【試作中】第一話を書き直してみた
こんにちは。こんばんは。
このお話は、ストーリーと設定を練り直している最中の試しで『イデスバリー・ナイトメア』の第一話を書き直したモノになります。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
庭先で激しい胸の痛みに倒れた時、覚悟を決める。
声も出せず、助けも呼べず・・・。
走馬灯というモノを見るのかと思えば、特に何を見るでもない。
長く過ごした実家を見つめ、いつだったかに拾ってきた・・・地蔵が視界に入る。
こちらへと、険しい顔で駆け寄ってくる姿を・・・幻視する。
ああ、迎えに・・・。
〇
布団を払い除けるように、私は飛び起きた。
あまりにも現実味を帯びた胸の激痛に、私は飛び起きた勢いのままに胸元をまさぐって、異常の有無を探る。
・・・特に、なにも起きていない?
小さく息を吸ってから、吐く。
小刻みに呼吸を繰り返して、自分が生きている事を確かめる。
「ふぅ・・・夢だった」
汗でぐっしょりと全身が濡れていた。
最後に深呼吸をして、それから自室を見回してみる。
なんという事も無い・・・自分の部屋だ・・・16歳の女子が使う部屋としては、殺風景だと言われてしまうくらいの地味な部屋。
目覚まし時計を見て、今日が土曜日であることを思い出す。
毎週土曜と日曜に行っている朝のトレーニングでランニングをしているのだけど・・・その時間が迫っていることに気づいて、急いで支度を始める。
寝汗で濡れた寝間着を脱いで、運動着に着替え・・・スマホと財布をショルダーポーチに入れて斜め掛けにする。
準備を整え、脱いだ寝間着を抱えて部屋を出る。
階段を降りて、洗濯機に脱いだ服を入れてから玄関を目指す。そして、ランニング用の運動靴を履いていると・・・。
〔うん?・・・ああ、起きたのか? ユキト〕
「あ・・・おはよう。お養父さん。今からランニングに出掛けてきますね」
〔え? おとう・・・あ、いや・・・そうだな。車や知らない他人には、気を付けろよ?〕
ん? なにか、驚いている?
「・・・はい、気を付けますね。では、行ってきますッ!」
何を驚いているのかは分からないけれど、とにかく、私はランニングをするために家を出た。
▽
関東地方の北方にある田舎町。
私は、生まれて1年ほどの赤ん坊となる頃に、この家の近くで捨てられていた子供だったらしい。
そんな赤子を拾って交番まで届けてくれたのが、養父である『夜乃次蔵』さんだった。
結局、私の親は見つからなかったため、未婚で子供が居なかったお養父さんが、私を引き取ってくれる事となり・・・実の娘のように育ててくれた。
ちょっと・・・口が悪いけれどね。
とはいえ、今やお養父さんも高齢のお爺さん・・・あと、いつまで一緒に居られるかな?
そんな事を考えながら走っていると・・・視線を感じた。
交差点の歩行者信号が赤に変わったのもあり、立ち止まって周囲を改めて見回してみる。と、そこかしこから何か良くない気配が私に注目しているように感じられる。
なんだろうか?
すると、景色が急変した。
周囲にいる人。自動車。信号機。電柱。道路。家屋。目に見える人工物は軒並み色がブレ始める。と、三つの色・・・『赤』『青』『緑』に紫色が混ざり込んで歪み始める。
そうして、ピタッと世界が停止して、ブブッと色がブレたままになる。
「これは・・・何が起きて・・・」
私は、まだ夢を見ているのだろうか?
不安を覚え、誰かいないか?っと、周囲を必死に見回していると・・・スマホを片手に周囲を見回しながら歩いている男性を見つける。
見間違いじゃない・・・確かに、動いている『人』だ。
「あのッ! そこの方ッ!!」
「お? オーッ!? ヤッホーッ!!」
予想外というよりも、場違いな反応が返ってきたことで、私の不安が転げ落ちたようだ。
「あ、あの・・・この状況を理解されているのでしょうか?」
「うん。ウィアード・フィールドって言ってね。怪異が、この地に一定量集まって来た証拠なんよ。危ないから、早く変身した方がいいよ?」
・・・・・・は?
「あ、まずは自己紹介をしとくね? 俺は、秘密結社メシア日本・東京支社に所属している地方調査員なんよ。数時間前に発生した異常規模のイデスバリーを調べに来たんな~」
・・・。
・・・・・・。
・・・え?
「あれ? なんか分かってない感じ? 君をイデスバリーしたバース・パーソンから聞いてないの?」
私が困惑していると、なぜか男性も困惑した様子で訊いてくる・・・なので、私は頷き返した。
「あら、そうなん? うーん・・・なら、もうバース・パーソンの方は逃げたかな?」
そう呟きながら周囲を一度、見回すと・・・男性は言う。
「とりあえず、変身しよう。今のままじゃ怪異に抵抗できないからね」
「は、はぁ?」
そもそも、変身って?
「では、俺が手本を見せるから同じようにやってみてくれーい・・・むぅーん、ハアッ! イデスバリーッ!!」
言うや否や、男性は特撮番組のヒーローがするような変身時のポーズを取って『イデスバリー』と叫ぶ・・・と、その身体が光を放ってグニャグニャと動きだした。
「ひッ・・・」
その蠢きはすぐに止まるけれど、体格が私の倍近くに大きくなっており・・・私より背が高いな。ってくらいの背丈が、見上げるほどになった。
そうして光が消えると・・・そこに立っていたのはトカゲ?の怪人だった。
「変身完了ッ! イデスバリー・リザドラルッ!! ここに見参ッ!」
・・・ヒーロー的なポーズを取っているものの。二足歩行のトカゲ?が人間っぽい服を着ている様子から、やっぱり『トカゲ怪人』という印象しか得られない。
・・・。
・・・・・・。
・・・あ、そういうこと?
「特撮番組の撮影ですか?」
「違います」
違うらしい。
「これが異世界人より『転生』してもらったことで『リバースデイ』を迎えた地球人が獲得する超能力。すなわち、コレが地球人式イデスバリーとなる『変身』なんよッ!」
??????
