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22 妖怪人

こんにちは。こんばんは。


今回のお話は、前回の続きとなっております。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

 商店街エリアを突破した先には整備された生活用水路があり、小さいながらも橋が架かっている。

 橋の先に、お寺のような木造建築が併設された武家屋敷があった。

 そんなお屋敷の立派な門には・・・。


『霊園地公民館』


 門に掛かっている看板に『霊園地公民館』と力強く彫り込まれているけれど、お寺だよね?

「だぁーッ!! ダメだッ! 私の治療魔法じゃ対処できるレベルを超えてるぅーッ!!」

 マジカルンナさんがお手上げと言わんばかりに頭を掻きむしって叫んでいるけれど、どうやら私の状態はダメのようだ。

「全身の骨がもうアレ過ぎてて・・・首の骨が折れていないだけでも奇跡過ぎるッ!」

「すると、やはりすぐにでもダンジョンを脱出するべきなのですねッ!?」

 ラナタスカさんが、マジカルンナさんの両手を掴んで押さえつけると、頭を掻きむしる動作を止めて無理矢理に下ろし、その頭に包帯を巻く作業を再開した。

「戦闘能力よりの私が使える治療魔法なんて、裂傷を癒す程度の効果しかないっつの! 砕けた骨とかムリムリーッ! 多分だけど折れた肋骨が肺を圧迫しているか、刺さっているんじゃないかなッ!?」

「鼻や口から流れ出ている血もドロッとしてて止まる様子がありませんが?」

「うん。内臓もだいぶやられてるのは間違いないね。もはや私じゃお手上げだよッ!!」

 リザドラルさんの麻痺毒で、痛覚が麻痺しているので意識を保てていますが・・・つまり、本来であれば気絶してそのまま・・・。

「でも、可能な限りで応急手当はするからッ!」

 魔法のステッキを私に押し当てながら、マジカルンナさんは魔法を使い始める。

 温かくて優しい力が、浸透してくるのを感じられるけれど・・・それもすぐに感じ取れなくなっていく。

「にしても、よく間に合ってくれたねッ!」

「ええ、全速力でエリアを超えてきましたからッ」

「しっかし、よくも無事に突破できたもんだ・・・私らはこの有様だってのにさ」

「・・・それなのですが、私たち・・・怨霊たちから見向きもされませんで・・・」

「え?」

「むしろ『からくり人形と半魚人か? 大変だな。迷い込んだか?』と言う感じで、なぜか出口の方向を教えてもらいましたよ」

「・・・なにそれ。私らの時と全然違うんだけどッ」

 確かに、私の時なんて怨霊たちが一斉に私を見たのに・・・。

「多分ですが、イデスバリー光の差ではないかと・・・」

「そう言われると・・・」

 言われてみれば、怨霊たちは私しか見ていなかった。マジカルンナさんやリザドラルさんは、邪魔だからって感じで扱われていたように思える。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・そういうことか。


 

 私たちから少し離れた位置で、魚人三銃士と呼ばれている『サバイタル』さん『カツオブシ』さん『マグロード』さんの三人は、エネルギーチャージ飲料をがぶ飲みしていた。

「にしても、マジのダンジョン・フィールドはヤバいな・・・」

「温水プールのアトラクション・ダンジョンが、マジのアトラクションだと思い知らされるぜ」

「あの怨霊たち、いくら切り刻んでもチャラヘッチャラで立ち上がってくるもんな・・・戦いは数だよ。ってマジなんだな」

 何をどうしたら、怨霊を倒せるのか?について、三人で話をし始めていた。

 でも、確かにあの怨霊たちはどうやったら倒せるのだろうか? どれだけ攻撃をいれても、怨霊は転倒こそすれ、消滅などはしなかった。

「あ、そうだ・・・おい、リザドラル」

「ん? なんすか?」

 マグロードさんが思い出した様子でリザドラルさんを呼ぶと、当のリザドラルさんは2Lペットボトルの水をがぶ飲みしていた。

「さっき、おまえのスマホからした声のヤツ・・・ありゃ誰だ?」

「あ、俺の友達っすね」

 そういえば、あの人からのアドバイスが無ければ、アレほど迅速に動けなかったかもしれない。

「へー。おまえ、友達いたのか?」

「失敬なッ・・・出会いは数年前、房総半島のどっかの堤防で魚を獲ろうとでっかい虫網を担いで行ったら、夜釣りをしてる よっちゃん に出会いましてね? その時に食べていたイカ焼きが美味そうだったんで、声を掛けたんす」

