表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

21 いのちのひかり・・・

こんにちは。こんばんは。


今回のお話は、前回からの続きで『霊園地商店街』を突破しよう。というお話です。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

「あー・・・そういえば、まだ潜水服のままだった・・・イデスバリー」

 マジカルンナさんが自身の頭を摩ったところで、衣装を元に戻していない事を思い出して再変身する。

 ・・・私も、ずっと水着姿のままだったのを、ここで思い出した。

「イデスバリー」

 ちょっと小声で控えめに・・・私も再変身して元の衣装へと戻った。

 


「えーっと、とりあえず二人とも無事? リザドラルーん?」

 まだちょっとだけ頭が痛い。と言わんばかりに顔をしかめているけれど、リザドラルさんへと声を掛ける。

「うーっす。とりあえず、会社から支給されてるエネルギーチャージで回復したんよー」

 干乾びたような姿も、すっかり元通りの様子で立ち上がり、ステップを踏んで見せる。

 でも、ちょっとだけ顔色が優れない・・・というか、雰囲気がまだ弱っているように感じられる。

「ま、お互いにダンジョン・フィールドの空気に参っている感じかねー?」

「そうかもっすねー」

 赤黒い空に、墓地のような雰囲気と、墓石のような建物の数々から成る街並みは・・・確かにホラー映画のような緊張感がある。

 どこからお化けが飛び出してくるか・・・不安にもなってくる。

「・・・ところで、ナイトメアちゃんはダンジョン・フィールドをどこまで知ってる感じ?」

「え?・・・あ、はい」

 私は、ダンジョン・フィールドについて、シェルさんから教えてもらった事を話す。



 ① ダンジョン・フィールドは、『ウィアード・フィールド』を展開する怪獣怪異が複数体集まり『密集』した状態で、フィールドを同時展開すると生じるモノであり、もはや別世界に繋がったも同然の異空間となっている。

 ② ダンジョンには、いくつかのパターンがある。現代までに確認されているモノを、大雑把に分類すると『階層型』『迷路型』『施設型』『陸島型』の四種。


  階層型は、上か下に続く階段を進んで最上階もしくは最下層を目指すタイプ。

  迷路型は、狭い通路や洞窟を探索してゴールを目指すタイプ。

  施設型は、ジオラマのように人工物の建物が並ぶ街や、建物内部が舞台となるタイプ。

  陸島型は、大陸規模から孤島まで多種多様のサバイバルを強要されるタイプ。

  ・・・ちなみに、それぞれで出てくる敵の種類も異なったりするらしい。


 そして今、私たちが居るのは『施設型』だと推測される。



「ただ、早々発生するモノではないから、深刻に考える必要はない。とも・・・」

 私を不安にさせないように。という配慮もあったのだと思うけれど・・・。

「うーん。確かに、過去を遡れば数は出てるけど・・・時代というか、数字で見れば発生するのは数年に一回から、昨今では数十年に一回という具合に減少していたからね」

「そっすねー。シェルさんもさすがにダンジョンまでは発生しないだろ。って楽観視してたかもっすね」

「しゃーないねー」

 シェルさん・・・。

「ま、こんな『商店街』なんて書かれているけど・・・後ろを見てみれば、路地って感じで道路も電柱もあるし、商業施設と同時に民家も混ざっているでしょ?」

 商店街の反対側・・・つまり私たちの背中側を確認すると、確かに細かく人が住めるかもしれない建物や家屋が並んでいる。

「まさにジオラマ。ナイトメアちゃんの推測通りで、ここは『施設型』と見ていいね・・・しっかし、霊園地かぁ・・・『怨霊』のフィールドだから最悪だーッ」

 ・・・『怨霊』

「その怨霊なのですが・・・怨念などで強い恨みを持つ幽霊のこと・・・ではないんですよね?」

「そうだね。一般的にはそれでいいんだけど、私たち関係となるとまた違うんだ・・・」



 ① 簡単に説明すると、怨霊の大多数は『地球人の残留思念』が、イデスバリー光の影響で『悪性変異』した怪異。であるらしい。

 ② 元が『残留思念』であるため、元の人間や人間憑依霊ほどの知性を持ち合わせていないため、とにかく攻撃的で、話はまったく通じない。

 ③ そして結局のところ、『生への回帰』を求めてイデスバリー戦士を襲って来るらしい。



「今でこそ、怨霊にさえ襲われ難くなった私らだけれども・・・ナイトメアちゃんには間違いなく殺到するだろうね」

「限定商品を誰よりも早く手に入れるべく、開店と同時に店内をダッシュするように・・・それはもう絶対に怨霊が群がってくるんよ」

 ・・・インターネットで、そういう様子を映した動画を見た事あるけど。

 え、あの勢いで私が襲われるってこと?