すると、トカゲ怪人が私目掛けて鋭い爪を生やしている手を突き出してくる。
「ひッ!?」
思わず目を閉じて身を強張らせたけれど、私の頭上を抜けて後方へと通ったのを風と音で察して目を開き、覗き見る。
「ふぅ・・・ナイスなタイミングでの変身だったんなーッ!」
言いながら、腕を引き戻すと・・・その爪に巨大な蚊が刺さっていた。
どう見ても、鶏ぐらいのサイズがあるだろう蚊が、足をピクピクッと痙攣させている。
すると、空いている方の腕で私を抱え込んでから、尻尾を振るように回転した。と、その尻尾に何かが激突する音が連続して響く。
回転が止まり、解放されたので確認してみれば・・・羽虫。としか分からない巨大化した虫が道路に転がっているのを見た。
「な、なんですか・・・コレ」
「コレね? 憑依霊が虫に憑依して、怪物化したんよ。とはいえ、また序の口やんねー。先に君を見つけられてよかったんよ~。うん、ラッキ~♪」
二パーッて、笑顔になるけれど・・・私にはもう理解が追い付かなくて、頭が混乱している。
「いえ、だから、何が起きているんですか?」
「むぅ・・・どう説明するっかな・・・とりあえず、深呼吸して落ち着いてくれると助かるんよ」
そう言いながら、またも鋭い爪を私の頭上へと振るって、いつの間にか迫っていた羽虫を叩き落としてくれた。
「あ、説明はもちろんするけど、まずは変身してくんれーッ」
なんとも情けない感じで声を張り上げて来るトカゲ怪人さん・・・そんな顔を見て、私は少しだけ息を吐いた。
混乱していたけれど、少しだけ落ち着くことができた。
「・・・分かりました。変身?が出来るのかどうか、分かりませんが・・・どうすればいいですか?」
「うん。俺がさっきやったように『イデスバリー』って言えば、いいからねッ!」
・・・さっき? あの変身ポーズも取らないといけないのかな?
いや、その・・・え、ええぃ!
「む、むーん・・・ハッ! イデスバリーッ!!」
これッ! ひ、人前でやるのって恥ずかしいぃぃ!!!
顔が真っ赤になっているのは言うまでもないと思うけれど、直後に私の視界が明滅する。
「・・・いや、そのね? 俺の変身ポーズまで真似しなくても、よかったんよ?」
・・・・・・「ちょっと、その顔を殴っても良いでしょうか?」って聞いてから殴るか、黙って殴るかを悩んでしまう。
「それにしても、なんかパッと見は地味っぽいけど・・・よく見ると、なかなか大胆な恰好やんねー」
・・・言われ、私は自分を確かめる。
視線を落として見れば、黒いマント・・・。
手で触れてみると、フードが付いていて・・・と、自分の手が視界に入ったことでそちらを見れば、ストッキングのように薄地の黒いロンググローブを着用している。
と、なにか得体の知れない気配が迫っている感じがして、私はそちらへと蹴りを放つ。
怪物化した虫たちの一匹が、私を目掛けて襲い掛かって来たものの・・・蹴りの一撃でアッサリと身体か砕けて、道路に転がった。
想像よりも簡単に倒せたことに安堵する・・・よりも、私の視線は自分の足に向く。
ハイヒールのニーハイブーツ・・・ストッキングも脚に履いているようだけど、それよりもマントが開けたことで見えた自身の服・・・これは、ボディコン系の衣装だッ!?
蹴りで突き出した足を戻し、両腕を拡げてマントを開けつつ自分の姿を確認する。
この服、私のボディラインが丸わかりになるとんでもないデザインをしている・・・スカート丈も短いしッ!
これ、蹴りとか・・・いや、歩くだけでも下着が見えてしま・・・あッ!
「今ッ! 見ましたかッ!?」
「うん?・・・おー、キレのある蹴りやったんなッ!」
そんな、子供を褒めるみたいな・・・。
「ヴォォォォォォオオオオオオンンンンンンンン」
拳に力を込めた時、どこからか響く猛獣の悍ましい咆哮が上がる。
トカゲ怪人さんも真剣な面持ちになって周囲を見回し、そして付近の一軒家・・・その塀から「ぬ」っと出てくる頭は犬のもの。
その直後に、塀を鷲掴みにする手が伸び出てくると、まるでウエハースを握り潰すように砕いていく。
ただ、その手・・・特に指が赤・・・いや、黄色?というよりは、黄昏色をしているように見える。
なんだろう・・・あの怪物は・・・。
「んげッ! 対霊麻痺毒セット!」
麻痺毒って言った?
トカゲ怪人さんの指・・・その爪の根本から得体の知れない体液が流れ出すと、爪の上に爪を形作るように凝固していく。
その爪で、怪物化した犬・・・いや、獣人?を突く。
「ヴォン!」
ひと鳴き。
すると瞬間移動したように姿を消して、家の屋根へと飛び移った。と、その眼が私をジッと睨みつけてくる。
「アイツの狙いは、君なんよッ!」
「私ッ!?」
がしゃん。という音と共に、怪物化した獣人?が屋根からさらに飛び上がって、私目掛けて両手を伸ばしつつ大口を開いた。
トカゲ怪人さんの言う通りで、私が狙われているのは間違いない事らしい。
なら、私がするべきことは身を守ること・・・そして、この怪物を処理すること。
自然と、私の手は腰に提げている刀の柄を掴んでいた。と同時に、コレが私の主武装であり、対怪物用の大太刀である。と、理解する。
「夢幻一刀流・抜刀術ッ・・・おやすみッ!」
一連の動作は、ほぼ無意識のことだった。
お養父さんから習った我流剣術『夢幻一刀流』の初手・・・抜刀術「おやすみ」は、相手の脚を攻撃して転ばせることで隙を作り、次の攻撃を叩きこむための技。
だけど・・・抜刀から大太刀を振り抜いた時、刃が仄かな光を発しつつ半月形の斬撃が飛び出して、襲い来る犬人間?の怪物を攻撃する。
斬撃の軌道は、そして怪物の鳩尾から腰へと斜めに入り、上半身と下半身を切断した。
怪物の上半身は私を越えて背後へと落下し、下半身は失速して私の足元付近に落ちる。
「うわッ・・・」
前後でジタバタと動いてる怪物に怯んでいると、トカゲ怪人さんが爪で下半身を切り裂き・・・そして上半身に爪を突き立てる。
「いんやー・・・即戦力やんなーッ!」
ニパーッて顔でそんな事を言いながら、怪物に突き立てた爪で胸元を裂くと・・・心臓を引きずりだした。
この行動に腰が引けたものの、トカゲ怪人さんが取り出したモノを見て思わず凝視した。
「それ・・・心臓?ですか?」
「せやで・・・黄昏色に光ってるでしょ? コレが怪異の核なんだけど、コイツを抜き取らんと復活してしまうんやでッ」
「復活ですか?」
「そ。復活・・・粉々にしても元通りになるから面倒やんなー」
粉々でも!?
