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06 迫る敵

こんにちは。こんばんは。


この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。

あと、ご容赦ください。


最後まで楽しんでいただければ、幸いです。

「三日連続のリバーシブル・フィールドか」

 集まった社員が、異口同音にため息を吐く。

 さすがに、この事態にはみんな疲れが見て取れる。

 なにせ、秘密結社メシアの正社員である方々は、通常業務などもあるわけだけれど・・・リバーシブル・フィールド解除は一日分の流れを確認する作業をしておかないと、翌日からの仕事に影響が出るから。

 シェルさんが言っていたように、タイム・パラドックス的な事が起こっていて、一日の仕事は平常通りに進んだことになっているのが常なのだそうで・・・。

 確認せずに仕事に戻ると「昨日、こうしていた」と表向きの会社に勤める一般人や、取引先などとの話し合いで嚙み合わなくなって困るんだそうな。

 だから、戦士として怪異と戦った後は、結構忙しいらしい。

「・・・リザドラルさんは大丈夫なんですか?」

「俺? 不良社員なんで問題ないよ?」

 問題しかないのでは?

 三日目のリバーシブル・フィールドは、昨日よりも範囲が拡大していることが判明し、とうとうこの事態が人為的に行われていることが推測される。

 つまり、怪異側に人間並みの知能を持つ存在がいる。ということになるようで。

「そういう知能を持つなら、悪魔や妖怪って感じでしょうか?」

 私が思いついたことを言うと、リザドラルさんは首を横に振って否定してきた。

「俺が習った範囲だと、その線は無いねー」

「無いんですか?」

「うん。悪魔や妖怪って、基本的に怪異・・・幽霊の類を使うことはないんよー。あいつら、単独でガチヤバい戦闘能力に超常能力持ってるから、みんな個人プレーが好きなんだそー」

 ・・・そんなのが居るんだ。

「とはいえ、今回の騒動は人間憑依霊がなんかやってんだとは思うんよー」

「人間憑依霊?」

「そ、そ、人間に憑依している霊ね。ナイトメアちゃんが縛られた樹木憑依霊よりも知性が高い霊で、人間に憑依できるぐらいには強いんだー」

 ・・・霊が人に憑依するっていうのは、結構ありがちな気がするけど。

「怪異における人間への憑依って言うのは、実はかなり難しい。なんせ、人間には自我あるから下手な憑依は人間の自我に潰されるか取り込まれてしまうからねー」

 ふーん・・・そういうのもよくある気がする。

「ただ、相性・・・っていうのかな? 憑依先の人間と怪異の何かしらが合致すると、人間と憑依霊が強く結びついて人間怪異って感じになるんよ。それが人間憑依霊ね」

「その人間憑依霊は、どんな脅威になるんですか?」

「知性を得るのはもちろんだけどー・・・一番厄介なのはイデスバリー戦士と戦えるようになることかなー」

 ・・・それって。

「え、イデスバリー戦士と戦えるんですか?」

「らしいよー。俺もまだ遭遇したことは無いんよー。あいつら、通常は人間やってて学生とか、会社とか勤めしてるらしいし、見た目で憑依されているとか分からんしー。憑依しているせいなのか? 怪異反応も出ないらしいから、探し出すこともできない。って話しやねんなー」

 厄介。という段階を越えている気もする。

 危険すぎる・・・町を歩いていて、敵は私たちを見つけられるけれど、こっちは敵を見つけられないってことでしょう?

 常に周囲を警戒していないと、危険だなんて。

「ま、ここ最近で人間憑依霊と遭遇、襲撃された人は・・・リバーシブル・フィールド内以外ではいないから・・・俺たちのイデスバリー光が、いかに見えづらいのかが分かる平穏よー」

 う、羨ま・・・ん?

「リバーシブル・フィールドでは遭遇するんですか?」

「そうそう。なんでも、物凄い必死に飛び掛かって来て、イデスバリー光を吸収して、猛ダッシュで逃げるんだってさー」

 ・・・うわ・・・食料を見つけた。みたいに怪異も必死ってこと!?