 魚を獲ろう。というリザドラルさんの説明には、首を傾げずにはいられない。

「魚を獲るって、釣るんじゃなくてか?」

「うん。魚は夜だと獲りやすいって聞いて、食費を浮かすためにッ!」

「なんでだ? うちの会社は高給なんだから、そんな事する必要ないだろう?」

「いやぁ・・・実はあの頃・・・ソシャゲで散財してしまいましてね? ピックアップされていたキャラが全然! 当たらんのですよッ!!」

「・・・え? それで夜の堤防で魚を獲りに出たと?」

「そうっす」


「「「バッカじゃねーの?」」」


「あっはー! それ、よっちゃんにも言われて、イカ焼きを奢ってくれた上に釣れた魚をその場で焼いてご馳走してくれましてねーッ! 仲良くなったんすー♪」

 握った拳に親指を立てて、リザドラルさんはとてもいい笑顔になった。


≪まったく・・・どういう紹介の仕方だ?≫


 再び、リザドラルさんのスマホから声が響いたことで、全員の顔が険しいモノとなった。

≪どうやら、無事に商店街を突破したようだな≫

「おかげさんでー」

 リザドラルさんが笑顔で答えると、マジカルンナさんが私の治療を続けながら叫んだ。


「リザドラルの親友くん! 君は何者だッ!?」

 

