15 まずは鍛えよう
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方がご注意ください。
あと、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
歓迎会から一週間。
この間に、私は治療と秘密結社メシアの一員として必要な勉学を頑張った。
医師の方々が作成してくれたメニュー・・・身体に無理がないよう、配慮されたリハビリによって日常生活を問題なく過ごせるようになる。
また、シェルさんが病室に訪れて、新人が行う座学などの講師を務めてくれた。
異世界人のこと。地球での活動のこと。怪異のこと。イデスバリー戦士のこと。私の今後のこと。
「そういえば、私・・・学校とか、どうなっているんでしょうか?」
まだ、一学期中だったはずで・・・休学届けも出していないはずだから、ずっと無断欠席なのでは?と、シェルさんに尋ねてみる。
〔ああ、それなら・・・我々の方で休学届けは出してありますので、安心してください〕
すでに対処済みだった・・・。
〔あなたは突発的な発作で倒れたことで、養父である『夜乃次蔵』の伝手で東京の病院にて診療を受けることとなり、用心のため、しばし入院する。ということになっています〕
・・・あながち、間違いではない。というのが、また何とも言えない。
私の前世は、死にかけていた状態だったところを、お養父さんに救われ・・・その結果として『リバースデイ』を迎え、今の私が再誕した。
思えば、あの日見た夢での激しい胸の痛みは、前世のモノだったのだと思う。
そこから私の日常が大きく変化して・・・その変化をよく分からないままに受け止め、とにかくできる事を・・・と、戦いに身を投じ、大怪我を負った。
さらには生死の境も彷徨って、今は回復するも・・・怪異に打たれた『夢毒』の治療中。
そのため、今の今まで自分がしてきただろう生活まで意識が回っていなかった。
「・・・お手数をおかけします」
〔いいえ、お気になさらず・・・それとですね? 今すぐに・・・ということではないので、気を楽にして聞いて欲しいのですが・・・」
「はい?」
なんだろう? 少しばかり、深刻な雰囲気を感じる。
〔近々、あなたには選んで欲しいのです・・・育った地元へ帰るか。この東京に引っ越しをするか〕
・・・え?
「選ばせてもらえるんですか?」
私は、面食らった。
今の私に起きている事を考えれば、この東京から外へ出ることはまずできないだろう。と思っていたから・・・。
なにせ私は、地球侵略を目的として・・・それに失敗した上に肉体を失い、異世界人の特殊な技術による『転生』によって人間ではない『怪異』と呼ばれる存在になってしまった『敵』に狙われているから。
別に、私だけが狙われているわけでは無いけれど、私は現状でもっとも狙われやすい状態にあるため、外へ出ること自体が危険であるから・・・。
〔本来であれば、あなたを外へ出すことはできません。しかし・・・あなたの事情を鑑みれば、強要することはよろしくない。と、考えています〕
シェルさんは、度々〔もうしわけない〕と、私に謝ってくる。
それは私が、他の仲間たちと違って前世の内に彼ら異世界人と接触していたわけではなく・・・まったくの偶然によって、奇跡のような巡り合わせから『リバースデイ』を迎えたから。
何も知らない私を、彼ら異世界人の問題に巻き込んでしまった。という意識が強いみたいで、とても気遣ってくれる。
「シェルさん。私は、確かにあなた方の事情に巻き込まれたのかもしれません。でも、お養父さんが居なければ、私は今、こうして生きている事は無かったと思うから・・・その、感謝しています。だから私も、頑張る。と決めたので、あまり・・・その・・・えぇっと・・・」
〔・・・ありがとう。ナイトメアさん・・・いえ、夜乃ユキトさん〕
少しだけ、雰囲気が和らいだように思える。
〔ですが、帰るにしろ。引っ越すにしろ。一度は、地元へ帰すことになっているのです〕
「え?」
どちらにせよ、一度は地元へ帰ることになるんだ?
〔どこの世界でも、いきなり挨拶も無く居なくなるのは、いらぬ邪推を生んでしまいます。ですから、二学期が始まる頃には、あなたを地元へ帰し・・・そして転校の手続きや引っ越しの準備を進め、学校の友人ら、近隣の住民などへ挨拶しておくのが良いでしょう?〕
た、確かに・・・。
〔そのための準備も進めているのですよ。すでに、あなたの実家がある周辺の空き家を買い取って、秘密結社のスタッフが常駐できるよう準備中です〕
行動! 早い過ぎません!?
〔仮に、あなたが地元へ帰るというのであれば、買い取った空き家を使ってあなたの生活を可能な限りサポートすることになります。これは、今後の秘密結社運営にも新たな戦略として活用できるかもしれない。という本社社長からも許可を得て行われることとなります〕
本社の社長に許可を貰っているんですか!?
