18 不穏が淀み始め・・・る?
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。
あと、ご容赦ください。
今回は、敵側の次なる行動のお話になります。
最後まで、お楽しみただけたら幸いです。
■ 時は遡ること、14話ごろ
●-東京。某所-●
東京にある駅から外へと出て、肩掛けの旅行鞄とキャリーケースを引きながら、一人の青年が高層ビルを見上げながら、ふと笑みを浮かべた。
「懐かしい東京の風景・・・北関東の山々が目に優しい景色だったけれども、暑さはどこも大差ないことに妙な安心感を覚えてしまうのは、どことなく気が滅入っているからだろうか?」
太陽の光に眩しさを覚えるも・・・端から見れば目を閉じているのだから、眩しそうにするのはオカシイのでは?と思えるほどに糸目の青年は、首に掛けてあるタオルで滲む汗を拭う。
〔マツド。近年の日本は夏の時期が近づくにつれて気温上昇が著しいようですから、それも仕方ない事でしょう。それよりも、新幹線の冷房で身体が冷えてはいませんか?〕
とある大学の院生である彼は、しかし異世界人の怪異転生によって生まれた憑依霊に憑依され、その身体を乗っ取られている。
マツドと呼ばれた彼は、薄ら笑いを浮かべながらも・・・素早くスマホを取り出して耳に当てる。だって、通話しているように見せないと独り言でイマジナリー相手と会話することになるからだ。
これでも現代は良い方で、昔は携帯電話など無かったために端からは独り言をずっと呟き続けている人物として距離を置かれていたから。
「心配をありがとう、ジャム。体が不調になるような冷え方はしていませんから、大丈夫ですよ。それよりも、ヨーロッパでの活動からほぼ休みなく日本へ帰国して、まさかの北関東です。さすがの僕も疲れが出たということでしょう」
〔何を言いますか。体力的にキツイからと大学教授のご老体から学生へと憑依先を変更したのでしょうに。まだ教授だった時の感覚を引きずっているのですか?〕
「・・・そういうことになるのでしょうね」
マツドは、ジャムの指摘通りで以前の憑依先だった大学教授で過ごしていた感覚がまだ残っていることは確かだった。
考古学者だった大学教授を師事している院生の身体に憑依先を変えて、半年ほどなれど・・・老体よりも遥かに動ける若者の身体は素晴らしい!と、楽しんでいたが・・・
〔それよりも! 彼女の実家にて収集した情報から、やはり私の推測は正しいと確信を持てましたよ!〕
「夜乃雪乙さんですか?」
〔そうです! やはり、従来のイデスバリーとは異なるリバースデイを迎えたことは間違いないですよ!〕
マツドは、短くため息を吐く。
憑依する身体を変え、ジャムと共にヨーロッパへと旅立ったのが半年前。神々の伝説が多く残っている地で、現地の怪異たちと交流しつつ古い時代の遺跡などで異世界人が廃棄した遺物の調査をして過ごしていた頃。
世界を染め尽くすほどにの巨大なイデスバリーが発生した。
それは、過去に一度として観測されたことも、目撃されたことも無い『リバースデイ』であり、彼らが予定を早めて日本へと帰国する理由ともなった。
とはいえ、即日に飛行機のチケットを取れなかったので、数日ほど待つことにはなったが・・・。
帰国する道中で驚いたことは、活動を休止して眠っていた怪異たちが続々と目覚めたことで、ヨーロッパの彼方此方でリバーシブル・フィールドが乱立したことだ。
イデスバリー戦士たちが大混乱しながらも処理に奔走している様子を目撃したが、見つからないように一般人のフリをするのが大変だった。
そうして、日本へと飛行機に乗っていれば・・・飛行型の怪獣怪異が旅客機と編隊を組んでいるかのように飛んでいたりして、いつリバーシブル・フィールドが発生してしまうか心配で寝付けなかったり。
日本が近づくにつれて、目頭が熱くなる懐かしい『光』に正気を失いそうになったり。
マツドは、振り返ってみれば大変だったと・・・深いため息を吐いた。
〔・・・どうしましたか? 私の話しは退屈でしたか?〕