粉末状態から怪物の姿へと復活する様子を想像していると、腰のポーチから牛乳瓶みたいな物を取り出して、蓋を外すと取り出した心臓を詰め込み始める。
「なんでッ!?」
そういう物を詰め込むようには出来ていないのではッ!?
「こうして回収して、会社で処理するんよ。それが秘密結社メシアの活動目的の一つなんよね」
そ、そうなんだ・・・。
「ちなみに、この牛乳瓶みたいな見た目の瓶は、空間拡張技術を使っているから、マンションとかの屋上にある給水タンクくらいの容量があるんよー」
マンション屋上などにある給水タンクくらいの容量!? その牛乳瓶にッ!?
びびびびびびびびびび
≪怪獣怪異の接近反応あり。怪獣怪異の接近反応あり。警戒してください。警戒してください≫
「げッ! 怪獣クラスが来るんかッ!?」
トカゲ怪人さんが鳴り出したスマホを取り出すと、画面をタッチしながら焦った様子で周囲を見回し始める。
その様子を見て、私はお養父さんに連絡を・・・ってあれッ!?
ショルダーポーチが無くなっている・・・もしかして、変身して服装が変わったから、その影響でポーチも消えてしまったとか?
「もしもしもしもしぃい!? イデスバリー・リザドラルから東京支社へッ!!」
≪秘密結社メシア日本・東京支社です。地方調査員、イデスバリー・リザドラルと確認。報告をお願いします≫
「おっし、繋がったーッ! あ、数時間前に発生した異常規模のイデスバリーに関する調査で、イデスバリー対象者と思われる女子を発見ッ! 現在、行動を共にしていますー」
・・・なにを報告しているんだろう?
ずずずずずずうぅぅぅぅぉぉぉおおごごごごごががががが
いくつもの石などがぶつかり合って擦れ合う音が鳴り響くのと同時に、いくつもの『赤』『青』『緑』にブレる色がひと所に集まって、渦巻いて行く。
と、日が沈んだ直後の夜空みたいな青黒い塊が・・・そして生物の形を成して地に降り立った。
町外れに見える工場の屋根。
その上に降り立った怪物は、見た目だけなら『オオサンショウウオ』のような姿形をしていた。
ギョロッと開かれる目が、夕暮れ時の空みたいな眼球と夕日のような色を瞳に宿しているように見える。
そして、何かを探すように頭を動かしている。
「至急ッ! 至急ッ! 怪獣怪異が現れたんよッ!! サイズは二階建て一軒家ぐらいのサイズをしてるっす! 増援! 救援! まだなんかーッ!!」
≪緊急編成された部隊は、つい一時間ほど前に出撃されました。現在は移動中です≫
「マジでッ!?」
≪イデスバリー・リザドラル。社用車は無事ですか?≫
「大丈夫っす。近くのコンビニに駐車してあるんでー」
≪では、保護対象を車に乗せて国道を使い、東京へ向けて南下してください。道中で部隊と合流できるはずです≫
「了解ッ!」
≪ご武運を・・・≫
・・・社用車? 秘密結社が使う社用車ってどんな物なんだろう?
「くっそーッ! 俺の能力は怪獣系との相性が悪いっつーのにッ!」
トカゲ怪人さんがスマホをポーチに収納しつつ悪態を吐くと、私に言った。
「とにかく逃げるんよッ! 怪獣相手じゃ俺らに勝ち目は無いかんなッ!!」
そ、それはそうなのかもしれない?のかもしれませんけど・・・怪獣とは言っても、モンスターを狩るゲームに出てくるような飛竜ぐらいのサイズにも見える。
「ぬぉぉぉぉぉおおおおおおんんんんんんんんん」
・・・え?
なんだか、気が抜けてしまいそうな声が鳴り響いたことで、私は少しだけ脱力しながらも声の響く方へと顔を向けた。
さっきの『オオサンショウウオ』みたいな姿形をしている怪獣だ。
「あっかんわ・・・見つかったみたいやんなぁ・・・」
トカゲ怪人さんの言う通りで、怪獣オオサンショウウオの夕日色をした瞳が、真っ直ぐにこちらを向いていた。
偶然にも他人と目が合った時のような視線が激突したような感覚があり、私はすぐに目を逸らす。
「め、目が合いました・・・」
「あ、完全にロックオンされたんよッ! 急いで! 逃げるんよッ!! ほら、早くッ!」
私の手を掴んで引っ張るトカゲ怪人さんが、なんだか手慣れた様子で私をすばやく抱き上げてきた。
・・・ちょッ! あんまりにも唐突で自然な動作だったから気づくのが遅くなったけど! これ、お姫様抱っこ!? 私、お姫様抱っこされてるッ!?
「じ、自分で走れますッ!」
「リバースデイを迎えたばかりか、事情も状況も理解してなんだから任せられないんよッ!」
素人の自己判断は危険だってことかな?
私は、少しだけ身を乗り出してトカゲ怪人さんの後方を覗き見る。
怪獣オオサンショウウオが、大口を開いて・・・その口内がキラキラと星明かりのように煌めく光を呑み込んでいた。
「あの、怪獣が大口を開けて・・・キラキラしたモノを呑み込んでいるんですが?」
「あ、それ、ブレス攻撃の予備動作やんなーッ!」
直後、トカゲ怪人さんは横っ飛びで民家の敷地内へ飛び込んだ。と、数秒と経たずに黄昏色の何かが家も道路も何もかもを破壊しながら通過していく。
「あ、あっぶなー」
トカゲ怪人さんが身を起こしながら破壊された家の塀と道路を見て口を引きつらせている。
私は、トカゲ怪人さんが民家に飛びこんだ際に投げ出されたものの、自然と着地の仕方が脳裏に浮かんだので、その通りに着地し・・・そして破壊された道路へと身を乗り出して、怪獣を確認する。
どうやら、今の攻撃は私たちを消し炭にするためのモノではなかったようだ。
怪獣オオサンショウウオの四本脚・・・コレの間となる胴から黄昏色をした腕・・・人間の腕が生えて5本の指が再現された手を接地する。
「あの、脚が増えた・・・いえ、腕?が増えたみたいなんですが?」
「あっかんわー・・・速度アップの形態変化。俺の脚じゃ逃げきれんなー」
なんと言うか・・・物凄い「コレ、詰んだわー」って顔をしている。
怪獣とは相性が悪いと言っていたけれど・・・。
「あの、麻痺毒で怪獣を止めることはできないんですか?」
「俺、対人戦闘はしっかりと訓練してるけど、怪獣系は全然やってないからムリムリ」
単純に訓練不足だから無理って言ってるだけだった!
