17 プールで鍛錬
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。
あと、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
とりあえず、環境別戦闘衣装『水着』に関するアレコレは無事に終わり、いよいよプールで遊ぶ・・・いいえ、鍛錬をする時間がやって来た。
私は、屋内プールの案内掲示板を見上げながら、どこへ行こうか?と悩む。
「トレーニングが目的でしたよね?」
「はい。一応、リハビリで日常生活は問題ないくらいに回復しているので、身体に無理が掛からない程度のトレーニングを。と思っているのですが・・・」
こうしている間にも、敵が私を狙う策を練っている・・・と、思うと・・・ただ運動するだけでは足りない気がするので、しっかりと動けるようになっておきたい。
という気持ちを伝える。
「なるほど・・・確かにナイトメアさんは、私たち現行型イデスバリーとは異なり、敵の注目を集めてしまう体質なわけですからね・・・そうなると、アスレチック・プールがいいでしょう」
案内掲示板のアスレチック・プールの区画を指さしてくれた。
「運動公園みたいな感じの遊具などがあるんでしょうか?」
「そういう物もありますよ。楽しく運動する。をコンセプトにしたプールですので、それはもう童心に還ることができてしまう楽しい遊び場ですよ」
・・・凄く、楽しみ!
ラナタスカさんの案内で、アスレチック・プールへと移動する。
小さい山の頂上から緩やかな傾斜より流れる川を再現したアスレチック・プールで、流れる水の上を木材を模した足場が等間隔で流れてくるのを見る。
「ここは、あのように流れてくる足場を伝いながら頂上を目指すものになりますね。普通に歩いて頂上まで登り、木材に乗って下るのも楽しみ方の一つですよ」
多くのプールがある中で、今の私にはちょうどいいアスレチック・プールとして紹介してもらったのが、この小山から流れる水を足場伝いに登っていく。というプール。
足場も柔軟な素材で出来ているため、激突したとしても怪我をする確率は低いのだとか。
「早速やってみます!」
私がプールへと小走りで駆け寄っていくと、ラナタスカさんに止められた。
「あ、待ってください。スカートは収納した方がいいですよ。動作の邪魔になりますからね」
アドバイス通りに、スカートを収納して太ももバンドにするのだけれど・・・周囲を見回して誰かに見られていないか?を確認する。
・・・とりあえず、人もさほどいないようなので、安堵した。
「そういえば、人が少ないですね・・・ここはいつもまったりとしている方が多いのですが」
周囲を見回す私を見て、ラナタスカさんもまた周囲を確認する。と、首を傾げていた。
「まぁ、そういう日もあるのでは?」
「ですかね」
そうして、私は流れて来た足場でも、自分に比較的近いモノへ飛び乗る。
少し揺れて、足場が軽く沈むことで着地時に足がふらつき、その場にしゃがむようにして安定するのを待つ。
姿勢としては、四つん這いになっているけれど、とりあえず揺れが収まったところで立ち上がった。
木材を模した足場は、木材一本分だったり、二本並び、三本並び、四本並びとまばらに流れてくるため、私は木材が四本並んでいる広めの足場へと飛び移っていく。
飛び移る時に、どうしても脚を大きめに開くので・・・ちょっとだけ気恥ずかしさを感じた。結構際どい水着だし・・・。
「イイ感じですね。その調子で、ゆっくりと確実に飛び移っていくといいですよ」
ラナタスカさんが、妙な亀の甲羅みたいなモノを水上に出して静かにプール内を移動してくる。水中での機動力を確保している外装と言うだけあって、「すいー」っと動く様子は泳いでいるように見えない。
私も、そういう外装系の水着であれば、また違う立ち回りができたのだろうか?
次の足場を見つめ、呼吸を整えながら飛び移―――。
「ところで? リザドラル君とは恋仲にならないのですか?」
そんな問いを投げかけられて、私は着地に失敗すると同時に水の中へ落ちた・・・けれど、すぐに足場に手を掛けて上半身だけ乗せた。
「な、なんですか・・・急に・・・」
「失礼。どうしても気になってしまいましてね?」
なんでラナタスカさんが気にするんでしょうか?
「・・・っというのも、私が覚えている限りで、リザドラル君は随分と印象が変わったように思います」
「印象が変わったんですか?」
「ええ。私が覚えている限りですが・・・とても根暗でイラっとする性格だったはずで・・・そう、戦闘訓練時に、思わずバズーカを当てて怪我をさせてしまったくらいには・・・」
えぇ・・・イラっとして思わず怪我をさせてしまうくらいの根暗ですか?