 その問いに、リザドラルさんは『きょとん?』という顔になったけれど、魚人三銃士の三人とラナタスカさんが目を鋭くして武器を構える。

「君の目的はッ!! リザドラルと交友関係を築いたのは何故だいッ!」


≪・・・夜釣りをしていたら、涎を垂らしたトカゲ怪人が暗がりから出てきて、「美味しそうなイカ焼きやんねぇ?」と言われた。・・・さて? 君なら、どうする?≫


「・・・」

 あ、マジカルンナさんが目を点にした。

 そして目を点にするマジカルンナさん以外が半眼となってリザドラルさんを睨み始める。


≪とりあえず、イカ焼きをくれてやって意思疎通が可能か?を確かめたのが、交友のキッカケだ。俺としても、争う理由は無かったしな・・・≫

 一拍の沈黙が降りた後・・・。

「・・・そうですかー」

 マジカルンナさんは、そして何も言えなくなった・・・。



ごごぉん



 鈍い音が響き、全員がそちらに視線を向けると・・・橋の向こう側にある公民館の門がゆっくりと開いて行くのが見えた。


≪どうした?≫

「あ、なんか公民館の門が開いたんよ」

≪公民館の門だと・・・まずいな。待ちきれなくなったか・・・≫

「なんかあるん?」

≪なんかもなにも、公民館はこのダンジョン最深部だぞッ! そこに居るのはダンジョンの大ボスだ。油断をするなッ!≫

 スマホから出る焦ったような声音に、マジカルンナさんは私の治療を止めてエネルギーチャージ飲料を素早く一気飲みすると、ポーチへ乱暴に戻して身構える。

 他にも、ラナタスカさんはバズーカを構え、魚人三銃士も連携攻撃を出せる立ち位置へ移動する。

≪ヤツはお前たちに敵う相手ではない。急行するから、持ち堪えろよッ≫

「急行って、今どこら辺なんよ?」

 リザドラルさんが問い返すも、返事はなく・・・スマホとの通話も切れてしまったようだ。


 っと、開いた門から出て来たのは・・・『狸』だった。


 アライグマじゃない。

 その毛並みと尻尾から、間違いなく『狸』だと思う・・・ただ、和尚様が着るような黒い和装を着こなしているという異様さはあるけれど。

 二足歩行で、一切の乱れも無い綺麗な歩き方をしている。

 だけど、その全身から放たれている『威圧』だけが、全員に息を呑ませた。


{よくぞ参られた。命の光を放つ巫女よ・・・そして、巫女を連れて来たにんげん・・・}


 狸和尚が、そしてラナタスカさんからサバイタルさん、カツオブシさん、マグロードさん、リザドラルさんという順に見ていって・・・。


{人間?たち?よ。よくぞ巫女を連れて来てくれた。速やかに奉納し、ここを去るがよい。貴殿らは無用である}


 五人を見て『人間?』と首を傾げる気持ちは分かりますが・・・。

「はい。わかりました!って言うとおもってんのかッ!?」

「巫女ってなんだッ! 巫女服は着てないだろッ!!」

「俺らが無用ってのは聞き捨てならん! DHAは身体にいいんだぞッ!」

「ふざけた狸ですねッ!」

 四人が怒り心頭・・・なんだかよく分からない事を言っている人もいるけど・・・の様子で、言い返していると、マジカルンナさんが魔法のステッキを狸和尚へ向けながら指示を出す。


「リザドラルはナイトメアちゃんを守れッ! その他全員で総攻撃を開始するッ!!」

「「「「「了解ッ!!」」」」」


 ラナタスカさんがバズーカの連射を始めると、マジカルンナさんも魔法のステッキから光の弾を数発放出して、ステッキを振るう動作に合わせて発射していく。

 それらに合わせて、魚人三銃士が駆け出すと「「「フレッシュ・フィッシュ・ストリーム!!!」」」と、連携攻撃を発動して狸和尚へと突進した。


四象ししょう六征ろくせい護守ごしゅ壁符へきふ


 ヤレヤレ。と言わんばかりに首を振り、狸和尚は右手を袖に引っ込める・・・と、引っ込めた手を袖から出すと、楓の葉が数枚ほど握られていた。

 コレを、向かってくるバズーカと光弾に向けて放り投げる。

 すると、楓の葉が仄かな光を放って半透明の壁を作り出し、ラナタスカさんとマジカルンナさんの攻撃を正面から受け止めて見せた。

 防壁のような物ということ?

「懐が、がら空きだッ!」

 そこへ飛び込む魚人三銃士の連携攻撃だけど、直前で連携を解いた三人は新たな連携を展開する。


「「「くらえッ! 三位一体の妙技ッ!! フレッシュ・スラッシュ・タイフーンッ!!!」」」


 狸和尚へと肉迫する三人は、対象を中央に据えて囲むように高速移動を開始し、まさにタイフーンのように回転して連続攻撃を叩きこんでいく。

 けれど、当の狸和尚はすでに対応していた。


四徴しちょう六功ろっこう転写てんしゃ回乱かいらん


 左手に、いつの間にか準備されていた桜の葉を放り投げる。と、狸和尚の周りに展開されて回転し始め、魚人三銃士による連続攻撃を全て受けていく。

 直後。

「ぐあ!」

 サバイタルさんの巨大包丁二本による連撃が、自身の身体をズタズタに切り刻んだ。

「なッ!」

 カツオブシさんが抜き放った巨大な太刀による一刀両断の斬撃が、自身の鎧兜を砕く勢いで凹ませていくと、白目を剥いて泡を吹く。

「ぶが!」

 マグロードさんの拳と蹴りの雨霰が、そして自身の身体をボコボコにして、それらの衝撃によって吹っ飛んで行った。

 ・・・瞬く間に、三人が返り討ちに。


うつつみょうよな・・・イデスバリーの戦士も人外化の時代であるか?}


 この狸和尚・・・強すぎる。

「マジカルンナさん! 全員を回収してバリアを!」

 ラナタスカさんが叫ぶと、私たちから離れつつ狸和尚との距離も保った位置取りをする。と、棺桶のような箱を召喚して、中から巨大なバズーカ砲を取り出した。

 コレを見て、マジカルンナさんは詠唱を素早く行って、魔法のステッキを振るう。

「マジカな。マジカよ。マジカルだもん。マジカルンナ・ウィーップ!」

 光の鞭がステッキより飛び出すと、狸和尚を避けつつ周囲で倒れている魚人三銃士のサバイタルさん、カツオブシさん、マグロードさんへ鞭を巻き付けて回収していく。

 これに、狸和尚も邪魔をせず・・・ラナタスカさんに意識を向けているように見えた。

「無数の敵を蹴散らす必殺技が『ガトリング・バズーカ』ならば、単体を一撃で爆砕する必殺技がッ! この『アトミック級バズーカ』ですッ!!」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・アトミック『級』!?

