04 一日の終わり
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われます。お読みになる方はご注意ください。
あと、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
〇-夢-〇
どこか遠くの景色が故郷に似た・・・気持ちのいい暖かさの気温と、ちょっと光が強いと感じられる太陽と、ジワリと滲む汗に、フワリとした風が当たって心地よい・・・そんな陽気に包まれた公園。
私は、木目が綺麗なベンチに座っている。
空を見上げ、流れていく雲を見送り、ただ青が増していく景色を楽しんでいると・・・砂利を踏む足音が耳に届く。
視線を空から地上へと戻せば、公園に入ってくる人影があった。
男性だ。
年のころは、よく分からない。中肉中背という印象で顔は・・・分からない。だけど、その眼は私をまっすぐに見つめている。
すると、続々と公園には男性がやって来て、痩せている人。太っている人。筋肉な人。背の低い人。背の高い人。様々な背格好の方々が、皆、私の座るベンチへ向けて歩み寄ってくる。
熱い。
彼らの視線は、私の身体を熱する火のように強い。
ベンチを立ち上がり、私を囲むようにして動く彼らに笑顔を振りまく。と、私を見つめる視線がより強まっていた。
気恥ずかしさを覚え、私は右手を右胸の上に置き、左手の人差し指と親指でスカートを摘まんでピッと引っ張り太ももを隠す布を伸ばす。
ただそれだけで、彼らの熱視線は私の身体を焦がすほどに高まっていった。
体が熱い。
もう、我慢はできない。今から始まる。今から始まるのね?
・・・いまから、わたしは――――。
≪みぃーんなーッ!! 今日は! 秘密戦隊メシウンマーのヒーローショーに来てくれてッ! あっりがとぉーッ!!≫
「「「「「「はぁーぁいッ!!」」」」」」
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どこかで見たことのある司会のお姉さんが、ステージの上でマイクを手に、会場へ集まった子供たちに挨拶をしている・・・。
そうしてから、横、やや後ろ側に居る私に振り向いて・・・。
≪あーッ! あなたは! バッドクックの女指令!! メシマンズー・ナイトメア!! どーしてここにーッ!! あ! まさか! 今日のヒーローショーが! あなた達に知られていたのねーッ!!?≫
そうして、私の中でかみ合っていたはずの歯車に、別の歯車が激突してくるような衝撃を受けて、私は自分のやるべき事を始める。
「ふふ。あーっはっはっは! いかにも! バッドクックの女指令! メシマンズー・ナイトメアとは私の事だ! 地球人類の美食の秘密を暴くため! 今日はこの会場へ集まってくれた子供たちに協力してもらおう!!」
そうして、右手を高く翳して、指を鳴らす。
「さぁ! おまえたち! 出番だぞ!」
「「「「「「まずまずまずまずまずまーッ」」」」」」
よくあるモブ戦闘員が、ステージ裏からゾロゾロと飛び出してくると、会場に集まった子供たちを取り囲んで脅かし始める。
子供たちは「きゃー!」「やー!」「ぅわーん!」と、三者三葉で楽しんでくれているよう。
そこに・・・。
「「「「「そこまでだ!!」」」」」
パン。パン。パーン。と、ステージにセットされている花火が鳴って、秘密戦隊の五人が吹き上がる煙幕と共にステージへ登場する。
一人一人がヒーローポーズを取って名乗りを上げ、5人揃って最後のポーズを決めた。
「「「「「子供たちの食育を阻む者は許さない!! 我ら、秘密戦隊メシウンマーッ! ただいま参上!!」」」」」
子供たちの歓声に、ある程度の間を置いてから私が高笑いをする。
「あーっはっはっは! 来るのが少し遅かったな! すでに子供たちは私の手の内よ!」
「そいつぁどうかな?」
私のセリフに続けて、新たな声が響くと共に子供を囲んでいるモブ戦闘員の一画で煙幕が吹き上がる。と、コレに合わせて戦闘員が吹っ飛び、代わりに金色の戦士が現れた。
「俺もいるぜーッ」
