってから、文句を言え。バカめ』って唾を・・・いや、なんでもない」

 わ、ワイルド・・・。

「うん。まぁ、これは最後の手段にしておくといい。どうしても強くなれそうにないときのね。君には似合わないが、なりふり構っていられない時の手段だ。いいね?」

「は、はい!」

 ニッコリ笑う支社長の顔に、思わず引き攣った顔をしてしまったけれど、これでニッコリ笑い返せる人がいるなら、尊敬してしまうかもしれない・・・。

 私が固まっていると、シェルさんが苦笑しつつ養父からの言葉をくれた。

〔最後に、次蔵さんから伝言です。今は手が離せないので傍にいてやれない事を謝罪していました。それと、必ず武器は作るので、負けるな。とのことです」

 ・・・お養父さん。

 うん。ありがとう。

「シェルさん。ありがとうございます。朱雀さん。私、負けないように頑張ります」


 二人に見送られ、私は支社長室を後にした。



 支社長室を出て、私が次に向かったのはリザドラルさんの病室。

 インターホンを押してから、中より「どうぞ」というイデスバリー・アリアネルさんの声が聞こえて来たので、中へと入る。

「おじゃまします」

 中へ入ると、頭に包帯をグルグルと巻いて、どこか呆けたような眼をしているリザドラルさんと、その右手を治療しているアリアネルさん。

 そして、アリアネルさんの護衛をされている旦那様のカマイタチさんが居た。

「リザドラルさんの容体は、その後どうでしょうか?」

「ええ。順調ですよ。右手も明日で完治できます。今日はここまでですね。絶対安静ですよ」

「あいー」

 包帯のせいで、口がちゃんと開けられないようです。

 すると、カマイタチさんが私に向き直って話しかけてくる。

「話を聞いたぞ? ナイトメア。あのナンシーに襲われたそうだな」

 ・・・あの? ナンシー?

「あのナンシー。というと・・・」

「そうだ。ヤツとは私が20代の頃・・・アリアネルと・・・その、まだ恋人くらいの関係だった時代の頃に、何度も戦った宿敵だ」

 しゅ、宿敵! 少年漫画的に言えば『宿敵とも』ですね!?

「言っておくが、ヤツは大敵だ。少年漫画的な『宿敵とも』ではないからな?」

 ・・・結構、そのネタでいじられたんだと思う。

 思った事を言い当てられて、口から心臓が飛び出るかと思った・・・。

「懐かしい名前です。私は当時、最前線で負傷した仲間の治療を担っていたのですが、ナンシーに何度も襲われました」

「お、襲われた!?」

 カマイタチさんの護衛を突破して!?

「ヤツは強い。憑依している人間は疲れ果てたサラリーマンそのものだが、イカかタコを彷彿とさせるような柔軟な動きで我が攻撃を回避し、彼女へと体当たりする・・・俺の護衛としての尊厳を何度砕かれ擂り潰された事か・・・」

 そんなにスゴイ敵だったんだ・・・。

「それでいて、私にすることといえば・・・この体毛に顔を埋めて深呼吸しながら、モフモフーッ!を病的に繰り返し、カピバラ温泉に行きたいぃーッ!という魂の叫びばかりでした」

 あれ? 実はナンシーさんて可哀想な人だったりしません?

「さらに、私の癒しのために結婚してください。とプロポーズまでされて・・・」

 やっぱり最低だッ!!

「破廉恥極まりないヤツとの戦いは、決着がつかぬままとなってしまったが・・・」

 今また、こうして現れた・・・ということですか。

「とはいえ、実は一つだけ、彼に感謝していることもあるのですよ」

「なに!?」

 カマイタチさんが驚愕の顔でアリアネルさんを凝視すると、アリアネルさんは照れくさそうに・・・。

「この人が、私からナンシーを遠ざけつつプロポーズしてくれましてねぇ」

 ・・・おおお!!

「な! や、それは・・・」

「この人ったら、なかなか結婚のプロポーズをしてくれないから、ちょっと不安に感じていた頃でね? 彼のおかげで、ようやく聞きたい言葉を聞けたときは、もう嬉しくて・・・」

「止そう。子供たちに聞かせる話しではない」

「あら? 情熱的な愛の告白は、この会社の伝説にまでなっているじゃありませんの」

 そ、そうなんだ・・・調べないと!

 ふ、二人の間に甘い空気が流れ始めているのが分かる!

 いいなぁ・・・私にも、いつか現れてくれるかなぁ・・・ステキな人。


「いいはなしすねー・・・ナイトメアちゃん? おれとかとーすかー?」


 包帯のせいで、しっかりとした発音が出来ていないけれども・・・この空気で言う事じゃないですよね?

 私は、冷めた目でリザドラルさんの右手首を叩いた。

「あきゃあああああああん!!!」

 ふんッ!!




次回は、敵の次なる動き。などを予定しています。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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