25 妖怪人よっちゃんの事件簿?-その1-
こんにちは。こんばんは。
ここより第二章が始まる感じで、まずは妖怪人 よっちゃん 側のお話になります。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
雨が降って来た。
『命の巫女』がダンジョン・フィールドの発生に引き込まれ、大怪我を負ってしまってから数日が経過した。
あれから、リバトより連絡がない。
奴自身も大怪我を負っていたから、入院しているのだろう。
・・・とは思うが、俺に関することで面倒なことになっている可能性が高いか?
まぁ、連絡が来るのを待てばいいか。
ポツポツと小降りな雨が、次第に強くなってくる。
昨今の気温上昇に伴い、真夏みたいな環境には参るばかりだ。
人間に擬態しているとはいえ、イカの俺では乾物になってしまう恐れがある・・・いや、湿気も多いので乾物になる前に腐ってしまいそうだ。
そんな中で降る雨は大変嬉しいが・・・現代の雨は一言で『汚い』から浴びたいとは思わない。
購入してから長く使い続けているビニール傘を差し・・・近所のスーパーで購入した日用雑貨と食料を詰めたマイバックが雨に濡れないようしっかりと抱え直す。
それにしても、スーパーを出て雨に降られるとは・・・。
{きゅぅ・・・}
なんとも・・・運の無い日かと思えたが、どうやら運命の日なのかもしれないと思い直す。
「こんにちは。狸妖怪人の のれん 殿」
三叉路にて、帰路となる道の青信号を渡ったところで、テナントビルと飲食店の隙間から一匹の狸が出てきた。
埃・・・いや、泥などで汚れた姿をしているその狸は、どこか弱弱しい様子で塀に身体を預けるように歩いている。
そんな彼に、俺は声を掛けたのだ。
すると、疲れ切った様子でこちらを振り返ってくれた。
{・・・あぁ、先日のイカ殿か}
「ええ。今は人間に擬態しているので・・・名を『鰞鰂 魷』と名乗っていますが」
{さようであるか・・・}
見たところ、不眠不休・・・さらには食事も取っていないように見られる。
ゲッソリとやつれた様に細くなっているが・・・体毛が夏仕様に変わったとかそういうものであるだろうか?
いや、脚がプルプル震えているから、やっぱり・・・やつれているだけか?
「食べていないのですか?」
{・・・言われてみれば、しばらく何も食べておらぬな}
やはりか。
「ツナ缶で良ければ、一つ差し上げますよ?」
{いただこう。感謝する・・・}
ツナ缶を取り出し、蓋を取って のれん 殿に差し出すと・・・勢いよく食らいつく。
だいぶ腹を空かせていたのだろう・・・まぁ、妖怪なので飢餓状態から食事をとっても大丈夫だろう。
{美味なり・・・よもやここまで美味とは・・・人の食は美味が過ぎる・・・イカ殿。ハンバーガーというモノも食べてみたいのだが?}
「・・・動物に食べさせる物ではありませんよ」
{妖怪ゆえ、問題ない}
図々しい狸だ・・・。
だが、これだけしっかり食べられるなら大丈夫そうだ。
・・・とりあえず、のれん 殿の近況を確認させてもらうとするか。
「それで? あなたの主という方を取り戻せたのですか?」
{否・・・まんまと逃げられてしまった。どうやら、異世界人の協力者がおるようだ・・・あの水のツチノコが、唐突に臭いも気配も消してしまった・・・鬱である}
霊園地公民館より出てきた『ツチノコ』モドキの水の塊。
建物を破壊するほどの巨大化をしたあの瞬間まで、気配を一切感じられなかった・・・。
あれほどの物を作る技術を持った者が関わっているとなれば、確かに異世界人だろう。
それは、秘密結社メシアとは異なる組織・・・憑依霊共と関係を深めている異世界人か。
リバトのヤツが言っていた『異世界侵略賛成派』という連中だな・・・。
{ところで、巫女様はご無事であるか?}
「無事では無いようですが、死んではいませんよ。秘密結社メシア・・・イデスバリー戦士は無能揃いではありませんからね」
{で、あるか・・・}
「これから、どうされますか?」
{まずは活動拠点を得たい・・・イカ殿。そなたの住まいに居候させてもらう事は可能か?}
そこは大家に確認を・・・。
いや・・・いや待て、そもそも狸って飼っていいのか?
犬って言いきって誤魔化せるか? 厳しいか?