 私が驚いていると、マジカルンナさんは魔法のステッキを両手で持って、全身にエネルギーを漲らせながら叫んだ。

「チェンジ、イデスバリ―! エクステンドッ!!」

 魔法のステッキが長大になり、花弁を模したレンズが虹色に輝くと宝石のような光沢と共に杖を彩る装飾となる。

 そうして、マジカルンナさんの衣装が魔法少女から、聖女?のような荘厳な色合いへと変色して、なんだか心が浄化されそうな後光が差しているように錯覚する。

「エクステンド。マジカルンナ・サンクチュアリッ!! フルパワーッ!!」

 マジカルンナさんを中心として、橋を含めた周囲の環境が聖域化して守護されたことを理解した。


 と、ほぼ同時に光り輝いたのは・・・ラナタスカさんが取り出して構えた巨大なバズーカ砲。


 それはまるで、空間を丸ごと呑み込むような『光』であり、なにもかもを焼き尽くして、塵芥にする破壊の『光』だった。

 マジカルンナさんが、全力の聖域を展開したのは・・・この圧倒的な破壊力を持つエネルギーに巻き込まれないようにするため。


四勞しろう六令ろくれい放妖ほうよう変却へんきゃく


 この『光』を鼻で笑った狸和尚は、そして『光』に向けて柏の葉を放る。


{くだらぬ光よな・・・死を彩るには、児戯にも劣る}


 ラナタスカさんの放った『光』が、まさに「パッ」という感じで消失すると、なにかを包み込んだ柏の葉が放物線を描きながらラナタスカさんの元へ落下していく。

 これを見たラナタスカさんが、すぐにバズーカを捨てて柏の葉から逃げつつ、ポーチからエネルギーチャージ飲料と食料を取り出して乱暴に口の中へと押し込んで飲み込む。

「ちぇ、チェンジ、イデスバリ―ッ!!ふ――――


 音が消し飛び、光が瞬いて周囲の景色までも塗りつぶし、直後には巨大な爆炎の柱が空高くへと伸び上がって、赤黒い景色に溶け込むような黒煙がキノコ雲を形作っていく。

 マジカルンナさんが展開したフルパワーの聖域が歪んで、今にも壊れてしまいそうなほどに負荷が増大していた。

「ら、ラナタスカが放った一撃よりも、威力が増してる・・・」


{さよう。これくらい出来てから、必殺技を名乗るが良い}


 狸和尚は、そして私たちへと顔を向けた。

 その表情は、子供の遊びに付き合わされて辟易している大人のような雰囲気を出しており、どこまでも私たちを見下している眼を向けて来る。

 一歩、その足をこちらに踏み込んだ時・・・。


 生活用水路を流れている水の嵩が急激に増え始めると、真っ黒な水が蛇のようにうねり出して用水路から飛び出して行く。

「なんだ!?」

 マジカルンナさんが真っ黒の水の蛇?を見て驚く中・・・ラナタスカさんを呑み込んだ爆心地へと、黒い巨大な・・・えっと、『イカ』?が突撃していくのを見る。

 先の黒い水の蛇?は、黒い水の塊で出来ている巨大なイカの触腕であるようで、ラナタスカさんを呑み込んだ爆炎を包み込むように二本の触腕と八本の足で巻き付きつつ、全身をぶつけていく。

「なにッ!? イカッ!!?」

 クルクル回転するコインのように状況が高速で変わっていくことに理解が追い付かない様子で、マジカルンナさんが素っ頓狂な声を上げる。

 黒い水の塊である巨大イカが爆炎に突撃すると、水と炎が相殺し合って周囲に水蒸気が拡がり、これがある種の煙幕のようになった。

 ・・・と、リザドラルさんが安堵の息を吐いた。

「おー。やっと来てくれたんなー」

 え?