・・・根暗で? イラっとする性格?
私は、覚えている限りのリザドラルさんを思い返す。
いつも「にかー」としてて「にぱー」ってしてて、茶化す時には私の胸を凝視しながら「にんまー」としていたりする人だと記憶している。
そういえば、基本的には私の顔を見ながら話をしてくれる人だ。
覚えている限りの今日までを振り返って、男女問わず、大抵の人は私の顔を見て胸に視線を移す人が大多数だし・・・。
まぁ、それは身体が大人びて来た頃からの話しだけど・・・。
「リザドラルさんは、とりあえず根暗?とは縁遠い気がしますが?」
「そうなんですよ。前からそうだった気もするし、最近急に人が変わったような気もしますし、なんだか曖昧になっているんです・・・覚えている限り、根暗でイラっとするヤツ。のはずだったのですが・・・」
・・・そういえば、イデスバリー・アリアネルさんも似たような事を言っていた気がする。
アレだけ『カラッ』とした性格の人なのに?
人によって受ける印象が違っているとか?・・・でも、そういうのとはまた違うような気もする。
「・・・あなたと恋仲になったことで人が変わったのかな?と思ったんです・・・違いましたか?」
なんだか、すごい誤解をされているように思います!!
「わ、私と・・・仮に恋仲だったとしても、人の性格がそこまで変わるとは思えませんが・・・」
「それもそうなのですけれど・・・一体、何があったのやら?」
・・・一番最初に出会った時、リザドラルさんは確かに気味の悪い印象を受けた。
唐突に現れた男性で、情緒が不安定というか・・・言動がオカシイという感じで、不気味だった。それとも関係があるのだろうか?
どどぉぱぁ~ん
・・・とっても奇妙な炸裂音?が小山の頂上より響いてくる。
「む!」
ラナタスカさんが小山の頂上を即座に振り向き、私も遅れて確認するように振り向く。っと、緩やかな水の流れが、唐突に大洪水へと変貌している。
「なにッんぐむ・・・」
あんまりにも唐突な事態に、襲い掛かる水を受けて流された。
上半身を乗せていた足場もひっくり返ってしまい、軽く上下が分からなくなるほどに回転してしまって・・・すぐにラナタスカさんが抱き上げてくれたので、助かった。
「けほ・・・何が起きたのでしょうか!?」
「申し訳ありません。人が少ない理由を今、やっと思い至りました!!」
すぐ近場に流れて来た足場へ、私を乗せてくれつつ・・・ラナタスカさんが、この唐突な騒ぎの原因に気が付いた。ということで苛立ちを見せ始める。
そうして、なおも山頂より水が「どっぱん」と炸裂しているのを目撃すると・・・。
「天が知る!」「地が知る!」「水は知る!!」
うーん?
私の記憶・・・いや、前世の知識が何か反応している気がしたけれど、すぐに霧散する。
そんな事を考えていると、小山の山頂より三人の人影が飛び出してきた。
「「「マイグラトリー・フィーッシュ!! アターック!!!」」」
どっぱーん。という水の炸裂によって足場が中空へと飛び上がると、小規模の竜巻で水を巻き上げながら足場へと飛び上がり、まずは両手に持ったそれぞれの包丁で一本の木材風足場を三本の角材にする。
続けて大きな包丁を居合切りにて鞘より抜刀しつつ、三本となった角材を一斉に両断し・・・。
最後に右ストレート。左ストレート。そして風切り音を響かせるほどの一蹴を放って、三つの角材は木端微塵に破裂した。
そうして、三人の戦士が一糸乱れず空中移動にて中空を舞う足場を続々と破壊していった。
余波で私が乗っていた足場がひっくり返ったので、とりあえず浮き輪にしがみ付くような感じで足場に上半身だけ乗せて、嵐が過ぎ去るのを待つことにした。
「魚人三銃士・・・まさか、ここに居たとは」
『魚人三銃士』・・・それは、この秘密結社メシア日本・東京支社に在籍する三人の魚人系戦士を指す言葉である。
いえ、魚人系は複数名いるけれど・・・『魚人三銃士』と呼ばれるのは、特定の三名。
『イデスバリー・サバイタル』さん。『イデスバリー・カツオブシ』さん。『イデスバリー・マグロード』さん。
彼ら三人を総称するのが『魚人三銃士』
「なぁ? やっぱ『マイグラトリー・フィッシュ』じゃ語呂が悪いって」
プールへと着水する『サバイタル』さんが、同じく着水した『マグロード』さんへと意見を述べている。
「いや、でもよー? マイグラトリー・フィッシュなんだぜ?」
マグロードさんは、意味の分からない返答をしているけれど・・・『マイグラトリー・フィッシュ』とは、なんの意味だったかな?