「な、なら・・・私に任せてください」
「はー?」
私は、破壊された道路へと出て、怪獣オオサンショウウオを迎撃するために正面で大太刀を構えた。
「ムリやって! 今の君じゃ勝てないんよッ!」
「大丈夫ですッ!」
オオサンショウウオが、わずかに目を細めた時・・・四本の脚と増えた黄昏色の腕が波のように動き出して駆け始めた。
脳が距離感を狂わせるほどの速度は、まるで出来の悪いコラ画像のよう・・・。
「せめてッ! 名前を決めるんよッ!!」
「え、名前って、私は『夜乃雪乙』といいますが?」
「本名じゃないよ! 変身している今の君の名前ッ!!」
???
あ、このトカゲ怪人さんみたいな・・・『イデスバリー・リザドラル』って感じの名前ってこと?
「でも、そんな時間はありませんからッ!」
すでに怪獣は、猛スピードで迫っている。
私の、変身したこの姿の名前を考えている時間なんてない。
「夢幻一刀流・抜刀術。おやすみッ!」
抜刀と同時に、半月形の斬撃が飛び出すというファンタジーな効果を発揮する抜刀術で、怪獣へと攻撃を先んじる。
コレの対処をどうするのか?を見ることで、次の技を決める・・・と、怪獣は飛び上がって斬撃を避けつつ、その勢いで私との距離を詰めてくると大口を開いて降って来た。
「丸呑みにするつもりかッ!」
トカゲ怪人さんが、その爪に麻痺毒の液体を滲ませて駆け寄ってくる。
「今は来ないでッ! 大丈夫ですからッ!」
私の言葉で、立ち止まってくれるのを確認しつつ、迫る怪物への次なる一手を放つために構えを取る。
そう・・・先に放った抜刀術は、初手。
お養父さんから習った我流剣術における次の一手を決めるための一撃。
「夢幻一刀流・斬撃術」
大太刀を上段に構え、片足を一歩前に踏み込みつつ腰を落とし、呼吸を整えつつ刀を高く振りかぶる。
「ぬぉぉぉぉぉおおおおおおんんんんんんん」
刀は力任せに振るってはいけない。
振り上げている大太刀を振り下ろす際の動作、足運びによる体重移動、呼吸による力の緩急・・・それらを適切に行うことと、不思議と勇気が湧いて来る温かくて力強い『力』を全身に行き渡らせて・・・。
刃が弧を描くように振り下ろす。
「寝違えッ!」
しゃん。
鈴の音に似た斬撃音と共に、頭から尻尾の根本まで切断された怪獣オオサンショウウオは、左右に反るように割けて、砕けた道路へと突き刺さった。
夢幻一刀流・斬撃術。寝違え。
お養父さんの説明だと、抜刀術の初手で転ばせた相手の首を狙う一撃らしい・・・これ、やっぱり人に向けて使っちゃダメな技だよね・・・。
「マジかー・・・アレを一撃かーッ」
え・・・。
「い、一撃で倒せる相手じゃないんですか?」
「いやまぁ、俺じゃ無理やんねー・・・麻痺させて逃げるぐらいはできるんけんども・・・」
・・・そっちの方が凄いのでは?
「あ、いや、そうじゃなくて・・・怪獣を倒したわけですし、これで元通りになるんですよね?」
「え? 戻らんけど?」
えー?
〇〇 〇〇 ○○ ○○
「・・・では、どうすればこの異常事態から脱することができるんですか?」
この怪物だらけの状況を脱することができない。と言われたことで、一周回って冷静になる。
怪獣と言っても過言ではないと思うサイズの『オオサンショウウオ』に似た怪物を倒し、三色にブレた世界が元通りになる。と思っていたら、戻らないと言う。
先ほど倒した怪物が、この異常事態を引き起こしているボスモンスターだと思っていたけれど・・・それが間違いだったのか?
もしくは、アレと同等のボスモンスターが複数居るということなんだろうか?
「うーん・・・今の状況っていうのは、怪異が一定量集まったことで発生する『ウィアード・フィールド』っていう怪異が優位になる空間が展開しているんよ」
「怪異が一定量、集まったことで発生する?っということは、そのフィールドが維持できない程度まで、怪異を減らすことが必要なんですよね?」
聞き慣れない言葉『ウィアード・フィールド』に戸惑うも・・・私は、とりあえず解決の糸口を得た気がする。
しかし、トカゲ怪人さんは面倒くさそうに続ける。
「今、この町にどんだけの怪異が集まっているのか?って話しになるから、まったく現実的じゃないんよねー。しかも、ここで怪異と戦える戦士って、俺と君くらいだからさ」
確かに現実的じゃなかった!
フィールドと呼ばれるぐらいなのだから、それなりに広い範囲を指しているのは間違いない・・・となれば、たった二人でどうにかするには圧倒的に人手が足りない。
・・・だから、他の方法を探るしかない。
トカゲ怪人さんが面倒くさいと言わんばかりの様子なのも納得だ。
「ってわけでー。この町から出るのが一番なんよ」
この町から出る・・・つまり、脱出する。ということ・・・。
でも、それは・・・お養父さんを置いて行くということでもあるから・・・。
「・・・お、お養父さんを置いては行けません。高齢なので・・・心配で・・・」
周りに幼女趣味?と疑われたこともある。
でも、そんな周囲の視線をもろともせずに、豪快に悪態吐きながら私を育ててくれた・・・。
「え? お父さんが居るんか?」
なんとも素っ頓狂な声で問われたので、私もまた意表を突かれたような感じになりつつ頷き返す。
「むーん・・・お父さんが、居るんかー・・・ふむーん。ッよし! 君のお父さんも連れて行こう! どこに居るか分かる?」
「たぶん、家に居るはずです。私はランニングのために出たので・・・」
そう。
基本的に、私がトレーニングで外へ出ているときは帰ってくるまで出かけるような事はしない。
また、出かけることになればスマホに電話かメッセージをくれる。
だから、この何もかもが停止している現状では、家から出ているとは考えづらい。
「おっけー。そんなら、家まで案内して欲しい! 俺なら、成人男性の一人二人は抱えて運べるかんね!」
・・・確かに。
私が見上げるくらいには大きなトカゲ怪人さんなら、お養父さん一人を担ぐなんて楽勝だと思える。
なら、お願いしてしまおう。
「分かりました。私の家に案内しますので、お養父さんをお願いします」
「任されてーッ!」
このトカゲ怪人さんが『怪異』と呼ぶ怪物たちは、刻一刻と数を増やしている。
悠長にしていたら、逃げるのも大変になるので素早く自宅へ帰り、お養父さんを連れ出さなければならない。
だから、今の私に出せる全速力で―――。
「え?」
走り出した瞬間に、壁にぶつかったような衝撃を全身に受けて、私は即座に身を投げ出すように転んだ。
そして、すぐに身体を起こして何が起きたのかを考える。
「あー・・・大丈夫?」
「え? あ、はい・・・それより、今・・・壁にぶつかったような・・・」
「それ、空気やんな」
「は?」
「変身したての子がやりがちなんだけど、変身時の身体能力は人間を超越するんで瞬間的に音速とか出せる子は出しちゃったりするんよ」
音速!?