狸のイメージは、フワッとふっくらした姿を真っ先にイメージするだろうから、今の細身となった様子であれば犬と見紛うことも・・・。
「まずは、大家に確認をしましょう。狸を飼うのに必要な事はインターネットで調べられるはずですから」
{飼う? 居候を希望しているのだが?}
「・・・あなたは狸姿なんですから形式上は『動物を飼う』となるわけですよ」
{では、人間に化ければ良いのだろう?}
「それが可能ならば、同居人にも出来ましょう」
{では化けようぞ}
「待った。ここでされては人目に付きます」
{心配無用。そなたに声を掛けられた時より、人払いの法を展開しておる}
・・・いつの間に。
それも、言われるまで気づかないとは・・・やはり、俺よりも実力は上か。
あそこで全力の戦いをしていたとすれば、俺に勝ち目はなかったな。
{では、化けるとしよう}
尻尾をパタパタと動かすと、唐突に後ろ足で立ち上がり・・・前足を使って尻尾を掴む。と、尻尾を引っこ抜いた。
直後、のれん 殿の全身から煙が噴き出し、その姿が人の・・・。
{どうであるか? 人間に化けられたであろう?}
「・・・サイズに問題がありますね」
{む?}
人の姿に化けられていたものの・・・そのサイズは狸から変わっていない。
小さ過ぎるゆえに、人間とするには異様な存在となっている。
これが幼児であるなら違和感もないのだが・・・60代の老人という風体をしていた。
「・・・あの、見た目を幼児・・・もしくはサイズを修正できますか?」
{・・・鍛錬を積めば可能である}
「では、狸を飼う。という方向で行きましょうか」
{ぅ・・・ぅむ・・・むぅ}
不満はあるが、人間社会で生活するのに手っ取り早い手段を取れない以上は受け入れてもらう必要がある。
・・・そうなると、狸って飼えるのかどうかが気がかりだな。
▽
{して? 住まいはどこに?}
「この先にある商店街に事務所を構えているんです」
東京でも昭和時代を垣間見ることができる寂れた商店街・・・今や閉店している店ばかりで、開いているのは極僅か・・・。
それでも営業している店がチラホラとあるが・・・老朽化が深刻になっているため、再開発が行われている。
担当している会社は『よこしま建設』と言うのだが、全国に同名の建設会社があるために有名とは言えないな。
ここら一帯では馴染みの『よこしま建設』による商店街の再開発計画は、着実に進んでいるので気にする事でもない。
俺の事務所も、再開発で建て直された三階建てビルの三階にある。
{事務所というのは?}
「探偵事務所ですよ。俺は私立探偵をしていましてね・・・」
俺は、探偵事務所の看板を指差して教えると、のれん 殿は目をパチパチとさせてから呟くように言った。
{・・・何ゆえに、事務所の名前が『イカノシオカラ』と?}
「やはり名前にインパクトがあると覚えてもらえると思いましてね。あと、美味しいですから」
{・・・・・・分からぬ}
理解し難いことか。
まぁ、それはいいだろう・・・人間とは不可解な生物なのだからな。
俺は、のれん 殿を連れて事務所のあるビルまで案内し、まずは一階にて営業している居酒屋兼食事処となる店の戸を開ける。
「はぁーい。いらっしゃ・・・って、探偵くんか。好きな席に座っていいわよ」
「いえ、食事に来たのではなく・・・大家さんに確認したいことがありまして、お伺いしました」
客の入りは上々。
平日の昼時となれば、商店街と周辺住民などが食事するためにやってくる。
女将さんの料理が美味いことと、人柄ゆえに好かれているのが大きい。
さらに、この店には年若い看板娘も居るため・・・下心ありの男らも自己アピールのために集まってきたりしている。
・・・当人にその気は無いようだがな。
「私に確認? なんだい?」
「実は、事務所に居候を住まわせても大丈夫か?を確認したいのです」
すると、常連客たちが一斉にこちらを見て騒ぎ立てた。
「イカ探偵が居候を住まわせる!?」
「誰だ!? 女か!? 恋人か!!」
「いやいや、まだ男の可能性もあるんじゃ?」
「申し訳ないが、動物です」
「「「なーんだ。動物かよ」」」
この手の老人は、そういうネタで騒ぎ立てるのが好きだな。
「っで? なんの動物を飼うんだい? 犬と猫なら問題ないよ」
「狸です」
「「「「「「たぬきッ!?」」」」」」
瞬間、客たちがスマホを手に店の入り口まで機敏な動きで飛び出してくると、その勢いに圧された俺は店から外へと飛び出した。
これに のれん 殿が毛を逆立てて威嚇姿勢になる。
「おお! マジの狸だッ!!」
「最近は東京でもよく見かけるって聞くけど、こうして間近で見られるとはねーッ!」