 

 リバースデイを迎えてから、こうして立て続けに大きな事件が発生しているのだから、何を今さら?とも思うんだけど・・・改めて言われてみれば、そういう感じなのかもしれない。



ぶーッぶぶぶぶぶぶぶぶーッ



 突然の震動音に私は驚いて刀の柄を握りながら周囲を見回す。っと、リザドラルさんがスマホを取り出して目を点にしていた。

「あれ? なんで?」

 どうやら、リザドラルさんのスマホに着信か何かがあったようで、私とマジカルンナさんが顔を見合って肩を竦めた。

「はーい。どったん?」

≪どったん?じゃないだろう。ダンジョン・フィールドが発生しているのはどういうことだ?≫

「あー・・・それな? ちょいとなー」

≪ちょいとなー。ではないぞ・・・まさか、巫女を盗られたわけじゃないだろうな?≫

「いやいや、ギリギリ。ギリギリでまだこっち側なんよー」

≪なに? もしかして、傍に居るのか?≫

「あー・・・うん。彼女も居るしー。先輩もおるんなー・・・」

≪そうか・・・連絡するタイミングを誤ったな・・・仕方ないか。とりあえず、そちらに向かうから、怨霊共に奪われないようになッ≫

「え? 来てくれるんか?」

≪当然だ。今のお前ではダンジョン・フィールドから巫女を守るなどできるわけないだろう≫

「ハッキリ言う。気に入らないなッ」

≪で? 今はどの辺りだ? 念話に出られたということは、エリア境にいるのか?≫

「うん。霊園地商店街の前におるでー」

≪商店街!? ダンジョン深部の手前ぐらいだな・・・そうか、巫女に怪異が殺到したから、ダンジョン発生で深部付近に入り込めたわけだな?≫

「よーわからん」

≪なら、商店街に入って深部を目指せ。エリア境に怨霊は居ないが、巫女がそこに留まっていると集まってくるぞ。前のエリアと次のエリアからな≫

「・・・それ、つまりは挟み撃ちになるってことで、おけ?」

≪そうだ。少なくとも、次のエリアに突入してしまえば前のエリアから怨霊が来ることはない。あとは、商店街で上手く身を隠しながら進むのが理想だが・・・さて、どうなるか≫

「俺にできそう?」

≪さぁな。気休めだが、おまえじゃ無理だ。 俺も今からダンジョンへ入る。追い付くまで頑張れッ≫

「気休めの意味わかっとるんかーッ!?」

 ぶつ・・・つー。


 今のは・・・?

 私が疑問を持った時、マジカルンナさんが声を掛けた。

「今の通話相手は誰?」

「え・・・あー、俺の友達でッ! 数年前に千葉県の房総半島にあるどっかの堤防へ魚を獲りに行ったら、よっちゃんが夜釣りをしていたんすよッ! で、その時に食べていたイカ焼きが美味そうだったんで、声を掛けたんよッ!」

 ・・・リザドラルさんて釣り・・・ん? 魚を釣りに。じゃなくて、トリに? どういうこと?

 とりあえず私は、イカ焼きを食べながら夜釣りをしている男性のところに、口から涎を溢しているリザドラルさんを想像する。。

 ・・・しまった。リザドラルさんをトカゲ怪人で想像してしまったから、B級映画みたいな人と怪人の邂逅シーンになった。

「ふーん・・・じゃあ、巫女って? もしかしなくても、ナイトメアちゃんのことかな?」

「えぇーっと、そうっすねー」

 それにしても、なんであんなに動揺しているんだろう?

「あんたさー・・・なにを隠しているのかな?」

 マジカルンナさんが、睨みながら詰め寄った。

 その時だった。



[ひひ。おなごだ]



 ゾワッとする掠れた声音が背後から聞こえ、私は振り返る。

 先ほどまでは静かだった道路向こうの街から、人影がポツリポツリと姿を見せ始めており・・・それら全てが目を光らせるようにしてこちらを見つめている。

「怨霊だッ!!」

 マジカルンナさんが魔法のステッキを構えながら私の前に出ると、こちらにゆったりとした足取りで歩いて来る怨霊を睨む。

「も、もしかして、このままだと挟み撃ちにされてしまうのでしょうか?」

「あの電話の主が言っていた通りなら、そうなるかも! ええい、リーシッ! シェルさんに伝えて、どうやら私たちはダンジョン深部手前のエリア境にいるようだ! 救出部隊を待っていられる状況でもない」

 ・・・リーシ?