「いいえ。かの『リバースデイ』から今日まで、大変だったなー。と思い出してしまっただけですよ」
〔あー。帰国したらドタマくんが秘密結社メシア日本・東京支社を襲撃していたりしていましたからね。参加し損ねたのは残念無念また来週・・・と、これは古い表現でしたか?〕
確かに、現代では聞かない言葉だとは思う。
「僕としては、襲撃後にドタマたちと合流するのかと思っていたら、北関東へ行こう。と言われたのが一番驚きましたよ」
〔あぁー・・・そうでしたね。でも、それは仕方ありません。我らの同志より届いた情報より、件の『転生者』は北関東の田舎町に実家があるという事を教えてもらったので、まずは確かめに行かねば無作法というモノです〕
ジャムの言う同志。
彼らは秘密結社メシアに複数入り込んでいる・・・と言うわけでは無く、地球にて行方不明となっている同胞の捜索、ならびに地球調査隊に参加しているメンバーと・・・現代でのバース・パーソンとして一般参加している者たちに紛れ込んでいる者たちである。
「そのために、住居侵入・・・その上、秘密結社の工作員?と思われる職員とバース・パーソンらとの紙一重なすれ違いには、この心臓が破裂してしまうかと心配になりました」
〔アレには私も驚きました。同志からは何の連絡もなかったので・・・〕
同志から得た『夜乃雪乙』に関する情報から、彼女の実家へと直接乗り込んだマツド。
空き巣をするつもりなど無かったものの、ジャムの熱意に否とも言えずに一軒家へと侵入をし、内部を物色。
ジャムが興奮気味に室内を散らかすので、後ろから元通りに片付ける役目に徹した。
そんな途中で、まさかの事態・・・それが、バース・パーソンと秘密結社職員の帰宅?である。見つからないように隠れるのが大変だった。
危機を乗り越え、ジャムはより慎重に・・・そして徹底的に家中を物色することで情報を収集し、そうして誰にも気づかれないように慎重に慎重を重ねて家を後にした。
こうして、無事に新幹線へと乗り込んだ頃には・・・ジャムはずっと無言となり、静かだったのである。すべては収集した情報の解析をしていたのだろう。
〔しかし、得られた情報は素晴らしいものです! 私は確信しましたよッ! 彼女こそ、『夜乃雪乙』こそ、『イデスバリー・ナイトメア』こそが、私たちの求める『魔王』の母体に相応しいと!〕
だが、マツドは素直に喜べない。
彼女の実家を調べたものの、そこは父と娘の二人暮らしな雰囲気しか感じ取れなかったからだ。
「僕には、父と娘の二人暮らしをしているだけの・・・特筆する様子も無い家庭の様子しか感じられませんでしたが?」
〔それこそが異常なのです〕
異常ですか・・・。
〔いいですか? マツド・・・彼女はイデスバリーによってリバースデイを迎えた転生者。あの帰宅して来たバース・パーソンを見た時は驚いたでしょう?〕
「・・・そうですね。地蔵菩薩像が『ただいまー』と、自然な様子で帰宅の挨拶をしていましたからね」
いつもの癖で言ってしまった。という様子だったのを覚えている。
〔その通りです。つまり、あのバース・パーソンと彼女の二人暮らし。という生活環境に世界の在り方が書き換えられたということです。これは、初期から今現在までのイデスバリーでは一度として観測されたことのない超常現象なのですよ!〕
通常のイデスバリーで変更できるのは、本人の記憶と周辺住民の記憶くらいで・・・現代の戸籍や生活環境などが変化することはない。
転生して女性になったとしても日用品が女性用の物に置き換わることはないのである。
だというのに、夜乃雪乙の生活環境は父と娘の二人分となっていた。それは、従来では確認されたことのない異常事態であるのだ。と、ジャムは言う。
〔このことからも、彼女は従来のイデスバリー戦士とは一線を画す存在であり、今日まで大人しくなっていた怪異たちが一斉に活発化したことからも、間違いなく『魔王』の母体に最適な存在であると確信したのですよ!〕
強引だが、気持ちは分からなくもない。
