02 『事情』と『状況』
こんにちは。こんばんは。
このお話は、前に投稿した『第二話』と『第三話』をまとめて、内容に多少の修正をしたものとなっております。
書いている時は気にならなかったのですが、読み返してみたら読みづらいとおもったので勝手ながら修正したしました。
前の方が良かったと思う方もいるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
「さて、まずは賢明な判断をしてくれたことに感謝の意を示そう。ありがとう。イデスバリー・ナイトメアさん。そして、ようこそ『秘密結社メシア日本・東京支社』へ。私たちは、新たなイデスバリーの戦士を心から歓迎しよう」
少しだけ手狭な室内は、窓ガラスの一つもなく・・・白いパネルが張り巡らされただけ。
そんな部屋には簡易机が置かれ、ノートパソコンが広げられて面接官も顔を真っ青にする偉い人が私と対面している。
その人物が、支社長のイデスバリー・フェニックスこと『紅葉朱雀』さん。変身時の姿は、まさに火の鳥を想起させる鳥と人間を人間ベースに融合したような姿になっていた人で、早朝の騒ぎに駆けつけて、私たちを助けてくれた人だ。
そう・・・あの騒動にて、燃え盛る炎の翼を広げながら降下してきた時、後続の戦士たちが続々と駆け付けて怪獣と人魂を一掃してくれた。
そして、私は取り囲まれて連行されることとなった。
そのやり取りで「君には選択肢がある」と言われて息を呑んで次の言葉を待ってい居れば・・・。
「一つ。我々に大人しく連行され―――」
「大人しく連行されます」
と、即答したのだけど・・・なぜか、その場の全員からガッカリされてしまった。
納得いかない。
まぁ、理由はどうあれ、連行されるに至っては武器を取り上げられ、隠し武器などの危険物を警戒するためにマントも脱がされ、女性戦闘員にボディチェックされてから、枷を手足に取り付けられて運ばれることとなった。
・・・男性からも女性からも熱の籠った視線を浴びて、顔が真っ赤だったのは言うまでもない。
そうして現在、私の後ろには雰囲気が似通っている男女が立っており、支社長さんの両隣には秘書と思われる人物も待機している。
「申し訳ないね。その枷はまだ外せない。現在、君の情報を収集して危険性の有無などを調べているところだ。それと、君の意思確認などもしてからじゃないと安全とは言えないからね。窮屈かとは思うが、今はまだ我慢して欲しい」
「はい。わかりました」
周囲に視線を走らせて、状況の確認をしていると・・・この部屋にはカメラがいくつも取り付けられているのが分かる。
あと、よく分からない機械もあって、それらが私に向いている事だけは分かる。おそらく、それらの機械が私の情報を収集するモノなのだとは思うけど。
「では、尋問を始めさせもらうよ。本来の尋問担当は、当方の調査員を徹底的に尋問中であるため、こちらに来れない事と、君の戦闘能力を加味して私、『紅葉朱雀』こと『イデスバリー・フェニックス』が担当する。この姿は変身を解いて素の状態であるが・・・君が暴れるようなら即座に変身できるので心配は無用だ」
私は頷き返すだけで、黙っておくことにした。
変身時の姿は鳥人。という感じで、歳の頃は20代という印象だったけれど、変身を解いた素の姿は40代の女性。レディーススーツを着こなしており、滲み出る圧からただモノじゃない事だけはすぐ分かる。
「ん? ああ、変身時と素の姿で年齢が違って見えるだろう? 変身時は、肉体が最も活動できる状態になるので、若返るんだ。これは仮に90歳になっても変わらない。イデスバリーの特性なので、ある程度の歳になると変身しっぱなしの人もいるほどだ」
「そ、そうなんですね・・・」
ちょっといい事を教えてもらって、嬉しくなった。
私も年を取ったら変身しっぱなしに・・・と考えて、この格好で生活するのもなんか嫌だなーって思い、ちょっと葛藤する。
「なにせ、私たちは死ぬまで怪異と戦わねばならないからね。変身時に戦える姿であれるのは、本当に助かるよ」
「・・・死ぬまで怪異と戦わないとならないんですか?」
「・・・うん。その辺りの説明も、順次やっていこう。君の事を教えて欲しい。まずは君の名前から」
「はい。イデスバリー・ナイトメアです・・・ん!?」
しまった! なぜか変身時の名前を名乗ってしまっている。聞きたいのは本名のはずなのに。
「うん。意識切り替えも正常動作中のようだ・・・では、変身していない素の君のお名前は?」
「はい。『夜乃雪乙』と言います」
・・・あれ? 変身時に本名を名乗ると、変身時と素の状態が統一されてしまうのではなかったっけ?