「しかし、意味よりも語呂を大事にするべきだろう? 必殺技なのだからな」
確かに、どんな意味がある言葉も・・・語呂が悪いとテンションが上がらないと思いますし、必殺技なら勢いも欲しいですよね。って、『カツオブシ』さん・・・水中でも鎧武者姿なんですか!?
この方々は、私の歓迎会時に挨拶ぐらいで会話らしいことはしていない。ただ、見た目と名前から一度見聞きすれば忘れがたい人たちなのは確かです。
なにせ『マグロ』『サバ』『カツオ』という・・・まさに魚を人型にしただけの魚人姿をした戦士が、この三人だから・・・。
他に居る魚人系は・・・人間ベースの融合系だったりする場合が多いけれど、この人たちは魚ベースで人間の形をしている系統の魚人なので・・・インパクトは十分過ぎる。
名前と姿を知れば、一回で覚えられるくらいには印象的な三人組なのだけど、歓迎会の時は挨拶をした程度でちゃんと話を出来ていない。
なので、どのような人柄なのかは知らない。
「相変わらず、他の利用者を考えずに好き勝手やっていますね!」
ラナタスカさんが怒鳴り声で魚人三銃士へと話しかけると、怒鳴られた三人は内輪での話を止めて、どことなく「またかよ」って様子でため息を吐いている。
「あー・・・まぁ、これは何と言いますかー」
「うーん? おい、ラナタスカの横に居る子は・・・」
「おおぅ・・・ナイトメアちゃんじゃね?」
三人が私を見つけると、ラナタスカさんが眼中から消えたように私へと一直線に迫って来た。
そうして、三人で私が上半身を乗せている足場をグルグルと回り始めると、なんだか興奮したような顔になる。
「やぁ、ナイトメアちゃん。ステキな水着だね!」
「それが君の環境別戦闘衣装『水着』かい? 君の前世は、素直な人だったみたいだね!」
「ふむ。サンオイルを塗るなら任せて欲しい。開けた背中に塗るのは、さぞ楽だろう」
・・・こ、この三人・・・私の水着を凝視しているばかりか、お尻に注目している。
水に浮かぶ足場に上半身を乗せて浮いているせいで、お尻が水面で見え隠れしているせいかもしれない。
「あなた達? どこに注目して話をしているんですか?」
ラナタスカさんが殺意剥き出しで棺桶のような箱から大きなバズーカを取り出しつつ問うと、魚人三銃士はサッと私から視線を外した。
「ところで、ナイトメアちゃんはここで何をしているんだ?」
マグロードさんが話題転換を目的にしているのだろうけれど、私がここに来た目的を尋ねて来た。これに便乗するサバイタルさんが、続けて言う。
「確かに・・・遊ぶプールならこの先にいくつかあるから、そっちへ行くのをおススメするぞ」
おススメのプールがある方を指さしながら、ラナタスカさんが取り出している大型バズーカをチラチラと確認していた。
「ここらには訓練などで使うアスレチック系のプールが多いからな。レジャーとして楽しむプールはあっちの方だ」
カツオブシさんも、サバイタルさんと同様の事を教えてくれた。
「はい。まだ病み上がりなので、身体を鍛えつつ楽しめるプール。を、ラナタスカさんに紹介してもらっていたんです」
私は、遊び重視のプールを教えてくれたことにお礼を込めて、笑顔をしっかりと意識しながらプールに来た目的を説明する。
「ふむふむ・・・」
「なるほどねぇ・・・」
「いい心がけだな」
魚人三銃士は、そして互いを見合うと頷き出して・・・。
「ナイトメアちゃん。それならうってつけのアトラクション訓練場があるぞ」
アトラクション訓練場!?
私が、その言葉に興味を惹かれると、ラナタスカさんが速攻で拒否してくれた。
「却下です! 彼女を『アトラクション・ダンジョン』に連れていくつもりですね!?」
アトラクション・ダンジョン!?