 それはそれで嫌な気もするけど・・・通常空間での生活が安定するというなら・・・。

「私のイデスバリー・・・今からでも最新版にアップグレードできないものでしょうか?」

「さぁ? それは俺も知らね・・・けど、まず無理でしょ? リバースデイもそうだけど、そもそもの異世界式イデスバリーは地球人には強すぎて、多くの弊害も出ているわけだしさー」

 ・・・善性が強いと、転生後は悪人となり、悪性が強いと、転生後は自己犠牲主義者になる。極端なことだけど、確かに影響は強過ぎる。

「異世界式イデスバリー『転生』をしてもらった地球人が、地球人式イデスバリーしたら『変身』能力になるのも、その辺りが地球人類の限界ってことだろうしー」

 そうか。

 そういう考え方もできる。たしかに・・・。

 やっぱり、私の場合はこの身体と死ぬまで共に生きる以外にはない。ってことか・・・。



 三日目も、やっぱり浮遊霊退治を任される。

 ただ、リバーシブル・フィールドの範囲が拡大しているために、各部隊も社屋から離れ気味になっているため、私とリザドラルさんも社屋から結構離れた場所まで移動することとなった。

 いざという時には、社屋に逃げ込めるようにしておきたいけれど、何か不測の事態になったときに応援や援護が届きやすい位置にいた方がいいだろう。とのこと。

 そして、浮遊霊の大群を二人で処理する。

 昨日から、自身の動きを洗練することに集中して来たおかげか、初日のように息切れすることは無くなっていた。

 また、敵を素早く倒すことができるようになって、まとまった休憩時間を取れるようにもなっている。

「おー。昨日よりも早く、激しい動きを繰り返しているのに、余裕そうだねー」

「はい。前世の知識から身体の動かし方を引き出して、それを当て嵌めていくように動いていると、すごくいい感じになるんです」

 上手くできている。

 その確信で、私はとても機嫌がいい。

 学校などで運動をすると、胸が揺れるたびに男子の視線が・・・。

「そういえば・・・これだけ激しい運動を要求される戦闘をしているのに、胸とか揺れる煩わしさがないですね?」

「うん? そりゃそーよ」

 そーなんですか?

「イデスバリー戦士は戦闘時のパフォーマンスを維持するための補助機能が充実しているんだなー。女性なら胸の揺れを防ぐ機能。男性なら股間のアレが揺れるのを防ぐ機能。また、人体急所でもある股間部は防御が厚い。これは男女で同じ。アレの有る無しに関わらず、男女ともに人体急所なのは確かな事だからねー。まぁ、薄地の下着にしか見えないかもだけど、そこに攻撃が掛かると衝撃吸収制御や瞬間防御力制御でダメージを可能な限りで抑えてくれるんだわ」

 ・・・す、すごい。

 シェルさんの言っていた『バース・パーソン』によるエネルギー制御が、そういう形で私たちを守ってくれているわけなんだ・・・。

「だから、着地とかで柵に股をぶつけてしまってアウチ!なアクシデントがあっても、激痛で悶絶することがないんだー。便利!」

 確かに・・・そういうアクシデント動画っていっぱいありますからね。

 男性は大変だなーって思っていたけど、女性にとっても股間は重要な急所というのは、意識に無かった・・・守ってくれているとしても、常に狙われないように立ち回る事を考えないと。


「んー? おかわりが到着しない?」

「は?」


 リザドラルさんが空を見上げながら首を傾げている。

 なので、私も空を見てみる。

「・・・そういえば、浮遊霊が来ないですね」

 昨日は、もっと短時間で団体様がお見えになっていたと思うけど、今日は次の団体様が到着しない。前線部隊で全滅させてしまったのだろうか?

 すると、リザドラルさんが空から地上に視線を戻して、十字の交差点を凝視する。

 なんだろう?

「どうかされましたか?」

 私も、リザドラルさんと同様に、そっちの交差点を覗き見る。

 けれど、ただの交差点・・・人が歩いているように見えるけど、姿が三色にブレていることから一般人が交差点を渡っているところで、リバーシブル・フィールドが発生したのだろう。

 と、解釈した。

「・・・まっずいな」

 リザドラルさんが後退りをしながら、私を後ろへ追いやるように手を広げてくる。

「あ、あの・・・どうかしたんですか?」

「うんうん。今の君には厄介過ぎる敵が来た・・・社屋まで走るよ。逃げないとマズい」

 なにが来ているというのか?

 もう一度、交差点の方を見る。すると、どういうことだろう?