そ、それって・・・とんでもない計画が始動しているということなのでは?
〔東京へ引っ越しとなるならば、短期間でのテスト運用。としてデータ収集を行い、世界各国で活用できるかを検討しつつ、各国の支社で順次テストしていくこととなるでしょう。なにせ、日本よりも広い国が多いですからね・・・多くの理由で支社を置けない国や地域もあるため、アイデアとして昔からあったものの、なかなか実行されなかったため、今回は良い機会である。と認められたのです〕
今後の秘密結社運用における新たなテストケース・・・なるほど、転んでもただ起きるだけじゃないわけですね。
〔そして、あなたの留守を守るために、防犯設備もしっかりと設置しますので、年に一回か二回は帰れるようにしてあげたい。とも、思っております〕
「シェルさん・・・何から何まで、お気遣い・・・ありがとうございます」
私は、嬉しくて少し涙目になる・・・でも、しっかりと感謝の気持ちを伝えられたと思う。
〔あと一か月ほどで学生らが夏休みを迎える頃ですから、しっかりと、今後のことを考えてください。そして、あなたの望むままに、決めてくださって構いませんからね〕
「はい」
・・・東京へ引っ越すか。
・・・地元へ帰るか。
「まずは、しっかりと体調を回復させたいと思います」
私は、リハビリとシェルさんの座学を頑張った。
〇
無事に退院して、久しぶりに秘密結社内の自室へと帰った。
部屋へ入ってみれば、複数の段ボールが部屋の隅に置かれ、タンスなどが設置されている。また、部屋の明かりが白色のみだったはずだけど、シャワールームやトイレなどは白昼色に変わっていた。
あと、突貫で用意されたという部屋の造りも、修繕?がされたのか・・・ちょっとだけ部屋が広くなっているように思う。
私用の部屋は、特殊なパネルを三重にしてあるために、ちょっとだけ他の方の部屋よりも狭いということらしい。
〔すまんな。実は、おまえが入院中に一度、家に帰ったんだ。ここのスタッフと一緒にな〕
「そうなの?」
なんでも、こちらで生活するために、衣類などの生活道具を運んだ。とのこと。
段ボールを開くと、私の下着や私服が綺麗に収納されており・・・ブラジャーなどを取り出して、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちになる。
思えば、私の記憶には下着を買いに行って、店員さんに相談したりしたことがあるのだけど・・・それも『リバースデイ』による捏造された記憶なのだと思うと・・・怖い。
そればかりか、目の前に実物がある・・・というのが、何よりも怖い。
リバースデイによって、16歳までの記憶は捏造されているばかりか・・・こうして生活する上で必要なモノまで揃っているのだから。
〔シェルの話しだと、普通はここまで細かく無いらしい。大抵は記憶だけで、衣服などが辻褄合わせで変化している事はないそうだ〕
「え? でも、私・・・」
自分の下着を見て、困惑する。
〔おそらくは、俺とアバターの違いだ〕
「お養父さんと、アバターの違い?」
私のお養父さんは『夜乃次蔵』という高齢男性。として戸籍がある。
けれど、それは私のリバースデイによって捏造されたモノで、なんと、私のお養父さんは『地蔵菩薩像』だったりする。
お養父さんは、異世界人の戦争に協力を求められてこれを拒否し、まだ地球への転移装置が実験段階だった時に異世界転移して地球にやってきた異世界人。
そして、肉体を失い幽霊となったお養父さんは、異世界人式イデスバリーである『転生』を実行せずに、近場に転がっていた『地蔵菩薩像』に霊魂を納めて、眠っていたらしい。
どこかの工事現場に転がっていたそれが、北関東の田舎町である私の実家付近で、土砂と共に捨てられているのを・・・前世の私が拾い、掃除し、設置していた。
この縁で、前世の私は『転生』をして、今の私になった。
〔俺は、この世界に魂を適応させた異世界人なわけだが・・・シェルは、この世界で活動するためのアバターを介しているだろう?〕
「うん」
〔つまり生身の身体・・・いや、石像の身体で生身っていうのも御幣があるがな? ここは一つ、生身ということで流してくれ〕
「う、うん・・・そうだね・・・」
ちょっと変な笑い声が出た。
〔つまり、俺は生身でユキトの前世にイデスバリーを施した。しかし、シェルたちは生身ではなく、アバターを介してイデスバリーを施している。という、この違いが原因の一つだろう〕
「・・・え、それって?」
本人が直接イデスバリーを行っているか、道具を介して行っているか、の違いということ?
