11 何もできなくて。
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思いますので、お読みの方はご注意ください
あと、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
―――びー。敵の侵入を確認。敵の侵入を確認。非常事態発令。非常事態発令。非戦闘員ならびにバース・パーソンは避難室へ。非戦闘員ならびにバース・パーソンは避難室へ。戦闘可能人員は至急迎撃に出撃せよ。戦闘可能人員は至急迎撃に出撃せよ。
「うぇ!? ・・・敵が侵入した!?」
リザドラルさんが、鳴り響く警報とアナウンスを聞いて足を止めると、驚いていた。
大砲を背に乗せて、廊下を移動する巨大なトカゲと私の姿を見て「ギョッ」とする方々の視線に恥ずかしさを覚えていたけれど、先の警報が鳴ると、皆が一斉に驚いて足を止めていた。
そして、血相を変えて慌ただしく行動を開始していく。
私たちも、この大砲を活用できる地点へ移動するべきだとは思うけれど・・・。
ふと、買い物カートに山積みになって運ばれている『ぬいぐるみ人形』を目にした。
たぶん、アレは『異世界人アバター』なのだと思うのだけど・・・どういうことか? これからワゴンセールになる雰囲気で山積みになっている。
「リザドラルさん」
「うん?」
気になったので、どういうことか?を聞いてみることにする。
「あそこで運ばれている『ぬいぐるみ人形』なんですけど・・・」
「ああ、バース・パーソンね? どうかしたん?」
やっぱり、バース・パーソン・・・つまりは『異世界人アバター』なんだ・・・。
だとしたら、なんであんな?
「なぜ、あんなワゴンセールみたいな運ばれ方をしているんですか?」
「あー・・・あれねー」
どう説明するか?と、悩んでいる様子だけれど、割とあっさりした答えをくれた。
「アレはねー。異世界人にも異世界での生活っていうモノがあるわけだから、常にこっちで活動できるわけじゃないらしい。大抵は、向こうで働いているんよー」
・・・それ、つまりはネットゲームの類に近い。ということでしょうか?
「地球だと・・・ネトゲが近いかも? 俺らも、毎日一日中は遊んでらんないじゃん?」
そうですね。
でも、そうだとすると、シェルさんは・・・に、ニートということになるのでは?
「常にこっちで活動できる異世界人は、地球に転移して行方不明となった者を探す調査隊。っていう国際機関?みたいなとこが支援している組織とか、親類縁者や友人知人に企業などから生活支援と活動援助を受けられている人くらいらしいんよ」
そっか、シェルさんは行方不明となった同胞の捜索をするべくアバターでやって来た調査隊のメンバー・・・だったと思うから、ニートというわけじゃない。
けれど、真っ先に思いつくワードなので、ちょっとその・・・失礼だったかな。
「俺のバース・パーソンも、向こうでの生活があるってことで、普段はこっちにいないんよー。へっへ。最近ではまったくこっちには来なくなったんなー・・・ヤレヤレだぜー」
それは、まるで・・・飽きて止めてしまったネトゲみたいな・・・。
「でもま、よくある話なんよなー。バース・パーソンとしてイデスバリーした地球人だけど・・・思ったのと違う結果になったりすると放置したりするんよ」
「放置って・・・」
「俺のバース・パーソンは、俺の『変身』を見て舌打ちしながら『ハズレか』と言ってねー・・・」
・・・そんな。
「酷い・・・」
そう言われてみれば、シェルさん以外のバース・パーソンを見かけた事がない。つい先ほど、お養父さんの居る研究室で数名を見た程度・・・。
全然、そんな意識は無かったけど・・・そうか。そうなんだ・・・。
「あ、一つ勘違いしないで欲しい事があるんよー」
「・・・勘違い?」
「そ。バース・パーソンを見かけないからと言って、全員が見捨て組ってわけじゃーないんだなー」
・・・え? でも、少なくともあれだけのワゴンセール的な運ばれ方をしているのに?
「シェルさんみたいにアバターを操作してコミュニケーションを行うのを『体面モード』と言い、戦士の視界を中心に全周囲をモニタリングできる『バトルナビゲーションモード』という二種類があるらしいんよ」
対面モード?・・・バトルナビゲーションモード?
「対面モード。というのが、シェルさんみたいなアバターを操作するっていうのは分かりますけど、バトルナビゲーションモードというのは?つまりどういう?」
最近のゲーム・・・には、あったりするのかな?
どうしよう? お養父さんが何かの懸賞で当てたスイッチくらいしかないのに・・・ん? それって前世の私が当てたってことに?