「こらこら! あまり不用意に近づくんじゃないよ。狸は警戒心が強いから、不要に手を出したりすると噛まれたり引っ掻いたりするからね!」
「えーッ! この子、探偵さんに懐いてるのかい!?」
「狸? なんか細くない? 実はアライグマとかハクビシンだったりしない?」
「なんか狸のイメージとだいぶ違うんだけど?」
「これ、狸カラーの犬なんじゃ?」
「最近の若いのは知らねぇのか? 狸ってのは夏は細くて犬っぽいが、冬になるとモフモフ毛玉になるんだよ」
「いやぁ、冬仕様が一般的だからなぁ・・・」
「へぇ・・・そうなんすね」
「つか、狸って飼育OKなんだっけ?」
「あー・・・どうだったかな? 役所に届け出をして、許可をもらうんじゃなかったか?」
「そういうの、うるさい時代だからなぁ・・・とりあえず、役所に行って相談してみるのが手っ取り早いだろ」
店に居た老若男女の客たちが、スマホカメラで撮影をしながら「わいわい」と盛り上がっている。
「鰞鰂くん。とりあえず、三階の事務所で飼うのはあなたの責任でお願いするけどね? なにか公的な手続きとかはしっかりとやってちょうだいね?」
「ええ。わかりました・・・とりあえず、荷物などを置いてくるので失礼しますよ」
・・・。
・・・・・・。
・・・はぁ。
{侵害である。よもや アライグマ や ハクビシン などに間違われるなど・・・}
「まぁ、日本人の狸イメージは冬毛のモコモコ姿ですからね・・・今の姿は話題にもならないですから、知らないのも無理ないことです」
{あと、犬でもないのだがな・・・}
「いえ、狸は犬科タヌキ属です」
{・・・人間め、妙な分類の仕方を}
三階へと続く階段を上りながら、そのような会話をし・・・そうして、俺が住まう探偵事務所の扉を開く。
来客を知らせる鐘の音が鳴り響き、そうして・・・事務所内にて俺の帰りを待っていた者の一人が声を張り上げた。
「遅いではないかッ! ワシを待たせおって・・・って、なんで狸が居る?」
はぁ・・・そういえば、今日にも那須からこちらに出て来るという連絡を貰っていたな。
帰宅早々に響く甲高い声音・・・年若き娘の声であるが、協力者の一人となる妖怪人だ。
のれん 殿が前足に葉を構えている・・・。
「のれん殿。大丈夫です・・・ここで戦闘などは絶対にしないでいただきたい」
{・・・で、あるな}
葉をしまってくれたか。
「ほらほら・・・まずはお帰りなさい。が、マナーじゃないの? 緋色さん」
来客のために用意してある二つのソファと間に設置されたテーブル。
そのソファの一つにて横になっていたのだろう女性が体を起こし、こちらを覗き見るようにしつつ砂色の髪を手櫛で慣らしていく。
「砂利さん。休憩時間にソファで仮眠取るのを止めてもらえませんか?」
「あら? 質のいいソファだから、寝やすくて私は好きよ?」
砂の妖怪人『砂利』
人間に擬態している時の姿は、女子大生ぐらいの年齢でTシャツにデニムパンツ・・・そして仕事着となる割烹着を着ている。
彼女は妖怪『砂掛けババア』の系譜にある存在で、現代式にアップデートされた新時代の怪物だ。
俺の仕事によく首を突っ込んでくるため、半ば助手のような位置に居座っている。
普段は一階の飲食店で働く看板娘をしており、集客に一役買っている。
「おい狸。なにゆえイカと共におる?」
{無礼な娘なり・・・まずは名乗れ}
「は? ガキめが、ワシを誰だと思うておるか?」
{狐臭い娘よな・・・稲荷の化身か?}
「かっかっか! 分からぬならばとくと聞け! ワシは那須の山にて祀られる殺生石よりこの地に戻った大妖怪! 白面金毛九尾の鬼狐であるぞ!!」
{・・・ん? 白面金毛九尾の妖狐ではないのか?}
そう。
彼女は日本人であれば知らぬ者はいないだろう・・・と言えるほどの知名度を誇る大妖怪。と思うだろうが、実は似ているだけの別妖怪。
白面金毛九尾の『鬼狐』である妖怪人『緋色』・・・まぁ、その名前はお気に入りの人間がつけてくれた名前らしいが。
巨大な力を持つ彼女は、山も跨げるほどの大狐であるらしいが・・・さて、それは横へ置くとする。
人間姿に化けている今は、狐の意匠を施した白面を被っており・・・その面からは金毛が九つの房にして背中へと流れている。
・・・しかし、そんな工芸品みたいな面を付けているにも関わらず、着用している服が学生服だ。
巫女服とかの方が似合いそうなのだがな・・・。
「はぁーッ!? ワシを妲己と一緒にするでないわーッ!! あいつは今も中国国内でなんかやっておるわッ!」
{ほぉ・・・初耳である}
傾国の美女と名高い妖怪と一緒にされるのは、甚だ遺憾らしい。
大陸から日本へ渡った・・・とされているものの、実は今も大陸にて暗躍し続けているようだ。