「うん。そう心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。変身時の名前を名付ける前に本名を名乗ると、変身時の名前としても登録されてしまうだけで、すでに変身時と本名で別の名を登録済みの君は、端から見られても同一人物だと認識されることはない。事情を知らないものには別人として認識されるので、大丈夫だよ」
少しだけ、ホッと息を吐く。
その後も、私のこれまでの経歴について問われ、素直に教えていく。
16歳までの人生を、教えてもいいかな?と思えるところだけ答えていく。
捨て子であったこと、養父に拾ってもらったこと、大事にそだててくれたこと・・・今日までの日常を振り返りながら、私は問われた事に答えていく。
「ふむ・・・さすが『リバースデイ』・・・記憶の構成も大きな破綻はなさそうだ・・・」
んん??
「一応の確認だが、君を引き取ってくれた養父というのは・・・あの石像・・・地蔵菩薩像で、いいんだね?」
「・・・そ、そうですね。声は確かに養父ですし・・・なぜか、養父であると認識していますから・・・」
言われてみれば、なんで石像を養父と認識しているのかが、私には分からない・・・。
「ふーむ。それ以外は確認しなくてもいいか・・・安納さん。これらの情報から、彼女の戸籍を調べて来てくれ」
「かしこまりました」
支社長さんの横に待機していた秘書の一人が、ノートパソコンから抜いたUSBを受け取って部屋を出て行く。
そして、パソコンに新しいUSBを差し込んで、話しは次へ移った。
「さて、ここからはこちらの話を君に教えよう」
とうとう私の疑問に答えてくれる番となった。
朝から怒涛の展開で一度は思考放棄までしてしまったけれど・・・ここに連れてこられるまでで多少の整理はできている。
どんとこい!
「まず最初に、この地球は異世界人からの侵略を受けようとしていたことから、話しは始まる」
・・・初めから突拍子の無い事を言われてしまって、私は眼を点にした。
そこからの話しはとても長いので、私なりにまとめてみると・・・。
①異世界人は『永遠の命を与える』と言っても過言ではない大発明を完成させ、ある程度まで生きると『転生』して命を永らえさせることに成功した。この技術を異世界語で『イデスバリー』と言うらしい。
②『転生』と言っても別の人間に生まれ変わるのではなく『人間の寿命を100年』と定めて、ある程度の高齢者になったら逆転させることで生命をリスタートさせるのだという。
例として『90歳男性を転生させて、10歳女性にする』という仕組みらしい。年齢を性別共に反転させて『100歳』になる前に『転生』することで、寿命での死者は激減したのだそう。
③そうして長生きする人が増えると、今度は長生きし過ぎて『退屈』になってしまったらしく・・・誰かが発案した『異世界へ転移して侵略しよう』というバカげた案に、なんと大多数が賛同して行動に移ったらしい。
④高度な文明であるために、地球なら笑い飛ばされるような事も『研究』『開発』と瞬く間に実現させて『異世界転移装置』は完成してしまい・・・あっという間に『実験』の段階まで進んだらしい。
⑤そうしていると『異世界侵略に反対する勢力』が現れて、武力衝突に発展。これに、異世界への転移装置を造っていた研究所も巻き込まれてしまう。
⑥その日、異世界へと通じる転移の穴を開く実験が行われた日に、研究所の研究者が開いたばかりの穴へと飛び込んで・・・その様子を見た侵略賛成派が『つづけー』と飛び込んで、反対派が『好きにさせるなー』と飛び込んで行って・・・行方不明に。
⑦そうして、異世界転移装置は故障して・・・。
・・・情報量!