ジャムとの付き合いが数年と言う短い期間ではなく、数百年に及ぶものであるからこそ、マツドは良く知っているのである。
異世界人による地球侵略は、今も虎視眈々と動き続けていることを。
とはいえ、これ以上の興奮は抑えてもらわないと困るので、肩掛け旅行鞄を地べたに置いて・・・荷物を確認するような動作で鞄を開く。
「ジャム。声が漏れていますので・・・どうかスマホで通話しているぐらいに納まるよう気を付けてください」
〔これは失礼・・・ついつい声が大きくなってしまいましたね〕
キラッと光るのは、目である。
旅行鞄の中に入っているそれは、大昔に異世界人が使用していたアバターの残骸であり、辛うじて再起動した頭部である。
その目が、マツドに焦点を合わせてキラッと光ったのだ。
縄文時代の遺跡より発掘した日のことを思い出すマツドは、ずいぶんと長い付き合いになっていることに苦笑する。
遺跡の調査と発掘は、マツド個人の趣味。
人間の身体に憑依できるようになったころから、人類の歴史には強い関心があった。そこから今でいう所の考古学者として日本を旅していた事もある。
当時は、ほとんどの人間が興味を示さないものでもあったため、今よりも自由に出入りが出来た。
そんな旅の途中で発掘した土人形・・・現代で言う所の遮光器土偶っぽい・・・の頭部が、偶然にも再起動したことで『ジャム』と繋がった。
「思えば、こうして共に活動するようになって数百年。着実に『魔王』の研究が前進しているのは、良いことですね」
〔ええ。マツドとの出会いこそが、我ら地球侵略賛成派の転機でもありますからね。おかげさまで机上の空論だった『魔王』を四度も誕生させることに成功したわけですから〕
「しかし、結局は不完全だったわけですから、まだ成功したとも言えないでしょう?」
〔それは見方の問題でしょう。少なくとも、世界中のイデスバリー戦士を招集しなければ倒せなかった実績はあるのです。倒されてしまったのは残念ですが、間違いなく『魔王』は誕生したのですよ〕
ゆえにこそ、次なる『魔王』が地球を侵略する旗頭となるように。と、より強力な魔王を誕生させる研究を続けているわけで・・・。
その次なる『魔王』の誕生に『夜乃雪乙』が最適である。と、確信しているのがジャムだ。
「本当に、彼女を母体とすれば・・・地球侵略を可能とする『魔王』は誕生するのでしょうか?」
〔できる。という確信はありますが・・・まずはニャラン達と合流しましょう。彼女らは、イデスバリー・ナイトメアさんと接触しているわけですから、色々と聞きたいことがありますよ〕
マツドは呆れた様子で短いため息を吐くと、旅行鞄を閉じて再び担ぎ直す。
そうして、まずはニャラン達と合流するために移動を再開する。
怪異転生する前は女性だったと、強く覚えているニャランと同様に、マツドにも憶えている事が一つだけある。
「異世界侵略を果たすこと・・・」
それが、マツドが覚えている絶対の『使命』である。
▲
▲ ニャラン宅へ
▲
「ひ、ひさしぶりね・・・マツド」
「再会早々に嫌そうな顔を引き攣らせてまで笑顔にならなくていいよ」
ニャランにとって、あまりにも予想外な来客だったがために取り繕うことができなかった。と、いうよりも・・・マツドの考え方はニャランには受け入れがたいものが多い。
特に、この世界を征服しようという考えだ。
過去に『魔王』の誕生を実行した男でもあり、実験中はとても楽しそうにしいている姿が恐怖を煽るぐらいには苦手である。
まぁ、一番楽しんでいたのはマツドの相方であるヤツの方だが・・・。
「マツド。久しぶりであるな・・・前に会った時は大学教授だったと記憶しているが?」
「その通りですよ、ワンゴ。ヨーロッパに飛ぶ前に生徒の身体へ憑依し直したのです。若い身体は素晴らしいですね・・・遺跡調査がとても捗ります」
ニコニコと笑っている様子に、ワンゴも「ふ」という笑みを浮かべて頷き返す。
「で? 何しに帰って来たわけ?」
聞かなくとも分かっている事であるが、勘違いだったら困るので確認をすることにした。
