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14 いわゆる『四天王最弱』

こんにちは。こんばんは。


このお話は、敵側に焦点を当てたモノとなっておりますので、ご注意ください。


この作品は、性的描写、不適切、不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。

あと、ご容赦ください。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

●-東京。某所-●


「はー・・・もう、ちょっと? 人手があればなーッ『光』を奪えたのになーぁ」

 ニャランは、自身の経営する酒場の一つに集まった同胞たちに向けて、わざとらしいため息を吐きながら愚痴を溢していた。

 和風居酒屋。洋風酒場。複数の店を東京都内で経営するやり手の経営者として、その道では顔が広いのがニャランの表の顔である。

 そのうち、一番最初に始めた店であるここは、自宅兼酒と料理の研究をする場所となっている。

 新作料理を集まった同胞らに振舞いながら、ニャランはウーロン茶をウイスキーグラスに注いで飲んでいた。

 そんな彼女の様子に、包帯を体のあちらこちらに巻いたミイラ男みたいな男前となったドタマが、怒り心頭。という様子で怒鳴り出す。

「人手うんぬんの問題ではないだろうが!」

 ニャランは、イデスバリー戦士たちのアジトである秘密結社メシアへの侵入を成功させ、最大の目的である『光』の奪取に成功していたのだ。

 しかし、あとは逃げるだけ。という段階で、イデスバリー・フェニックスの広範囲爆撃としか言いようのない大技を前に『光』を返してしまったのである。

 これが、ドタマが怒りを露わにする理由だ。

「せっかく奪った『光』を、なぜ手放したのだ!!」

「仕方ないじゃないのー。ドタマったら、イデスバリー・フェニックスと遊ぶのに夢中でさー? 若い子らに『光』の捜索させておいてさー?」

「うぐ・・・」

 先の怒りも、ただ一言で霧散する。

 言い返すことのできない自身の失敗を指摘されてしまえば、黙る以外の行動など無いだろう。

「裏空間に、だーれも気づかないしー。私一人で潜入してー。私一人で迎撃に出て来た敵を蹴散らしてー。イデスバリー・カマイタチくんと激戦の末に辛勝してー。マジで危なかったんだからぁ・・・はいくそー。二度とやらんわこんなくそけーかくー。ってね」

 また参加しそうな様子で、ドタマへ嫌味を畳み掛けていく。

 もう、ドタマは汗で全身が濡れている様子だ。

 先ほどまでの態度も委縮し、ただただ下を向いて泣きっ面を隠すことしかできなくなっている。

 まさか、支社長室が秘密結社メシアへ通じる門だとは気づかず・・・いや、イデスバリー・フェニックスが居なければ、気付けたはずだ。と、自分を必死に慰めていた。


「おやおや? カマイタチくんと戦いましたか・・・彼? どうでした? 懐かしいですねぇ・・・カピバラのきみを巡り、切磋琢磨した日々が懐かしいです」

 昭和の時代。

 何もかもが熱かったあの時代が、今、まさに、目の前に蘇るような情報を得て、ナンシーはニャランの新作料理を頬張る。

「ナンシー。殺すッって思ったわよ? マジで強いんだけどあの子・・・余計なことしてんなよ」

 呑み込もうとした料理が喉に詰まって、ランボーから水を受け取り流し込んでなんとかする。

 ニャランの『ナンシー。殺すッ』というガチギレボイスには、圧が強過ぎて誰もが顔を青ざめさせた。

「つか、切磋琢磨とか言うけど・・・カピバラの獣人戦士に自己アピールしてただけでしょうが。それで? 私の癒しのために?っで、告白してフラれた? 当たり前だっつのよ」