金色の戦士がポーズと名乗りを上げた後、さらに反対側の一画で煙幕が吹き上がり、モブ戦闘員が吹っ飛んで、代わりに銀の戦士が登場する。
こちらもポーズを決めて名乗りを上げた。
「これで形勢逆転だな!」
「ええい・・・まだだ! 来たれッ我がしもべ! オナカクダール!!」
「くだぁーる。くだぁーる」
トカゲ怪人がステージ裏から出てくると、私の隣に立ってヒーローと対峙し、モブ戦闘員もまたステージと周囲へ集合して戦闘態勢に。
ショーは佳境を迎え、見どころの一つである殺陣で子供たちから喉が潰れてしまいそうな声援が飛び交い、とうとう最後の時を迎える。
「今だ! メシウンマー!」
「トドメの一撃頼んだぞ!」
「「「「「よぉーし! 超! 必殺技!!」」」」」
≪会場に集まってくれたみんな! 秘密戦隊メシウンマーが、超必殺技を使うわ! みんなも一緒に、技の名前を叫んで援護してね!≫
「「「「「「はぁーぁい!!!」」」」」」
≪それじゃあ、いっくよーッ! せぇ~のぉーッ!!≫
〇-夢、終了-〇
ハッと、目を開ける。
「あ! ちょっと大丈夫!? 私が分かる!?」
私の視界に飛び込むようにして顔を寄せてくるのは、司会のお姉さ・・・イデスバリー・サキュバスさん。
とても心配した顔をしているけれど、私はサキュバスさんの両肩を掴んで顔を寄せ、そして真っ先に言わねばならない事を告げた。
「私ッ! メシマズじゃありません!!」
「・・・・・・・・・・・・・はー?」
あれ? なにかちがった?
〇
私が目覚めた事はすぐに知らされた。
イデスバリーの戦士状態では表の病院には運べないので、ちゃんと秘密結社メシア日本・東京支社内にあるメディカルセンターに運び込まれるらしい。
今回、私は『樹木憑依霊』に襲われたのだそうで、リザドラルさんの言う『怪異Lv』だと『3』に相当する浮遊霊の上位タイプで『憑依霊』の一種になるのだそう。
ちなみに『怪異Lv2』は、最初に見た『擬態霊』らしい。
①大昔の移動手段が徒歩メインだったので、怪異たちは、森や林で休憩をしたり雨宿りしたり野宿するイデスバリーの戦士を待ち伏せするために樹木へ憑依したのが始まりだろう。と、推測されている。
②現代における都会では、木々は公園や街路樹ぐらいになっているため、樹木に憑依する怪異は、そういう場所に集まって、一本の木に大量に詰まっていることが多いとのこと。
③複数の怪異が一本の木に憑依していることで、結果的に合体怪異のような状態となっており、憑依霊の中でもかなり強力で、知能まで備えているから厄介なのだそう。
④一番厄介なのは、リバーシブル・フィールド内でも樹木憑依霊を倒してしまうと憑依されている樹木までダメージがあり、枯れてしまったりするので迂闊な攻撃ができないらしく・・・定期的に樹木憑依している怪異を樹木のダメージにならない程度で駆除し続けるしかないらしい。
⑤運の悪いことに、ちょうど数日後に定期駆除を控えていた公園だったそうで、私は樹木憑依している怪異が一番詰まっている時期に足を踏み入れてしまったとのこと。
「ま、リバーシブル・フィールドが展開されている時が危ないのであって、通常空間であれば襲われないから大丈夫よ」
・・・そうは言われても、公園に近づくのが怖いので、しばらくは止めておきます。
「ところで、リバーシブル・フィールドはどうなったんですか?」
「大丈夫ですよ。もう、解除されています。みんなが頑張ってくれたようですからねぇ」
柔らかな声音で、私の治療を担当してくれた『秘密結社メシア日本・東京支社専属医療師』という人物の『イデスバリー・アリアネル』さんが教えてくれた。
私が倒れて数時間後に複数体の怪獣怪異を撃破したのち、集まっていた怪異たちが退いて行ったのだそうで。
まるで潮が引くような静かな去り方には、違和感を覚えたというそうです。
「でも、私以外に怪我人はいないのですよね?」
「みんなベテランですからね。新人と言っても、リザドラル君があなたの前だもの」
そ、そうなんだ。
イデスバリー・アリアネルさんは、その姿は一言で『カピバラ』の女性だった。