「あ、そうだね。お土産もあるから受け取って欲しい。ヨーロッパの魔除けに使われる人形と、那須塩原の牧場パークで購入したバームクーヘンだ」
「なんで!?」
怪異たる自分たちに魔除けの人形を土産にするのもどうかと思うが、ヨーロッパ帰りのはずなのに那須塩原の牧場パークというのが一番理解不能だった。
っと、マツドが肩掛け旅行鞄を開くと、土偶の頭がフワフワと出て来る。
〔おひさしぶりですぅ~!! ニャランさん!! 聞きましたよ聞きましたぁあ~~ッ!! 同志からききましったッ!! あなたが夢毒を打ち込んだと聞きました! どうでしたか!? 彼女の精神を上手い具合に汚染して、我々に協力的な思考誘導を成功されましたか!!?〕
ジャムが興奮気味に話し始める横で、お土産品をテーブルに並べるマツドである。
「・・・いいえ、失敗したけれども?」
バームクーヘンが出てきて「本当に那須塩原に行っていたのか」と、ニャランは困惑しつつジャムへ返答する。
〔存じております!! とても惜しかったですねぇ・・・同志からの情報によれば、結構いい線行っていたようですよ? 実に残念な結果となりましたねッ!!〕
知っているなら聞くなよ。と、言ってしまいそうになるのを・・・グッと堪える。
その様子にハラハラとしつつ、傍観しているわけには行かないと判断したマツドが割って入る事にした。
「ジャム。その話は僕も聞かされていませんよ!? まずはあなたが知っている情報を僕らに開示してください。ただでさえ、秘密結社メシア内部の情報は異世界人であるジャム頼みなのですから」
〔そうでしたね。私としたことが・・・悪い癖です。では、教えて差し上げましょう!〕
マツド、ニャラン、ワンゴはそれぞれに同じことを思った「あ、これは長くなるヤツだー」と。
〔先日、我らの世界にて正式な発表がありました! 秘密結社メシア日本・東京支社にて新キャラクター参戦!とッ!! 少し前から、バース・パーソンとして参加している東京支社の面々が新キャラキタコレ!と興奮した様子で情報が流れていたので、注目されていたわけですが!! ようやくと情報が公開されたのです! それが久しぶりの人間型女性戦士ということで! もう注目度はうなぎ登りの鯉のぼり! まだ人物像が明確ではありませんが、見た目だけならエロ可愛い!で評判も上々なのですよ!〕
・・・なんだかんだで、ジャムが一番楽しんでいるのが伝わってくる。
〔グッズ展開などもすでに動きがあるようです! なんでも尋問中フィギュアとかいうモノがあって、すでにフィギュアが試作されているとか! 予約開始日はいつでしょうか・・・むぅ・・・私も久しぶりにバース・パーソンとして復帰するべきか悩みますねぇ!!〕
マツドは思う。
ここまでの道中で語っていた科学者的側面が、いわゆる『オタク』の側面になっていることにため息が出る。
「あー。ジャム? そういう情報は特にいらないのですが?」
〔そうでしたか? いや、失礼。地球侵略計画に関する話をしても、マツド以外はどうでもよいのでしょう?〕
ジャムの言葉に、ニャランとワンゴは応じた。
「地球侵略に興味はないし『魔王』にも関心は無いけれど・・・人間への回帰は、私たちの目標だからね」
「さよう。興味も関心も無いが、関わっている部分がある以上は無関心でいられないのだ」
〔なるほど。では、真面目な話をしましょう〕
空気は一変する。
〔まず、イデスバリー・ナイトメア。こと『夜乃雪乙』は従来の戦士たちとは一線を画す『再誕者』であることを確信していますッ!!っが!! 実際のところは情報不足でなんにも分かっていない状態なのです・・・そっちは秘密結社側で情報が抑えられているようで、バース・パーソンとして参加している同志では知る立場にないのですよ! 嘆かわしい!! 悔しい! あいつらは卑怯者ですよ!! 異世界侵略賛成派には重要情報をこれっぽっちも開示しようとしないんですから!! 鬼! 悪魔! オタンコナスーッ!!〕
ジャムは、怒り心頭と言う様子で興奮状態にあるが・・・これはもう癇癪を起しているとも言える・・・かな?