ダンジョン!という言葉の響きに、私は大きく心を惹かれてしまう。一本釣りされた感じです。
「落ち着けよ。あのダンジョンは、年齢制限による三つのコースがあるだろう?」
年齢制限があるんですか!?
「確かに、そうですが・・・しかし、15歳以上用コースは厳しいでしょう」
「病み上がりなんだから、全年齢用コースでいいだろ?」
「そうだな。あっちなら言葉通りのアトラクションだし、エロい目に遭う事はないからな」
エロい目に遭う?
・・・え? そんな危険なダンジョンになっているんですか?
「おいおい。お前らだけで盛り上がるなよ・・・ナイトメアちゃんが呆然としてて、なにも分かっていない顔をしてるぞ」
「あぁ・・・これはすみません。ちゃんと説明しますね」
「そうだな・・・アトラクション・ダンジョンへ移動しながらでいいだろ」
「それがいい」
「うむ」
ということで、私は魚人三銃士とラナタスカさんの案内で再び移動することに・・・。
連れてこられたのは、アスレチック・プールエリアから外れたところにある特に案内掲示板にも記されていない場所にひっそりと存在している地下へ続く階段・・・。
「昭和時代・・・バブル経済の最盛期に発生した大規模ウィアード・フィールド。それは、東京に集結した怪獣怪異の大群がフィールドを多重展開したことによるものだった。」
「そして、大規模なウィアード・フィールドは地表ではなく、地下を侵食し・・・地下鉄。つまりは東京メトロをダンジョン化してしまったのだ!」
「フィールドの核は東京メトロの中心地。そこへ向かうには外縁部にある地下鉄入口からしか入れない・・・中心地付近の階段から入ると、下水道に落とされて海までノンストップで押し流される。トイレかよ!」
「という過去に大規模な事件がありまして、その時のダンジョン化した東京メトロを再現したのが『アトラクション・ダンジョン・東京メトロ』となっています。こちらが、その訓練所入口になります」
マグロードさん、サバイタルさん、カツオブシさんが深刻な面持ちで語ってくれたのだが、ラナタスカさんがバスガイドさんみたいな雰囲気で締めくくった。
「おい、ラナタスカ。俺らに語らせてくれよ!」
「そうだそうだ」
「まったくだな」
「・・・長いんですよ。巻きで進めましょう! 巻きで!」
・・・ラナタスカさん。魚人三銃士さんらと仲が良いんだ?
東京メトロの中心とも言われている土地に怪獣怪異が大群で集結し、広範囲にウィアード・フィールドが展開された事で都市機能は停止した。
これを解決するべくイデスバリー戦士たちは大規模な緊急クエストとして出撃することに。
しかし、これは怪異たちによる罠で、多くの戦士が敵に捕らわれてエネルギーを吸い上げられ、下水道へとポイ捨てされて、海まで流されてしまったらしい。
どうやら、イデスバリー戦士を見つけられなくなった怪異たちによる作戦であったようで、ダンジョンは三日ほどで自然消滅したとのこと。
この『ダンジョン・東京メトロ』は、その最深部まで到達できたイデスバリー戦士は皆無であり、多くの参加者から情報を収集して、次に同様の事件が起きた場合の対策として訓練所が設けられた。
それがこの『アトラクション・ダンジョン・東京メトロ』とのこと。
「再現されたモノだけど、アトラクション・ダンジョンだから命の危険はない。エッチな危険はあったりするが」
サバイタルさんが、ちょっと興奮気味に言うとマグロードさんがため息交じりに補足する。
「それだって15歳以上用コースからだ。全年齢用コースは安全安心のアトラクションなので、気楽に挑戦するといいぞ」
なるほど・・・。
「ちなみに、このアトラクション・ダンジョンは『全年齢コース』『15歳以上対象コース』『成人以上対象コース』の三つが設けられており、当時を完全再現しているのが『成人以上対象コース』であるそうです。かなり高難易度だそうですよ」
ラナタスカさんの説明を聞いて、今の私では挑めないコースであるようなので、ちょっと安堵する。
・・・ん? でも、今の言い方からすると?