「・・・あの、その話は当時、何度もしましたから・・・ね?」

「ふん! 少しばかり鍛え直しておかないと、マジでヤバいと思ったわ。結構、鈍ってるわ・・・体形維持にジムとか通ってて良かったわよ」

 自身の店も軌道に乗っている現在、多少の自由時間は得られるために、スポーツジムなどに通っていたのが功を奏した。と、息を吐く。

「そういえば、あの頃のナンシーはやたらと熱血漢だったな?」

 ランボーが、ふと思い出したように言うと、ニャランはこれに同意しながら嫌な事を思い出した。と言わんばかりの顔でいう。

「そうそう。ドラマの影響よね? 当時、憑依していた身体の趣味に引っ張られたんでしょ?」

 今と、さほど変わらないくたびれたサラリーマンみたいな人間だったが、妙にドラマ好きで隙あらば昨日のドラマの話をしようとして来たことを思い出す一同。

「はい。彼は昭和ドラマが本当に好きでしてねぇ・・・確かに、今にして思えば妙に熱血教師でカマイタチくんを鍛えている感じでした」

「・・・あんた、ホントに余計なことしかしないわねぇ」

「申し訳ない・・・」

 ニャランもナンシーも、口からでるのはため息だけだった。


「しかし、そうなると『光』はどうするのだ?」

 鍛え上げた筋肉と、程よく日焼けした肌の艶によって浮き彫りになる体格が、武人という感想を一目で引き出せる男・・・ワンゴが料理を頬張りつつ尋ねる。

 彼は、結局は手に入れ損ねた『光』を今後どうするのか?と、話をしたいがために集まりへ参加しているわけだが、愚痴ばかりの様子に少しばかり飽きを感じていた。

「どうもこうも・・・私はしばらく出るつもりはないわよ? 毒も致死量ギリギリで打ったしさ。体も見た目よりは随分ボロボロなの。カマイタチくん、マジで半端ないわ・・・」

 ギロッとナンシーを一瞥しつつ、ワンゴの問いに答える。

「ふむ・・・ドタマは?」

「私もしばらくは出られん。イデスバリー・フェニックスの必殺級を受けてしまった上に、多くの同胞らに有給を使わせた・・・どうやっても一か月以上は動けん」

 ワンゴは唸る。

 次があれば、自分も参加しよう。と思ったからだ・・・というのも、ドタマに大怪我をさせたイデスバリー・フェニックスや、ニャランが高評価をしているイデスバリー・カマイタチと戦ってみたくなったからである。

 ずいぶんと腕の立つ者がいるようだ。ニャランが言う通り『光』が弱いからと、雑魚と評価するのは早計なのかもしれない。と考え直したこともある。

 昔は、ゴロゴロと存在していた強者たち。

 あの時代は、強い戦士を求めて片っ端から『光』を攻撃して回る武者修行をしていたものだった。

「懐かしい。あの時代に劣らない戦いを味わえるといいが・・・」

「・・・いや。だからって昔みたいに武者修行するのは止してよ? アレで、連中が秘密結社みたいな組織を立ち上げたりして、いろいろと面倒くさくなったんだからさぁ」

「ふっふ。そんなのは私一人のせいでは無かろうよ」

 そう。

 ワンゴに限らず、世界中でイデスバリー戦士を襲う怪異は後を絶たなかった。

 理由は襲う者の数だけ存在し、彼らは組織を作って対抗し、今では世界中に名を轟かせる表企業で秘密結社メシアを支えているのだ。

 

「そんな話よりも、ニャラン。毒を致死量ギリギリで打った。と言ったな?」

「言ったわね」

「誰に打ったのだ?」

「え? そりゃあんた・・・『光』にだけど?」

「なんだと! なぜそれをもっと早くに言わないんだ!!」


 ドタマが、再び怒鳴りつけると・・・今度は口の端を釣り上げて悪人面の笑顔を見せた。

「貴様の毒が入ったのであれば! かの『光』は精神汚染できたも同然!」

 ニャランの実力を考えれば、新人戦士だろう『光』が勝つ要素はない。という信頼から、ドタマは勝利を確信していた。


「いや、負けたわよ? 私の夢毒はね」


 なーにをあたりまえのことをー。と、そう訴える顔になっているニャランを、呆然と見つめるドタマ。

「は? 負けた? 毒が?」

「そ。負けたわ・・・」

 これに、居合わせた同胞たちが息を呑む。

 ただ、一同の反応を見たニャランは肩を竦めて見せた。

「私だってビックリよ?・・・途中まではイイ感じで追い詰めていたんだけどねぇ・・・持ち直されて、夢の中っていうハッタリを看破されてから猛追してきて・・・引き分けってことにしてきたけれど・・・私の負けよ」