「えーっと? つまりはどういう事なわけ?」
「なにも分かっていない。ということなんだろう?」
ニャランとワンゴは、ジャムの興奮した説明が何かの暗喩である可能性を考えて・・・とりあえずはマツドを見た・・・ッが、土偶の頭部が興奮気味に両者の前に出てくる。
〔そのとおり!!ッという事でぇー・・・にゃら~ん、さん!!? あなたが得た情報をどうか! どぉうぉうぉかぁああ・・・私に提供してくださいますことをここにお祈りさせてもらうしかない状態でございますことですことでぇ~ッ!!!〕
ニャランを神様仏様と呼びそうな勢いで拝み出すジャム。
コレが嫌だから、なるべく関わりたくない相手でもあるのだと再認識するニャランは、不意に雨が降って来て途方に暮れてしまったように遠い目をしている。
マツドは苦笑しつつ、ジャムが言いたい事を伝える。
「ははは。まぁ、そういうことだからさ? ニャランが得た情報を教えてはもらえないかい?」
「そう言われてもねぇ・・・私も詳細な情報を得られていないのよね・・・ただ、ナイトメアという名前通りで、夢空間での彼女は私との実力差を大幅に詰めて来たわ。毒はほぼ互角で戦ったけど・・・結局は負けてしまったしね」
〔ふぅむ・・・あなたほどの霊が打ち込んだ毒が負けるとは・・・同志の話しではあなたに毒を打ち込まれたことで、生死を彷徨ったと聞きましたが?〕
怪訝そうな声音で問うジャムに対し、ニャランが顔を真っ青にし、ワンゴが驚きでニャランへと顔を向け、マツドは「きょとん」とした顔で考え始める。
「えぇ・・・そうなの? なんで? なにがあった?」
「ニャラン。致死量ギリギリの夢毒を打ったと言っていたが・・・おまえ・・・」
「夢毒に命を脅かすような毒性なんてあったかな?」
ワンゴが疑いのまなざしをニャランへと向け、マツドは強張った顔ながら夢毒の毒性について首を傾げる。
「ちょ、ちょっと! 夢毒に生死を彷徨わせるような毒性なんてないって知ってるでしょうが!!」
ニャラン自身にも殺意などは無いのだが、まさか文字通りの生死にかかわる事態になっていたとは思いもしなかった。
そもそも、夢毒は負けたのだから。
〔ああ。誤解を招く言い方でしたね。どうやら、吐血しながら毒を排出していたようです。 同志の話しでは一週間ほどそんな感じで昼夜問わず吐血を繰り返し、心肺停止で死亡状態になったりもしたようです〕
「えぇ・・・そんなことになってたの」
「ほぉ、興味深い話だ」
「ふーむ。できれば僕も立ち会いたいところですねぇ・・・その血を採取できるなら、ぜひとも研究してみたいですよ」
ニャランとワンゴが「そういうところがキモイ」と言わんばかりの顔になってマツドを見つめる。
室内が静まり返った時に、入れ違いのように嵐はやってくる。
「ニャラン姐さーん!」
一人の青年・・・ウイスが飛び込んできた。
「助けてーッ! ニャランねぇ~さぁ~ん!!」
「私はどこぞの猫型ロボットじゃないわッ!!」
飛びつこうとしてくるウイスを、ニャランは蹴飛ばして払い除ける。
「酷い!! それがカワイイ後輩に対する仕打ちっすか!?」
「カワイイ後輩っていうのは、あんたみたいな男じゃないわ!!」
「俺のどこがダメだってんすか!!」
「全部」
「ぜんぶぅーッ!?」
ニャランの血管がブチッと切れてしまいそうなほどに怒りがこみ上げて来た。
ただでさえ、マツドとジャムという好かないコンビが会いに来ている中で、頭痛を強化するようなド阿呆が加わることで、ニャランの感情は制御不能へと転落していった。
そんな中で、マツドが手を振る。
「やぁ? ウイス。相変わらず、甘えん坊のようだね?」