「ラナタスカさんは、成人以上コースにはチャレンジされていないのですか?」
「・・・ええ。私はまだチャレンジしておりません。人数設定がありまして、二人以上で挑むコースになっているのですよ」
・・・。
・・・そっか。
「なに!? おまえまだ挑戦していないのかよ!」
「なぜそれを早く言わない!」
「俺たちが手伝うから、共に挑戦してみないか?」
魚人三銃士が食いついた!?
「結構です。あなた達に同行をお願いしたら、何が起こるか予想ができません。危険すぎます」
明らかに「身の危険を感じます」という様子で断るラナタスカさん・・・え、この三人て、そういう事をするの!?
私が驚きの顔で魚人三銃士を見ると、三人は大急ぎで頭を左右に振りながら否定した。
「変な事をするつもりはねぇよ!」
「俺ら全員近接戦闘系だから、バズーカとはいえ、射撃援護できるヤツに同行して欲しいだけだ」
「基本的に、遠距離から射撃できるヤツがいないと、ステージ3で詰むんだ」
あー。
三人で何度か挑戦しているけれど、そのステージ3で行き詰まっている感じなんだ?
「どうですかね? あなた方はスケベですからね」
ぐぬぬ。と、握りこぶしを震わせているけれど、否定できない事実なのか? 反論しないようです。
とりあえず、今日は私がメインということで『全年齢用コース』へ入る事に決まる。
東京の地下鉄・・・前世はどうか知らないけれど、今の私は地下鉄を利用した事が無いので、とっても楽しみだったりする。
と、なんだか薄暗い階段を下りて行くと、ジジジッ・・・と、蛍光灯が揺れるのを見て、ホラーな雰囲気が強まってきていることに息を呑んだ。
ホラー映画みたいに唐突に何かが出てくるとか無いよね?
階段を下りた先は、ウィアード・フィールドの特徴である『赤紫』『青紫』『緑紫』の色で地下空間が染まっていたから。
「・・・気持ち悪くはない?」
色が異様なだけで、特に気持ち悪さは感じないけれど・・・。
「ウィアード・フィールドを再現しているのは、色だけですよ」
なるほど・・・。
案内された先には、三つの改札口がある。
吊り看板によれば、向かって左の改札口が『全年齢コース』となっており、真ん中が『15歳以上コース』で、右が『成人以上コース』となっているようだ。
今日、私は初挑戦となるので『全年齢コース』の左へ。
改札口を通り『全年齢コース』の通路へと入る私は、一緒に来てくれるラナタスカさんの入場を待つ。と・・・。
「よぉーし! 俺たちは『成人以上コース』だぁあ!!」
「いくぞーッ!」
「かくほーッ!」
「なぁあ!?」
魚人三銃士が、ラナタスカさんをお神輿のように担ぎ上げてあっという間に『成人以上対象』という看板が吊り下げられている方の改札口へと猛ダッシュ。
鮮やか過ぎる行動に、私は呆然と四人を見送る事しかできず・・・。
「なにをするんですかッ!! ナイトメアさんを一人にするなんて!!」
「ばっかおまえ! 初見なんだぞ! ネタバレ抜きの方がイイに決まってんだろ!!」
「全年齢コースは初心者も安全安心設計だから心配いらねぇよ!」
「俺たちは、ステージ3が進めなくて困っているんだ。手伝ってくれ!!」
あー。
特に前情報も何もない私でも、安心して安全に挑めるコースだということなんですね?
「「「じゃ! ナイトメアちゃん!! 楽しんできてねぇーッ!!」」」
「いやだーッ! 私はナイトメアさんとイチャイチャしたいんですよぉーッ!!」
こうして、私たちは分れることとなった。
・・・ん? 最後のはラナタスカさん? 私とイチャイチャしたい? なんで?
・・・・・。
・・・うん。聞こえなかったことにしておこう。
進路案内による矢印看板に従い、私は通路を進む。
その先には電車のプラットホームがあり、黄色の点字ブロックなどしっかりと再現されていて雰囲気が出ている。
しかし、線路を覗き見てみれば・・・浸水している。
線路は水没しているけれど、深くはない。見た限りでは・・・沈んでも膝下くらいまでだとおもう。あとは、高圧電線などが水に触れていて・・・というのもあると思い、ホームの下を覗き見る。
特に何があるわけでもなく・・・大丈夫そう。
進路を示す矢印看板は、線路の上に降りて進むことを示しているようなので・・・私はホームから線路へと降りた。
降りてすぐに分かった事は、水だと思っていたそれが温水だった・・・ちょっと嬉しい。
気を取り直して・・・線路と言えば石を積み上げた土台のような物をイメージするけど、地下鉄はコンクリートで固められているのかな?