「んで、そんなん人間じゃ経験する機会なんてないから、壁にぶつかったような感覚を得て本能的に危機回避行動をとってしまうんなー。それが、今さっき君がやった身を投げ出すような転倒ね」
・・・あぁ、なるほど。
怪物と戦える身体能力を得たことで、変身前のような感覚で身体を動かすと予想外の結果を出してしまって、本能的にビックリしてしまったというわけか。
うーん。
「もしかして、訓練が必要なんじゃ?」
「そうなんよー。本来は『基礎訓練』を含めて3か月ほど鍛錬と学習をしてから、実戦へ参加って流れになるんだけどーぉ・・・この状況だから、すぐ慣れてちょーだい♪」
ですよねぇー。
・・・っということで、身体を慣らす意味も含めて小走り感覚で移動を再開する。
「ところで、君のお父さんってどんな人なん?」
「私のお養父さんですか?」
お養父さんがどんな人か?
初対面の人に、お養父さんの事を教えるのってどうなんだろうか?
でも、人柄くらいなら教えてもいいかな?
「・・・えーっと」
「あ、無理せんでええよ~。初対面の人間に語ることでもないかんなー」
・・・ちょっと、ホッとした。
〔夢幻一刀流・刺刀術ッ! 不貞寝ッ!〕
ッ!?
今の、お養父さんの声だッ!?
考え事をしている間に、家まで着いてしまったんだ・・・え? あっという間なんですが・・・どれだけ足が速くなっているんだろうか?
と、自分の身体能力の向上具合に驚いていると・・・家の庭から塀を砕いて外へと飛び出してくる大型犬並みの怪物。
っていうか、先に私へ襲い掛かって来た犬獣人?に似た姿形をしている怪物が、そうして身体をくの字にして痙攣するように道路を転がる。
夢幻一刀流・刺刀術。不貞寝。
それは、剣道の突きとほぼ同じなのだけど・・・受けた人が激痛に呻きながら不貞寝するように倒れて痙攣することから、『不貞寝』と名付けたらしい。
・・・そんな一撃で、あの怪物を戦闘継続不能にするのだからお養父さんは強い。
「ッうっへぇ・・・すんごー」
トカゲ怪人さんが、素早く牛乳瓶のようなモノを取り出すと・・・転がっている怪物を爪で切り刻みつつ黄昏色の心臓・・・いや、核?を取り出して詰めていく。
私が襲われている間に、家にも結構な数が押し寄せていたみたい。
〔ん? 誰かいるのかッ!?〕
道路に私たちが居る気配を感じ取ったのか?
単にトカゲ怪人さんの物音に気付いたのか?は、分からないけれど・・・お養父さんが庭から玄関口へと駆けだして、外へ出て来る。
そんな様子に、お養父さんが無事であった事に安堵し、怪物に襲われて怪我をしていないか?と心配になって玄関口の門へと私も駆ける。
「お養父さん!」
〔おッ!? その声はユキトかッ! 無事だったか!!〕
そうして、門から道路へと飛び出して来たおと・・・う?さ?んー?
〔って、ユキトッ! おまッ・・・なんだ!?その恰好はッ!?〕
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・私の視界に飛び込んで来たのは、お養父さんの声を発する・・・地蔵菩薩像だった。
「・・・地蔵菩薩像?」
〔あ・・・いや、これはだな?〕
私の思考は、そして停止した。
「アァーッ!!? あんたが彼女のバース・パーソンやんなッ!?」
〔ウワァアーッ!? トカゲの怪人!!?〕
思考が停止した直後に、トカゲ怪人さんの大声とお養父さんの声がする地蔵菩薩像の驚きによって、すぐさま再起動した。
なので、とりあえず二人の間に割って入る。
「二人とも! 落ち着いてください!!」
特にお養父さん?が持っている木刀でトカゲ怪人さんを攻撃しようとしたので、止めなければならない。
なにせ、我流剣術『夢幻一刀流』は割と冗談にならないレベルの殺傷力があるので・・・。
〔ユキト?〕
「紹介しますッ! この方は、トカゲ怪人のイデスバリー・リザドラルさんという人物です!」
「ちょっと? 紹介が雑過ぎるんよ?」
慌てていたので、雑になったのは肯定しますがッ!
〔・・・とりあえず、これらと同じ怪物の類じゃないんだな?〕
「そうっすね! 俺は『秘密結社メシア日本・東京支社』から派遣されてきた地方調査員のイデスバリー・リザドラルと言います」
〔・・・秘密結社? 悪の組織ってことか?〕
「え・・・異世界人とちゃうんか?このひと・・・」
・・・ん? 異世界人?
「ええっとー・・・ちょい質問させて欲しいんすけど?」
〔おう? まぁ、聞くぞ?〕
「では、あんたは異世界侵略賛成派の構成員っすか?」
〔俺をあんな連中と一緒にすんな・・・むしろ、アイツらから逃げて来た身だぞ〕
異世界侵略賛成派?