〔すまんが、今はこれ以上の事は言えないんだ。情報不足で推論の域を出ない。明確な違いを述べるなら、俺とシェルたちのアバターという差が、原因の一つ。ということのみだ〕
「そっか・・・」
あ、そういえば・・・ニャランさんも「あなたほど光っていなかったように思う」とか言っていた気がする。
もし、お養父さんとシェルさんたちのイデスバリーに差があるのだとしたら、私は・・・過去に存在した先輩方とも、何かが違っているということ?
「どんな違いがあるにしても・・・少なくとも夢じゃない実物のニャランさんと互角に戦えるようにならないと、自分を守るのは難しいんだよね」
夢の中では、何とか引き分けに持ち込めたけど・・・実際は刀をアッサリと砕かれて、何もできずに掴まってしまったのだから。
〔大丈夫だ・・・新人で初めから怪獣怪異の脚と首を斬り落とせるなら、歴代でも最強格に成長する可能性は十分にある。と、シェルが言っていた。敵は強いが、焦っても身に付かないからな。自分にできる事から始めて、今は先輩方に頼っておけ〕
「・・・うん」
私を守ってくれる人がいる。
リザドラルさんが、そうして大怪我を負ってしまったけれど・・・強くなって、今度は一緒に戦えるようになりたい。
〔そういえば、おまえは変身を解かないのか?〕
お養父さんに、ジッと私の姿を見つめられ、不思議そうな顔で聞かれた。
「あ、えっとね? 夢毒の影響があるうちは、変身を解くのは危険だから。ってことで、変身を解くための言葉を教えてもらっていないの」
〔そうなのか? 毒は血と一緒に吐き出した。って聞いたが?〕
「全部ってわけじゃなくて・・・夢の中で毒と戦った時にいくつか、私の中に浸透して残っているの。それで、ちょっと油断していると・・・」
と説明するべく、あの時の事を振り返ってしまったために夢で刷り込まれたイメージが再浮上して・・・私のグローブ、ブーツ、ボディコン衣装の胸回りが脱げる。
〔・・・ぉぉ〕
「こ、こういう感じで・・・油断していると・・・露出しちゃってね?」
お養父さん相手でも、このように不意打ちな露出は恥ずかしくて顔に沸騰するように熱くなる。
左腕で胸を抱えるように隠しつつ、腰に追加装備したポーチから処方された薬を取り出して、同じくポーチに入れた水筒の水で飲む。
刀を提げる腰のベルトに、異世界技術で作ったアイテムポーチという四次元なポケットみたいに道具が入るポーチを支給してもらい、こうして薬と水を常備している。
アリアネルさんから「脱衣発作が起きたらすぐに飲むように」と言われている。
うー。
ニャランさんが「あら~。エッチな子ね~」と高笑いしている姿が目に浮かんだ・・・許すまじ。
〔それなら、戦闘衣装は脱いでおいて、私服を着ておけばどうだ?〕
「ううん。とりあえず、こういう事は過去にも事例があるので、慣れておく方がいい。って・・・」
〔えぇ・・・〕
酷なように思えるけれど、過去の例として、戦闘中に毒を受けた人が唐突に服が脱げてしまって、羞恥心で動けなくなった所を敵に殺到されてしまい、そのまま連れ去られてしまった。などがあるらしい。
例え、全裸になったとしても、恥ずかしくてどうしようもないとしても、逃げ帰るだけの余力を持つことが重要なのだそう。
私の場合、敵に転生するための道具として狙われている以上は、とにかく羞恥心に慣れることが必要だ。と言われている。
「脱衣発作は、必ず脳裏にイメージが浮上してくるから、即座に露出して恥ずかしい箇所を隠せるようにする訓練と思え・・・とも言われたんだけどね?」
〔・・・怪異と戦うっていうのは、とにかく大変なことのようだな〕
敵が、ただ私たちを捕食するような怪物であったなら、こんな気遣いもいらなかったのだと思うけど。
敵が、とにかくエッチな目的を主にしているせいで、こういう対策が必要というのが・・・。
「はぁ・・・」
〔ま、とりあえず昼飯でも食べにいくとしようか〕
喋りながらも、荷物の整理整頓は終えたし、時間もちょうどお昼時・・・うん。
「じゃあ、食堂に」
▽
食堂。
先日、私の歓迎会を開いてくれたこの場所は、今は誰が見ても食堂だと分かる賑わいを見せている。
歓迎会の途中で、食堂のボスという『イデスバリー・フードプロセッサー』さんに、お寿司セットのお礼をしっかりと言った。
ちょっと顔を赤くして、気恥ずかしそうにしていたのをよく覚えている。
見た目は人間なのだけど、背中を始めとして身体の各所から料理に必要な道具が出てきたりするアンドロイドなロボット系戦士で、全武装解放モードは千手観音?と見紛うほどの調理器具フル稼働状態となり、料理風景は目が離せないほどの神業だった。
券売機で今日の日替わりランチ券を購入し、トレイを手に並ぶ。
「あ? どもども、次蔵さん」
リザドラルさんの声が聞こえたので、そちらに顔を向けると・・・どこかで見た事のある大学生ぐらいの男性が「にかー」という顔でこちらに歩み寄ってきた。
・・・えーっと?