 マジカルンナさんは誰と・・・。

「バース・パーソンやね」

 リザドラルさんが、私に教えてくれる。

「マジカルンナさんのバース・パーソンが『リーシ』って人なんやけど、今はバトルナビゲーションモードで繋がってるんだと思うんよ」

 あ、バース・パーソンの支援形態。

「どっすか? 外の方は・・・」

「うん? あぁ・・・朱雀先輩がダンジョンへの突入班を編成しているみたいだけど・・・入ったとしても、ここまで来れるか?って話しになってるっぽい」

 以前の、東京メトロ・ダンジョンも攻略できなかったわけですものね。

「それよりも、魚人トリオとラナタスカの四名はダンジョン内にいるみたいだ。現在地は不明だけど、とにかく深部を目指して移動するってさ」

 あの四人も、無事だったんだ。

 バース・パーソンの繋がりで情報共有が出来ているのかな?

「ただ、私たちよりも外側のエリアに居るみたいだから、合流できるまで・・・いや、あの子たちを悠長に待っていられそうにもないか?」

 街に見える人影の数は、どんどんと増えている。

 このままここに留まっていれば、次は商店街からも怨霊が出てきて挟み撃ちにされるのは容易に想像できた。

「商店街へ、入るんすか?」

「そうするしかないっしょ・・・」



[ああ、ひかりだ]

[いのちのひかり・・・]

[ひかりはおなご・・・あぁ・・・みこさまだぁ]



 怨霊たちの顔が、不気味なほどに円弧を描き喜びを見せてくる。

 先の憑依霊たちと違って、私が女であると認識していることから、光っていても姿が見えているということなのだろうか?

 それに、私の事を巫女って・・・。

 さっきの・・・リザドラルさんの友達も、巫女って・・・。

「ええい、仕方ないッ!! 二人とも、商店街へ突入するよッ!」

 マジカルンナさんが声を張り上げたことで、私は意識を切り替える。

 今、考えるべきことは迫ってくる怨霊から、いかに逃げるか?ということのはずだ。

「リザドラルんのお友達が言っていたように、商店街に入って身を隠しながら進みつつ、魚人トリオとラナタスカが追い付いて来るのを期待するしかなーいッ!」

 そうだ。

 あの四人がダンジョン内に居るのであれば、合流できる可能性だってある。

 戦力が増えれば、それだけ余裕もできるはずだから、今は頑張って怨霊から逃れなくてはいけない。

「よっし! 対霊麻痺毒セット! 武器生成・・・麻痺毒双剣、イモリヤモリ!」

 イモリヤモリ!?

 刃が大きく反った剣を二本、麻痺毒で生成されたそれは独特の色をしているけれど・・・見ただけで危険な武器なのは分かる。

「・・・リザドラルさんて、実は強いですよね?」

「これでも地方調査員なんよ? 対人戦闘訓練は受けてるから、そのための麻痺毒活用法も研究しとるんよー」

「しかし、麻痺毒を使うので体内水分を浪費するというデメリットがあるんだよねー?」

「仰る通りでございますん」

 あ、よく見たらちょっとやつれている・・・けれど、それもマジカルンナさんから経口補水液を貰って回復した。

「よし、リザドラルは先頭、私は後ろで、ナイトメアちゃんが真ん中。で、突入するよ!」

「はい!」

「おっけすー」

 

「よぉーし! 突入開始! 突っ込めーッ!」


 マジカルンナさんの号令と共に、リザドラルさんが先頭で駆け出した。

 私は、その背を追いかけて走り出し、マジカルンナさんがフレアスカートをスラスターのようにして飛び上がると、周囲を見回しつつ私の後ろに付く。

 そうして、商店街の門を潜った。

 潜った瞬間に、まるで水の中へと飛び込んだような感覚がすると・・・視界に広がるのはホラー感がある街並み・・・ではなく、赤黒に染まっているだけの商店街があった。


[はぁ~い。いらっしゃあーい]

[ころぉっけぇ~。あげぇたてぇ~]

[よってらっしゃい。みてらっしゃあ~い]


 ・・・見回してみても、どこか不気味でありながらも活気を感じる光景が広がっている。

 しかし、商店街を歩いているのは、土気色の半透明な人間・・・いや、人型の幽霊? 先ほどのエリア境となる路上に出て来た人影とは、また違う感じだけれど。

 

[ひかりだ]


 その一言で、活気が静まり返り・・・数多の視線が私に向けられるのを理解した。


[いのちのひかりだ]