どうしてこう、情報が多過ぎるのかな!!? まとめたつもりで、全然まとまったように感じません!
私が聞いた話を整理するのに苦悩していると、支社長は「うんうん。私も最初はそうだったなぁ~」という懐かしいものを見る目で私を見つめていた。
この時に、部屋の扉が開くと入室してくる人・・・人?
〔失礼するよ。朱雀〕
扉から現れたのは、ぬいぐるみ人形・・・としか言い表せない物が、フワフワと浮かびながら入ってくる。
と、その後ろから台車に乗せられたお養父さんの姿に顔がほころぶ。
「お養父さん!」
〔お? おお、無事か? なにかされてないか?〕
カラカラと私の横までお養父さんが運ばれてきて、運んでくれた人は支社長に会釈してから出て行く。
・・・とはいえ、こうして改めてお養父さんを見ると、どうして石像をお養父さんと認識しているのかが謎過ぎる。それも意識しなければ気にならなくなるのも不気味だ。
〔ありがとう。朱雀・・・あなたと、あなた方に最大の感謝を〕
「いえいえ、ということはあなたやお母さまの探し人だったのですね?」
〔ええ。まさか、こうして再開できたうえに話までできるとは、諦めていたから嬉しくてしかたないわ〕
「それは何よりです」
私がお養父さんとの再会を喜んでいるところで、支社長さんとぬいぐるみ人形が何かを話していた。
とりあえず、ここまでの話をお養父さんにも教えて、今度はぬいぐるみ人形さんが私たちに語る番となったようだ。
〔さて、ここからは私が説明をしましょう。そちらの次蔵さんにも、どうように説明をした方がよいので、こうして合流する事としました。はじめまして、イデスバリー・ナイトメア。私の名はシェル。すでに話は聞いているでしょうが、異世界人の一人よ〕
・・・なんとなく、そうなのだろうとは思ったけれど、やっぱりこの人は異世界人なんだ。
ぬいぐるみ人形の異世界人。
〔一つだけ注意点を言えば、このぬいぐるみ人形は私たちが地球にて活動するための『アバター』というものであり、本体はあなた達とそう見た目に差異はないだろう人間よ〕
そ、そうなんだ! 大丈夫。早とちりはしていない。うんうん。
〔では、細かい話は省いて、続きを話していきましょう〕
やっぱり語られる情報量は大変なモノとなったので、私は頑張って整理した。
①実験段階で異世界転移した異世界人たちは、地球に転移することに成功したものの、地球でいうところの『幽霊』となってしまった。というのも、異世界人と地球人では生物の創り?というのが違っているらしく、生身で転移すると肉体が正しく維持されずに『幽霊』へと変換されてしまうから。
②『幽霊』となって、地球人に認識されない彼らは、異世界で主流となっている『転生』の技術を使って、地球で自分たちを『転生』させた。結果、いわゆる『怪異』と呼ばれる存在になり、コレを現在の異世界人は『怪異転生』と呼んでいる。
③その一方で、異世界転移装置を完成させた異世界人は、まず先に飛び込んで行った者たちの捜索をするために、安全に転移できるか?などの実験を繰り返し・・・ダメそうなので、安全に転移できる道具を作った・・・それが地球で言うところの『アバター』という、見た目が『ぬいぐるみ人形』のモノとなる。
④アバターによる捜索を行っていると、同胞の反応とともに『怪異』に襲われて捜索隊のアバターが全滅。コレへの対処方法を用意することとなり、再び実験を繰り返す。ものの、武器や戦闘能力をアバターに持たせることが出来なかった。
⑤何度目かの捜索中に、地球人の中でも戦闘能力の高いモノを見つけ、その人物に異世界式『転生』を施す試みを行う。これが成功し、地球人の『転生』に成功する。
〔これが、現代に言われる『リバースデイ』の最初となります〕
・・・。
・・・・・・ん?
・・・・・・・・・んん??