獣人という姿には驚いたけれど、前世でカピバラに強い思い入れがあったのかは、本人にも不明。前世の集大成が変身の結果というけれど・・・本当に謎過ぎると思う。
ただ、変身を解いた場合は60代のお婆さんなのだとか。
・・・いや、まぁ・・・カピバラ顔なのでイデスバリーでの年齢は見て分からない。そんなアリアネルさんは、イデスバリー戦士の中でも数が少ない治療能力を持つ方で・・・戦闘能力がないらしい。
そのため、護衛が必要で・・・その護衛となった方と結婚している。
今、私がベッドを借りている病室の扉前に立っているハクビシン獣人な方が、旦那様。と紹介された。彼は『イデスバリー・カマイタチ』と言うそうで、背に大鎌を背負っている。
「彼・・・ずいぶんと印象が変わったように思うわ。前は不貞腐れて不平不満ばかり吐き散らす子だったと思うのだけど・・・」
「え? そうでした? 前からあんな感じだったとおもいますけど?」
アリアネルさんとサキュバスさんで会話が始まり、リザドラルさんについて印象が変わった。変わっていない。という内容で違いを語っていく。
だけど、とりあえず今は関係ないので、私に話しが戻ってきた。
「さて、今のあなたがどういう状態なのかを説明しますね」
丁寧な説明を受け、私なりにまとめてみる。
①樹木憑依霊は待ち伏せ型の怪異で、掛かった戦士に毒を打ち込む攻撃をしてくる。地域や樹木によって、毒の種類は違うモノの、基本的な神経毒と夢毒というものになる。と言っても、よく聞く神経毒とは違うものらしい。
②私は、基本二種の毒を全身のあちこちから打たれて、とても危険な状態にあった。しかし、リザドラルさんの麻痺毒で私含めた毒ごと麻痺させてあったので、毒の侵攻が抑えられていた。
③神経毒に関しては、解毒剤があり、怪我はアリアネルさんによって治療できたが、『夢毒』が残った状態だった。
④『夢毒』とは、怪異の思念が精神に作用する一種の洗脳毒であるらしく、夢の中で『ある行為』を実行して、その『行為』を見ている自分。という構図を作って、人格を否定するような言葉を囁き惑わすというもの。
⑤この毒は治療しなくても一か月ほどで消えるが、夢を見る眠りに入ると必ず見るもので、ノイローゼになって、高確率で自分を見失うモノなのだそう。
「で、とりあえず、あなたが目覚めるまでに見た夢を教えて欲しいの。連中の夢は、その時々で攻め方が違っていたりするからね。あと、私にメシマズじゃない。と言ったのも詳しく」
この夢毒治療には、サキュバスさんのような人が必要らしくて・・・要するに精神操作ができる能力者でないと毒の作用を邪魔するのが難しいらしい。
それで、夢毒治療をした場合は必ず夢の内容を話さなければならない。なぜなら、夢毒で見た夢は鮮明に覚えており、忘れた。という言い逃れは通じないから。
「え、えと・・・まず・・・」
私は、公園のベンチに座っていたこと。そこに複数の男性がやって来て囲まれたこと。熱の籠った視線を受けて身体が熱くなったこと。始まると思った直後にヒーローショーの開演。そしてメシマンズー・ナイトメア参上の口上まで詳しく・・・ぅぅ。
「ぶふッ! ご、ごめ! さすがにこういう潰し方は、ちょっと、は、初めてで・・・」
サキュバスさんが思わず吹き出し、アリアネルさんは孫を見るような顔で私の頭を撫で始め、チラッとカマイタチさんを見ると、懐かしいモノを見る目で私を見つめてくれていた。
「しかし、良かったわ。リザドラルの麻痺毒で夢毒の侵攻が遅れていたから、サキュバスの夢操作が間に合ったのね。もう少し遅かったら、邪魔しきれなかったかもしれないわね」
「そうですね。アレだけの樹木憑依霊に巻き付かれて、大量に毒を打たれたわけですしね」
・・・私、相当に危ないところだったみたいです。
「あの・・・普通に間に合っていなかった場合は、どうなっていたのでしょうか?」
私が、最悪の事態を聞いておこうと思って問うと、二人は顔を見合わせてから・・・サキュバスさんが私の肩に手を当てて言った。
「知らない方がいいこともあるけど、どうしても知りたいのなら、治療が終わった後で兄貴に頼んでそういう夢を見せてあげてもいいわ」
・・・お兄さんに頼むの!?