〔おう。リバト・・・こないだは助かったぜ? あの資料で、イデスバリー・キャノンの二号機も完成までもう少しってところだ〕
お養父さんの知り合いの人か・・・研究室の誰かかな?
「もう完成間際ですか!? おっほ。さっすが~ッ」
えーっと・・・いけない。
秘密結社メシア日本・東京支社に務めている人の顔と名前を覚えよう。と、頑張っているけれど・・・変身時の姿と変身時の名前を優先して覚えているので、人間時の顔と名前が・・・出てこない・・・。
一度見たら、忘れない。って人も何人か居るのだけれど・・・。
「ま、お役に立ったなら、何よりですよ・・・ん? お! ナイトメアちゃんはとうとう退院したんなー? おめでとー。退院祝いとかなんも考えてなかったんなー」
・・・その喋り方。
「ん? どしたん? 俺の顔になんかついてる?」
「・・・リザドラルさんですか?」
「んー? ・・・うん。俺リザドラル。人間名は『麻野リバト』やで」
・・・。
・・・・・・あ。
「そうだ! そうです! あの時の調査員さん! どこかで見た事ある顔だなって思ったんですよ・・・ごめんなさい。なぜかリザドラルさんと重ならなくて・・・」
誰だか分かって嬉しくなったのだけど、そこまで気づかなかったことが恥ずかしくなって顔に熱が籠るのが分かった。
しっかりと頭を下げて謝罪し、一応の言い訳をする。
樹木憑依霊に襲われた後にも、変身を解いた姿で見舞いに来てくれていたことを思い出した。
「ま、リバトよりもリザドラルで接した時間の方が多いかんなー。それもまた、よし!」
・・・というか、不思議と印象に残らない顔立ちをしているから、とも思える。
不思議・・・こうして顔をジッと見ているのに、記憶を素通りしていく感覚がある。覚えておくのが難しい・・・。
「・・・ところで、二人ともこれから昼食?」
〔ああ。ちと、荷物の整理をしていたんでな〕
お養父さんが答えると、リバトさんは「にぱー」という顔になって続けた。
「なら、俺もご一緒させてください。おねがいします」
お養父さんが、私を見たので・・・頷き返した。
〔いいぞ。席を確保しておいてくれ〕
「了解です」
・・・人間時の喋り方が、なんだか変に感じる。
▽
リバトさんが確保してくれた席は、食堂の端っこにある四人掛けテーブル席だった。
食堂の中央にある長テーブルを避けたのは、混雑しているからというのと、なにかコソコソと話をしたいのかな?と邪推する。
私とお養父さんが隣り合って座り、お養父さんの向かいにリバトさんが座る。
「ところで、二人はなんだか仲良しなんですね?」
「ん? うんうん。イデスバリー・キャノンをきっかけにねー」
〔そうだな。例のコモドラル?って形態で、キャノンを運用したのをきっかけにな〕
ああ・・・キャノン自体が重いから、リザドラルさんが怪人姿からコモドドラゴンみたいな形態に変身して、その背にキャノンを載せた・・・あの時の・・・。
「ラナタスカ先輩を乗せて、ナイトメアちゃん救出のためにキャノンを使ったんだけど・・・そのデータが喜ばれてねー。あの後、何度かデータ取りを手伝ったんだよー」
〔おかげさまで、キャノンを車両と一体化させて運用することが決まり、リバトに日本の車両に関する資料を集めてもらったんだ〕
あー、さっきお養父さんが言っていた資料って、そのことだったんだ。
「それで、わずか数日で完成目前て・・・」
〔そんなに難しいことはないさ。地球の技術は俺らの世界と比べれば古過ぎるくらいだからな。問題なのは、地球の技術を可能な限り取り込むことだ。八割方を地球技術で、残り二割を異世界技術にする。っていうのが、面倒この上ない〕
そんな決まりが?