「簡単に言うと、アバターじゃ戦場には出られないから、戦士視点を共有して死角などからの奇襲を警戒したり、何かを見つけたら報せたりするわけよー」
ああ・・・戦闘支援の一種・・・ということなんだ。
「・・・ま、そういうわけだから、あそこのワゴンセールみたいに運ばれているアバターの山は、異世界での生活で一時的に離脱中の異世界人アバターと、戦士らが戦闘になるんでモード切替した異世界人アバターたちなんよー。で、とりあえず安全な場所へ移動中ってこと。放置アバターならすでに保管室やなー」
そっか・・・早とちりしちゃったんだ・・・私。
「ごめんなさい。早とちりを・・・」
「いやー。俺の説明も悪かったわなー」
「ナイトメア! そんなところにいないで、君も避難しろ! 狙われているんだろ!?」
リザドラルさんと話をしていたら、出撃準備で走っていたと思われる戦闘員の方に声を掛けられる。敵の侵入でみんなが忙しくしている中、悠長に話をしていた事を思い出して恥ずかしくなった。
けれど、避難するにも私が避難所などに行くのはダメな気がする。
「おいバカッ! 避難て言っても、他の連中と同じ場所はダメだろ。彼女はマーカーを発信しているような状態なんだから、非戦闘員やバース・パーソンを危険に晒すだろ」
「あ、それもそうか・・・すまない」
声を聞いたのか。すぐに別の方がやってくると問題を指摘してくれる。
私も、心配してくれたことにお礼を述べた。
「でも、そうなると・・・どこに避難するのがいいんだ?」
また一人、こちらに駆け寄ってくる。
「難しいな。どこに居ても、敵には筒抜け状態なんだろ? 襲撃された際に二次被害が出るような場所は避けるべきだろう」
さらにまた一人やってくる・・・み、みなさん。大丈夫なのでしょうか?
「それなら、戦闘員待機室がいいんじゃないかい?」
さらに一人駆け寄って来て、案を出してくれると・・・よく見たらドンドンこちらに駆け寄って来て、次々と案を出してくれていた。
「まぁ、戦闘員待機室が一番良さそうだな」
「確かに、あそこは外へ出るためのエレベーターや階段に非常口などが近いしな」
「いざとなれば、それらから外へ逃げるのも手か・・・」
「逃げ場がないよりはマシだな」
という事で、人だかりができてしまったけれど私の避難場所が決まった。
「よし、なら俺が待機室まで付き添うとしよう」
「まて、そういうことなら俺が引き受ける」
「まぁまて、おまえらは侵入者迎撃に出るんだから、ここは待ち伏せ組の俺がーーー」
・・・急に一触即発の雰囲気になってしまったのだけど? どうしたのだろう?
「それなら、俺に任せてくれっすよーッ!」
リザドラルさんの声が響くと、集まった方々が一斉に私の・・・足元へ視線を向けた。
「今、リザドラルの声がしたか?」
「え? ナイトメアちゃんの足元・・・何だアレ」
「全然気にしてなかったけど、なんであんな巨大トカゲがいるんだ?」
「まて、アレからリザドラルの声がしなかったか?」
「いや、まさか・・・アイツ、トカゲ怪人だったはずで、トカゲじゃないだろ?」
「つか、これコモドドラゴンじゃね?」
「バカ。アレよりもデカいだろ・・・つか、大砲載せてんのか?」
「どもーッ! リザドラルでっす!」
元気に挨拶をすると、全員が目を点にして固まった。
リザドラルさんの声は、きっと聞き間違え。と思ったことにしたかったんだとは思うけど、そうはできなかったようです。
やっぱり、長い歴史の中でもリザドラルさんみたいな変形をする人は・・・稀?・・・いないってことなのかな?
と、リザドラルさんが動き出し、進路上の方々が「うわッ」と驚きつつ道を開けてくれる。
「つーわけでー。俺たちは戦闘員用待機室に行ってますんで! 先輩がたーッ武運をお祈りしてるっすよー」
「あ、あの! 皆さんどうかご無事で! また、お会いできますように!」
どうか、死ぬような大怪我をされませんように。
「・・・俺、馬怪人ってよく言われるけど、馬に変身してナイトメアちゃんに乗ってもらうわ」
「てめ! それはずりぃだろ!!」
「いや待て! まずはリザドラルに、あの変身方法を問い詰める方が先だ!」
「それはそうだ!」
「よっしゃ! 仕事をとっとと終わらせて、野郎に吐かせるぞ!!」
「「「「「「おおおーッ!!!」」」」」」
あ、全員無事に生還してくれそう・・・。
よかった・・・と思うには複雑な気分です・・・。
▽
しばらくして、私が待機している階の照明が一斉に落ちた。
直後に震度5を超えていると思えるほどの震動が発生して、社屋そのものが崩壊したのでは?と心配になるほどの衝撃が伝わってくる。
そして、お養父さんからもらったゴーグルに敵味方識別反応が起動すると、この待機室へ接近する味方の反応を表示してくれる。
「リザドラルさん。ここにもうすぐ味方の方々が来ます」
「そーなん?」
「はい。ゴーグルにそういう表示がされていますから」
「ほーん。便利なもんやねー」
「はい。便利です」
リザドラルさんの感心を受けて、お養父さんが褒められていると思うと嬉しくなる。
一方で、そんな気持ちを一瞬で消してくれたのは、待機室へ入ってきた方々の切羽詰まった顔だった。
「すまない。ナイトメア・・・敵をこの待機室で迎撃する」
「敵が、来ているんですね?」
「ああ。イデスバリー・カマイタチが迎撃してくれたんだが・・・かなり旗色は悪い」
「カマイタチさんが!?」
アリアネルさんの護衛をしているあの人が、敵の迎撃に?