「だいたいだな? そもそもが偶然この世界に召喚されたのじゃッ・・・当時、ワシを召喚した者が病床にて吐いた血を使い、死にたくない一心で描いた召喚術式が起動したことで喚ばれてしまったわけじゃ!」
彼女が最初に召喚されたのが、のちの世で妲己が日本に渡った・・・とされる時期と重なってしまったことが不運と言えるだろう。
あくまでも彼女の話しだと、召喚者の病気を治療しつつ介護していただけだったらしいのだが、病気の原因となる毒を盛っていた連中に嵌められて逃げることになった。
で、現代でいう『殺生石』を設置してこの世界を去ったらしい。
{異世界・・・ということは、イデスバリーの異世界に住まう妖狐ということか?}
「いや、そやつらとも違う異世界じゃな」
{ふむ・・・異世界にも種類があるわけか・・・}
・・・彼女は召喚獣として多種多様な異世界に召喚されるらしく、少し前に召喚された異世界で手痛い返り討ちにあったらしい。
それで、この世界に設置しておいた殺生石をバックドアとし、緊急転移にて九死に一生を得たそうだ。
殺生石がその時の衝撃が割れてしまった・・・という裏事情を聞けて少し嬉しい。
「話はひと段落したんなら、次は俺が自己紹介してもいいかい?」
「む? ああ、よいぞー」
平成時代に一世を風靡した携帯ゲーム・アドバンス機で遊んでいる手を止め、テーブルにて胡坐で座る小学1年生くらいの妖怪人が のれん 殿に顔を向けて会釈する。
「はじめまして。俺は『児の妖怪人』で、名を『子泣キッド』というんだ。よろしくッ」
{ふむ・・・アナログ放送で見たことがあるな。頭脳は大人、身体は子供の――――}
「ヤメロ。そのネタを口にするな。俺とは無関係だッ」
{・・・あい、わかった}
児の妖怪人『子泣キッド』。
妖怪『子泣きジジイ』の系譜にある現代式にアップデートされた新時代の怪物が一人。
その姿は小学一年生の男子を思わせる姿をしており、わんぱく。という言葉が似合いそうな存在感を放っている。
ただ、名前のせいでいろいろと迷惑をこうむっているらしい・・・。
「だぁーっはっはっは! だから改名しろっていつも言ってんだろうが~」
「うるさいな。ほら、次はあんたの番だぜ?」
豪快に笑う老人に、しかめっ面になる 子泣キッド 殿は、再び携帯ゲーム機に視線を落した。
そうして、バトンを受け取った老人が「にやり」と笑みを浮かべながら続ける。
「狸よ! 俺は『邪の妖怪人』である『よこしま』というもんだッ! 見知り置いて損はねぇぜッ」
「そして私は、よこしま社長の・・・世話係を務めております。「おい待て誰が俺の世話係だこらぁあ!?」『傘の妖怪人』・・・名を『傘間』と申します」
この商店街の再開発を担う建設会社『よこしま建設』の社長にして『邪』の妖怪人『よこしま』は、不動産業も営むやり手経営者だ。
反社会的組織のお頭。って雰囲気を出しているが、至って普通の建設会社社長である・・・。
そんな社長の世話係として付き従っているのが『傘の妖怪人』である『傘間』殿だ。
邪の妖怪人『よこしま』は、かの妖怪【ぬらりひょん】の系譜にあるらしいのだが、詳細は不明。
厄介なことは、男女問わず色気のある人間が大好物ということだ・・・家にはアイドルのセミヌード写真集が本棚にビッシリ詰まっているらしい。
また、色気のある絵柄であれば、成人指定の薄い本や児童書コーナー横で見かけたりするBL本などもコレクションしているそうだ。
傘の妖怪人『傘間』は、妖怪【唐傘小僧】の系譜にある現代式にアップデートされた新時代の怪物だ。
傘のようなロングヘアにメガネを着用し、リクルートスーツに身を包んだビジネスマンに擬態している。
また、人間に化けている時は『笠間』と名乗っているらしい。
よこしま社長から『猫(意味深)探し』を依頼されたのが始まりで、以降、厄介(面倒事)な仕事が度々依頼されるようになった。
まぁ、報酬が良いので断れないのもあるが・・・。
「さて、新顔への挨拶も終わった事だし・・・本題を始めようぜ?」
よこしま社長の一言で、集まった妖怪人たちは一気に緊張を高めた。
「まずは・・・狐! おまえ、なんで学校の制服なんか着てんのッ!?」
「本題でもなんでもないじゃろが!!」
「いやでもよ? 気になるじゃん? 白面と学生服が似合って無さ過ぎるからよっ」
「無礼な・・・コレはユキトの制服じゃぞ?」
「ユキト?」
はぁ・・・まさかいきなり脱線するとは・・・この社長は相変わらずだな。
仕方ない。話がさらに脱線する前に俺の方で修正を行うとしよう。
「ユキト。フルネームで『夜乃雪乙』と言うのですが、本題である『命の巫女』の名前となります」