「そんな決まりがあるの?」
「決まりって言うよりは、異世界技術の比率が多過ぎると正常に機能しないっていう問題があるんよー」
〔俺たち異世界人と同様で、異世界技術っていうのは正しく存在できないみたいでな。アバターに武器を持たせられなかったのは、そういう理由らしいぞ〕
そういえば、シェルさんたちアバターによる調査隊は武器を持てなかったと言っていた。
その理由も入院中の座学で習っている。
なんでも、異世界人がこの世界では問答無用で幽霊になるのと同じで、異世界武器などの道具類はガラクタに変換されてしまうらしい。
世界中に分布するオーパーツの大半が、実は異世界から転移させた道具類の成れの果てなのだとか。
「そっか、だから地球技術の大半を混ぜ込まないと、異世界技術が機能しないんだ・・・」
〔そういうことだな〕
この地球世界と、お養父さんの故郷である異世界は、根本的な創り?が違うから、純度100%の異世界産は存在できない。そのための技術合体。
うーん・・・そんな高難易度の研究を、お養父さんはわずか数日で完成目前まで進めていると?
〔・・・ところでリバト。おまえ、昼飯がカップ麺なのか?〕
お養父さんの言葉に、私はジッとリバトさんのトレイを見る。
どこでも買えそうな赤いパッケージのきつねうどん。のカップ麺と、お湯が入っているケトル。
「ま、ま、ちょっと今月分のお金に余裕が無いもんでー」
・・・お金に余裕がない?
結構な高額給与を貰っているはずなのに?
〔給料は、かなりいいんじゃないのか?〕
「自分ルールっすなー。一か月に使うお金の上限を決めて、貯金してるんすわー」
へぇ・・・そっか。将来に向けての貯金・・・結婚とか、子供ができるとお金はかかるというし。
「今やってるソシャゲ! 夏の水着イベ用に貯金中なんすよ!」
・・・・・・。
〔そ、そうか・・・〕
カップ麺の蓋を点線まで剥がし、中から かやく や調味料などの袋を取り出して、それらの口を切りカップの中へと振りまく。
そうして、ケトルからお湯を注ぐと蓋を閉じて・・・その上に人形のような物を置く。
「ッま!? それ!!」
私が大声を上げたことで、食堂に居合わせる方々が一斉にこちらを注目する。
しかし、私は皆さんへ頭を下げて「すみません。大声出して」と謝ってとりあえずはやり過ごした。
「り、リバトさん? その人形は・・・」
「そ、そ、イデスバリー・ナイトメアちゃん尋問中フィギュア・・・をちょいと改造したんよ」
か、改造って・・・というか、それはシェルさんが全部回収したって・・・て、あの時は病室に居て、シェルさんが回収しないで飛び出していったから無事だったヤツ。
「ほら、ここ・・・手枷の部分をちょいと改造して、タイマーが置けるようにしたんよ。タイマーは趣味工作室で自作したんだけど、とりあえず『三分タイマー』と『五分タイマー』の二種類ね」
説明しながら『五分タイマー』のボタンを押す。
それにしても、よくこんな改造ができましたね・・・。
「とはいえ、まだ色は塗れてないけどねー」
それが唯一の救いな気もする・・・色を塗られていたら、どういう仕上がりだったか気になるけれど、それよりも恥ずかしいばかりだもの。
「んで、ちょっとばかり、ナイトメアちゃんにお願いがあるんよー」
私に?
「なんでしょう?」
すると、スマホの録音アプリを起動させてからテーブルに置き、こちらに差し出してくる。
「二つほど声を吹き込んで欲しい」
キリッとした顔で、ちょっとだけ雰囲気がイケメンになった上に、声まで凛々しく聞こえる。ズルい。
「一つは『三分たったよー』ともう一つは『五分たったよー』で、おねがい」
「嫌です」
沈黙。
「そこをなんとか・・・」
「嫌です」
静寂。
「もうひと声・・・」
「無いです」
無心。
≪ピピピピピピピピ≫
タイマーが鳴ると、リバトさんはタイマーのボタンを押して止める。
「こんな感じで、電子音のまんまなんよ・・・ね? ね? この通り・・・お願い!」
「嫌です。・・・ほら、早く食べないと麺が伸びますよ?」
まったく。
そんなつまらない事を頼むのは止めて欲しいです。
・・・どうせなら、目覚まし時計に声を吹き込んで欲しいとか言って欲しい。そうすれば、私にも。って言えるのに。
カップ麺・・・私、あんまり食べないし。
「はー。それじゃ、しゃーないんなー」
スマホを引き下げて、録音を停止するボタンをタップ。
そうしてポケットへしまうリバトさんは、カップ麺の蓋を全部剥がして、油揚げをスープに漬け込みながらうどんをかき混ぜる。
そして、静かに啜り始めた。
「ところで、話しは変わるんだけどー」
うどんを「ずぞーっ」と啜りながらも、口の中でうどんを噛み砕きながら、リバトさんが話を変えてきた。
「午後からの予定は? 空いてるかいなー?」
・・・これは、お誘い?