[なつかしい。だけど、はじめてみる。ひかり]

[おなごだ]

[みろ。いのちのひかりは、おなごだぞ]

[おお・・・おおぉ~]

[みこさまだ。うれしいなぁ]

[みこさまだ。こううんだぁ]


[[[これで、からだがえられるぅ]]]

[[[これで、うまれることができるぅ]]]



[[[[[[てんせいできる]]]]]]



 怨霊たちの声が重なった瞬間、商店街を歩いていた全員が荷物などを投げ捨てて、私を目掛けて殺到する。

「か、隠れるとこはッ!?」

 リザドラルさんが左右を見回して大焦りしているけれど、隠れるにしても、この数に見られている以上は隠れられない。

 なら、まずは殺到する怨霊たちを一掃するしかない。

「夢幻一刀流・抜刀術! おやすみッ!!」

 抜刀を利用して、斬りかかる技。これを、一番最初に怪獣怪異へと放った時のような規模で放つ。

 この一撃で、殺到する怨霊を消し飛ばす。

 そんな思い込めた一撃は、飛ぶ斬撃となって殺到する怨霊たちを切り裂いて行った。

「おーッ! すっげ!」

「やるーッ! これで道が開けたーッ!!」

 リザドラルさんとマジカルンナさんが褒めてくれる。

 これで怨霊を一掃できた・・・そう思ったのも刹那の間でしかない。


 私が放った飛ぶ斬撃で切り裂かれた怨霊は、しかし、倒れることなく切断面同士をつなぎ合わせて走り続ける。止まらない。


「うそやん!?」

「まじーッ!!」

 リザドラルさんとマジカルンナさんで似たような反応を見せると、マジカルンナさんが前に出て魔法のステッキを突き出した。

「マジカな。マジカよ。マジカルだもん。穿つは進路の障害物! マジカルンナ・バスターッ!!」

 魔法のステッキから、商店街の道を埋め尽くすような極太のビーム弾となって発射され、進路上の怨霊たちを一掃・・・いや、怨霊は消滅などしていない。

 ビーム弾で押し込まれているだけで、どんどんと重なり合っている。

「え・・・」

 マジカルンナさんが目を剥いて硬直すると・・・ビーム弾に押し込まれた怨霊たちが合体を始めて、その姿が巨大化すると・・・ビーム弾を抱きしめて・・・。

「潰されたーッ!?」

 巨大化した合体怨霊により、大きなビーム弾は潰され、弾けて散り消える。

 そして、商店街の店や横道から怨霊が出てくると・・・不気味なほどに綺麗な円弧を口に描いて、こちらへ向けて駆け出した。

「増えてるしーッ!!」

 私やリザドラルさんが悲鳴を上げるよりも早く、マジカルンナさんが悲鳴を上げるので・・・むしろ冷静になれる。

 もしかすると、私がパニックにならないようにしてくれているのかな?

「ん? あ、しもたーッ!」

 リザドラルさんの声を聞き、私がそちらに視線をやった時だった・・・視界の端で、人影が私に迫っているのを見る。

 商店街に入ってすぐ・・・その道を挟んだ左右にもお店が入る建物があるのを失念していた。

 私は、すでに抜刀術で抜き終えている刀を、迫ってくる人影に向けて横薙ぎに振るう。その一撃は、確かに人影を切断することに成功したが・・・。

「ダウンジャケット?」

 裂かれるダウンジャケットの後ろから、土気色をした透明の幽霊・・・怨霊が嬉しそうに笑いながら体当たりをしてくる。

 刀を振り抜いていたせいで、防御するタイミングを外してしまった。

 と、体当たりされてそのまま店へと押し込まれる私は、店の窓ガラスを破って店内へと転がり入る。

 床に散乱するガラス片だけど、マント越しなので怪我はせずに済んだ。

「この野郎が!」

 私を店内へと押し込んだ怨霊に、リザドラルさんが斬りかかり、麻痺毒剣が怨霊を切ると[しびびび]と言いながらその場に倒れ崩れる。

 麻痺毒は効くんだ・・・。

 マントに付いたガラス片を払い落としながら立ち上がる。

「伏せろ!」

「え?」

 リザドラルさんの声に反応が遅れた私へ、固い物が叩きつけられる。と、それは砕けて内容物をぶちまけつつ、私の頭を汚していく。


[いらっしゃいませ。おきゃくさま~ぁ]


 ここは、飲食店?

 私の頭・・・側面にぶつけられたものは、丼。

 そして、私の頭を汚す物は、丼に盛られていた食べ物で・・・薄くスライスされている肉。たまねき。しらたき。ツユ・・・・これ、牛丼!?