 

どしゃ


 そんな音を立てて、丸焦げになって人の形をしていること以外が分からない物体が私たちの近くに放り落とされる。

 あれ? この黒焦げになっているのって・・・ラナタスカさん!?ッと、その横にさらに新たな人影が着地して、私は見上げるのだけど・・・えぇっと・・・。


{遅くなってすまないな。リザドラル? 俺の紹介はちゃんとやったのか? 皆、俺を見て呆然としているようだが?}


 その人物?は、まさに『イカ』そのもので・・・だけど、その・・・『イカ』を逆さ様にしたような姿で・・・えぇっと・・・。


「あ、みんなに紹介するんよ! 俺の親友でッ! ダイオウイカのイカ妖怪!! 『よっちゃん』です!」

{え・・・おまえ、俺の容姿などを教えていなかったのか?}

「・・・うん。忘れてた」

 

 ・・・え?

 えーっと、その『よっちゃん』さんは、ダイオウイカのイカ妖怪で? 二足歩行をしているけれど、その姿は『イカを逆さま』にしたような状態で・・・。

 胴体の先端からイカ耳までの範囲を真っ直ぐ割って、その割れた部分が脚となって二足歩行を実現し、イカの足はまるで足まで届くドレッドヘアみたいに垂れている。

 そうして、着ている服は・・・多分、じんべえ?で、触腕が律儀にも袖を通っていた。

 ・・・私、今、何を見て、何を語っているんだろう?

 ・・・・・・。

 ・・・待って、そんなイカ妖怪さんが、イカ焼きを食べながら夜釣りをしているところに、トカゲ怪人が涎垂らして暗がりから現れるという出会いをしたってこと!?

 状況がカオスを極めていませんかッ!!?


「リザドラルーッ! 妖怪と友達てッ!? か、かいしゃ! 会社には報告してあるんだろうなッ!!」

「・・・・・・・・・・あ」

「ばかーッ!! このばっかやろーッ!!」

 マジカルンナさんがリザドラルさんに掴みかかって怒鳴り散らすものの、リザドラルさんは「きょとん」とした顔から「そういえば」と言わんばかりの顔になって、にぱーっと笑った。

 これに、もう何を言っていいのか分からないという様子で、ただ怒鳴っている。

 その一方で・・・。

 周囲に広がった煙幕も薄れて、互いの姿が確認できるようになると・・・。


{とりあえず、はじめまして。私は狸妖怪人の『のれん』と申します}

{こちらこそ、はじめまして。俺はダイオウイカのイカ妖怪人『よっちゃん』と申します}


 どっちも丁寧にお辞儀しながら挨拶を交わしているんですが・・・というか、どっちも名前が・・・。


{ここは我が領域である・・・早々に立ち去ることを要望する}

{申し訳ないが、巫女をそちらに渡すことは許容できないため、友人へ加勢する}


 直後、両者は動いた。


墨陽火弾ぼくようかだん

四刀しとう四盾しじゅん}の六刃ろくじん六堅ろっけん}。斬志ざんし防技ぼうぎ}の鋭幽えいゆう硬葬こうそう}。}


 声が、二重に聞こえる!?

 イカ妖怪の『よっちゃん』が、その両の触腕を背に回してそれぞれに小太刀を抜き放つ・・・背中に小太刀があったんだ・・・と、口からイカ墨を噴き上げて八つのゲソでかき回すと、まるで砲弾のようになった。

 この墨を固めたようなものに、二本の小太刀を叩き合わせると・・・まるで火打石のように火花を散らせて、墨の砲弾に火が点いた。

 これと同時に、狸和尚『のれん』が一言で言葉を二重にした詠唱を実行すると、右手に『竹の葉』を、左手に『椿の葉』を取り出して、茎を握ると葉っぱがそれぞれに巨大化する。

 竹の葉は、まるで刀のように鋭利な武器となり・・・。

 椿の葉は、まるで盾のように分厚い扇のようになる。


 イカ妖怪が火のついた墨砲弾を狸和尚へと叩き込むように投げつけると、コレを椿の葉で叩き落とすように正面から受ける。

 すると、火の点いた墨砲弾が弾けて周囲へと飛び散った。

{小細工ッ!}

{手品の基本は仕込みでねッ}

 両者が一気に間合いを詰めて、竹の葉の刀と小太刀が金属的でありながらも鈍い音を立ててぶつかり合うのだけど、その速度が尋常じゃない。

 両者の腕が目で追いきれず、まるで上腕から先が消えているように高速で動き、両者の武器が激突するたびに刹那ほどの間で肘から先が見えるような気がする。

 