「まぁ、話を聞く限りだと思念の数が大量・・・という以外のシチュエーションは他の方々とさほど変わりませんね」
「そのようですね。通常では在り得ない量なのは巻き付いた数なんですかね?」
「そういう事なのでしょう。私たちが、いかに怪異から見えていないのかが分かる結果ですね。これは希少ですよ。今の時代に最初期型イデスバリーでの治療情報を収集できるのは・・・」
少しばかり興奮した様子になる二人だったけれど、腕を組んで「うーん」と唸り出す。
二人だけで、何かが完結してしまっている様子・・・いったいなんだろうか?
「あの、他のシチュエーションというのは?」
とりあえず、また気になる情報だけは教えてもらおうと思う。
「ん? そうね・・・例えば学校なら校舎とか、会社とか、工場とか、競技場とか、コスプレ会場でカメラに囲まれているとか? 確認できているだけでも相当ありますよね?」
「そうですね。連中のレパートリーには驚きますが、ヤル事はみんな同じというのも芸がない」
・・・へ、へぇ。
ちょっとだけ、そう。ちょっとだけ、今教えてもらったシチュエーションで、私が見た夢の前半を想像してみる。
うーん・・・確かに、背景を変えただけでも成立しているように思える。
「では、ナイトメアさん」
「はい!」
夢の前半部を教えてもらったシチュエーションに変更して想像していたところに、アリアネルさんから声を掛けられて驚きつつ身を強張らせる。
「あ、夢前半の背景を変えて想像してたなぁ~?」
「し、して、ない、です」
「んふー。んふふー」
な、なんでそんなに嬉しそうなんですか・・・ぅぅ。
「まぁまぁ・・・思春期というものは、そういうモノですよ。さ、ナイトメアさん。こちらの薬を飲んでくださいね」
そうして差し出された薬は、銀のトレイに乗った錠剤が二つ。
片方は円形で紫色。もう片方は長方形で黄色。どちらも大きさはほぼ同じもののようだけども。なにか、オーラ?みたいなモノがユラユラしているような?
「この薬は『夢毒』治療に必要なモノでしてね。必ず飲んでもらうんです。そして、今日は変身を解かずに、この病室でしっかりと休んでくださいね」
優しい笑みが、ご近所さんのお婆さんみたいでホッとする。
「はい。いただきます」
そう言って、錠剤を一つずつ丁寧に飲む。水と一緒に。
薬も飲んで、今日はゆっくりと休むように言われていると、病室にシェルさんとお養父さんが入ってきた。
「お養父さん!」
〔おぅ! 目が覚めたと聞いてな〕
見舞いに来てくれた。それがとても嬉しくて、私は自然と笑顔になる。・・・なるけれど、地蔵菩薩像と意識すると違和感が強まって、気持ちが渋くなっていく。
〔今日は、大変な目に遭わせてしまって申し訳ありませんでしたね〕
私に謝罪を述べるシェルさんは、アリアネルさんたちを労って病室から出て行くのを見送り、そうして私に向き直る。
「・・・支社長さんは?」
〔彼女は仕事ですよ。リバーシブル・フィールドのせいで、表の仕事を確認しないといけないので〕
・・・そういえば、フィールドの発生中はみんな停止していたけれど、外側的にはどうなっているんだろう?