「あ? んだおま・・・あ、マツドさん? え、ウソッ! マツドさんっすか!? どうしたんすかその身体!! たしかどこぞのジジイだったじゃないっすか!?」
失礼なのも、相変わらずだとため息が出る。
〔相変わらず、自分の都合だけで会話するようですね? ウイスくん〕
「お!? ジャムさんじゃないっすか! そっちこそ、古臭いガラクタアバターの土円盤なんすね! 新しい身体とか作らねんすか?」
新しいモノを作ったら、秘密結社側に自分の存在が知られてしまうではないか。と、ジャムは目を細めてウイスを睨みつける。
しかし、当人はニッコニコであるため、これ以上の相手をするのは無駄であると判断した。
「あ、そうだ! マツドさん、ジャムさん。聞いてくださいよ!! 俺が借りていたアパート! 荷物を全部外に出されて部屋の鍵が付け替えられていたんですよ! 酷いと思いません!?」
そんな事をするところが、まだ現代でも残っていることに驚くマツドとジャム。ひっそりとニャランとワンゴも驚いていたりする。
〔それは大変ですね・・・どうして追い出されたんですか?〕
「家賃滞納・・・ってアパートの管理してるところに連絡したら言われたっす」
〔なるほど、それでは仕方ありませんね〕
「でも俺・・・これまでずっと家賃は支払って来たんすよ?」
〔しかし、今回は払わなかったのでしょう? それでは追い出されるのも仕方ないでしょう?〕
「でも俺、これまでずっと支払って来たんすよ」
〔ええ。ですが今回は払い忘れていたのでしょう? 仕方ないことですよ〕
「だけど俺、今までしっかり払って来たんすよ」
〔そうなのでしょうが、今回は払っていなかったわけですから、止む無しですよ〕
「でもさー。俺、ずっとしっかり払って来たんっすよー」
〔それでも支払いが滞った以上は、あなたに非があるわけですからね。切り替えていくべきでしょう〕
「だけどー。ずっときっちり払って来たんですってー」
「なぁ? ニャラン。ウイスはどういう返答を求めているんだ?」
「あー。たぶんだけど、共感して欲しいんだと思うわ。わかるー。酷いよねー。マジムカつくんだけどー。ってヤツよ」
「ははぁ・・・それをジャムに求めてはいけないね。彼女は地球人的思考が紙一重で理解できていないからね」
ワンゴは冷や汗を掻きながら唸り、そして腕を組んで難しい思考を始めるような渋い顔をする。
「うーむ。これがジェネレーション・ギャップ。というのだな? 難しい時代になったものだ」
「そこまで複雑に考えることじゃないよ」
マツドが立ち上がると、会話がループしている二人に割って入る。
「まぁまぁ、事情はともかくとして・・・部屋代を支払えなかったということは、失業中ってことなんだろう?」
「あ、はい・・・そうっす。俺に相応しい仕事じゃない。と確信したんで、辞めたんすよ!」
ちょっとイラっと来たマツドは、無表情でつづけた。
「ジャム。ちょうどいいかもしれませんよ? 彼に例の仕事をさせてみませんか?」
〔事情は存じませんが、仕事をしたいと言うのであれば・・・アレをお願いしましょうか〕
「はい。今、出しますね」
言うと、マツドはキャリーケースを開いて大きな水筒を取り出す。
これのねじ式の蓋部位を取り外して、中身をテーブルに撒ける。
「ちょっと! 何してんの!?」
「まぁまぁ。見ていて・・・」
水筒の中身を撒ける。という行為であるが、ひっくり返した水筒からは液体がバシャア。と撒き散らされることはなく・・・何か塊がゴロリと転がり出て来た。
それは、テーブルの上に着地すると生物の形を取る。
蛇のような形状ながらも、蛇ほど長くはない。胴は短いが太く、平べったい蛇のような形をする生物みたいに変形していく。
「・・・ツチノコ?」