「・・・ちなみにー。お名前は?」
〔夜乃次蔵だが?〕
「あ、いや・・・え? そうなんすか?」
〔・・・いや、違うな。この『夜乃次蔵』はユキトをイデスバリーした際に得た地球人としての名だ。本来の名・・・は、えーっと・・・ちょいまて、なんか思い出せん〕
「なるほど・・・つまり異世界式イデスバリーの影響で、バース・パーソンも地球人化しているってかんじっすかねぇ?」
〔んー? そのバース・パーソンっていうのがよく分からんが・・・〕
「地球人をイデスバリーした異世界人をバース・パーソンと言うんすよ」
〔あぁ、なるほど・・・それなら確かに〕
「・・・経緯を聞いても?」
〔家の庭で倒れたんだ。胸を抑えながらな・・・イデスバリー以外では処置が間に合わないと思って、大急ぎで実行したら・・・まぁ、どでかい光の柱が立ち昇って目が眩むような光が駆け巡ったら・・・そう。俺は『夜乃次蔵』になっていた〕
「むぅーん」
この二人は、なんの話をしているのだろうか?
っというか、今は悠長に考え込んでいる場合でもないのでは?
「あの、二人とも? いったい何の話をされているのか分かりませんが、今は悠長にしている場合でもないのですよね?」
私が問いかけると、二人は揃って私を見る。
「とりあえず、地球人にイデスバリーを実行すると前世の記憶は消えてしまうんすよ」
〔あぁ・・・それでか・・・〕
え? なに? お養父さんは何を頷いているんだろう?
〔分かった。いろいろと聞きたい事ができたし、秘密結社メシヤってところに連れて行ってくれないか?〕
「もちろんっすよ・・・あ、メシヤじゃなくて、メシアです。救世主って意味のー」
〔そ、そうか・・・〕
・・・私、蚊帳の外?
〔ユキト。とりあえず、詳しい話は秘密結社とやらで聞くことにしよう。東京支社ってことは、東京に基地があるんだろうからな〕
「その通りっす。近くのコンビニに社用車を駐車してあるんで、ついて来てくれ~い」
話が通じたことで、ホッと安堵した様子のトカゲ怪人さんが・・・そして腕を大きく振って私たちをコンビニへ誘導しようと動き出す。
けれど、東京へ行くというのであれば、先にしないといけないことがある。
「待ってください! 家を留守にするなら貴重品の持ち出しと、戸締りなどはしておかないと!!」
〔それもそうだな。トカゲ・・・なんつったか?・・・まぁ、すぐに仕度するから少し待っててくれ〕
「・・・ぅうーっす。出来るだけ、速やかにお願いするんよー」
▽
家の戸締り。ガス・水道。電気。
冷蔵庫内の食料をどうしようか?ってなったけれど、トカゲ怪人さんが不思議な牛乳瓶を取り出して、とにかく冷蔵庫内の物を掻き出すように詰め込んでくれた。
そうして、旅行鞄などに貴重品などを詰め込んでいると、お養父さんは押し入れの奥からプラモデルのような箱を二つほど引っ張り出して持ってくる。
「お養父さん? それ、なに?」
〔これか? 前に二度ほど、やく・・・組合から受けた依頼を解決したお礼の品だ。護身用の武器になれば・・・と思ってな〕
そんなプラモデルの箱みたいなモノに入る護身用の武器って?
「あんのーッ! そろそろ出発したいんやけどもぉーッ!」
あ、いけない!
悠長にしている場合じゃなかったんだ・・・よし! とりあえず、貴重品は鞄に詰め終えたから大丈夫。
着替えなどは東京で調達すればいいだろうから、とにかく急いでここを出ないと!
「お待たせしてすみません!」
「まぁ、10分くらいやから・・・」
〔悪かったな! ついでに、そのポーチにこれらの荷物を入れといてくれ〕
「了解っすよー」
私たちが持つ荷物が、トカゲ怪人さんの腰にあるポーチの中に吸い込まれるような感じで消えていく。
・・・不思議と思うよりも、便利だなって気持ちが先にやって来た。
そうして、家を出て玄関を施錠する。
門を出て、こちらもしっかりと施錠してから、近くのコンビニに向けて移動を開始するわけだけど・・・。
すでに家の周囲には大量の怪物が集まって来ていた。
〔うわ・・・虫やら動物やら、なんでこんなに集まってんだよ〕
「二人ともーッ! 立ち止まってたらタカられるんでーッ!! 走って! マジ走って!!」
トカゲ怪人さんが怒鳴るように叫びながら、迫ってくる虫を爪で切り裂き、中途半端に人化している犬か猫かの怪物を尻尾で払い除けるように蹴散らしていく。
また、お養父さんも木刀を振るって鶏みたいなサイズの羽虫を叩き払い・・・私も、それに倣って大太刀で迫る怪物を迎撃しつつ移動する。
周囲を警戒しつつ・・・というのが、なかなか難しい。
「いんやー・・・彼女が強いのはまだ分かるんですけど、バース・パーソンが強いってのは初めて聞きましたんよ?」
〔あ? ホントは弱いのが普通なのか?〕
「戦闘能力が無いアバターなのが普通っすからね」
〔アバター・・・か〕
アバターって言うと、ネットゲームなどで使う自分の仮想キャラクターのことだと思うけど・・・お養父さんが?
いや、今は気を取られている場合じゃない。
コンビニへ向けて移動する私たちを追いかけて、怪物たちが襲い掛かってくるけれど・・・トカゲ怪人さんもお養父さんも器用に怪物たちを蹴散らしていく。
それはもう、地蔵菩薩像だというのを素で忘れるぐらいには、めっぽう強い。
・・・というか、石像なのにシュバッて効果音を付けたくなるような動きが、なぜ出来るのだろうか?
「ぢゅぢゅーん!」
「「「「「「ぢゅぢゅぢゅぢゅーぅーんんんん」」」」」」
なんか、雀の鳴き声に似た合唱が聞こえて来るんだけど・・・。
私はチラッと声が鳴る方へ視線を向けて、二階建て家屋の屋根上に夕焼け空のような毛色の雀たちがズラッと並んでいる様子が見えた。
・・・見えた。それだけ。
すぐに視界からあの子たちを外し、襲い来る怪物へと意識を向け直して払い除けていく。
「ぢゅ・・・ぢゅぢゅーん!」
なんだろう?
なんだか呼び止められたような気もするんだけど、今は変わった毛色の雀を相手している場合ではない。
とにかく、三人いる中で私に群がってくる怪物が多いせいで、本当に構っている暇がない。
お養父さんにも私の半分くらいは集まっているようだけど・・・一番、怪物にスルーされているのはトカゲ怪人さんだ。
余裕があるのか、私に群がる怪物の一部へ一撃離脱しながらコンビニへ移動をするという器用な動きをしている。
「何が来ても構っちゃダメなんよ! とにかくコンビニまで走って! 襲い掛かってくる直近の怪物だけを蹴散らしてくれればオッケーやで!」
と、いう事なので・・・私たちは家屋の屋根上に現れた雀たちを放置した。
「「「「「「ぢゅっぢゅっぢゅっぢゅぅぅぅぅんんんんんんがああああああ」」」」」」
重低音な声が重なって響くと、通り過ぎた家屋の屋根上でブラックホールのような・・・周囲の物を引き寄せる風が発生した。
思わず身体が仰け反ってしまうけれど、なんとか踏ん張って耐える。
「これはッ!?」
「あっかんわ! よく見たら怪獣怪異やんけ・・・」
・・・怪獣? あんなに小さい雀が?