「質問があります」
私が拘束されている手を小さく持ち上げながら言うと、シェルさんは嫌な顔せず頷き返して促してくれた。
「確か、異世界人の『転生』というのは、高齢者に行う事で、年齢と性別を逆転させる技術だという話しを支社長さんに聞いたのですが・・・」
〔ええ、その通りですよ。我々はそうして『転生』を繰り返すことで、永遠の命にも等しい時間を生き永らえているのです」
「あのトカゲ怪人さんが展開した結界の中を動けるのは『リバースデイ』を迎えた人だって、言っていたのですが・・・」
〔そうですね。『イデスバリーのエネルギー波』が、フィールドの力場から守ってくれるのです〕
「私は、その『リバースデイ』を迎えた人間・・・なのですよね?」
〔ええ。地球人の『イデスバリー』つまりは『変身』が可能という事は、あなたは間違いなく『リバースデイ』を迎えて『転生』した地球人ですね〕
「・・・つまり、高齢の男性だったということですか?」
〔そうなりますね。前世の歳が知りたいなら計算は簡単ですよ。100引くリバースデイした直後の年齢ですので〕
・・・え、ええ・・・えぇ・・・。
〔ふむ。朱雀の時も、こんな反応をしていましたね〕
「そりゃそうですよ。私だって受け入れがたいことでしたからね」
〔懐かしいですね。その後、あなたは随分と荒れましたもの〕
「そこは忘れて欲しいです」
〔ナイトメアさん。前世の記憶は無いのでしょう?〕
「・・・はい。そうです。私、前世の記憶とかありません!」
〔それが地球人に我々の『転生』を施した際の違いの一つでした。彼らは我々と違って『前世の記憶』だけが喪失してしまうのです。だというのに、『知識』や『経験』と言ったもの引き継がれているようで、自分が何をするべきなのか?は、特に問題なく判断できるようでした〕
「私も『リバースデイ』を迎えた日より以前の事は記憶には無い。けれど、自分のできること。知っている事などは忘れていなかったし、日常を過ごすことに支障など無かったからね。まぁ、話を聞いた後は、信じられなくて荒れたのも確かなんだけど・・・」
支社長の話しで、私はとりあえず気持ちを立て直す。
記憶がない以上、あくまでも前世の事だと割り切ることが大切なのだろう。
・・・でも、自分が高齢男性からの転生を果たしたのだとして・・・では、今の自分の記憶は? 今日まで生きて来たはずのそれは・・・。
〔話の続きをさせてもらいますが、地球人が前世の記憶を喪失する理由も判明しています。それが、地球人式イデスバリー・・・つまり『変身』に繋がっているからです〕
私たちの『変身』が、そこに繋がるの?
〔転生した地球人たちは、怪異と戦うための力を得る術として、前世の人生を『変身する力』に変換し、『イデスバリー』と唱える事で自身を戦士へと『変身』させる能力にしました。ゆえに、変身した姿は前世の人生が大きく関わってくるのです。いわば、『前世の集大成』が変身して得る力なのです〕
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「では、私のこの格好・・・衣装は、どういう感じなのでしょうか?」
〔変身後の姿や衣装などは、前世の『趣味』『嗜好』『性癖』が反映されます。残念ながら、その辺りの研究も終えており、実証されていますので・・・あなたの場合は、人間の姿を保っているのですから、とても運が良いと思いますよ?〕
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・そっかー。
〔変身後の姿は様々ですよ。彼女・・・朱雀とて火の鳥を象ったような鳥人間姿となりますし、もう人間とは言えないような怪物的姿になる者もいます。ですから、そんなに絶望した顔をしないで。人の姿である分、あなたは大変運が良いとも言えるのですからッ〕
「まぁ、セクシーな衣装を着せられたら、いったいどんな集大成なのか不安にはなるよね・・・」