「ほぉ・・・夜乃って、夜空『夜』でいいのか?」
「はい」
「じゃあ、ユキトってのは? 漢字でどう書く?」
「雪国の『雪』に、乙女の『乙』と書いて『ゆきと』と読むようです」
「ほほぉ・・・おいおい、間違いなく美女の予感がするなぁ~」
「まぁ、社長基準なら間違いなく美女に分類するでしょうね」
「っで? 狐よぉ・・・なんでおまえが巫女の学生服・・・いやまて、巫女の学生服!? つまりそれは・・・巫女は中学生かッ!? 高校生かッ!!?」
修正できなかったか・・・。
「高校生じゃな」
「歳は! 18歳で今年卒業かッ!!」
「アヤツは確か84歳の高齢じゃったはずだから、異世界人にイデスバリーされて16歳じゃな」
「くそぉお!! 酒の飲める年齢じゃねぇのかッ!!」
「社長。飲酒は20歳からですよ」
「は? 成人は18歳になったんだろ?」
「そうですね。成人は18歳です。が、飲酒は20歳からです・・・」
「マジかよ・・・酒を飲み交わして、良い感じに酔ったところで膝枕してもらおう。と思ってたのによ」
・・・くだらな過ぎる。
「はいはいほらほら・・・話が逸れてるって。私たちが集まったのは『命の巫女』がどうなったか?を知るためでしょうが」
砂利さんが手を叩きながらズレた話の軌道を修正してくれた。
興味本位で首を突っ込んでくるのには困ったものだが、こういう時の彼女はとてもありがたい。
「・・・まぁ、酒の席に招待するのは4年後にするとして・・・この集まりは、今話題の【命の巫女】に関するものでいいのか?」
よこしま社長は「孫と酒を飲むのが楽しみだ」と言うお祖父ちゃんみたいな顔になっているが、そもそも、どのように招待するのだろうか?
などと思った直後に、この集まりが何なのかも知らないこと知る。
・・・なんでここに居るんだこの人は。
「よこしま社長。あなたは、なぜここにいるんです?」
「おう。今話題の【命の巫女】に関する調査を依頼しようと思って来たら、砂利ちゃんに子泣キッドの奴がいたってだけだ。あと、謎の狐娘な」
・・・なんというか。
「傘間さん。彼女らが何故ここにいるのか?を尋ねなかったのでしょうか?」
「いえ、尋ねました。仕事に関する話がある。と返答を得ましたので、それぞれが仕事を依頼しており、その関係で待っているものと判断したのです」
なるほど・・・。
「そんで? この集まりはなんだ? 俺たちも混ぜてくんねぇか?」
「・・・」
「いいんじゃない? この際だし、よこしま社長にも協力してもらったら?」
「砂利さん・・・」
どこか悪い顔になっている彼女であるが、建設会社社長である妖怪人の協力を取り付けるのは間違いではないだろう。
問題なのは、彼が『邪』の妖怪人であることだ。
「ワシも砂利の意見に賛成じゃ」
「ひいろ殿・・・」
「まぁ、聞け。そやつはなかなかの力を持つ妖怪のようじゃからの。戦力としても十分じゃろうし、こういう手合いは共犯者にしておく方が良いのじゃ」
面の下で、それはもう邪悪な笑みを浮かべているのが分かる声音だ。
「・・・分かりました。よこしま社長・・・我々に協力してもらうことは可能ですか?」
「ふーん。つまり、協力要請に応じなければ、内容を教えてくれねぇってことか?」
「そうなります」
「いいぜ? お前らに協力しよう・・・可能な限りでな」
「では、可能な限りで協力していただきます」
こうして、また新たな協力者を得ることになる。
「んで? どういう集まりなんだ?」
「我々は【命の巫女】を『対となるモノ』から守るための集まりになります」
「ふむ・・・そりゃまた、なんでだ?」
「この世界を消滅させる『魔王』の誕生を阻止するためです」
「・・・いや、消滅って」
「そうですよね・・・大げさに思うでしょう。しかし、高確率で確かな情報です」
「どこからの情報なんだ?」
「・・・未来の異世界から来たという異世界人『リバト』です」
・・・リバトのヤツと出会ったのは、確かに房総半島のとある堤防の釣り場だった。
しかし、数年前じゃなくて去年の話しだ・・・それも、リザドラルとかいうトカゲ怪人ではなく、マネキン人形のようなロボットの首を釣り上げてしまったことが出会いとなる。
≪突然のことで申し訳ないんだけんどー。俺を助けて欲しいんよー≫
よくできた AI を積んでいるのかと思ったが、その頭から感じ取れる『魂』は、異世界人の物。
話を聞けば、地球世界と異世界が共に消滅する未来から、決死の覚悟で過去地球へと転移をしてきたというのが、リバトという異世界未来人だ。
ムージとかいう異世界人が、地蔵菩薩像に魂を入れて地球人化した事例を研究し、完成したばかりの新型アバターで過去地球へ転移を実行したという。