「そうです。これは『妖怪獣ツチノコ』をモデルにして僕とジャムで作った『ミズノコ』という道具です」
ニャラン、ワンゴ、ウイスが関心したように『ミズノコ』を覗き込むと・・・その姿に息を呑む。
水の塊であるのは見て分かるモノの、透けていないのだ。まるで深海を内包しているかのように芯が黒く染まって不透明になっている。
少なくとも、相当量の水を圧縮して作られているということは想像できた三人だった。
と、マツドがさらにキャリーケースからレトロなゲーム機を取り出した。
「・・・それ? 確かメ〇ドライブってヤツだっけ?」
「ん? さぁ? ジャンク品で安売りされていた物を買っただけだからね。ガワが欲しかっただけさ。これは、このミズノコを操作するための道具として改造した物なんだよ」
説明をしつつ、ACアダプターと映像を出力するための赤、白、黄色の端子を持つケーブルを取り出して・・・。
「テレビ。繋いでもいいかい?」
「え? あ、ちょっとまって! ワンゴ。小さいテレビが物置部屋にあるから取って来てくれる?」
「分かった。取ってこよう」
そう言って一度部屋を出ていくワンゴ。
さほどの時間を掛けず、小さめの液晶テレビを持ってきたワンゴは、魔改造ゲーム機の傍に持ってきたテレビを置いた。
テレビの裏側にある端子に、三色の端子を挿し込んで映像を出力する。
画面に映ったのは、室内の様子・・・それも視点が低い。
全員が一斉にテレビの画面からミズノコへと視線を移すと、ジャムは誇らしげに語る。
〔どうです? 我らの技術を上手い具合にこの世界へ落とし込みつつ、怪異の特殊能力を用いて造った傑作です! 素晴らしいでしょう?〕
三人は、確かにスゴイ。とは思うが・・・なんでツチノコをモデルにしているのかが分からなかった。
「なんでツチノコなのよ?」
〔可愛いでしょう? ツチノコ! あのフォルムは最強ですよ♡ できればペットにして持ち帰りたいくらいですよ・・・まぁ、怪獣なのでサイズ的にムリですがね?〕
すると、ウイスが目を点にしながらマツドに尋ねる。
「マツドさん・・・こんなもので何をするんすか?」
「うん? ああ、これはね。こうやって・・・」
ゲーム機に差し込まれている専用のコントローラーを手に、ミズノコを軽く操作して見せるマツド。
そうして、ウイスが目を輝かせている様子に笑みを深めて言った。
「秘密結社メシア日本・東京支社へと潜入し、かの『光』を奪取するためのものだよ」
「・・・・・・・はぃ?」
■ そうして時間は現在に戻る。
●-東京。某所-●
東京の外れにある小さな廃工場。
ここはジャムが異世界技術を用いて不動産から買い取った場所である。ここで、アパートを追い出されたウイスが生活しつつ、依頼を達成するべく活動していた。
ただし、彼一人ではない。
「ウイスさーん! 飯ってどうなってんすかー?」
「ウイスさーん! トイレの紙が無くなったんすけどー! 紙の補充をー!」
「ウイスさーん!」
「ウイスさーん!」
「おまえらッ!! うるせぇーんだよ!!!」
怒鳴り散らすウイスは、ゴミの分別をしている最中にあっちこっちから呼ばれて対応しきれずにいた。
「くそ、くそ、なんで俺が・・・」
マツドとジャムより仕事を依頼され、そのための活動拠点まで提供してもらい、ここでスローライフが出来る!と最初こそ喜んだ。
しかし、生活雑貨と食事を後輩に買って来てもらってから、思い描いていたスローライフは瞬く間に倒壊していったのだ。
――ここで失職したヤツを集めてるって聞きました。
――ちーっす。金が尽きて漫喫にも入れないんで、泊めて下さーい。
――異世界ゲームで遊ぶ仕事があるって聞きましたーッ!