〔朱雀!〕
「・・・・・・・・・・ぅぅぅぅぅ」
こうして、話しは一時中断となり・・・休憩時間となる。
・・・泣かずにはいられませんでした。
▽
▽
話しが一時中断された休憩中。
私の後ろに控えていた男女の一人で、女性が優しい笑みを浮かべながら紙コップに注がれたお茶を渡してくれた。
受け取った際に、手に伝わってくる温かさで落ち込んだ気持ちが少しだけ和らぐ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ツラいのはよく分かるモノ。私だって同じなのよ」
「同じ・・・ですか?」
割と前向きな雰囲気に見える女性であるけど・・・よく見ると頭には羊のように巻いた角が生えており、瞳もまた人間のそれとは異なるモノとなっているようだ。
そして、私の眼を覗き込むようにして囁く。
「綺麗な蒼銀の瞳ね・・・月明りに照らされた夜空のように、ふんわりとした温かい青みを帯びる夜闇色の髪の毛と衣装・・・そして、艶やかでありながらも儚げな色をした白雪のような肌・・・」
・・・え? なに? 私の頬に手を添えて来たと思えば、優しく撫で始める。
それは、人を慰める温もりではなく、芸術品を愛でるような艶めかしさがある。そして、私の唇に指を乗せて、形をなぞるように・・・。
嫌なはずなのに、私の眼はいつの間にか彼女の瞳から離せなくなっている。
「こら! それ以上はダメだぞ」
女性と似た容姿をする男性が、私の顔へ迫っているその頭の天辺をペシッと叩いて止めた。
「んー? なによ。この子信じらんないくらい完璧な造形しているのよ? 彫刻!って言われたらまさにその通りなこの造形美! それでいて愛でたくなる可憐さが備わっている・・・ちょっとキスくらいは良くない?」
き、キス!?
「ダメだろ。転生したとはいえ、前世の記憶がないのだから今の彼女は純真な女子だ。そういう事も初めてだろうから、不意打ちで奪うのは倫理に反する。俺は認めんぞ」
「・・・あんた、ホントにインキュバスなわけ?」
「俺だって未だに受け入れがたい事だが・・・インキュバスなんだよなぁ・・・なんでかね?」
・・・インキュバス?って確か、性に関する事柄では無類の強さを持つ悪魔・・・だったかな?
「そうだ。そこの二人・・・ちょうどいいので彼女に自己紹介をしてあげてくれ」
支社長の『紅葉朱雀』さんから指示を受け、二人は姿勢を正して私に改めて自己紹介を始めた。
まずは男性から名乗ってくれる。
「俺は『イデスバリー・インキュバス』こと『夢見ススグ』という。このスケベ妹の兄だ」
「私は『イデスバリー・サキュバス』こと『夢見サキ』っていうの。この変態兄貴の妹よ」
確か、日本では『夢魔』と表記されるはずだから・・・この二人は『夢魔兄妹』ということに!?
「さて、ナイトメアちゃん。私のこの衣装はどう見える?」
サキュバスさんが、そう声をかけてくるので・・・私はとりあえず上から下まで見た。
私の知識が確かなら、この衣装はマーメイドドレスというモノだったはず・・・ウエディングドレスなどで人気あるデザインだったかな?
上半身がハイネックで身体の線がよく分かるモノとなっており、下半身がゆったりとしたスカートで・・・まるで翼を巻いているような・・・。
「このスカートに見えるのは、翼なのよ」
バサッと開かれる翼の下は、素足。
見れば、競泳水着の女悪魔という恰好だった。
「妹はまだいい方だ」
そういうと、インキュバスさんもサキュバスさん同様に、腰に巻いた翼・・・その片方を開いて見せた。
よく見てみれば、上半身は裸にネクタイを巻いており、線は細いがしっかりと出来上がった筋肉をお持ちのようだ。
そして、片方だけ翼を開いて片側だけを露出している下半身だけど・・・サキュバスさんと同じで素足のようで、わずかに見える布地はパンツのみ。それも・・・あの小さくて薄い感じの生地は・・・ぶ、ブーメランパンツと言われるモノでは?