 先ほど、交差点を渡っている途中だと思った一般人が、こちらに向かって走っている姿を目撃した。

「え!? なんでフィールド内で一般人が!?」

「アレは人間憑依霊だ! 走るよ! 走れッ! 俺はともかく、今の君じゃ相手するには早すぎる!」

 いつもの間延びした話し方から、緊迫した声になっていることで、その危険度を感じ取る。

 私は、これ以上の言葉を発することをやめ、言う通りに社屋へ向けて走ることとした。リザドラルさんも、私に合わせて走ってくれている。

 おそらく、抱えて走るよりも一緒に走る方が守りやすい。という判断なんだと思う。

「憑依霊といっても、身体は人間なんですよね!?」

「うん。それはそうだ!」

「なら、麻痺毒などで倒せるのでは!?」

「通常空間なら可能だけど、ここはリバーシブル・フィールド内! 怪異もまた己の力を発揮できる空間だ! 俺の麻痺毒を防ぐ手段はもちろん、仮に食らったとしても即座に体外へ排出する術もある! だからこそ、夢魔兄妹! サキュバス先輩みたいな精神への攻撃系が対人戦闘で最強格になるんだ!」

 麻痺毒を体外へ排出する術!? なにそれ、知りたい!

「でも、人間の運動能力では私たちに及ばないのでは!?」

「そう思うだろうけど、今は格闘技っていうスポーツの普及で、武術に関する情報が簡単に得られる時代になっているでしょ!? 特に中国拳法がヤバい!」

 ちゅ、中国拳法が?

「俗にいう気功・・・つまりは『気』というエネルギーの活用法・・・アレはイデスバリー戦士のエネルギー波の使い方なんだ。大昔から怪異との戦いで、世界中にイデスバリー戦士はいたから、今の中国となったあの土地で戦っていただろうイデスバリー戦士の技術が、現代では怪異にも伝わっているんだよ!」

 な、なんだってーッ!

「で! これはちょいと昔のことらしんだけど、イデスバリー・フェニックスさんがまだ新人から脱した頃に、日本留学中の中国人に憑依した怪異と戦って、一撃で肋骨を砕き潰されて死にかけた事があるらしいんよ!」

 ええッ!?

「その留学生、中国拳法を習得してて『気を練る』術を体得してたんだって話し!」

「そ、そんなに!?」

 たったそれだけの事のように思うけど、その『だけ』が戦力に大きな違いをもたらすわけ!?

「そうさ。中国拳法の多くは人体破壊を主にした殺人術。あらゆる意味で『必殺』に特化した技のデパートだ! 現代では、そういう部分は注目されないけれど、気を練るための鍛錬法などは秘匿されているモノじゃないし、今、追いかけて来るヤツが中国拳法を習得していないとしても『気を練る』修行はできるから、実力が未知数なら逃げるが勝ちなんよ!!」

 物凄い饒舌に解説してくれるリザドラルさんに驚きを隠せないです!

 でも、それだけヤバい状況になっていることは理解できたので、とにかく逃げることに集中しないと!


「そこまで分かってんなら、話しは早いな」


 男の声が、背後から聞こえると・・・リザドラルさんが地面へと飛び込むようにして、道路を転がりすぐに起き上がる。

 一方、背後から追い付いて来た男は、リザドラルさんに回し蹴りを放って、回避されたことで空振りに終わったあとは着地するだけで、襲ってはこない。

「いい動きだ。トカゲ。光が弱いくせにやるじゃんか」

「そいつはどーもー」

 フィールド内で色が『赤』『青』『緑』にブレている一般人のはずなのに、普通に動いているという怪奇には、思わず息を呑む。

 その男性は、言わゆる不良系・・・。

 金に染めた髪は根元が黒くなっており、腫れぼったい垂れ目をした強面の人物。鼻の右穴と、右耳にそれぞれピアスを二つずつ付けている。

 そして、フード付きトレーナーとダボッとしたズボン・・・大工さんが着るような・・・名前が思い出せない・・・。

 靴は運動靴のように見えるけど、つま先の形から安全靴というつま先を保護するためのモノが入っている靴だと思う。

 私の地元でも、ゲームセンターとか行けば居そうな服装・・・。

「おいトカゲ・・・そっちの『光』を置いていくなら、見逃してもいいぞ?」

「やー。それはできねっすわー」

 そっちの『光』って・・・私?