四徴しちょう六功ろっこう転写てんしゃ回乱かいらん}  

墨陽散火ぼくようさんか


 わずかに飛び跳ねた狸和尚は、その足から桜の葉を取り出してイカ妖怪へと投げるように蹴りつけると、先に魚人三銃士の攻撃を返した技を詠唱する。

 対して、周囲に飛び散った火の点いたイカ墨?が動き出すと、一斉に狸和尚へと殺到した。

 それら全ての火を桜の葉が受け止めると、イカ妖怪はフィギュアスケートのような大回転ジャンプをしながら狸和尚より離れ、桜の葉より返される火を大回転で全て叩き弾いて見せた。


{・・・ふん。海産物は築地か豊洲に行くが良い!}

{心配ご無用。終わったら、ちゃんと木の葉を被せて差し上げる}


 瞬間、狸和尚の顔・・・その体毛越しに青筋が走るのが見て分かり、歯を剥きだしにする。

 そうして、ここまでに使ったすべての木の葉と、まだ使っていない木の葉を全て取り出して、狸和尚は目を血走らせながら詠唱した。


四審ししん六法ろっぽうッ! 螺旋らせん破葉はっぱッ!!}

{火充100%! 墨汁還元ッ!!}


 全ての葉っぱが螺旋を描きながら一本のドリルみたいに高速回転を始めて、風切り音を響かせながらイカ妖怪へと突き出す。

 一方で、口から噴き出した墨を八本の足でこね回しながらピザ生地みたいに伸ばして、コレを突き出されてくる葉っぱドリルに被せる。

 と、小太刀を火打石のように叩き合わせて、ピザ生地風イカ墨に火をつけた。・・・その小太刀?は火打石で出来ているのかな?

 二人の攻撃が正面から重なる時、閃光が瞬いて爆発する。

 この爆発は、全て空へと広がってダンジョン・フィールドを激しく揺らしながら歪めていく。


{小癪・・・}

{巫女を巻き込まないようにすると思っていただけだよ}


 両者、共に無傷で・・・爆発による汚れさえも身体には無いように見える。

 どちらも本気ではない。

 それが分かるほどに余裕を見せている。


{・・・むッ!?}

{・・・ん?}


 睨み合いをしている二人が、そして何かに気づいた様子で公民館へと振り向くと・・・狸和尚はイカ妖怪に煽られた時以上の怒りを見せた。


{おのれ憑依霊ごときがッ!!! 我があるじを奪う気かッ!!!?}


 剥き出しとなった殺気と共に、狸和尚は公民館へと駆けだした。

 直後に、公民館にある寺が膨れ上がり、破裂するように壊れると・・・中から水の塊みたいなツチノコが巨大化しつつ飛び出してくる。

 憑依霊って、ツチノコの事だった!?

 ・・・って、たしかアレは『ミズノコ』って呼ばれていたような気がするけど、私たちと一緒にダンジョンへ入り込んでいたんだ。


《申しわけありません。僕の計画に、あなたの即身仏あるじが必要なので、頂戴していきますねッ》

{この痴れ者めがぁあ!!}

 

 ミズノコは、公民館を飛び越えて外へと逃げ出し・・・その後ろから菩提樹の葉が包むように迫るものの、逆にミズノコは小さくなって私たちの視界から消えてしまう。

 と、菩提樹の葉は空を切ってミズノコを捕えることに失敗したようで、公民館より狸和尚も飛び出して塀の上から周囲を見回しつつ、逃げた先を特定して猛然と駆け出していく・・・。

 