「あの、フィールド発生中の外と内でどういう感覚になってしまうんですか?」
〔・・・それを地球人に説明するのは難しいですね。我々の理論・・・地球で言うなれば・・・そう『タイム・パラドックス』というモノを異世界式理論で説明しないといけませんので〕
「あ、はい。大丈夫です。説明は・・・」
どうやら、地球では解明できない謎を使って整合性を取っているとのことで、一応の説明を得た。
〔さて、まずは今日の早朝からあなたに無理をさせ続けたことにも、謝罪を。リバースデイを迎え、碌な説明を得られず、戦いに駆り出し、大怪我をさせてしまいました〕
「い、いえ・・・そう言われると、まだ一日目なんですよね・・・私が『リバースデイ』を迎えてから」
最初から情報量が多過ぎたせいで、もう何日も前からこうして生活しているような気分になってしまっていたけれど、こうして『変身』して怪異と戦うのは今日が初めてなのを思い出す。
・・・情報量が多過ぎて、私の状況認識が鈍っていたみたいです。
私が、少しばかり俯くと・・・お養父さんがベッドに登って来て私の頭を撫でてくれる。
〔無理をするな〕
その声を聞いた時、ボロッと涙が零れた。
今日、一日で起きたことがフラッシュバックして、全身を駆け巡る熱と痛みと恐怖に、声を上げて泣き出し、お養父さんに抱き着いていた。
・・・だけど、ゴツゴツとした石触りに肌が擦れて、すぐに冷静になる。
〔すまん。こんな体で・・・〕
「ううん。少しだけど、気持ちがスッキリしたから」
ちょっとだけ寂しい気持ちはあるけれど・・・私はこの疑問をシェルさんに尋ねる。
「あの、私の記憶なのですが・・・」
〔ええ。それに関しては、答えられますよ。リバースデイした地球人は皆、リバースデイまでの人生に関する整合性を取るようになっています。分かり易く言えば『捏造』ですね〕
ね、捏造・・・。
〔あなたの場合は、世界中で観測装置がエラーを起こすほどのリバースデイだったので、我々による情報操作や改竄などの調整がまったく必要ありませんでした。夜乃次蔵が迎えた養子。として、しっかりと戸籍が置き換わっていたのです。驚いた事に、こちらは石像のまま戸籍が出来ており、誰も石像だと認識していません。コレは今までに事例の無いことです。実に興味深い。イデスバリー戦士ら以外は、彼を人間として認識するのは間違いないでしょう〕
饒舌に語ってくれるけれど・・・そんなスゴイ事をお養父さんはしたということなんだ。
「でも、なんでそんなことに?」
〔・・・予想できることはある。が、確証がないので今は話せないな〕
なにか、心当たりはあるってこと?
〔そうですね。迂闊な推測を口にするべきでもないでしょう。それよりも、次蔵さんは言いたい事があって来たのでしょう?〕
〔あ、ああ・・・その・・・だな。ユキト・・・何か俺にして欲しいことはあるか?〕
「え? そばにいてくれるだけでいいよ?」
〔そうじゃない。俺は、前世のおまえに恩返しをしたつもりだったんだ・・・それがこんな状況になってしまうとは思っていなかったから、どうにも歯痒くてな〕
そうか。
前世の私が、捨てられていた石像を拾い、掃除して、家に設置し、お供え物を差し入れしていた。きっと、毎日のように話しかけられていたのかもしれない。
眠っていても、覚えている事はあるんだと思う。
〔シェルから聞いた。俺たちのように地球人をイデスバリーした者は『バース・パーソン』とか言うらしく、おまえたち戦士が最高のパフォーマンスを発揮するための外付け演算装置を担うらしい〕
外付け演算装置!?
〔簡単に言えば、あなた達が戦闘などで使うエネルギー制御を担っているのです。身体能力に消費するエネルギー量。攻撃時に放つエネルギー量。防御に使うエネルギー量。などなど・・・どれもこれも人間個人が事細かに制御できるものではありません。そこで、戦闘能力を持たない我々アバターが、その補助を担うのです〕
そ、そういう役割があるんだ・・・。
〔このため、我々アバターが破壊されたりすると、あなた方の能力値は人間よりちょっと強い程度まで低下します。なので、我々は比較的安全な場所を確保して、あなた方の戦いを見守るしかないのです〕
だから、お養父さんは「なにかして欲しいことはないか」と聞いて来たわけだ。
私をこんなデタラメな状況に放り込んでしまった責任を果たしたいと思ってくれているに違いない。
「・・・ねぇ? お養父さんは元の世界で研究所の職員だったんでしょう?」
そういう話をしていたとおもう。
〔ああ。確かにそうだ。俺は武器などの研究をしている部屋の所属だった。それで、連中にな・・・〕
やっぱり!