 私の事を言われている?と考えた直後に、無造作で放たれるとび膝蹴りと、これに両手を重ねて正面から受け止めるリザドラルさん。

 膝と手の平がぶつかる時、道路に亀裂が走るほどの衝撃が発生し、フィールド内のオブジェクトは壊れないんじゃなかったの?と、冷や汗がドッと出て来た。

「は? やるじゃん?」

 とび膝蹴りを受け止められた。これを嬉しそうに笑って、拳をリザドラルさんの手首に叩きこもうとする。

 対して、膝を押し込むように腕を動かして、自身はすぐにバックステップで距離を開けることで、拳を空振りさせるリザドラルさん。

「はー。いいねぇ・・・戦いなれているな? それも相当な経験値だ・・・」

「いやはははは・・・まぁ、それなりにはねー」

 そうですよね?

 リザドラルさんて、私の前の新人だった。と聞いた気がするんですが・・・私でも反応で来たか分からないような一瞬の攻防をこなしているのは凄くないですか?

「なら、出し惜しみは無しでやるか・・・」

「いやいや、ここは出し惜しみしましょうぜー?」

 男の姿が、消えたように見えた。

 次の瞬間には、リザドラルさんが構えた腕に蹴りが入っており、ニヤッと笑う男の拳が放たれるも、接触している脚を押し退けるように弾くことで姿勢を崩させ拳の威力を減衰させて受ける。

 ここでカウンターを男へ決めるものの、道路へと落ちるタイミングで受け身を取ることで、受けたダメージを道路に流してすぐさま立ち上がる。

「は? 麻痺毒か・・・オラァ!!」

 気合を込めた声を出すと、全身から濁った汗が噴き出て蒸発した。

「うわ・・・マジで麻痺毒を瞬間排出した・・・嘘だろ・・・」

 ・・・え? なにこの攻防・・・世界が違いませんか?

「っへへ、やべぇ・・・楽しくなってきたぜ! イデスバリー戦士も見つけづらくなった今日この頃だが、久しぶりだ!」

「君は逃げろ!! こいつは俺が出来うる限りで抑えるから!」

 言われ、私はこの二人を交互に見てから踵を返して社屋へ向かい走る。

 狙いが私なのは間違いないのだから、ここで「あなたを残してはいけませんよ」とか言って足手まといになるわけには行かない。

 私、まだそこまで強くない。

 今、ここで出来ることは、私が現時点で出せる最高速度で逃げること! 加速して、二人との距離が開けるのを確認することも無く、ただ真っ直ぐに―――。


「まぁ、逃がすことはないんですがね?」


 体が停止した。

 何かに激突したとか、掴まれたとか、通せんぼされたとか・・・そいうことではなく。全身が何か目に見えない力に包まれるようにして、私の身体は動かせなくなる。

「こ、これはいったい・・・」

 私が全身に力を入れて、なんとか動こうとするのだけど・・・まったく動かせない。


「不躾な行為を謝罪しましょう・・・我々も、イデスバリー戦士が見つからなくて困っていた所で、君のような方が現れてくれたことには感謝しているのです」

 

 どこか、疲れ果てたサラリーマンみたいな声音が聞こえると、私の視界に入ってくる新たな男性が現れた。

 その男性は、アイロンも掛けていないのだろうヨレヨレのスーツと、オールバックに固めた髪、そして不健康な顔色とやつれ具合のサラリーマンとしか言い表せない人だ。

 ブラック企業に勤めているサラリーマンのイメージに当てはまると思う。

「お、お野菜とか、食べていますか?」

「野菜ジュースを少々・・・ご心配、痛み入ります。私、名無しの憑依霊で『ナンシー』と名乗っております。怪異です。どうぞ、よろしく」

 な、ナンシー!?

 ど、どう見てもそういう名前の雰囲気は出てないですよね!?

 そもそも、この人の独特な雰囲気はこの場にも合っていないわけだけど、すごく得体が知れない感じで不気味過ぎる。

 そうして、私の身体が動かない事に抵抗を続けつつ、このナンシーさんがどういう人物なのかを考えていると・・・。

 おもむろに、スーツの上着からウェットティッシュを取り出した。

 これで両手を入念に拭うナンシーという人物が、私を凝視しながら言う。

「さて、さっそくで申し訳ありませんが・・・ちょっと頭から足の先までを触らせてもらいますね」

「は!?」

 その両手が、私の顔に触れた時、全身に鳥肌が立つ。

「ひ!」

「申し訳ありません。我々の眼に、あなたは光の塊にしか見えないのです・・・過去に、そのせいで肉体を得ることに失敗した同胞は数多く・・・現在では、捕らえたイデスバリー戦士はからなずこうやって身体を触ることで形をハッキリさせるよう、手順というものを作ったのです」