マジマジと凝視してしまったところで、サキュバスさんに肩を掴まれた。
「あら? やっぱりそういう所に興味が湧く年頃だったりする?」
「ち、違います!!」
思わず声を張り上げてしまったけれど、恥ずかしさに顔が真っ赤なのは自覚できた。
「うっふっふー。ま、こういうわけでね? 破廉恥だったり変態だったりする恰好をしているのは、あなただけじゃないのよ」
「しかも、俺たちはいわゆる『夢魔』だからな。先入観で『エロがお好きなんでしょ?』と初対面のヤツには当然のようにそういう店へ連れていかれたりする・・・」
そっか、シェルさんも言っていたけど、人間の姿というだけで本当に運がいいのかもしれない。
・・・あまりウジウジと引きずっていては、こうして元気づけようとしてくれる先輩方にも失礼になってしまうかも。
「大変よねぇ。私も当初は野郎どもに『そういうのが好きなんだろ?』って言われたもんよ。だから、全員ぶっ倒してやったわ」
ぶ、ぶっ倒すって・・・まさか・・・ベッドで!?
「私らの能力には、催眠術の類があってね。そういう連中にちょっとした洗脳効果のある催眠術を掛けて、仲間同士で『あぁ~ん』な事をするようにしてやったわッ。全員病院の肛門科治療コースってわけよ。あーっはっはっは! あ、私はもちろん逃げたわ。留まっていたら後が面倒だし」
・・・この人は怒らせないようにしよう。
「まぁ、そのせいで俺たちの出動が増えたわけだが・・・」
「あの時は悪かった・・・て何度も謝ってんでしょうが」
あ、ふーん。
そうか、このサキさんはお兄さんが大好きで、お兄さんも妹が大好きなんだ・・・ちょっと、健全とは言い難い雰囲気を出しているのが気になるけれども。
「そこの『夢魔兄妹』は、対人戦闘では無類の強さを誇る戦士でね。性的な攻撃手段が主であるが、それらを駆使して相手を無傷で制圧する能力に長けているんだ。今回は、君が暴れ出した時のために即時対応できるよう付けたんだよ」
支社長さんに説明を受けて、私は驚く。
なにやら私が相当に危険視されているように思えるからだ。そもそも、この尋問さえ私の戦闘能力を加味しての支社長みずから行っているというのだから・・・。
私、実は相当強い?ってこと?
困惑している。私の腕を突いたサキュバスさんが、耳元で囁いた。
「肩こりが酷いようなら私がマッサージしてあげるから、いつでも声をかけてね?」
「・・・あ、ありがとうございます」
とてもやさしい声音ではあったけれども・・・なにか別の目的が含まれていそうな雰囲気を感じて、素直にお礼を述べることができなかった。
〔さて、彼女も落ち着きを取り戻したようだし、話しの続きをしても大丈夫かしらね?〕
シェルさんの声に、私はお茶を一口含んで・・・頷き返した。
〔では、先の続きから・・・〕
①地球人の『転生』に成功したことで、同胞の捜索隊は『怪異』を倒す戦力として善性の地球人に協力をお願いして『転生』を行った。けれど、異世界式『転生』は地球人には強力過ぎたために人格まで逆転し『悪人』となってしまった。
②先の失敗から、今度は『悪人』を『転生』させてみるものの・・・『善人』が過ぎて自己犠牲主義者となってしまい、戦力にはならなかった。これにより『善性』と『悪性』のバランスが取れていて、戦闘能力の高い人間を探す方針で『転生』は行われるようになった。
③多くの失敗から学び、自分たちに協力してくれる地球人たちの生活を支援するため、後の『会社』へ繋がる組織を世界各地に準備し、『怪異』の処理を行うための準備が整った。これが現代の『秘密結社メシア』になっていくそうな。
④『怪異』討伐が本格的に始まり、順調に同胞の『処理』が進む中で・・・『怪異』にも変化が訪れる。討伐した怪異がまったく同じ姿形存在で『復活』してしまった。この原因は、明確には分っていないとのこと。
⑤復活した『怪異』は『学習』して『自己進化』をするようになり、元同胞たちの意思『異世界侵略』の目的を果たすべく『怪異』から『生物』への『転生』をするための計画を立て、行動するようになった。これを異世界人は『魔王転生計画』と呼称している。