足場が安定しているのは、大いに助かる。と、歩き出したら線路を固定する金具に脚を引っかけて転んだ。
「・・・う、薄暗いから水に沈んでいる物が見えづらいんだ」
言い訳。とは思うモノの、実際にこの空間は照明が等間隔で設置されているせいで暗い。
その上、ウィアード・フィールドを再現しているために『赤紫』『青紫』『緑紫』という目が疲れる色で淀んだ演出の光もチラついているため、余計に水に沈んでいる足場が確認し辛い。
こういう場所で戦うとなれば、確かに難しいのだと思う。
気を取り直して、私は線路に沿って進む。
どんよりとした空気が満ちているトンネル内・・・ある程度まで進むと『ステージ1』という看板が出てきて、ここからが訓練開始なのだと息を呑む。
「武器・・・」
ここまですっかりと意識から外れていたけれど、今の私は武器を持っていない。
どこかに収納されていると思うので、武器を念じる。と、頭部に装着されたヘアバンド・・・いや、カチューシャが思い浮かぶ。
・・・カチューシャなんて付けていたっけ?
そう思いつつ、手を頭へ移動させると・・・確かにカチューシャが装着されている。これに触れてから指を鳴らす手順が脳裏に浮かんだので、その通りに指を鳴らした。
すると、左手にいつもの刀が出現して納まる。
「・・・なるほど、こういう感じなんだ」
鞘を腰に近づけると、ベルトが飛び出して腰に巻き付き・・・手で持たずとも良くなったので、そのまま腰に提げて抜刀の構えを取りつつ周囲を警戒しながら進む。
当時、誰も攻略できなかったダンジョンを模した訓練施設・・・どんなモンスターが出るのかも分からないので、慎重に・・・慎重に・・・。
ぴちゃん
「ヒッ!」
ただ、水滴が落ちただけの事だけれど、緊張している時にこういう音が鳴るとつい反応してしまう。誰にも見られていなくてよかった。
・・・でも、上から落ちて来た?
そう思って、トンネルの天井を見上げてみれば・・・三色に光る粘性の物体が揺れているのを見る。これが、ブルブルと震えだして天井から降って来た。
ざぶーん。と、線路を浸水する水の中へと落ちて、即座に水面から姿を現したのは・・・ゼリー?というか、カップのプリンやゼリーをお皿に盛った時のあの姿をした物体が細かい伸縮を繰り返して私へと接近してくる。
なにこれ?
「えーっと、あー、誰もいなんだった!」
ラナタスカさんに尋ねよう。と、横を見て、後ろ見て、誰もいない事を思い出して頭を抱える。あのゼリーみたいな物体はなんなの? 攻撃しいてもいいの?
ええい、悩んでいる場合でもない!
「夢幻一刀流・抜刀術!」
どういう物体なのか不明であるものの、こうして出て来たからには敵モンスターであると考えて動くべきなので、私は攻撃を行う。
抜刀を利用した斬撃により、お皿に盛ったゼリーみたいな物体はスパッと切断されて液体のように崩れて水中へと消えていく。
・・・倒せた?