消滅する地球はブラックホールのように、転移装置で繋がっていた異世界も呑み込んでしまった。
紙一重で転移には成功したものの、ボディは消滅・・・だが、魂が入っていた頭がギリギリで残ったので助かったという。
とても信じられる話ではなかったが、リバトの存在が異様だったからこそ・・・提示される情報から確認作業を行うことにし・・・そしてどうやら事実である可能性が高いことから協力することにした。
そうして、興味本位で首を突っ込んできた『砂利』さんと『子泣キッド』を連れて、夜乃ユキトが住まう地を訪れる。
そこでコソコソと老人をストーキングしていたのが、『緋色』殿だ。
聞けば、彼女が異世界で返り討ちに遭い・・・この世界へ逃げ込んだ際の弱っていた時に世話になったのが、現在の【命の巫女】の前世となる老人だったそうだ。
そして、かの老人がどこからか拾ってきた地蔵の中に、異世界人の魂が宿っていることに気づき、監視している。というのが彼女の言い訳である。
こうして、情報の確認を重ねていくことで・・・リバトの言う未来が、ほぼ確実に訪れるモノと判断するに至った。
だから、この世界が消滅する最初の分岐点・・・いわゆるターニング・ポイントとなる日に備えた。
イデスバリー・リザドラル。という秘密結社メシア所属の地方調査員が、イデスバリーしたばかりの巫女と最初に接触する人物であるらしく・・・コレを対処しないと詰むという。
しかし、二人が会わないと秘密結社メシアとの接点が無くなる危険性があるので、リバトがかの職員を乗っ取ることでどうにかすることになった。
ここで『緋色』殿の出番である。
彼女が使う妙な妖術具【妖界変】を以て、乗っ取りを決行するという・・・が、これが見事に成功した。
どうやら、世界を改変するほどの異常なイデスバリーに紛れ込ませる形で、リザドラルの本来の人物をリバトに全て置き換えたらしい。
それを可能とする妖術と、それを扱える術者の彼女が次元の違う実力者なのも理解できた。
こうして、緋色とリバトが行動している間に、俺たちは東京にて怪異達の動向を探っていた。
特に憑依霊と侵略賛成派の異世界人がどう動くか?を警戒しないと行けなかったからな。
「っという感じで活動していたのです」
「へー・・・そらまた、なんつーか・・・あー・・・ぅーん」
にわかには信じられない話だろう・・・こうして振り返ってみると、なんの妄想だ?と思ってしまうからな。
しかし、リバトが提示した【命の巫女】がイデスバリーする日時は的中し、世界中の怪異が活性化した現在を考えれば・・・もはや疑っている場合でもないことだ。
よこしま社長は、視線を横へ流しつつ俯き・・・顎に手を添えて考え始める。
後ろで控えている傘間殿も、どのように判断するか慎重になっているようだ・・・。
・・・さて、とりあえずの説明もできたことだから、そろそろ本題である『巫女』について話を進めるとしよう。
「では、巫女について――――」
ぴりりりりりりりりりりりりりりりッ
・・・。
・・・・・・。
「む? 電話が鳴っておるな」
「鰞鰂くんのスマホでしょ?」
「大事な話をするときゃ、電源は切っとくもんだろ?」
「まぁ、探偵という仕事柄もありましょう。依頼主からの連絡。と言う可能性もあるでしょうし」
「早く出たらー?」
・・・はぁ。
俺は、スマホを取り出して画面に触れる。
着信はスマホではなく・・・スマホの画面保護フィルムに施した念話術式であるようだ。
発信元は・・・リバトのヤツか。
「失礼。秘密結社メシアに潜入したリバトから、念話が届きました」
久しぶりの連絡なので、さっそく出ることに・・・。
「ふん。あのバカか」
「あら、リバト君が無事でなによりね」
「リバト? 誰だ?」
「先ほど話に出た、未来から来たという異世界人の名ですね」
「ボケたのかよ・・・」
「フリだフリーッ! おれぁ妖怪人だぞ! 人間のジジイみたいにボケるかボケェエ!」
相変わらず、緋色殿は奴を毛嫌いしているようだ。
そういえば・・・最初に会った時など、リバトの魂が宿っていたロボットの頭を見て顔を真っ青にしていたな。
知り合いのようだが、どういう関係だろうか・・・。
「もしもし。リバトか?」
≪せやでー。連絡が遅くなってごめんな~≫
・・・はぁ、声に異常は感じられない。
どうやら、精神操作や薬物による思考誘導などはされていないようだ。
また、傍で誰かが聞き耳を立てている様子もないな・・・。
「霊園地では怪我をしていただろう? 大丈夫だったか?」
≪まぁ、ちょっとこの身体ってば弱過ぎるんで、かる~く重傷やったんよ~≫
・・・軽く重傷だったのか?