 なんか語っているけど。私の顔をスリスリサワサワして、そのまま顎をなぞる様に指を動かしてから首へと降下していく。

 その指が肌を擦る感覚にビクッと体が反応し、鳥肌が再び立つ。

「あ、おい! ナンシーッ!! なにを勝手に始めてやがる!!」

「君はそちらの彼を。どっちみち一人ずつでないとできないことですから!」

「ちぃ! 遊んでいられなくなった! 悪いな! トカゲ!!」

 私も、こっちに気を取られていて二人の攻防に意識が向いていなかった・・・今はどうなっているんだろう?

 り、リザドラルさんだから、きっと飄々とした感じで助けに来てくれるはず。


 ごぉがあん


 酷く鈍くて、酷く恐ろしい破砕音が響くと・・・。

「ふぅ・・・かなりデキるトカゲだったな」

 あ、あ、リザドラルさんが負けたんだ・・・。

「彼もなかなかの戦士であるようですね? 『光』が弱くて、雑魚かと思いましたが・・・やはり『光』の抑制に成功したということでしょう」

「ふん。見つけづらいったらねぇなぁ・・・」

 二人は、そんな会話をしながら私をジッと見つめてくる。

 そして、ナンシーという男は、私が羽織っているマントに触れて少し考えているようだった。

「・・・ふむ。コレはマントですね? えーっと、首がこの辺りですから・・・」

 すると、その手に何かエネルギーのようなモノが流れ出すのが分かる。

 そのエネルギーに対して、私の身体が強い反発を示すのも感じられる。

「ホッ」

 首元で、その力がマントへと流されると・・・バチバチという音がしたと共に、マントがバサリと私から離脱してしまった。

「おお・・・今どんな感じだ? マントが脱げたってことは裸なのか?」

 み、見えていない?

「いいえ、裸ではないようです・・・しかし、首から胸元まで開けていますねぇ・・・肩も露出しているようですし・・・服は胸回りからですか・・・おそらくはボディコン衣装という奴ですかね・・・これはまた懐かしい服を着ていらっしゃる。高度経済成長期・・・あの時代の日本を思い出してしまいます。楽しかったですよ・・・」

 と、マントが離脱した直後から、私の肩へと手を動かして、そのまま鎖骨をなぞりつつ胸へと指を移動させてくる。

 それで、昔語りまでしてくるその顔は、確かに懐かしい時代に思いを馳せるようだけれど、この男性はどう見てもその時代にいたとは思えない。

 相手の顔を凝視していたら、不意に私の胸を触る手が少しだけ強く動き出して、そう、胸の形を確かめるように手首を動かしながら下へ回り込ませ、重さを確かめるように持ち上げてきた。

「おっと失礼! これではセクハラですね」

「ここまで全部セクハラの域を越えていますよッ!!」

 全身に、何度目かの鳥肌が立って、もはや私は涙目になった・・・いや、すでに涙目だったので、涙が零れ始めた。

 体は動かせないし、抵抗もできない。

 今、私の身に何が起きているというのか? 分からないことへの恐怖が、私に助かる望みはない。と語りかけてくる。

 そうして、ナンシーという男の手が腹部から腰をなぞりだし、お尻から股間に移動すると内股へ指を入れ、そのまま太ももを左右で触っていく。

「ふむ・・・素晴らしい造形ですね。もはや芸術作品の領域だ。美女。という言葉では足りないと思います」

 触り忘れていた。と、言わんばかりに両腕にも触って、ようやく終わった。

 そしてこの感想・・・。

「んじゃ、次は俺な?」

「まずは汚れた手を拭きなさい。君は乱暴者なんですから、優しく、子犬や子猫に触れるように、彼女にやさしく触るようにするのがいいです」

「へいへい」

 ウェットティッシュを手渡され、自身の手を拭う金髪の男。

 そうして、また頭から触られ始める。

「さて、なぜ私たちがこういう事をしているのか? 興味ありますか?」

「な、ないことはないですが・・・嫌過ぎてそれどころじゃないです」

 こちらの金髪男性は、先ほどのナンシーさんとは違って、そこまでしつこく触ってこない。まるで危険物を探すようなボディチェックみたいに手早く作業してくる。

 けれど、胸はナンシーという男性と同じように触ってくる。小声で「うぉ、でけぇ」って聞こえてますからね!!