「・・・そ、そうですね・・・一応、リハビリも兼ねたトレーニングをしようかと。ほら、誰でも使っていいトレーニングルームがあるじゃないですか?」
「おー。なるほどね・・・それなら都合がいいや。俺も付き合っていいかな?」
!
「え、っと・・・リバトさんが、午後・・・大丈夫なら」
「うん。俺、今は市場調査で他県に行ってることになってんだけど、すでに終わってるから暇があるんだよねー」
・・・えぇ?
予定よりも早く仕事が終わったから、午後は遊ぶ。って言っているようなものでは?
そういうの、いいの?
「ど?」
「・・・そ、それで問題ないなら、ぜひ・・・」
「そ? ありがとねー。俺も鍛え直さんとーッ? ランボーとかいうのにアッサリ負けたし・・・先輩として、もっと頼られる男にならんとなーってね」
・・・私を逃がすために、勝ち目が薄いと分かりながらも身体を張ってくれたリザドラルさんの背中を思い出す。
もっと、自分が強かったら・・・。
「・・・十分。頼れる先輩だと思いますよ?」
出来うる限り、小声で呟いてみた。
「ん? 今、なんか言った? ちょいと聞き取れなかったんだけど?」
きゅ、急に恥ずかしくなってきた・・・こ、ここは誤魔化しておこう。そうしよう。
「えーっとですね・・・お互いに強くならないと。ですよね?」
もっと堂々とできたらいいんだけど、なんでこんなに恥ずかしいって思うんだろう。
「お、いいね! 一緒にトレーニングして、次は撃退できるように頑張ろうぜー」
「はい! 頑張りましょう!」
断る理由も無いし、せっかくのお誘いだし、私は笑顔で受けることにする。
「んじゃ、お昼を食べたら一度部屋に戻って・・・何か準備するもんがあれば準備してからエレベーター乗り場で待ち合わせ。でどう?」
「分かりました。それで大丈夫です」
「オッケー」
そうして、待ち合わせの約束して昼食を食べる。
うどんを啜っているリバトさんの様子は、とても「にぱー」っとしていて、リザドラルさんなのだとよく分かる雰囲気を感じた。
そんな笑顔に、私も自然と笑顔になっていた。
〇
約束通り、エレベーター乗り場でリザドラルさんを待つ。
お養父さんは、午後から仕事に戻るから。と、研究室へ帰っていった。
トレーニングをしに行くのだから、タオルなどは必要だろうと思い、アイテムポーチに詰めている。このポーチ、本当にすごい。
あとは、脱衣発作が起きない事を祈るばかりだけれど、それはもう仕方ないこととしてすぐに胸を隠せるよう注意するしかない。
・・・。
・・・それにしても、リザドラルさんが遅い?
時間で約束していたわけじゃないから、私の方が先に来てしまったのは仕方ないとして・・・。
「やー。おまたせー」
どこか間延びしたリザドラルさんの声を聞き、私はそちらの方へ顔を向ける。と、いつも通りのリザドラルさんがそこにいる。
「・・・変身して来たのですか?」
「うん。そっちの方がいいと思ってねー」
・・・あ、人間時の顔がまるで覚えられない事を気にしているのかな?
申し訳ない事をしてしまったかも・・・覚えるために努力しないといけないけれど・・・ついさっきのことのはずなのに、すでに人間時の顔がボヤけてしまうのは何故?