武力衝突した二勢力に狙われていたと聞いて、もしかしたらと思ったんだ。
「お養父さん。私のために武器を造ってくれませんか? 今日のような怪異に襲われても、対応できる武器や防具を!」
私が、真剣な気持ちを伝える。
〔・・・ああ。ああ! 任せろ! それなら俺の得意分野だ!・・・だが、おそらくすぐには無理だ。ここの研究室を借りて、異世界から色々と材料を取り寄せられないと・・・難しいかもしれん〕
〔では、明日からさっそく取り掛かりましょう。長年、異世界の金属やらなにやらと妙なものに変換されないようにする研究も続いています。ある程度は進歩しているのですよ。そこにとう・・・次蔵さんの技術と知識が加われば、鬼に金棒というもの〕
地蔵菩薩像とぬいぐるみ人形が、やる気を滾らせている様子は・・・どういう解釈をすればいいのか困ってしまう。
稀有な状況には苦笑するしかない。
「どもどもー。夜分にしつれいしまーす」
リザドラルさんのデリカシーが無い声を聞き、私はちょっとだけ・・・なぜか嬉しくなって、病室の扉を見た。
知らない男が「にかー」という笑顔で入って来ていた。
「誰ですか!?」
「ええええ!? イデスバリー・リザドラルだよ!?」
・・・あ、あ、そっか・・・変身を解いた・・・あ、そういえば今朝に調査員を名乗っていた男性だ。
はぁー・・・ビックリした。
「やーやー。こっちの姿で名乗ってなかったね! 俺は『麻野リバト』っていうんよ。よろしくねー」
「はい・・・その、よろしくおねがいします」
ど、どうしたんだろう。
なんだかすごく緊張している・・・そうだよね? リザドラルさんだって、人間だもの・・・男性だもの・・・。
〔何用ですか? 今は家族水入らずを楽しんでいるのですが?〕
シェルさんが、さっきまでとはまるで別人みたいに低い声を出している・・・。
「あいやー・・・俺がいながら大怪我させちゃったから、一応お見舞いにきたんすー。はい。カステラ! スーパーの安もんじゃないっすよ! お給料からガッツリ消費した高級品です!」
そう言って、確かに高級そうな包みの箱をテーブルに置いてくれる。
だけど、私が一番気になったのは・・・リザドラルさんが大事そうに抱えているモノ。
「あの、リザドラルさん・・・その抱えているモノは?」
「リバトって・・・まぁいいか。これ? ほら、これすごいんよー」
そう言って、リザドラルさんが私に見せてくれたのはフィギュアだった。
まだ色などが塗られていない・・・作りたて?のようなフィギュアだけど・・・その、造形は・・・。
「じゃじゃーん! イデスバリー・ナイトメアちゃん尋問中フィギュア! さっきイデスバリー・スナップ先輩と愉快なお友達が、これで「ウゥェーイ」て高笑いしてるのを聞いて、ちょいと一個もらってきたんすよー」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「これ、椅子に座っている様子だから、カップ麺フタホルダーにピッタリ! 色をしっかり濡れれば、メッチャエッチになること間違いないねー」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
私が何も考えられなくなっていると、シェルさんの声が聞こえた。
どうやら、支社長の紅葉朱雀さんに連絡を入れたみたい。
〔すぅざぁくッ!! 社内テロが発生しているぅ!!! すぐに女性戦闘員を緊急招集して第六趣味工作室へむかわせろおおおおおおおおあああああああああ〕
・・・別人みたいな声音で、シェルさんは病室を飛び出していった。
〔な、なんだいったい・・・〕
「うはー。すんげー迫力あったねー・・・こっわ」
リザドラルさんの声に、私はとりあえずの深呼吸をする。
そうして、真っ先にやらねばならない事をするべく、まずは彼に手を差し出して要求した。
「その人形を渡してください」
「やだ」
・・・悪夢だ。
次回は、憑依霊の脅威。を書きたいと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。