「そうか。おまえが乗っ取った身体は、使い慣れて来たのか?」
≪いやいや・・・もともと、菰土くんがリザドラルって怪人戦士な姿に絶望して、諸々諦めちゃってたみたいだからねー。鍛え直さんと全然身体が動いてくれないんよなー≫
・・・菰土くん?っと、リバトが乗っ取ったイデスバリー戦士の本来の名か。
「・・・ふむ。イデスバリーによる変身は、前世の『趣味』『嗜好』『性癖』の影響を受けると聞く。トカゲ怪人姿を考えれば絶望するのも分からんことではないな」
≪せやろー? 俺も大変なんよーッ≫
「大変なのはお互い様だ。巫女を守るという点で、こちらもお前に協力しているのだからな」
≪おぅ・・・まぁ、それじゃ本題に移るんよ~。現状報告するけど大丈夫なん?≫
ようやく、巫女の現状を聞けそうだな・・・。
「大丈夫だ。今、俺の事務所に協力者の一部が集まっているから、丁度いい」
≪お、砂利さんによろしく伝えといてくんれ~・・・子泣キッドには、また平成レトロゲーを送るんよーて・・・それとあの狐には、乗っ取りサポごくろうさん。っつっといてー≫
「ああ、聞こえたようだ・・・物凄い殺気を放って唸り出したぞ・・・」
≪ほーん。んじゃ、報告するんよー≫
リバトは一度咳払いをして、声の調子に緊張を施した。
≪現在、巫女は瀕死から脱しているものの、治療は継続中。全身の骨がヤバい状態の上、内臓へのダメージも深刻であるために、しばらくは病室から出られない。と言う話を聞いたんよ≫
やはり、そうなったか・・・虫の息だったからな。
≪それと、つい昨日くらいに警察署の刑事が来て、巫女に事情聴取をしたそうなんやけど・・・それに関して俺は立ち会ってないので内容は不明やね≫
・・・警察の事情聴取?
どういう状況だ? なにか、事件に関与していると?
≪で、その時に秘密結社から表の株式会社側に出てしまったんで、傷が開いちゃったようで・・・≫
異世界人のイデスバリーによって転生した地球人には、変身ヒーローみたいな変身能力が得られる。
それによって、変身中の彼らは超人的な身体能力を得られるが・・・変身を解くと平均的な地球人へ戻ってしまう。
今回のダンジョン・フィールドで、巫女は瀕死の重傷を負った。
それは、通常の地球人だったなら即死・・・仮に不死身だったとしても数十回は即死しているだろう致命傷だったはず。
変身しているからこそ、辛うじて助かったに過ぎない。
そんな変身中で虫の息な状態からどこまで治療が進んでいたか?は分からないが、治療途中で変身を解いたのであれば、傷が開いてもおかしい事ではないだろう。
「それはマズい事態だな」
≪そーなん?≫
「ああ。警察署の刑事が訪ねたのであれば、次は警視庁の刑事だ」
≪んで、窓際部署の刑事ドラマ、ダブル主人公の凸凹コンビがやってくるんやね?≫
「残念だが、ドラマのような主人公が存在しないのが、リアル警察組織というものだ」
≪だいじょぶ? なんか警察に嫌な思い出もあるん?≫
「探偵業をしているとな?・・・色々あるんだよ」
≪そかー≫
いや、そういう話をしたいんじゃないんだった・・・。
「次に来るだろう警視庁の刑事は、おそらく憑依霊だ」
≪マジで?≫
「ああ・・・ダンジョン・フィールド『霊園地』の核を奪ったのは、連中が研究している最強の『魔王』を誕生させるためだろうことは予想できる」
≪ふんふん?≫
「しかし、ダンジョン核で何をしようとしているのか?は分からないが、研究のために最低でもあと一つか二つは欲しがることも予想できる」
≪ほぅほぅ?≫
「手っ取り早くダンジョン核を得るならば、ダンジョン・フィールドを発生させるのが最も効率がいい手段になる」
≪せやねー?≫
「ならば、再びダンジョン・フィールドを発生させるために【命の巫女】を外に引っ張り出すのは明確だ」
≪な、なんだってー≫
「ブッ飛ばすぞ?」
≪ごめんなさい≫
・・・落ち着け。
ここで苛立ちをぶつけても、ヤツに灸を据えてやることはできないのだから・・・落ち着け。
っと、深呼吸をしていると、リバトは遠慮気味に言う。
≪んでね? よっちゃんにちょいお願いがあるんよ≫
「・・・なんだ?」
≪支社長さんが、社員を助けてくれたお礼がしたいってことで・・・食事に誘うように言われててなー≫