「それに、変身している君とトレーニングするんなら、俺も変身しておいた方がええかんなー」
にぱー。っという笑顔に、私も笑顔になる。
「やっぱり、変身時と人間時では運動能力も違ってくるってことでしょうか?」
「そうなんよー。人間時で出せる速度の何倍も速く動けるのが変身時の利点だかんねー」
思い返せば、浮遊霊と戦っている時も人間時ではできなかったアクロバットな動きが出来ていたから、やっぱり能力的な差っていうのがあるんだろうね。
「では、さっそくトレーニングルームへ行きましょう。一応、貰った施設案内は確認しましたけれど、とても広いので案内してもらえますか?」
「まかせろー」
エレベーターのボタンを押して、来るのを待ち、来たモノに乗って目的地の階へと移動する。
すでに乗っていた方々にも挨拶をして、邪魔にならないようリザドラルさんにくっつくよう身体を寄せる。
・・・というか、移動してから変身でもよかったのでは?と思ってしまうくらいには、エレベーターが狭くなる。
そうしてエレベーターが目的地の階で止まると、私たちは降りた。
狭くしてしまって申し訳ありません。という意味も込めて挨拶しながら降りると、同乗していた方々はどこか嬉しそうな顔で手を振ってくれた。
「まず、この階はトレーニングエリアと呼ばれていることは、知ってるん?」
「はい。資料にも書かれていましたから」
この階は、訓練施設が大多数を占める場所となっていて、北と西。南と東。の二つに区分される。
異世界の空間拡張技術によって、北から西に掛けてあらゆる環境下での活動を訓練するために山、海、砂漠、凍土、樹海、森林、豪雪、溶岩などが再現された通称『ジオラマルーム』と呼ばれる訓練エリアが並んでおり、他の支社から救援や増援などを依頼された時に派遣できるよう訓練をときおり行っているとのこと。
そして、南から東に掛けては、アミューズメントパークみたいになっており・・・南は屋内プールを始めとした多種多様なプール設備が並んでおり、東にはスポーツジムのような設備から運動公園のような設備などが配置されている。
そして、南と東の間にはレストエリアがあり・・・ここには食事処を始めとして、数多くの商業施設が入っているらしく、温泉や銭湯のような施設も、フードコーナーも、日用雑貨なども調達できるらしい。
なので、ココには年中、職員が訪れる。
怪異との関係から、不用意に外へ旅行などできないので、こういう場所で遊びつつ身体を鍛えるのだとか・・・。
資料を読んだ時から、行ってみたい場所だったので・・・こうして足を運べる機会を得られて嬉しい。
とはいえ、まずは身体をしっかりと鍛えたいので、東エリアにあるトレーニングルームへ向かう。スポーツジムのような器械を用いて、しっかりと体づくりをしたい。
「一応言っておくと、トレーニングルームは三つの部屋に分かれてるんよ」
「三つの部屋?」
そんなこと、書かれていたかな?
「そ。男性ルーム。女性ルーム。共用ルーム。って感じなんよー」
「それって、つまりは男女トラブルを避けるため?でしょうか?」
よくある話、スポーツジムでは男女間のトラブルが多いらしい。
男性が女性にアプローチして付きまとったり、その逆で女性が男性に付きまとう事例もあるとか、さらにはハラスメントも度々起きるという・・・。
いや、私は利用経験が無いので、ニュースやインターネットの情報から得たものだから、実際はどうなのか?を知らない。
けれど、そうやって三つにルームが分けられるという事は、実際に起こりうることなんだと思う。
「ま、男女トラブルを避けるのもそうなんけどー。共用は主に『恋人』だったり『夫婦』だったりが使うルームで、それはもう仲のいい二人がイチャイチャしているから、独身は血を吐くほどのストレスを蓄積することになるんで、男女別の専用ルームが増設されたんだってさー」
・・・そ、そっちなんだ。
「・・・ん? そうなると、私たちが使うルームは?」
「共用ルームやねー」
共用ルーム・・・『恋人』や『夫婦』が主に使う・・・共用ルーム!
いやいやいやいや、別に? 私たちはまだそういう関係にはなっていませんが? そう、先輩と後輩という関係でしかないわけですが? でも、ちょっとこう・・・一緒に特訓することで・・・。
「ったく、なんだって今日に限って、共用ルームに野郎が詰めてんだっつの・・・」
「ホントにね・・・男用ルームを使えって話しよ」
男女二人が、トレーニングルームがある方向より愚痴を吐きながら歩いてくる。
どうかしたのだろうか?と、私が考えていると、リザドラルさんが二人に声を掛けた。
「あ、ども! ドラゴニッカーさん。ドラグナーレさん」
人間の姿をされているので、ちょっと誰だか思い出せなかったけれど・・・男性が『イデスバリー・ドラゴニッカー』さんで、女性が『イデスバリー・ドラグナーレ』さんだと覚えた変身時の姿と名前が思い浮かんだ。
・・・正直、変身時の姿の方を優先的に覚えているので、人間姿になるとまるで分からない。名前も思い出せないです。
リザドラルさんが挨拶をすると、二人もこちらを見て不満げな様子を隠し、笑顔を向けてくれた。
「おう。リザドラル・・・と、ナイトメアちゃんか」
「あなた達、いつも一緒ね? もう付き合ってんの?」
「えっ!?」
ドラグナーレさんの言葉に、私の心臓が爆発したような衝撃が全身を駆け巡り、一気に思考が乱れてなんと言えばいいのか分からなくなり、硬直してしまった。
「いやー。先輩後輩の仲っすよー」
「そうなの?」
「ふーん。ま、他の連中からすれば、まだチャンスがある。と大喜びだろうが・・・」
ドラゴニッカーさんが、どこか呆れた様子になっている・・・と思ったら・・・。
「「あ」」
お二人は、何かに思い当たったような顔で互いを見合い、そして納得した顔になる。
「そうか、それで共用ルームに野郎どもが詰まってんのか」
「道理で、独身男子が殺到していると思ったわ・・・」
???