 牛丼をぶつけられた勢いで、壁にぶつかる私は・・・すぐに刀を振るって反撃に出る。

 しかし、怨霊はしゃがむことで店内のカウンター下へと身を隠し避けた。

「このッ!」

 なら、カウンターごと両断してやる!と、刀を構えて振り上げた時に、怨霊がカウンターから出てきて、抱えていた箱の蓋を開けつつ私に投げつける。


[べにショウガは、むりょうでごりよう、いただけまぁ~す]


 紅ショウガというには、あまりにも腐った色をしているものが私に掛けられて・・・それはすごい勢いで私の肌や服を焼き始める。

 あまりの熱さに、私は急いで紅ショウガを払い落すのだけど・・・。


[おかわりもどぉ~ぞぉ~]


 顔面に、腐った牛丼を叩きつけられて・・・私は店の壁に押し込まれる。

 この異臭に意識が飛びかけ、私は再び刀を振るうものの、あっさりと避けられてしまう。それでも、私から離すことができたので、顔に掛かった牛丼を払い落とす。

 肉も たまねぎ も しらたき さえ腐っているこの牛丼は、米から虫が湧いて私の肌を這い始めた。

「ひッ!」

 肌の上を歩く虫の感触が気持ち悪くて、とにかく払い落とさないと・・・と、意識を怨霊から外してしまった時・・・壁を突き破って伸び出てくるのは・・・さっきまでとはまた違う怨霊の腕だった。

「え?」

 それは鞭のようにしなって、私の身体を壁に巻き付けるように壁を壊しながら巻き付いて来る。と、思いっきり引っ張られて、そのまま壁を突き破って隣の店に。

「ぁがッ!」

 引っ張り込まれた際に、後頭部を床に打ち付けて痛みに声が出る。

 

[とう、ほうしょくてんへようこそぉ~]


 そんな声を掛けられると同時に私を拘束していた腕が解かれ、すぐさま身を起こして刀を構えるけれど、声を掛けて来た怨霊とは別の怨霊が私の背後に回り込んでいて・・・何かを首に掛ける。


[うつくしいおきゃくさまにはぁ~!]


 直後、首に掛けられた紐のような物で、私の首を絞め上げて来る。

 細い紐が、肌を裂いて肉に食い込む痛みと同時に、息ができないことに焦りを覚え・・・。


[あぁ~、やはり・・・わたしのみたてどおりです~。おにあいですよぉ~]


 もう一人の怨霊が私の両手首を掴んでから膝裏に足を絡めてくると、無理矢理に膝を折られて、膝立ちの姿勢を強制される。

 と、首を絞める紐がさらに食い込んで・・・。


「どぉっおッりゃあああああああ!!」


 リザドラルさんの声が響くと、私の両手首を掴んでいる怨霊へと麻痺毒剣で斬りかかると、コレに怯んだ怨霊を蹴飛ばして私から退かし、さらに背後で首を絞める紐を握っている怨霊も切り捨てた。

 これにより、首を絞めていた紐が緩んだことで、私はすぐに呼吸を再開する。

 けれど、勢い余って咳き込んだ。

「アホかッ! こんなネックレスが似合うわけないやろがいッ!!」

 ・・・こんなネックレス?

 言われて、未だに私の首に掛かったままのモノを確かめてみると・・・。

 真珠のネックレスのように、なにかの眼球が紐で連ねられているネックレスが首に掛かっており、私は悲鳴を上げながらコレを大急ぎで首から外して投げ捨てた。

 

 そこから、私は何が何だか分からなくなって、何をどうするのかも分からなくなって、視界に入ってくる何もかもが理解できなくなって――――――。


「ハイッ! 深呼吸して、リザドラルさんステキーッ!」

「なんでですかッ!?」

 我に返ると、私はリザドラルさんに抱きしめられていて・・・「なんでですかッ!?」と怒鳴りつつ、ボロボロと泣いていた。

「ごめんよー。すぐに助けられんでー」

「だーッ!! 多過ぎるぅーッ!!」

 リザドラルさんが何かを言っていると、マジカルンナさんが店の窓を突き破りながら入って来て、魔法のステッキからビームを外へ向けて連射した。

「リザドラルん! ナイトメアちゃんの様子はッ!?」

「とりあえず、落ち着きを取りもどした感じっすなー」

 そうだ。

 まだ戦闘中なのだから、泣いている場合じゃない。

「ごめんなさい! すぐに復帰します!!」

「無理しないのッ! どっちにしろ、外は無理過ぎーッ!!」

 見れば、大量の怨霊が店の外からこちらを覗き見しており、その後ろには・・・大きな足のようなものが?