 苦笑するニャラン。

 すると、それまで関心を持っている様子もなく、料理を熱心に食べていた青年が目を輝かせながら声を上げた。

「ニャラン姐さんが、毒とはいえ負ける!ってことは、その新人戦士の『光』ちゃんは、相当な実力者ってことっすか!?」

 年の頃は二十代。

 ラフな格好は現代人をよく表した服装だ。

 髪も茶髪に染めており、一言で『チャラい』という感想を抱く様相をしている。

「いいえ。少なくともこっち側だと、ザ・新人。ってレベルだったわ。持ってた武器も簡単に破壊できたしね」

「あ、そっすか・・・」

「でも、夢では違った・・・精神力だけは相当なレベルだったわ」

 思い出すだけでも、異常なほどに強かった。

 あと一歩まで追い詰めたはずだったのに、あそこから引き分けと言える所まで覆されるとは予想もしていなかった。

 だが、彼女の名前を知って、それも納得できた。

「で? その『光』ちゃんって、名前はなんて言うんです!?」

 ギクッと。

 今まさに、彼女の名前を思い出していたところだったので、年若い青年の問いに思わず反応してしまったのだ。

「あれ? その辺も分からなかった感じっすか?」

 いや、知っている。

 知っているからこそ、情報を独占しておきたい気持ちがあり・・・それ以上に・・・。と、考えて頭を振った。

 人間ならいざ知らず、怪異である自分が考えるべきことではない。


「変身時の名前は『イデスバリー・ナイトメア』と、通常時・・・つまりは変身を解いた人間時の名前を『夜乃雪乙』というようよ。ちなみに、雪の乙女と書いて『ユキト』と読むわ」


 迷いを振り払うように、ニャランは新たに得た情報を開示する。

 これに真っ先に喜びを言葉にしたのはドタマだった。

「ほぉ! 雪の乙女か・・・ふはは! 私の『光』に相応しい名前ではないか!」

 ・・・そういう所がキモイ。とニャランは渋い顔をする。ドタマに限らず、同様の同胞は多いのが悩みどころだ。

 しかし、先ほどの青年はドタマとは違った。

「へぇ・・・ナイトメアちゃんね・・・悪夢か・・・ニャラン姐さんにとっては、まさに!って感じっすね!」

「何が言いたい?」

「いんやぁー? 姐さん・・・女の子には殊更、優しいから」

 見透かされた。

 いや、別に隠していることではない。と、付き合いの長い連中を見れば、性分はバレていると再認識できる。

 

「つーことで、俺も挑戦してみていいっすかね!」


 この集まりで、一番の若手であるチャラい青年が・・・何を血迷ったのか?と手を挙げた。

「挑戦とは?」

 ワンゴが、鋭い目で彼を睨む。

「この、人間憑依霊の若手ナンバーワン!な俺、『ウイス』が! イデスバリー・ナイトメアちゃんをゲットしてくる挑戦っすよ!」

 ヤル気を出したことは、先の反応で分かっていたが・・・。

「アンタじゃ無理よ・・・」

「そうだな」

「そうですねぇ」

「そうだぞ」

 ニャラン。ワンゴ。ナンシー。ドタマ。ランボーは無言なれど、その目は「無理だ」と語っている。

「ちょ、ちょちょ! せっかく若手ナンバーワンがやる気出したんすよ? 頑張って来い!くらい言ってくださいよ!」

 ウイスという自称『若手ナンバーワン』が、場を盛り上げようと頑張ているが、全員がシラケた目で彼を見る。

 当然だ。

 すでにドタマが言った通り、先日の襲撃で多くの同胞が有給を使ってしまったので、しばらくは動けないのだ。

 秘密結社メシアは、そう易々と侵入できる組織ではない。これまでに、遊び感覚で潜入しようとしたものは、軒並み囚われて帰らぬ魂となった。

 しっかりと協力者を募り、杜撰ながらも襲撃計画を立てて一気に攻めるでもない限り、彼らが守る『光』を奪うのは不可能と言える。

 