敵が居た地点へと慎重に歩を進めて、とりあえず水の中へ消えたのを再確認。
なにか、残っているモノがあるかな?と、水中を覗き込むも・・・特に何があるでもない。
「ゼリーみたいだったけど、水の塊だったのかな?」
生物とは言えない物体・・・何かに似ている気がしたんだけど・・・形だけならお皿に盛ったゼリーやプリンみたいな印象が強過ぎて、何かへ意識が辿り着かない。
ぴちゃん
再び、水滴が音を立てて着水する。
いや、まさかそんな・・・と、私は天井を見上げてみた。
「・・・そんなにいたんだ?」
三色に光る物体が、波打つように天井を覆い尽くしており・・・さっきは光っていなかったじゃない?と思う。
でも、ここが訓練場で、ステージ1というのであれば・・・それはゲーム的な要素で考えるべきなのかもしれない。
つまり、一匹倒したら次が来る・・・あ、そうだ。ゲーム的・・・スライムだ。
お皿に盛ったゼリーやプリンみたいな姿の物体は、なんとなく『スライム』に似ているんだ・・・うん。
タイミングを図ったように、天井に貼り付いているスライムの群れが降下し始める。
「ちょっと! 待ってくださいよ!」
私は降ってくるスライムを避けつつ前進するも、足元が浸水しているということで動作が鈍くなる。これがなかなかに厄介だと思い、当時の戦士たちがダンジョンの攻略に失敗するのも頷ける。と納得した。
そして、スライムの一体が私の頭から被さってくる。
「うぐ!」
ざばぁん!などと音を立てて私に被さって来たスライム・・・それは、まるでお風呂の湯みたいに温かくて、心地よい温度であり・・・。
「ぷはっ・・・え? なに!?」
頭が外へ出たので自身の状況を確認すると・・・私の身体はスライムに丸のみ?された状態で頭だけが外に出ている。
そうして、スライムたちがどんどん集結してくる。
「こ、これ、どうやって脱出するんですか!?」
教えてくれる人は居ないけれど、問わずにいられず・・・だけど、私は慌てていなかった。
なぜなら、このスライムは・・・湯舟のように全身を温めて、なんだか優しく身体を包み込んでくれている。
「はぁ~・・・あ、銭湯のお風呂に浸かった時みたいなぁ~・・・あぁ~・・・」
頬が緩み、自然と笑顔で脱力する私・・・もはや脱出することなど頭から失せて、身を任せてしまっている。
と、ステージの脇にいつの間にか移動しているスライムは・・・そうして開いた排水溝へと飛び込んだ。
「なんで!?」
お風呂に浸かっているような心地よさに呆けていたら、突然の落下に夢から覚めたような衝撃を覚えて悲鳴を上げていた。
と、落下はそこまで長いものではなく・・・なにやら管の中に落ちたようで?
「え?」
思わず声が出たけれど、湯舟のようだったスライムは変形する。
それは、ボブスレー?という競技で使用されるソリみたいな形になり、私の身体をキュっと締め付けると・・・後方から鉄砲水のようなモノが迫って来て―――。
「ぁ――――」
声がかき消されるほどの水量を受け、ソリとなったスライムが打ち出されるように管を疾走する。まるで遊園地のアトラクションみたいで心臓に悪い。
そうして、あっという間に駅のプラットホームへと到着した・・・。
半泣きでいると、身体を絞めつけていた力が緩み、ソリからポイっと捨てられてホームの床に投げ出される。
「な、何をするんですか!!」
スライムに抗議の声を上げるものの、そんなの知らない。と言わんばかりにスライムはホームから線路へと飛び降りて、帰っていった。
・・・なんだったの?
びー。―――『全年齢対象コース』攻略失敗。お疲れさまでした。基礎訓練をサボっていないで真面目に受けるようにお願いします。
・・・。
・・・・・・ごめんなさい。
いえ、私が謝ることでもない気がしますけれど、なんだかこう・・・なんだろう?
意気消沈して、『出口』と矢印が表示される看板に従ってホームから出る。と、出口の改札があるので、ここを潜った。
潜り抜ける際に、ダンジョン攻略評価証。というモノが発行されるようで、私は受け取って内容を確認する。
『挑戦者 :イデスバリー・ナイトメア
結果 :攻略失敗
失敗ステージ:ステージ1
失敗原因 :バス・スライムによる強制帰還。
改善案 :基礎訓練からやり直すのが早いでしょう。真面目に受けなさい。
総合評価 :E ※五段階評価で最低です。』
・・・泣けてきた。
まだ基礎訓練を受けていないので・・・というのは、言い訳にならない。この『アトラクション・ダンジョン』は、基礎訓練を終えていることが大前提の訓練場なのだと理解する。
まだ退院したばかりの私では、挑戦するのが早過ぎたわけだ・・・。
ため息が止まらない。
再び意気消沈して、私は出口の案内に従って通路を歩いていくと・・・最初のダンジョン入口となる改札口に戻って来た。
「お? 戻って来たんなー? おかえりー」
バスタオルを持っているリザドラルさんが「にかー」とした顔で、ベンチから立ち上がって私へと歩き寄ってくる。
彼の顔を見て、それまで意気消沈していたのがウソのように吹き飛んだ私は、嬉しくって小走りでリザドラルさんに駆け寄った。
「どうしてここに?」
「いんやー? ナイトメアちゃん見なかった?て、聞いて回りながら探してみれば、ここに行き着いたんよ。魚人三銃士にラナタスカ先輩が一緒だったとなれば、目立たんはずもなしやしなー」
・・・やっぱり、あの四人は目立つんだ。
「で? 他四人は?」
「あ、えーっと・・・」
私は、四人と別れて訓練に挑んだ事を話し、その説明をする。
「はー? なるほどねー。魚人三銃士でも『成人以上対象コース』の攻略はキツイわけだ・・・そんでラナタスカ先輩を? 大丈夫かんな?」
リザドラルさんが不安そうな顔で腕を組み・・・私はリザドラルさんからもらったバスタオルで水を拭う。髪など、丁寧に水気を取った。
それにしても、やっぱり『成人以上対象コース』はそれだけ難しいのだろうか?