「リザドラル! 麻痺毒をマシンガンみたいに撃ちまくれたりしないッ!?」

「無理っすよ! 唾を吐き捨てる感じならまだしもッ!!」

 ・・・つまり、麻痺毒を飛ばすことはできるけど、連射はできない。ということ?

「あいつら、どんな攻撃しても吹っ飛ぶとか転ぶとか文字通りで倒すくらいしかできないから、すぐに復帰してくるし・・・現状での有効打はリザドラルの麻痺毒だけなんだよーッ!」

「だからって、怨霊の数が多過ぎるんす!」

「爪がパカッと開いて『実はマシンガン・ハンドなんよッ!』て具合に連射してちょーだい!」

「んな無茶なッ!!」

 ・・・でも、できたら絶対強いと思います。



ずずずずずどぉんどどっどどどおごごごごががががががっがが



 突然の地響きと共に店が激しく揺れ始めると・・・破砕音へと音が変わっていき、天井が崩れ出す。

「あかん!」

「リザドラルさん! 退いてください!!」

 私が、リザドラルさんを押し退けるようにして立ち上がり、崩れて来る天井へ向けて技を放つ。

「夢幻一刀流・反撃術! 枕返しッ!!」

 満月のような弧を描くように振るう一撃によって、崩壊する天井を上階へと反射することに成功し、瓦礫の下敷きになることを防いだ。

「外に居る巨大怨霊が、建物を揺らしているんかッ!?」

「マズい! 怨霊たちが乗り込んでくる!」

 リザドラルさんの声と、マジカルンナさんの焦った様子に私も外を見ると・・・巨大な怨霊の顔が、群がる怨霊の後ろで店内を覗き見ており、私と目が合った。

 と、正面から巨大な手が店内へと突き入れられて―――ッ



―――――――――。



[いきてる?]

[しんじゃった?]


「―――ッ」

 ふと気づいた時、視界が真っ黒だった・・・。

 けれど、次の瞬間には全身を何十・・・何百という刃物や鉄槌で斬られ叩かれたような激痛と激痛が駆け巡り、私の脳を破壊する勢いで襲ってくる。

 と、真っ暗だった視界に景色が戻ってくる。

 すぐに状況を理解する事はできない・・・絶えず、全身を激痛が襲い、私の脳を痛めつけて来るせいで思考が乱れて定まらない。

 それでも、私が何か土気色の透明な物に包まれて、半ば潰されている状態であると理解するのに、時間がかかる。


[あー・・・まだいきてる]

[よかった。いきてる]

[のれん さまにおこられずにすむ]

[このままはこんでしまおう]


 幾重にも声が聞こえ、私は、巨大怨霊の手で握りつぶされているのだと理解した。私の回復した視界には、怨霊の顔が見えていて、私の安否を確認するために覗きこまれているのだと知る。

 そして、私が生きていることに安堵しつつも、少しばかり手に力が入ったことで、私の肉か骨がグチャリと音を鳴らして激痛がさっきよりも激しさを増して意識が―――。


[おい。しんちょうにはこべ~]


 ハッとなって意識が回復するモノの、怨霊が一歩動くごとに全身を巡る激痛で意識が飛び、激痛で意識が戻り、激痛で・・・と、意識が飛んで戻るを繰り返す。

 これに、私自身が何も考えられなくなって、鼻や口からドロッとした液体が溢れて止まらない。


どぉん


 巨大怨霊の頭が爆発すると、なにかがその上を通過して・・・。

「今ですッ! 魚人トリオ!!」


「「「連携必殺! フレッシュ・フィッシュ・ストリームッ!!」」」

 