「もいっすよ! 俺は俺なりにやらせてもらうっすからね!」


 出鼻を挫かれた気分であるウイスは、不貞腐れた様子で部屋を出て行った。

「・・・どう思う?」

「若手で、腕が立つのは認めるけどねぇ・・・せいぜい『ヤツは四天王最弱・・・くくく』程度だからね」

 それも若手で四天王を語るならば・・・の話しだ。

 古参である彼らからすれば、若手にしては強い子・・・程度の認識でしかない。

 ウイスよりも総合的に優秀なモノはそれなりにいるからこその『四天王最弱』という評価なのである。特に、頭が・・・。

「好きにさせておきましょう。私は、傍観者に徹しますよ」

「あんな調子で上手く行くはずが無かろう。私ですら、失敗したんだからな!」

 ワンゴの問いに、ニャラン。ナンシー。ドタマが同じような事を述べる中、ランボーはフッと笑みを浮かべて言う。

「そうでもねぇよ? ああいうのが、何やらかすか分からないから・・・世の中は面白いんだろ?」

 これに、全員がため息を吐いた。


「「「「後始末をするのは、誰だと思っている――のよ?」のだ?」ですか?」んだ?」


 ・・・それ以上、何も言えなくなったのは、語るまでもない。





 ニャランの自宅兼元店舗を出て、しばし歩いた先にある小さい公園前まで移動すると、一台のタクシーが停車していた。

 それを見て、ニヤッと笑みを浮かべるウイスは・・・タクシーへと近づいて、後部のドアをノックする。と、開いた。

「ども・・・お待たせしました。ハネーマさん」

 タクシーの運転手に挨拶をするウイスは、そうしてタクシーへと乗り込む。

「どちらまで?」

「対象の名前は『夜乃ユキト』で、変身時は『イデスバリー・ナイトメア』というそうですよ。どうです? 一緒に行きませんか?」

「・・・車内もドライブレコーダーで録音録画されている。コミケなどの個人的な誘いは仕事中にしないでくれ」

 言われ、ウイスはドライブレコーダーを見た・・・。

「・・・えっと、す、すんません」

「ふぅ・・・お客さん。どちらまで行かれますか?」

 一応、顔見知り。という体裁で、ドライブレコーダーに対する誤魔化しをしておく。何かの拍子に警察などで聞かれた時の言い訳にはちょうどいい。

「あ、いや・・・降ります」

「は?」

 ハネーマは、まさに人殺しの圧を以て『は?』という言葉を放った。

「・・・え、あの・・・」

「お客様? ご指名されたのですから、利用されていただかないと困ります・・・ね?」

 先の会話で、顔見知りだという事が記録された以上、ある程度の遠慮はいらない。

 だから、凄味のある笑顔でタクシーの利用を強要する。

「あ、えっと・・・最寄りの駅まで・・・お願いします」

「かしこまりました」

 

 