〔・・・やはり、『魔王転生計画』の話をすると、みんな同じように気の抜けた顔をしますね?〕
「それはまぁ・・・地球ではなじみ深いお話ですからね・・・物語の定番ですし」
支社長の言葉には、私も同意してしまう。
どんなスゴイ事になるのかと思えば、『魔王』・・・話の途中から、有名なゲームの『世界の半分をお前にやる』と言っている魔王の姿が想像できていた。
・・・そしてこれは、おそらく前世の知識と思われる。今の私が、そういうゲームで遊んだ記憶はないので。
〔それならそれで構いませんが・・・あなた達、イデスバリーの戦士には他人事ではありませんし、特にイデスバリー・ナイトメア。あなたは対岸の火事では済まないことなのです〕
・・・え? えーっと、それはどういう。
私が戸惑っていると、シェルさんは話を続ける。
①この『魔王転生計画』というのは、イデスバリーの戦士に子供を産ませて、生まれた子供に『怪異』が憑依することで身体を乗っ取る。という方法らしい。
②手段として、まず『怪異』は一般人に憑依して『汚染』しておき、イデスバリーの戦士が寺、宿、酒場などに立ち寄ったところで『おもてなし』をして信用を得る。そして酒を飲ませて酔い潰したところで、襲うらしい。
③以上の方法で『魔王転生』に成功したのは、過去に四体ほど確認されており、これによって犠牲となったイデスバリーの戦士は、女性一人。男性三人。とのことで・・・。
「あの、度々申し訳ないのですが・・・男性三人というのは?」
どうして子供を産ませる。というのに男性三人が犠牲となるのか?
いや、それだけだったなら、疑問にならなかった。もっとも引っ掛かりとなったのは、魔王が過去に四体ほど確認されたという話し・・・その犠牲が女性一人と男性三人というならば?
〔酒に酔いつぶれて襲われて、怪異の転生先となる子供を産まされた男性の事です〕
???
〔怪異は、イデスバリーの戦士が男か女か判別できないので、『イデスバリー光』がより強い者を襲って、自分の転生先となる肉体を産ませるのですよ。差込口にできるモノは、男女共にあるわけですからね〕
???
??????
?????????
「あの、シェル? その話をするなら『イデスバリー光』の話をしないと、ちょっと理解するのは難しいと思いますよ?」
〔ああ、そうでしたね。では、なぜ怪異はイデスバリーの戦士の性別を判別できないのか?について補足説明をしましょう〕
支社長の言葉もあって、話しは少し横道へ。
①『イデスバリー光』というのは『イデスバリーのエネルギー波』というのを指すものらしく、それがどういうモノなのかは、地球人が理解するには文明レベルが低すぎるので、説明されなかった。ただただ『強力なエネルギー』だと思ってもらえばいいらしい。
②この『イデスバリー光』は『怪異』のみが感知できる特殊な体質状態であるらしく、魔王転生に成功した一人がペラペラと語ったことで判明したそうで・・・語られなかったら今も気づくことはなかったらしい。
③そして、これが地球で言うところの『誘蛾灯』のような効果があるらしく・・・イデスバリーの戦士に怪異が寄ってくる原因となっているモノなのだそう。これが、支社長の言っていた『死ぬまで怪異と戦う』理由となるらしい。歳なので引退。とはできず、身を守らなければ『魔王転生』の道具にされてしまうため、戦うしかない。
④こういった経緯で明らかになった問題を解消するべく『転生』の技術は再研究されることとなり『改良』型の開発が幾度も行われて・・・現代では『イデスバリー光』を抑制することに成功したそう。
⑤こうして『怪異』は抑制された『イデスバリー光』によってイデスバリーの戦士を見失うようになり、昨今では怪異による事件も激減してきて・・・時間経過で復活した怪異を倒して行けばいいだけのお仕事になりつつあった。
⑥そんな中で、つい昨日の・・・
「―――昨日の事だ。ここ、東京支社だけに留まらず、世界中に点在している秘密結社メシアの支社が、日本にて計測装置がエラーを起こすほどの『リバースデイ』が観測された」