「では、教えてあげましょう。私たちがこのような事をする理由を!」

 ・・・説明したいだけじゃないですか!

「まず、我々怪異は、君たちイデスバリー戦士が『光』の塊に見えるのです。性別もそうですが、頭の位置、腕の位置、足の位置、それらも分からないほどです」

 そ、そうなんだ・・・。

「そのため、過去に君たちを捕らえた我らの同胞は、転生先の肉体を産んでもらうための行為で、君たちをうっかり殺してしまう事が多かったのです。例えば・・・いえ、ちょっとグロいので止めましょう」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・うう。想像したくないので止めてもらえてよかったような・・・。

「まぁ、こういった失敗の繰り返しをしながらも、君らの言う『魔王』という肉体を得た者はいました・・・しかし、それも完全ではない。四人の魔王の内、二人は胃袋から・・・一人は腸から、一人は男性のアレから、肉体が産まれたのです」

 ・・・????

 え? どういうことです? なんでそんなところから?

「このため、胃袋から生まれた二人は、胃酸で身体がボロボロだったことで、イデスバリー戦士にアッサリと倒されてしまい、腸から生まれた者は、自身の身体から出ている臭いに噎せ返り・・・堪えられずに自決してしまったのです」

 そ、そうだったんだ・・・。

「しかし、男性のアレから生まれた彼は、本当に強かった。世界を統一するに相応しい力を持っていて、多くのイデスバリー戦士をただ一人で捩じ伏せた・・・そんな彼も、世界中から駆け付けたイデスバリー戦士の数の暴力には・・・勝てなかった」

 あ、そうですか・・・って、いつまで私の腰回りを撫でまわしているんですか!!

「ちょっと、いつまで私の腰回りをまさぐっているんですか!!」

「あ、いや、まぁ・・・こんないい女は、まずいねぇからさ・・・ちょっとこう・・・なぁ?」

 はにかんだ笑みを浮かべ、どことなく根は善人みたいな雰囲気で片手を頭に添えてペコペコと小さく頭を下げる動作を繰り返す。    

「なぁ?じゃないんですよ・・・この絵面だけだって、犯罪なんですからね!!」

 私はキレ気味で言うのだけど、二人は互いを見合って笑っている。

 この余裕な感じが非常に気に入らない。

「よし、とりあえず触り終わった」

 金髪男性も、私の頭から足の先までを触り終えた。

「こんなことになんの意味があるんですか・・・」

 終わったといって、離れてくれたことにどこか安堵を覚えた私は、ため息交じりで文句を言う。

「はい。光輝くあなたの姿・・・それを輪郭だけではありますが、見えるようにするためです」

「見えるようにするため?」

 今の私の気持ちなど、微塵も気にならないようで・・・だけど、なんだか気になる事を言われて問いかえしていた。

「ええ。先ほども言いましたが、過去の我らが同胞は、君たちが光の塊にしか見えないために失敗を繰り返しました。しかし、男性のアレから生まれた魔王の強さから、正規の手順で肉体が産まれたならば、それはもう最強ということ・・・このため、まずは光の塊のどこに何があるのかを確認する必要がある。ということで、捕らえたイデスバリー戦士に触れることで輪郭線だけとなりますが、姿を認識できるようにするというわけです」

 どこに何があるのかも確認しないで、自分たちの転生先となる肉体を産ませようと?

「バカみたいだと思うでしょう? 我々も、当時はそこまで頭が良いことは無かったのです。憑依霊として、長い時間・・・人間たちを渡り歩くように、憑依を繰り返して来たことでようやく知性というモノを高め、思考能力を身につけるに至りました」

 ナンシーさんは話が長い人のようですね・・・。

 すると、金髪男性が声をかける。

「おい、ナンシー。このまま仕込んじまえばいいんじゃねぇか?」

 仕込む・・・? 仕込む!!?

「いいえ、ここではダメです。衛生面もさることながら、彼女のお仲間が駆けつけてくる事でしょう。あまり時間を取ってもいられません。こうして我々が彼女の身体に触れられる時間を得たのも、ラッキーなのです。さすがに本番までやっているほど、我々の幸運は続かないでしょう」

「ち。とりあえず、連れていくしかねぇか」

 連れていく・・・連れていかれる・・・私。この人たちに連れていかれて、し、仕込まれる!?