 せっかくとタクシーで最寄りの駅まで来たのだから、ここで働いている先輩にも声を掛けておこうと、隣駅までの切符を購入して中へ。

 そうして、ホームまで降りると・・・もうすぐ入ってくる電車のために、黄色い線の内側に居ない者を注意している駅員を見つける。

「ども、ガギマさん」

 今まさに、ホームへ電車が入ってきたため、ウイスの声はかき消されてしまった。

 しかし、ガギマと呼ばれた駅員が不意に振り向いたことで、気付いてもらえる。

「お!?と、おどかすな・・・どうしたウイス。なんか用か?」

 まさか居るとは思っていなかったようで、本当に驚いた顔をされたことに、ちょっとだけ凹んだウイスである。

「あ、えっとっすね! 例の『光』を取りに行こうと思うんすけど~」

「ああ、それか・・・有給はしばらく取れん。ドタマにも言ったがな。つか、取れるんだったら先日に呼ばれた時、参加してたっつの・・・ったく」

 なるべく、愛想よくしてみたのだが、返答はとても渋かった。

「そ、そうっすか・・・」

 そのまま、電車へ乗って隣の駅へ向かった。





 隣駅で降りて、改札を潜り、道を歩く。

 と、ここで降りる場所を間違えた。と気づいたウイスは、引き返して踏切にて道が開くのを待つことになった。

 目的地は、駅近くにある個人経営で人気の弁当屋。

 開かずの踏切で有名なコレを数十分も待つこととなり、なんでこんなところで立ち続けているのか?と自問し続けることとなって、ようやく踏切を渡る。

 そうして、目的地である弁当屋に到達すると・・・行列ができていた。

「はい! 幕の内弁当ね!」

 目的の人物を見つけ、ウイスは行列を掻き分けて店へ入ろうとする。

「てめぇ! 割り込みしてんじゃねぇぞ!」

 ガラの悪いサラリーマンに怒鳴られて、ぶち殺してやろうか?と考えるも、ここではマズいと思い直し、黙って並ぶことにする。

 再び数十分を待ち、ようやくと目的を果たせることに笑みをこぼした。

「ども! ランダさん。ちょっとお話が―――」

「うるせぇえ! 飯時に話しなんかできるかぁー! ご注文はいかがされますかーぁ!!」

 怒鳴られ、周囲に目を向ければ「早くしろよ」という睨みが集中してきたので、ウイスは顔を青くしつつ、弁当を注文する。

「の、海苔コロッケ弁当一つ」

「毎度! ありがとうございますぅう!!!」

 ちょっと、泣けてきたウイスである。





 弁当を提げながら、行きつけのゲームセンターへと入るウイスは、ここで働いている同じ若手の後輩に声を掛ける。

「よ! ちょっと話しいいかな?」

「どうしました? ウイスさん。あ、長話は無理ですよ? 短くお願いします」

 仕事中だ。

 どうどうと長話などできない。というのは、ウイスとて分かっていることだ。

「例の『光』を、盗りに行かね?」

「あ、すみません。先日、ドタマさんに声を掛けていただいて・・・しばらく無理なんです」

 ・・・ウイスの顔から、そして表情は抜け落ちる。

「ホント、すみません」

「いや、うん、いいんだ・・・うん。しゃーない。また誘うから、よかったら参加してくれな」

「はい! ありがとうございます」

 大丈夫。

 まだ大丈夫。

 まだまだ知り合いはいる。


「ごめん・・・こないだの襲撃に参加したからさー」


「すみません。つい先日にドタマさんの計画に参加したんで・・・」


「ムリムリ。先日の襲撃で怪我してんだよ」


「ごっめーん。その『光』って女の子なんでしょー? 転生するのに面倒な手順が必要だしー。私はパスパスーッ♪ まーたさそってねー♪」


「まさか、この時代に『光』が再誕して・・・しかも女と来た・・・諦めずに、私も男に憑依しておけばよかったと思っているわ・・・」


「え? 無理ですよ。学校あるんで・・・」


 ・・・まだ、知り合いはいる。

 東京都内を歩いて渡れば、同胞は山ほど居るのだ・・・だから、一人ぐらいは参加してくれるはず。

 

 しかし、ウイスはもう心が折れていた。






「もぉ、いいよもぉおーッ! なんでみんな俺が声を掛けても二つ返事で参加してくれないんだよぉお!」

 ニャランの店に戻ってきたウイスは、そうして我慢していた感情を爆発させた。

「あったりまえじゃないのよ・・・」

 しばらくは戻ってこないと思っていたら、あっさりと戻ってきたことに呆れかえるニャランである。

 すでに、ドタマやナンシーとランボーは帰宅しており、ニャランの自宅兼元店舗にはワンゴが居るのみ。

「あったりまえって言いますけどね! 俺、若手! ナンバーワン! なんすよ!?」

 それがどうした?と、思わず言いそうになるニャランを見て、ワンゴがすかさず割って入る。

「ドタマは、おまえより遥かに強く、憑依霊としても古参だ。積み重ねて来た信頼の厚みが違う。一枚二枚の紙など束とは言えん。が、ドタマは数百、数千の信用という紙切れを重ねて来た男だ」