「やっぱり『成人以上対象コース』は、とても難しいのですか?」
「どうなんやろね? 俺は挑戦したことないから、知らんのよー」
・・・挑戦したことないんだ。
「ただまー。そのコースを使うのは夫婦や恋人同士が多いって話しは、よく聞くでー」
「そこ、詳しく」
「え? あー。なんでも、すんげーエッチな目に遭う。って、前にサキュバス先輩が愚痴ってたんよ」
え、エッチな目に遭う!?
うーん・・・エッチな目に遭うのか・・・。
「ま、君はまだ16歳やろ? 入っても強制退去させられるから、間違えて入っても問題ないんよ」
「強制退去?」
「そ。なんなら、試しに入ってみるといいやんなー」
リザドラルさんが『成人以上対象コース』の改札口を指差す。
どんな強制退去をさせられるのか・・・ちょっと見てみたい気もするけれど・・・。
「いえ、別にいいです。何されるか分かりませんし・・・」
「ま。大怪我するような退去はされないから大丈夫」
そっか・・・それなら安心ですね。
「さって・・・そうなると、あの四人が出てくるのはしばらくかかりそうやんなー」
やっぱり、時間かかるんだ・・・。
「どうする? 外に出て遊ぶ? それともダンジョン攻略に再挑戦してみる?」
・・・どうしよう。
基礎訓練も受けていない今の私では、もう一度挑戦したとしても同じ失敗をするだけかもしれない。けれど、リザドラルさんもいるから・・・教えてもらいながらなら、行けるかもしれない。
やってみてもいいのでは?
「あの、その・・・基礎訓練とか受けていないので、攻略とか、たぶん無理だとは思うんですけど・・・」
「スライムに拘束された時の脱出訓練と思えばええんちゃう?」
リザドラルさんが、当然のように言ってくれたので・・・。
「ぜひ! 訓練したいです!」
こうして、私はリザドラルさんと一緒に『全年齢コース』へ再挑戦する。
ステージ1のバス・スライムと対峙して・・・先のように刀でスパッと切り倒し、続いて天井から大量のスライムが降ってくるのを避ける。
けれど、先と同様に足を水に取られて避け切れず、またも頭から被ってしまう。
「脱出方法は簡単やでー。イデスバリー光・・・つまりはエネルギーを全身から外へ放出する感じやんなー。漫画とかで練った気を開放する感じでー・・・はぁああああッ!って感じでーッ!」
???
いや、そういう漫画の知識は確かにありますけれど・・・練った気を開放する感じと言われて・・・。
「はぁぁあああッ!」
・・・。
・・・・・・。
・・・え? どうやるの?
「声だけじゃ、さすがにムリやんなー」
「ごめんなさーい!!」
こうして、再び攻略失敗した。
・・・なるべく早く、基礎訓練を受けよう!
うぅ・・・恥ずかしい!!
『挑戦者 :イデスバリー・ナイトメア
結果 :攻略失敗、2度目
失敗ステージ:また、ステージ1
失敗原因 :また、バス・スライムによる強制帰還。
改善案 :真面目な話し、基礎訓練からやり直しなさい。
総合評価 :また、E ※五段階評価で最低ですよ。』
・・・泣いた。
「ごめんなさい」
「あー、どんどん辛辣になっていくから、みんな来たがらないんよなー」
三度目に何を言われるのか怖くなった私は、大人しく外のアスレチック・プールでリザドラルさんと遊びながら鍛錬することにした。
・・・。
・・・・・・。
一応、魚人三銃士とラナタスカさんには、伝言を残しておいた。
・・・アスレチック・プールで鍛錬しつつ遊んでいます。と。
次回は、一方その頃、敵陣は。を予定しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