「君! えーっと、ユキトちゃんだっけ?」
「え? はい。そうですが?」
「変身してる今の君の名前を、ここで決めるんよッ!」
唐突!?
「・・・さっきのオオサンショウウオみたいな怪獣は、なんとか倒せたけどな? 次も同様に倒せるとは限らんのよ」
「その、名前を決めないと・・・本来の力を発揮できない?とかあるんですか?」
「うん。そんな感じー・・・だったかな?」
なぜ目を逸らすんでしょう?
「あ、ごめん! 俺、座学とか苦手だったんで・・・なんで変身時の名前を決めるんか?って覚えてないんよー」
「・・・そうですか」
「「「「「「ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅっぢゅっぢゅぅぅぅぅぅんんんんんんん」」」」」」
そんな合唱が聞こえると同時に、私たちに群がっていた怪物たちが風に掴まって雀たちに取り込まれ・・・当の雀たちが黄昏色に燃え上がりながら一匹に統合されていく。
と、次の瞬間には身体が三階建ての施設みたいに巨大化して・・・足場にしていた家屋を潰した。
[ぢゅぅぅぅぉぉぉおおおんんん]
・・・あー。
なんかもう・・・なんだかなー。
「ナイトメアにします」
「は?」
私は、変身中の自分を現す名前を決めた。
「今、私が直面している『この悪夢を終わりにするッ!』という意志を込めてッ!!」
思えば、今朝方に見た夢。
そう、胸を襲う激痛の夢から覚めて・・・怒涛の勢いで非現実的な事が起こり過ぎている。
周囲が三色にブレて停止する謎現象。自分を秘密結社の地方調査員と名乗るトカゲ怪人。虫や動物が怪物化して襲い掛かってくる上に、怪獣みたいなモノまで登場する。
さらに、家に帰れば地蔵菩薩像になっているお養父さん・・・アレ? そういえばお養父さんの顔って・・・人間時の顔って、どんな顔だったっけ?
・・・と、とにかく・・・そう、とにかく!
こうしてちょっと振り返る時間を得ただけで、怒涛の非現実が押し寄せて来たコレらを一言で言い表すなら?って問うならば・・・『悪夢』としか答えようがないッ!はず・・・。
なら、その名を自ら名乗って、終わらせるッ!!
「私の名は『イデスバリー・ナイトメア』ですッ!!」
直後、私の全身を温かくて勇気が湧いて来るエネルギーが一気に巡り始める。
変身時の感覚とは比較にならない膨大な『力』が、そして私という個を定めるように収まった。
〔なるほど・・・これが地球人をイデスバリーした結果か〕
「いや、あんな反応は今までに見たことないっすわ」
二人の会話は気になるけれど、怪獣化した雀が脚に力を入れて身を屈めると・・・次の瞬間には空高くへと跳び上がった。
・・・っていうか。
あの雀怪獣・・・頭頂から黄昏色の炎?のようなモノが噴き上がっていて、まるで鶏冠のように見える。
そして、ズングリムックリとした姿からも鶏の印象を強く受けた。
跳び上がった雀怪獣は、私の頭上を越えて目指すコンビニへの道を塞ぐように道路へと着地する。
夕暮れ空のような茜色の羽毛を纏い、夕日を浴びて影を作る雲のような模様がどこか切なく美しい。はずなんだけど、鶏のような体形のせいで神秘的とは言えなくなっている。
そうして翼を広げて口を開き、なにか強烈な震動を発生させて周囲の建造物を砕いて見せた。
同時に、開いた口をいったん閉じると・・・嘴が夕陽が地平線に沈むような瞬きを見て、私は即座に大太刀を鞘へと納めて抜刀術の構えを取った。
[ぢゅっおんぢゅぁああああああああッ]
「夢幻一刀流・抜刀術! おやすみッ!!」
抜刀術にて放たれるエネルギーが半月状の刃となって飛ぶと、雀怪獣が放つ一撃と激突する。
それは物体ではない・・・固形物としては認識できない何か?が、ただ一点に固められた一撃として放たれたようで・・・。
私の放った飛ぶ斬撃が、敵の放った一撃をわずかに裂いたものの・・・渦を描くように歪んで弾け飛ぶ。
直後、雀怪獣の一撃も周囲へと拡散するように崩れて消えて行った。
そこから、私たちはすぐに動く。
雀怪獣が私との間合いを詰めるように踏み込んでくると、右の翼を広げつつ殴りかかるように振るってくる。
これに対して、私は抜き放っていた刀を返し・・・両手でしっかりと柄を握り締めて一歩踏み込みつつ、雀怪獣の迫る右翼を切り落とすために迎撃する。
「夢幻一刀流・斬撃術ッ! 寝違えッ!!」
くわぁん
翼と大太刀がぶつかり合った際に異音が響き、そして私が押し込まれるようにして払い飛ばされる。
本来は、転ばせた相手の首に叩きつける斬首の一撃だけど、剣道の面と同様に一撃の威力が高いからこその汎用性にも優れている攻撃技。
しかし、雀怪獣の巨体を生かした重量に遠心力を加えた翼の一振りに、私との体格差と踏ん張りが足りなかったことが、押し負けた原因だと思う。
空中で身体を一回転させて着地し、私は打開策を考える。
すると、脳裏に大太刀の図解が表示され、抜刀した大太刀の柄頭を鞘の鯉口と連結させる手順が・・・矢印などで表記され、点滅することで強調される。
どうやら、こうすることで『薙刀』形態になるらしい・・・ことに気づいて、私はすぐさま腰に提げる大太刀の鞘を手に取る。
と、ベルトに固定されている鞘が「ガチャリ」と音を立てて外れた。
「チェンジ・イデスバリー、 アーマメントッ!」
自然と出た言葉に反応して、鞘の鯉口が発光し始める。
これに、大太刀の柄頭をぶつけるようにして接触させると・・・大太刀の柄を呑み込むように結合して、鍔まで一体化した。
ここから、鞘は棒状に変形して槍のような柄となり、大太刀の刃が朧月のような淡い光を放った。
「抜刀ッ! 夢幻刀・朧月」
私の身長より若干長い柄と、朧月のような淡い光を放つ大太刀の刃を持つ薙刀・・・。
さて、私は薙刀を使った事がないのだけど? コレ、使えるのかな?