――前に貸した金を返してもらいに来ました!
「・・・最後のは無かったことにしておこう」
ウイスは都合の悪い出来事を無かったことにして、いろいろあってシェアハウスのようになった廃工場の管理をやらされることとなった。
だって・・・やれ。って言ってんのに、誰もやらないんだもん! 俺の言うこと聞かないんだもん!・・・と、涙目で動き回っている。
だいたい、なんでこいつらここに居付いてんの!? 仕事は!! 遊んでないで働きに出ろよ! このクズどもが!っと、愚痴を溢し続ける。
そうしてゴミ捨て、工場内の掃除、住人の食事、生活雑貨の補充、これでは管理人である。
怪異として、人間憑依霊として、この場に集まっている連中で一番の年長者であり実力者。
自称、『若手四天王』最強の男、ウイス。
彼は気づいていない。
なんだかんだで、苦労するのは年長者なので・・・面倒くさい若手には関わらないよう避けているのだということを。
「お、入れた! 入れたぞ!」
「マジか! 秘密結社メシアにマジで侵入成功かよ!?」
「こんなレトロゲームのコントローラーでよくやるぜ・・・」
「ジャムさんのくれた東京都内の水道管マップが見づらいのが、手間が掛かった原因だぜ・・・」
「けど、俺の能力でナビは完璧だっただろ?」
「さっすがー。んで? 秘密結社メシア内の配水管はどうなってんの?」
「ちょい待て。えーっと、こっちの紙だな・・・ナビするから、少し待ってろ。マップ情報を読み込む」
「目標は? ミズノコ越しでも確認できるか?」
「わかんね。今のミズノコは管に入れるサイズだからな。照明の明かりさえも眩しくって見分けが付くかわからねぇわ」
「画面もなんか古臭いしな・・・これアレだろ? アナログ画質ってやつ?」
今、ウイスは分別したばかりのゴミをまとめ、コレをゴミ捨て場へ持っていく直前だった。
彼がやるはずだった仕事は、ゲームで遊ぶのが目的の後輩たちに奪われている。もはや、ウイス自身には何の興味もなくなっていた。
というか、仕事の内容そのものをすでに忘れてしまっている。
「・・・はぁ。ゴミ捨てに行ってくるから、帰りに弁当とトイレットペーパーも買ってくる」
おかしい。自分の世話を後輩共にやらせるつもりだったのに、自分が後輩共の世話をしているのは何故なのか?
ウイスが答えに行き着くことはない。
「あ! それじゃあ歯ブラシお願いします! 奥歯まで届くスリムサイズおねがいしまっす!」
「俺! リップクリームを!」
「あ、俺はハンドクリームで!」
「シャンプーとボディソープもおねがいしまーす!」
「蚊取り線香と・・・あ、電球もいくつか切れてるっす!」
・・・。
・・・・・・。
「・・・ちくしょーッ!! 俺は四天王最強のウイスだぞぉぉぉぉおおおお!!」
かくして、若き怪異達による新たな不穏は、ウイスの嘆きに淀み始め・・・た?
次回は、ミズノコ襲来。を予定しています。
お話のメインではないため、いろいろと端折っております。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