「それだけは、なにがあっても許すわけには行かないなッ」


 二人が同時に空を見上げ、道路に落ちる影がユラユラと燃える盛るように揺れているのが私の視界に入り、声と共に誰が来てくれたのかが分かった。

 イデスバリー・フェニックスさんだ。

「ずいぶんとまぁ、好き勝手にやってくれていたようだ・・・うちの新人を泣かせてくれたこと、焼き尽くされても死ねると思うなよ?」

「おいおい、こいつまさか・・・」

「イデスバリー・フェニックスですね・・・チャプンさんがあと一歩まで追い詰めた子ですよ・・・」

 二人が、声を緊張させている。

 やっぱり、フェニックスさんの実力は本物という事だろうか?

「逃げますよ? ランボー君。彼女は強い。その上、殺意をむき出しにしている戦士諸君が揃っていては・・・」

「あぁ・・・さすがの俺も、かかってこいやーッとは言わねぇよッ」

 ・・・そっか。

 空を飛べる人たちが総出で来てくれたんだ・・・顔も動かせない今の私では確認できないけれど・・・助かる。そう思うだけで涙が止まらなくなった。


「今日のところは、これにて失礼させてもらいます!」


 ナンシーという男が、そして何かの技を発動させた。

 それは、自身の身体が風船ように膨らむもので、何を狙っての攻撃なのかは不明。だけど、フェニックスさんが炎の壁を展開して、何かしらの攻撃であっても防げるように構えたのは分かった。


「テレポーテーション!!」


 風船のように膨らんだナンシーが、そして破裂すると共に男二人組の姿がこの場から消え去った。

「なんだと!?」

 フェニックスさんの驚愕が分かる声。

 駆けつけてくれた方々も、その衝撃的な事態に動揺を隠せない様子。

 一方で、私の身体は動くようになった。

 その場で腰が抜けたように座り込み・・・みっともないけど、声を上げて泣いてしまった。

「ちぃ・・・まさかテレポーテーションなどと・・・まずは、ナイトメアを保護! それと、リザドラルの回収を!」

 そうだ!

「り、リザドラルさん!!」

 私がすぐさま立ち上がって、彼の姿を探し・・・道路で仰向けに倒れている姿を見つけて駆け寄った。

「リザドラルさん!」

「ちゃ・・・だめ・・・すよ」

 何かを言っている?

 私は、彼の口元に耳を近づけ・・・その言葉を聞く。

「フェニックスさん! 彼らはテレポーテーションしていないって! その辺を走っているって言っています!!」

「なにッ!?」

 私の言葉で、全員が周囲へと視線を配る。

 そして、その内の一人が「居た!! あそこだ!!」と指を差した先で、先ほどの二人組が必死に走っている後ろ姿が見えた。

「おい! ステルスが切れてんぞ!?」

「前にも言ったでしょう!? この技は短時間しか持たないんです!」

 ・・・私にあんなことしておいて、何をコント見たいな逃げ方しているんですかぁあ!?


「追え!」

「「「「「「ハッ!」」」」」」

 

 こうして、今日は終わる。

 リザドラルさんの頭は半分ほど陥没していて、ランボーと呼ばれていた金髪男の拳でやられてしまったのは分かった。

 途中まで気絶していたのだけど、意識が戻ったところでスマホから本社に連絡を入れて救援を要請。そうしてフェニックスさんたちが駆けつけてくれた。という流れらしい。

 その後は、メディカルセンターに緊急搬送され、アリアネルさんが治療をしてくれた。

 私は、あの二人組についての聴取をされ、メンタルケアとしてイデスバリー・サキュバスさんに一晩付き添ってもらうことになる。

 

 また、私を襲った二人組は、追いかけた方々の攻撃を巧みに回避し、私を捕まえた時のような技で足止めをし、街を走り回ってからマンホールより地下へと逃げて行ったとのこと。

 

 空からの追跡と攻撃では追い詰められず、陸上部隊も怪異との戦闘で参加できなかったことが、逃がしてしまった要因らしい。

 あの二人は、絶対にまた私を狙ってくる・・・。

 今度は、返り討ちにできるよう・・・強くなっておかないと。

 

 そんな決意も、精神と肉体の疲労からくる眠気には抗えず・・・。



 悪夢を見ないといいんだけど・・・。




次回は、傷心。を予定しています。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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