ばしん


 そんな音がしたと思えば、ダンジョン・フィールドの空に大きな亀裂が走っていた。


{ダンジョン・コアが奪われたことで、霊園地は現世との狭間へ還る。喜べ、帰れるぞ}


ばしばしばしばし


 っと、空に走る亀裂の範囲が広がっていくと、光が差し込んで黒く染まる霊園地を照らしていくと、霊園地が焼かれるように崩れていく。

 そうして、どんどん光が溢れて――――。





 不意に、ガラスを引っ掻いたような音が響くと・・・私たちは廃工場の中に居た。

 ダンジョン・フィールドに入った時と同じで、意識が飛んだわけじゃなく・・・まさに、ふと気づいたら廃工場の中。という状況だった。

 フィールドは解除されているようで、リバーシブルでもウィアードでもない・・・通常空間。

 廃工場内へ差し込む陽射しが、どこか綺麗で・・・眩しいと感じられる。


{・・・よかったな。工場内で}


 イカ妖怪さんが言うと、私は急いで周囲を確認する。

 みんなが人外の姿をしているので、外・・・道路の真ん中などでなかったことは幸運だったと思う。

 これには、マジカルンナさんもリザドラルさんも深いため息を吐いていた。

「よっちゃん。助かったんよー」


{礼は不要だ。今度、飯を奢れ。美味いイカ料理が食える店を探しておく}


 ・・・イカ料理が好きなのかな?

「ちょっと待った! おまえ・・・いや、あなた・・・いや、えーっと・・・そこのイカ妖怪人に、色々と訊きたい事があるから、事情聴取とかさせて欲しいんだけど!」

 マジカルンナさんもが声を張り上げつつ、魔法のステッキをイカ妖怪さんに向けながら言う。

 ・・・けれど、どうやっても勝てない相手だと分かっている様子だ。


{断る。俺は君たちを信用していない。ゆえ、応じない。リザドラル。面倒がらずに、俺の事を報告しろよ?}


「お、おーぅ・・・がんばるんよ」

 あ、すごい面倒くさいって顔になってる・・・。


{それよりも、そこで黒焦げになっているロボットと、巫女をすぐに治療士の元へ運んだ方が良い。特に巫女だな・・・もう間もなく死ぬぞ?}


 え?

「え・・・あ! 応急手当の途中だったんだ!!」

 マジカルンナさんが大慌てで私に駆け寄り、私の開いたまま微動だにしない目を覗き込んで顔を真っ青にしていた。

 見れば、私は鼻と口から血を流し続けていて、呼吸が止まっている様にしか見えないほどに動きが分からない。瞳にも生気がないように思う。

 ・・・あれ? なんで私、自分を見下ろしているんだろう?


{俺が合流した時点で、魂が抜け始めていたが・・・よく持ち堪える}


 ・・・えッ!?

「へー? 魂とか見えるもんなん?」

{まぁな。だから、狸和尚も手加減していたんだ。下手に大技を使ったら巫女が即死するから・・・}


 私に気を使って、両者ともに手加減していたってこと!?

「そこぉ! 悠長なこと言ってんなッ!! 応急手当を手伝ってッ!!!」

{ふむ・・・では俺が、巫女の抜けかかっている魂を身体へ無理矢理に戻すから、リザドラル。おまえの麻痺毒で魂が再度、抜け出ないように麻痺させろ。あとは魔法少女が応急手当して状態を維持すればいい}

「いや、ラナタスカにも手当が必要だしーッ!」

{そっちのロボットは問題ない。高火力で表面こそ黒焦げだが、火は中まで通っていないので、まだしばらくは大丈夫だろう。最優先するべきは巫女だな}

「・・・ええい! 協力をお願いする!!」


{分かった}


 と、イカ妖怪の手が私の頭を掴んで―――。

「え? どこ掴んでんの?」

「抜けかかってる魂って、そこにあるん?」

{そうだ。そしてコレを・・・こうするッ!}


 

 まるでバスケットボールのダンクシュートみたいに、私を私に叩きつけるようにして―――ッ



 意識が、途絶えた。



次回は、敵側のお話を予定しています。


今回登場したダイオウイカのイカ妖怪人『よっちゃん』は、イカ耳側を下に、イカ足側を上にしただけのキャラになります。

胴体の先端からイカ耳の範囲までを真っ直ぐ割って脚として二足歩行し、イカの足はロングヘアのように垂れている感じとなります。

擬人化系ではなく、あくまでもダイオウイカの姿のままになります。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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