支社長・・・秘密結社メシア日本・東京支社の支社長『紅葉朱雀』か。
40代で、世界中に支社を持つ企業『株式会社・・・日本・東京支社』の支社長となった。
今や日本人女性が憧れるキャリアウーマンであり、テレビなどでゲストコメンテイターとして出演することもあり、知名度は高い。
そして・・・砂利さんが現在激推し中の人間でもある。
あー、砂利さんの顔がとても明るい。そして、その眼がLEDライトを内蔵しているように輝いている。
「・・・店は決まっているのか?」
≪それに関しては、よっちゃんに行きたい店を聞くように言われているんよ。どんな店でも構わないって。全額負担するらしんよなー≫
全額・・・負担・・・してくれるだと。
「よし分かった。後程、おまえのスマホにメッセージを送ろう。店の名前を記したメッセージをだ。食事の誘い・・・ぜひ!と、伝えておいてくれ!!」
≪お、おう・・・じゃ、店の指定をお願いするんよー≫
ブツ・・・。
「イカ探偵! おまえ、あの紅葉朱雀に会うのかッ!?」
「ちょっと鰞鰂くん!! 私はあなたの助手だから、もちろん同席させてもらえるわね!?」
・・・砂利さんが食いついて来るのは予想していたが、まさか よこしま 社長まで食いついてくるとは。
「俺! 俺も同席させろ!!」
「なぜです?」
「紅葉朱雀・・・ありゃあ、間違いなくイイ女だ! ぜひとも酒を飲み交わし、酔わせてから一気に仲を深めたい!」
「うっわ・・・このエロジジイ。紅葉朱雀さんは既婚者だし、子供も二人居るのよッ!?」
「ふ。バッカおめぇ・・・人妻は、いいもんなんだぜ?」
「死ね」
「砂利さん!!」
「あっぶな!! 冗談キツイぜッ!?」
砂利さんは、妖術を使って室内のわずかな砂埃・・・窓の隙間などから室外の砂を集めると、チャクラム状にして高速で回転させる。
コレを無造作に よこしま 社長へ飛ばしたのである。
ただ、俺が咄嗟に彼女の名を呼んだことで、砂チャクラムの軌道は よこしま 社長の首から逸れて壁ギリギリで止まった。
「・・・室内でッ、攻撃系妖術は止めてください」
「っと、そうだったわね・・・建て直したばかりなんだものね」
わずかな冷や汗を流し、砂利さんは飛ばした砂チャクラムを手元に戻してから、回転を止めて床に落として散らす。
・・・いや、外に捨ててほしいのだが?
「のぉ? そこの童や」
「はい? なに?」
俺がため息を吐いていると、緋色殿と 子泣キッド が会話を始めた。
「紅葉朱雀とは誰じゃ?」
「えぇ・・・秘密結社メシア日本・東京支社の支社長だよ」
「ほぉ? そうであったか・・・」
そうして、紅葉朱雀に関する話を聞き始める。
その一方で・・・。
「おい、傘間! 俺の仕事スケジュールはどうなってる!? 食事の日は空くよなッ!?」
「ご安心ください。紅葉朱雀支社長との食事日は、仕事が入ることになっております」
「はぁあ!? 仕事が入らねぇようにしろよッ!!」
「いえ、どうしても入ることになります」
「ナイスよ! 傘間くん!! ご褒美に下のお店で定食とドリンクを奢ってあげるわ!」
「ありがとうございます」
「ちょッ! 待てよ傘間ぁあ!! おまえの雇い主は俺だぞこらぁぁああ!!」
「社長の暴走を止めるのも、世話係の務めですので」
「おまッ! だから! 世話・・・あーぁ! クソッタレがー!!」
「おーっほっほっほっほ! 真面目に働けってことよ~♪ 社長さーんッ」
「ぐぬぬぬぬ」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・はぁ。
「のれん殿」
{む?}
俺は、そうして周囲を静かに観察している狸妖怪人の『のれん』殿に声を掛けた。
状況は良くないのだ。
かの『巫女』を連中に奪われてからでは遅いのだから。
「あなたに、改めて協力してもらいたいことがあります」
{・・・よかろう。居候分は働くことを約束する}
それは、ありがたい話である。
次回は、病室にて。を予定しています。
ちなみに、警察に関しては幾つかの刑事ドラマを参考にしておりますので、実際の警察と混同されませんように注意をお願いします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