 ラナタスカさんの声に続いて、魚人三銃士の『サバイタル』さん『カツオブシ』さん『マグロード』さんたちの声が重なる。

 サバイタルさんが背負っている二本の包丁を抜き放って、柄頭を叩き合わせるようにして連結する。

 連結した包丁を棒回しのように回転させ始めると、まるでヘリコプターのプロペラみたいに高速回転を始め、風切り音を響かせ始めた。

 その後ろにカツオブシさんが付くと、背負っている巨大な刀を鞘ごと取り出してサバイタルさんの足元に滑り込ませる。

 反っている鞘の上に乗るカツオブシさんが、サバイタルさんの両肩を掴んで・・・。

 すると、マグロードさんがカツオブシさんの後ろから両肩を掴み、三人はまるでムカデ競争のようなフォーメーションを組んで、突進しながら怨霊たちを払い除けていく。

 それはまるで、竜巻のような破壊力と、除雪車のような力強さで怨霊を跳ね除けていくのだけれど・・・やっぱり吹き飛ばすまでしかできていない。


 そんな三人の連携攻撃は、あっという間に巨大怨霊の足元まで移動すると・・・足から身体を這うようにして登ってくる。

 これに巨大怨霊も驚いた様子で払い除けようとするけれど、それよりも早く私を握っている手がある腕へと飛び移って、三人は連携を解いた。

「カツオブシ!」

「任せろ! 一刀両断ッ!! 頭落しッ!!」

 連携を解いた三人が、まずカツオブシさんが巨大な刀を鞘から引き抜いて、構えると・・・合体した巨大怨霊の手首へと豪快に振り下ろす。

「サバイタル!」

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃッ!!」

 私を握る手首が、その一撃で斬り落とされた時・・・サバイタルさんが二本の包丁を振るって、切り離された手をさらに切り刻んでいく。

「マグロード!」

「ぶっ飛べッ! ダンジョンの果てまで!!」

 右ストレートの拳を突き出すと、サバイタルさんに切り刻まれた怨霊の手が吹っ飛んで、確かに商店街の向こう側へと消えていく。

「ラナタスカ!」

「承りますッ!」

 そして、最後に飛行形態で私をキャッチしてくれるラナタ――――――ッ


――――――――――――。


「―――ッ!」

 再び私を襲う激痛で意識が覚醒すると、ラナタスカさんが私を覗き込んでおり・・・リザドラルさんが素早く私に麻痺毒を注射してくる。

「ふぅ・・・痛覚を麻痺させるだけの毒だから、安心してなー」

「は、がぼ・・ぉごっほ」

「吐血! ナイトメアさんが吐血しています!!」

「退いて退いて! すぐに診るから!!」

 痛みが消えて、意識はハッキリとしているけれど、身体がまったく動かない。

 声を出そうにも、喉の奥・・・胃よりもさらに下から血が逆流してきているようで・・・。

「これはダメだ・・・すぐにでもアリアネルさんに治療してもらわないと、マズいよ」

 マジカルンナさんが・・・血まみれの顔を真っ青にしながら言う。

 ・・・さっきの宝飾店で、建物の倒壊に巻き込まれたのかな? 服もボロボロだし、頭から出血したようで、血塗れになってる。

 見れば、リザドラルさんも鉄筋が体に刺さっているけれど、当人は平気な様子・・・。

「おい、リザドラル。鉄筋刺さりっぱなしだけど平気なのか?」

「あ。麻痺毒で痛覚を麻痺ってるんで・・・」

 ダメな奴ですね・・・。

「・・・うーん。とりあえず、私の方で応急手当をして・・・それから・・・」


「それはちょっと待って欲しいんよ」


 マジカルンナさんが魔法のステッキを握って、治療を始めようとした時・・・リザドラルさんが声を張り上げた。

 その後ろで、マグロードさんがリザドラルさんの身体に刺さっている鉄筋を引っこ抜いている。

「とりあえず、商店街で一番高いビルの上に避難したとは言っても、怨霊たちは登って来ているから悠長にしていられないと思うんすよ。っで、先輩方も合流してくれたわけですしー、ここは商店街を強行突破して次のエリアとの境へ行くのが良いと思うんす」

 なんだか、ちょっと凛々しく見えるリザドラルさん。

 そこにラナタスカさんが割って入る。

「次のエリア境に行って、敵が来ない保証もないでしょう? なら、ビルの上に居た方が登ってくる連中を叩き落として時間を稼げるはずですよッ」


≪いや、エリア境に行った方が良いな≫


 リザドラルさんのスマホから声が発せられたことで、皆が一様に驚いた。

 ・・・というか、リザドラルさん自身が驚いているのは、なぜ?

≪怨霊が、合体して巨大化する能力を持っているのであれば、ビルと同じ・・・もしくはビルよりも大きくなって砕けば、君らを払い除けつつ巫女を強奪できる。少なくとも、怨霊を消滅させたりできない君たちでは、不利なのは確かだろう≫

「おまえは誰だ!?」

≪おいリザドラル。俺の紹介はしていないのか?≫

「あ、いや・・・うん。そんな暇もなかったんよ」

≪・・・仕方ないな。そこは商店街。このダンジョン・フィールドの最深エリアの一つ前となる。つまり、次はダンジョンの大ボスがいるエリアだ。怨霊たちは恐れ多くて近づかないから、騙されたと思って飛び込んでみろ・・・以上だ。悩んでいる時間は、無いぞ?≫