「なにか、あったんすか?」
リザドラルさんも「きょとーん」とした顔で尋ねる。
「ああ、おまえたちもトレーニングルームの共用部屋へ行くつもりなんだろう?」
「そっすねー」
「止めておきなさい。今の共用ルームは邪念を溢しまくっている男どもで満員だから」
「満員・・・なんですか?」
「そうだな。行っても引き返すだけだ。俺たちも、こうして引き返してきたからな」
お二人がそういうのであれば、間違いないのでしょう。
すると、今日はどうしましょうか・・・。
「・・・そうだ。ナイトメアちゃんは環境別戦闘衣装の確認などは済んでいるのかい?」
環境別戦闘衣装。
それは、私たちイデスバリー戦士に備わっている局地戦闘用の衣装を指す。
今の私が着ている服は、標準となる戦闘衣装となる。これは、全環境下で活動することができるものの、特に何かしらの恩恵があるわけではない。
溶岩などに落ちても、短時間なら耐えられるらしいし・・・凍土のような環境でも活動はできるけれど、寒さを完全には防げない。
そこで、各環境に対応した衣装に着替える。という能力が備わっているらしい。
最初期の頃は、そういう考えなどが無かったけれど・・・人類が世界を旅するようになると、この国ではこういう衣装が・・・この陸地ではこの衣装が・・・という願望が増えたことで、いつの間にかイデスバリー戦士に備わっていた変身能力の追加機能なのだとか。
で、この環境別戦闘衣装もまた、前世の『趣味』『嗜好』『性癖』が反映されるので・・・着替えてみないと、どんな姿になるのか分からないとのこと。
「あー。屋内プールの方で、環境別戦闘衣装の水着をついでに確認するんすなー?」
リザドラルさんが気づき、ドラゴニッカーさんが「にや」と私の顔を見て、そのまま視線を胸へと移動しながら笑う。
「おい? 彼女のどこに目を向けて笑った?」
ドラグナーレさんが、ドラゴニッカーさんの顎を掴んで頭を左右に揺らす・・・こ、怖い。
「お、落ち着け・・・顔から順に視線を落せば、視線が胸を通るのは当然のことだろ」
「ふん! どうだかな?・・・16歳でB9「わーッ!!!」―――」
私が声を上げて、それ以上の数値が声に乗るのを阻止する。
「・・・おい、個人情報を口走るのはダメだろ」
「そうだな・・・つい、すまない」
謝ってくれるところを申し訳ないのですが、私はそれどころじゃないです!
「と、というか! あの! わ、私のサイズ・・・ご存じなんですか?」
ドラグナーレさんが恥ずかしそうに顔を赤らめているところを申し訳ないのですが、どうやって私の情報を!?と、気になるので尋ねる。
知っているのは、あのフィギュア製造していた方々と取り押さえた一部の戦闘員だけのはず・・・。
「・・・あー。実はな? 前に君のフィギュアを勝手に作っていた連中が居たのは覚えているだろう?」
ドラゴニッカーさんが、ちょっと言いにくそうに教えてくれた。
リザドラルさんが持っている『イデスバリー・ナイトメアちゃん尋問中フィギュア』を作っていた愉快な仲間たちから、人形作成用データを取り上げた際の、彼らを取り押さえた戦闘員の一人にドラグナーレさんも参加していたらしい。
もちろん、個人情報なので口外はしていない・・・けれど、翌日には社内に広まっていたので、職員のほぼ全員が知っているのだそう。
と、ドラゴニッカーさんも同僚たちが興奮気味に話しているのを聞いて、参加していたドラグナーレさんに確認をした・・・という流れで知ったとのこと・・・。
「まぁ、予測数値ってことで、正確な値ではない。としても、結構な精度が出ているらしいからな」
「16歳で大人顔負けの・・・ということで、最初期型イデスバリーは凄いんだな。とみんなが納得したし、怪異が狙うのも分かる。・・・とね?」
「あー・・・羨ましいような、羨ましくないような・・・って、なんか言ってる人がいましたっけなー」
・・・あ、悪夢再び。
次回は、屋内プール。を予定しています。
一応、ヒロインのスリーサイズは目安として数値を設定してありますが・・・ここに書くか、作中で誰かに口走ってもらうか・・・というか、そういうのって書いていいモノなのかなと、 悩んでおります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