・・・それって。
硬直した私は、冷や汗をドッと流し始めながら、支社長の視線を受け止める。
「君の『リバースデイ』だ。イデスバリー・ナイトメア」
〔そう、我々がこの世界で同胞の捜索を行った当初に使われていた『イデスバリー』により、あなたは現行最新型を遥かに凌ぐ『イデスバリー光』を放っている状態になっているのです〕
・・・そ、そんな事を言われても・・・私だって『リバースデイ』した犯人は知らないわけで。
朝、目が覚めたら・・・。
〔まさか、地球人にイデスバリーを施したら、こんなことになるとはな・・・〕
「・・・お養父さん?」
そうして、お養父さんは語る。
①異世界転移装置が行われていた研究所の別部署で、別の研究をしていた養父は、武力衝突した二勢力から協力を求められていた。コレを拒否して、実験で開いた転移の穴へと飛び込んだらしく。一番最初に飛び込んだ人物こそが養父だった。
②飛び込んだ先は、地球でも結構現代に近い時代で・・・都市開発で工事が盛んに行われていた時代らしい。その工事現場に幽霊となって降り立った養父は、転がっていた石像・・・地蔵菩薩像の中に自身を入れて、霊魂が地球に適応できるまで保存することにして眠りについたらしい。
③シェルさんが言うには、実験段階の転移穴は転移先の時間軸が安定しておらず、神話よりも前の時代に転移した者もいれば、遥か未来に転移したものも居る可能性があり、未だに見つかっていない同胞は多いのだそう。
④話を養父にもどして・・・時折、眠りが浅くなると外の情報が入ってくるようになり、どこかへ土砂と共に捨てられ、誰かに拾われ、綺麗に掃除され、その家に設置され、お供え物などを度々差し入れされてきたらしい。
④胸を抑えて庭で倒れている人物の声を聞いて、覚醒した養父は・・・死なせてはならない。という気持ちで異世界式『転生』を施してくれた。その結果が私の『リバースデイ』となった。
・・・私は、石像な養父の手を取って、精一杯の笑顔でお礼を述べる。
「助けてくれて、ありがとう」
〔・・・ああ、間に合ってよかった。そう思っているが、今朝の「おとうさん」には驚いた。前世の記憶が無くなるとは思ってもいなかったからな。そして、今のこの状況だ・・・〕
落ち込んでしまう養父に、シェルさんは告げる。
〔確かに、とても大変こととなりましたが・・・今は彼女の『イデスバリー光』も落ち着いています。最初期型と言っても、世界中に光が届くわけではありません。効果範囲は東京都全域ぐらいですから〕
・・・十分に広くないですか?
「しかし、リバースデイのエネルギーが世界中に届いてしまったことで、今日まで沈静化していた『怪異』が再び活動を再開した事も事実・・・いずれは日本へと・・・世界中の怪異が辿り着くことだろう」
・・・そ、そんなことになっているんですか。
〔と、こういう事なので・・・今、ここでイデスバリー・ナイトメアに自覚して欲しい事は、最初期型イデスバリーによる転生によって、あなたは現在『超強力な誘蛾灯』みたいになってしまっているということです。先にも話した通り、怪異はあなたを求めてどんどん誘き寄せられますし、何よりもあなたは女性です。日常生活を送るにも周囲の警戒を怠ってはならないのです。敵がどんな方法で襲ってくるのか・・・現代では手段が増え過ぎて、その予測は難しいのですよ〕
・・・あ、私にとって対岸の火事ではない。というのは、私が現代でただ一人の最初期型イデスバリーの戦士で、今のイデスバリー光が抑制された他の人とは光量が段違いな状態だから。
そして、魔王転生には男女問わずイデスバリー光が強い者が狙われて、今の私が真っ先に狙われるということに。
・・・。
・・・・・・悪夢かな?
次回は、活性化する怪異。を予定しています。
ちゃんとまとまっていたでしょうか? 二度手間になった方には大変申し訳ありません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。