 何を言ってんだ?と、ワンゴの言っていることを理解できないウイスは、ニャランに説明を求める。

「あんたの信用は薄っぺら。翻って、ドタマは分厚い広辞苑並みってことよ」

「鈍器ってこと!? すげぇ! さすがドタマさん!!」

 ・・・なんで広辞苑が鈍器になるんだ?という疑問を、ニャランとワンゴは抱くばかりだ。

 いや、確かに分厚い本は鈍器になるとは思うが・・・使い方が違うだろ。というツッコミを入れようかと逡巡し、やめた。

「でも、俺だってドタマさんには勝てる自信があるっす!」

「いや、勝ち負けで決まるもんじゃないでしょうが・・・」

 根本からしてズレているのは、今に始まった事じゃない。

 ウイスという若手憑依霊は、同期の若手に比べても非常に出来が悪い。

「そもそも、ドタマは怪異では古参の一画を担う男だ・・・若手でもトップクラスで強いとはいえ、我々から見れば、おまえは『四天王最弱』程度でしかないのだ」


「噛ませ犬ってこと!? 俺だって頑張ってんのに!?」


「頑張っていることは評価してあげるけどさぁ? 他人の信用と信頼を得るっていうのは、そう簡単なもんでもないわけよ」

 ウイスの主張に、ニャランは自分の経験を踏まえたアドバイスを始める。

「・・・人生ってのは、多くに認めてもらうまでがツラい道のりなわけよ・・・認めてもらうっていうのは、七転八倒の先にあるご褒美なわけなの!」

 人の上に立つ人物というのは、常に何かを得て、失って、取り戻すために奮起できる者たちだ。

 ウイスのように、そういう苦労を知らない者が上に立つと・・・碌なことが起こらない。だからこそ、苦労を経験することは大事なのだが・・・。


「・・・で? あんた、職は?」

「あ、辞めました! 俺には相応しくない仕事だと確信したんで! なんか、もっと楽して稼げる仕事ってないっすかね?」


 ・・・。

 ・・・・・・。

「・・・うん。除霊されてこい」

「酷い!!」

 期待に満ちた目をニャランへと向けていたものの、冷たい言葉に涙目となる。

「しかし、これからどうするのだ?」

 ワンゴが、ニャランの作った新作メニューのツマミを食べながら、日本酒を飲む。そうして、ウイスを見つつ問う。

「いや、やっぱり『光』は何としてもゲットしたいと思っているんですよ」

「違う。東京で生活をするならアルバイトでもしなければ難しいだろう? 他県にでも移り住むならまだしも、このまま東京住まいとなれば家賃に光熱費、食費に諸々掛かる。無職では居られんぞ?」

 あまりにも現実的な事を言われ、ウイスはウンザリした。

 そういうことは、この憑依している人間が散々と言われて、それがストレスで心に隙が生じ、自分という怪異が憑依する隙間となったのだ。

 本当に、そういう話はいらない。

 ただ、楽しいことを思う存分やって生活したいだけなのに、どいつもこいつもつまらない事を言う。

「・・・姐さん。なんか楽で高収入なアルバイトって知りません?」

「スマホでバイト求人を探せばいくらでも出るでしょ?」

「いやいや、最近のバイトは楽とか言って全然楽じゃねーもんばっかりですもん。偉そうに指示しかしねぇヤツとか・・・なんなんすかね?」

 ニャランは、そしてウイスというバカの相手が面倒になった。

 最近の子って、これからみんなこういうのばっかりになるのかしら?と、不安を感じずにはいられない。

「それで? ウイスよ。まずはどうするのだ?」

「そりゃあ、とりあえず求人でも探して、当面の生活費でも稼ぎますよ・・・」

「違う。かの『光』をどうやって盗るつもりなのだ?」



「さっきから話が噛み合わなすぎでしょうがぁあッ!!!」



 ワンゴは、日本酒を口に含んで・・・一息吐いた。

「ウイスは、何を喚いているのだ?」

「これが、現代ってことよ」

「そうか・・・難しい時代になったのだな・・・」





 ウイスは石を蹴飛ばしながら、そうして裏路地を歩く。

「住み込みで家賃、光熱費、食費諸々を差っ引いた金額で良ければ、雇ってくれるっていうけどさぁ」

 とりあえず、ニャランがアルバイトも見つからないようなら、ということで提案をくれたものの、ウイスはとっても嫌だった。

 昔も・・・別の憑依先で職が見つからず、ニャランの世話になっていたことがある。それはもう大変だった。

 ニャランの店は飲食系であるため、衛生管理だの、身だしなみだの、接客態度だの、と煩くてストレスがマッハだったのだ。

 そういうのが嫌だから、楽で大儲けできる仕事を探しているというのに・・・そういう謳い文句の広告に応募すると、偉そうなヤツが出てきて、偉そうにしやがるからムカつくばかり。