[ぢゅぉぉぉんんん]
ずいぶんと長い時間を待ってもらったように思えるけれど、周囲の様子からさほど時間経過していないように思えた。
数秒程度だろうか?
私は、薙刀の使い方を知らないので・・・杖術の要領で『夢幻刀・朧月』を振るう。
対して、雀怪獣もまた私へと再び翼を振るって来た。
先と同様に遠心力と体重を乗せた一撃のようだけれど、私はすでに大太刀から薙刀へと得物を変えている。
「夢幻一刀流・斬撃術、弐式。 寝首ッ!!」
縦方向に刀を振るう斬撃術が『寝違え』。
そして、横方向に刀を振るう斬撃術がこの『寝首』となる。
どちらも、首を狙う一撃だけど・・・その攻撃力は首以外を狙っても強烈な一撃になる技だ。
しゃん
雀怪獣の翼と、私の薙刀がすれ違うように交錯すると・・・鈴の音のような音と共に、雀怪獣の振るわれた翼に裂け目が入り、身体から離脱して、私の頭上を越えて飛んで行った。
それを見送ることはせず、私は次の一撃を繰り出すために構えを直す。
[ぢゅぢゅぅぅぅぅぅぅぅうあああああああああ]
片翼が身体より離脱した雀怪獣は、その二本足で道路を鷲掴みにすることで強引に踏ん張りを利かせ、もう片翼に全身全霊の力を籠めるようにして振りかぶる。
対して、私もまた体重移動に加えて腰を捩じりつつ、薙刀を振るうって遠心力を加えた一撃を出す。
「夢幻一刀流・転刃術。寝返りッ!」
利き足を軸にして、全身を横方向へ回転させる・・・いわゆる『回転斬り』をする技『寝返り』。
脚の筋肉と腰の捻りと遠心力を利用して放つ大技で、とにかく目を回しやすいから使う時は気を付けないとならない技。
また、刃物を持っている時は使わないように。とも言われたけれど・・・今はいいよね?
そうして、左脚で地をしっかり踏んで回転を止める私は、すぐさま雀怪獣へと向き直る。
見れば、雀怪獣は身体を仰け反らせながら道路に転がり倒れ・・・私へ振るって来たもう一方の翼がズタズタに切り刻まれたことによる転倒であると理解した。
・・・ここまでの切れ味がある技なんだ?
〔あれも、地球人をイデスバリーした結果なのか?〕
「そっすねー。イデスバリーした地球人は、いわゆる『霊力』『魔力』などに分類されるような特殊エネルギーの『イデスバリー光』ってもんがあるんで、コレが技に乗って威力を増幅させてるんじゃないかと」
〔そういうものか・・・〕
この温かくて力強くて勇気が湧いて来るエネルギーが上乗せされることで、威力が増しているってことなんだ。
・・・なるほど。
私の攻撃を受け、バランスを崩した雀怪獣が道路へと倒れ込んだものの・・・その勢いを利用するように身を捩じって道路を転がってから身体を起こす。
そして、すばやく息を吸い込むと・・・。
「夢幻一刀流・反撃術。枕返しッ!」
直感から、何かブレス攻撃のようなことをしてくると思った私は、刀の刃を三日月に見立てて刀を構える・・・と、今は薙刀となって柄が長いために刃先が道路へ刺さった。
けれど、ここから大振りで満月を描くように振るうことで、あらゆる攻撃を相手に返す技となる。
予想通り、雀怪獣が放つブレス攻撃を私の反撃術が正面から受け止めると・・・瞬間的にブレス攻撃が姿を消してから雀怪獣の頭へと軌道を変更して出現する。
これが、雀怪獣の頭へ命中して・・・抉るように首から頭部を吹き飛ばす。
ぱぁん。
そんな破裂音と共に・・・雀怪獣は両脚からゆっくりと崩れ折れ、民家を圧し潰しながら倒れ伏した。
また起き上がるのでは?と、私は薙刀を構え直して様子を見る。
「いんやー! まさかこのサイズの怪獣まで倒しちゃうとかーッ!! 間違いなく逸材やんな~♪」
トカゲ怪人さんが、嬉々として倒れ伏した雀怪獣へと駆け寄ると・・・その胸部を爪で引き裂きながら黄昏色に光る心臓部を引きずり出して、牛乳瓶へと詰め込み始めた。
この様子なので、私は構えを解いて一呼吸する。
一方で、お養父さんが私に駆け寄ってきた。
〔大丈夫か?〕
「え? うん・・・なんとか」
ジッと私を見るお養父さんは、そして小さくため息を吐いた。
〔まさか、こんなことになるとはな・・・すまん〕
「・・・なんの話しなのか?が、分からないけれど・・・とりあえず『今は悪夢を見ている』ってことで自分を保っているから、ちょっと気を抜いてしまいそうなことは言わないでッ」
〔そ、そうか・・・〕
お養父さんの声がする地蔵菩薩像というだけでも、自分が正気とはとても思えないことなので、とにかく『この悪夢を終わらせる』という強い意志を以て、この状況を乗り切るしかない。
だから、お養父さんの優しい声とか聞いて気が抜けてしまうと、泣きそうッ!!
「んじゃ! コンビニへ急ぐんよッ!!」
〔お? おぉ・・・分かった〕
「・・・ぅぅ」
やっぱり、続くんですねッ!!?
いろいろと変更しております。
まずは、主人公『夜乃雪乙』が最初から強くなりました。
次に、飛行可能な職員が東京から北関東までを飛んで移動するのはいろいろと無理があるとして、リザドラルが社用車で前日から東北地方入りして調査予定だったところを、緊急事態発生により、急遽南下して調査に来た。ということで、社用車で東京まで移動する方向でストーリーを修正しています。
途中で東京から派遣された部隊と合流する予定ですが、どうするかはまだ未定です。
いつになるか分かりませんが、この話を含めて続きは別作品として公開したいと思っております。
また、ストーリーやキャラの設定も修正中なので、またいろいろと変更になるかもです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
25話目も書いているところですので、近いうちに更新できるよう頑張ります。