 ッ・・・ツー。


「・・・確かに、悩んでいる場合じゃ無いようだね」


 マジカルンナさんが、ある方向を見ながら呟くと・・・今まさに、私たちが居る建物の下から巨大な怨霊の頭が飛び出して来た。


[み~こ~・・・わ~た~せ~]


「ラナタスカ! 何でもいいので怨霊を吹っ飛ばす攻撃で邪魔な連中を排除して!」

「はい!」

「魚人トリオ! 連携技でラナタスカの爆破から私らの通る道を確保だ!」

「「「了解!!」」」

「リザドラル! ナイトメアちゃんを担いで全力で走れ!!」

「うっす」

「私は殿だ! 追っ手くる怨霊を薙ぎ払う! 行くぞーッ!!」

「「「「「おーッ!!!!!」」」」」


「チェンジ、イデスバリー。ヴィークル!」

 一部を除き、ロボット系戦士には飛行用装備や走行用装備などもあったりするという。ラナタスカさんのヴィークルとは乗物を意味しているから、おそらくは道路などを走破する姿に変身するはず。

 その背に車のエンジンみたいな箱が接続されると、小さい推進器ノズルが複数火を噴いた。また、脚には可動式の推進装置が増設されることで、足が地面からわずかに浮いている。

 ホバー走行のように見えるけれど、この装備によってラナタスカさんが先陣を切るべく飛び出して、建物の屋上から飛び降りる。

「一気に蹴散らします! セットアップ! ガトリング・バズーカッ!」

 魚人三銃士がラナタスカさんに続いて飛び降り、リザドラルさんも私を抱き上げて四人を追うように建物から飛び降りる。

 と、ラナタスカさんの頭上に六つのバズーカ・・・の砲身が円状に並んで、分厚い丸型の鉄板で連結すると、背中の箱に新たな装置が連結して六連バズーカの砲身と接続する。

 それがラナタスカさんの前方を向いたところで、両肩にアームが伸びて自重を支えた。

 次の瞬間、六連バズーカの砲身が回転を始めると、轟音を挙げながら砲弾を連射し始める・・・と、ビルと周辺に群がっていた怨霊と、巨大化した怨霊の足元を爆破していく。


「よし、俺らも行くぞ!」

「「ああ!!」」

 魚人三銃士が、先に見せた連携技のフォーメーションを組んだ。

「「「フレッシュ・フィッシュ・ストリーム!!!」」」

 その技で、ラナタスカさんの爆撃を突っ切るということなのかな?

「さぁ! ここに我らの路を作るッ!! 拓け、マグロード・マイウェイ!!」

 えッ?

 三人のフォーメーション最後尾にいるマグロードさんの身体から青みを帯びた銀色の光が放出されると、フレッシュ・フィッシュ・ストリームが光を巻き込んで竜巻のように回転する光のトンネルを作っていく。

 それは、とても綺麗なトンネルで・・・光の向こうでは爆炎と爆音で怨霊たちが吹き飛んでいく光景が見えていた。


「そのまま進めぇーッ!!」


 マジカルンナさんの声が後ろから響くと共に、魔法のステッキから放たれるビームで薙ぎ払われる怨霊たち。

 ただ、これだけやっても怨霊を倒せない。

 怨霊たちは、どれだけ払い除けられようと、なんど吹っ飛ばされようと、すぐに立ち上がって追いかけて来る。

 巫女を渡せ。と・・・。

 

 ここは本当に、レベルが違う場所なのだと・・・改めて実感した。


 全員の息が絶え絶えとなるぐらいで、商店街の出口となるアーチを超える。

「抜けたッ!?」

「マジか!?」

「商店街を抜けた!!」

「オーッ! 」

「ふへぇー・・・助かったんかー?」

「はぁ・・・あんなに追いかけて来ていた怨霊が・・・」

 後ろを振り返れば、確かに怨霊の姿はないし・・・追いかけて来る様子もない。

 ただ、代わりと言わんばかりに・・・鳥居アーチに看板が掲げられている。



『またのお越しを~♡ 霊園地商店街より』



「だーれが来ますかッ!?」

「招待されたってごめんだ!」

「とっとと成仏しやがれ!」

「ふざけんなッ!!」

「お化け屋敷とか苦手なんよー」

「まぁ、絶対に再チャレンジとかしたくないよねー」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・私も、二度は嫌です。





次回は、妖怪。のカテゴリに分類されるボスモンスターが登場する予定です。

既存の妖怪ではありません。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