 自分に見合う最高の仕事とは、この憑依した人間でも出会う事無く終わってしまうのかもしれない。

 ああ、虚しい。

「いやいや、待てよ?」

 ウイスは、そして思いつく。

 自分が狙う『光』は、自分の転生先となる身体を産ませてしまえば用済みだ・・・しかし、これを用済みとして捨てるのではなく、商売の道具にすればいかがか?

「・・・やべぇ、俺、天才じゃね?」

 自分の天才的発想が、まさに神がかっている!と、これまでに出会うことの無かった才能と出会えた気になった。

 だから、思いついた商売というものが、どれほどに問題だらけなのかを想像もできない。

 今の世で実行しようものなら、道徳的、倫理的、法律的に絶対ダメな事柄である。そのことがまるで分かっていない。

 なぜなら、彼は怪異だから。

 人間の身体は憑依して使っているだけで、別に自分は人間というわけではない。

 つまりは、憑依している人間自体が、ウイスにとっては道具でしかないのだ。こうでもしないと、人間と交流も持てないし、霊のままでは誰にも相手してもらえなくてつまらないから。でしかない。

「んじゃ、善は急げっていうもんな!」

 まずは、秘密結社メシアへ侵入だ!



 ・・・と、ニャランは簡単にやったのだから、自分にだって出来るはず・・・。

 そうして、連中がいる表向きの企業近くの公園にて、ウイスは途方に暮れていた。

「いや、リバーシブル・フィールドかウィアード・フィールドを展開しないと、俺、能力使えないじゃんよ」

 憑依霊の彼は、そのことをすっかりと忘れていた。

 樹木憑依霊からこの社屋に関する情報を聞いてみれば、かの『光』の話を聞くことができてラッキーに思う。

 触り心地良くって、絞めると綺麗な声で悲鳴をあげてくれて、メッチャ可愛かった。

「それだけ?」と聞き返したら、もう話してもらえなくなった。

 一人、寂しく購入した弁当を食す。すっかり冷めていた。


「はぁ・・・どうやって侵入しようかなぁ・・・」


 大きなビルを見上げ、一人黄昏る。

 彼のラフな格好で、こんな時間に公園で弁当を食べている様子は、周囲からも目撃される。まだ若いのに、職も無いのか?と、憐みや侮蔑の視線が飛んで来る。

 この辺は、オフィスビルも多いせいで、多くのサラリーマンが行き来しているから、ラフな格好をしている彼は悪目立ちしていた。

「ち・・・すぐに億万長者になってやるからな? 覚えてろよ・・・」

 すでに、大金持ちとなる自分は想像できている。

 俺のアイデアは、最強の商売だから・・・と、なんの根拠もない自信で笑みを浮かべていた。

 

 最大の問題点は、秘密結社に入るためにはフィールドを展開しなければいけない。ということ。

 人間憑依霊としての能力を使うためには、超常的空間でなければいけないのだ。しかし、コレを展開するとイデスバリー戦士たちに気づかれる。

 それぐらいのことは、いくら彼でも分かっている。

 気づかれない程度の超小規模フィールドも展開できるが・・・正直、アパートの一室分サイズがギリギリ気づかれない許容サイズ。

 これで侵入するのは、まず無理だ・・・どうしたものか?

「・・・あー。明日考えよ」

 そうして、ウイスは・・・帰宅する。


 借りてるアパートの家賃を滞納したことで、荷物が外に積み上げられ、鍵は入れ替えられて部屋へ入る事も出来なくなっていた。


「もぉぉぉぉ、なんでだよぉぉぉぉおお!!!」


 

 


次回は、復帰。を予定しています。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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