私が困惑していると、合流して来た部隊の隊長と思われる方が説明してくれる。
アリアネルさんは避難室へすでに連れていかれ、現在は待機している。
指令室より、敵の侵入は一人のみであることが確認されていることと、この社内に侵入できるということは、間違いなく人間憑依霊でも古参の怪異。その実力はベテランを越える。
過去に、アリアネルさんを幾度も襲撃したナンシーと同格であると推測され、かのナンシーと渡り合った実力者のカマイタチさんが打って出ることとなったのだとか。
また、カマイタチさんに匹敵する他の実力者は外へ出て、陸から接近している怪獣怪異が展開するだろう『ウィアード・フィールド』の処理に当たるため、お願いできる者が他にいない。
怪獣怪異の数が前例のない規模であるために、人手が足らない状況なのだそうで・・・。
「大阪から来るという援軍は?」
「ああ、それならすでに新幹線で東京入りして、すぐさま怪獣怪異の数を減らすために行動してくれているらしい。数が多いので、こちらに合流するのはもっと時間が掛かるとのことだ」
すでに怪異の処理で動いてくれていたんだ・・・。
「それで、カマイタチもすでに満身創痍だ。薬は渡したが、敵は古参の怪異となると、戦闘経験値は俺たちを軽く超える・・・実力が拮抗しているとしても、そういう僅かな差で勝敗は決まるからな」
カマイタチさんが負けるとは思いたくないけれど・・・。
あのナンシーという男と決着がつかないままだと言っていたことから、同格の敵を相手して勝つことができるか?となると・・・分からない。
だから、ここで敵を迎撃する。ということ。
「分かりました。実は、私とリザドラルさんが研究室から新兵器の試作品を預かっているんです」
「ああ、リザドラルに載っているこの大砲か」
あー。すっごい胡散臭いモノを見る目で見られている・・・なんか、ごめんなさい。
「えっとですね。これ、エネルギー供給次第ではビームの照射攻撃も可能みたいでして、皆さんのイデスバリー光をお借りしてもいいでしょうか?」
私がお願いすると、合流した方々が顔を見合わせた。
そして、部隊長と思われる方が頭を掻きながら言う。
「それは構わんが・・・発射までのタイムラグは?」
「あ・・・えーっと、事前にチャージしておけば数秒で可能みたいです」
すると、部下の方々を見回して・・・。
「よし。遠距離攻撃ができるヤツは、ここに入ってくる敵を牽制する。近距離戦タイプは大砲のエネルギー供給を手伝え」
ということで、大砲のエネルギーチャージ用のコードを引っ張り出す。
・・・掃除機のコンセントみたいなコードになっていて、なんだか大砲というよりも掃除機に見えてきました。
だけど、このコードはイデスバリー戦士が握るだけでエネルギーを通すことが出来る特殊素材らしく、コンセントのプラグなどはついていない。
目いっぱい、コードを引っ張り出して近接戦闘を得意とする方々に掴んでもらい、大砲の操作パネルからエネルギーの充填を開始。
「お? なんかエネルギーが吸い出されている感じを、確かに受けるぞ」
「妙な感覚だな」
エネルギーを提供してくれる方々の感想を聞きつつ、大砲のビーム照射モードに必要なエネルギーが急速に充填されていく。
ガイドにも、いつでも発射できるだけのエネルギーが充填されたと表示された。
直後に、再び震度5を超えるような震動が発生すると、建物に亀裂が走るほどの衝撃が駆け巡って・・・止まった。
それと入れ替わるように、敵性反応の接近がゴーグルに表示される。
「みなさん。敵が接近しています!」
私の言葉に、全員が息を呑んで強張った。
「カマイタチが、負けたか・・・」
「あの敵、マジ強過ぎですよ・・・」
「怪異と言っても、俺らとタイプが真逆なイデスバリー系統だからな・・・」
「射撃班! 後の事は考えなくていい。全力でぶっ放して、大砲の一撃が発射される時間を稼ぐんだぞ!」
「「「「「「了解ッ!」」」」」」
全員が固唾を呑む中で・・・ゴーグルに表示される敵の反応が・・・この待機室前に到着した。
動き方からして、相手もだいぶ弱っているように感じるのだけど・・・。
「扉の前、敵が到着しました!」
「撃ち方よぉーい!!」
扉と直線上に大砲を構えている私・・・その左右に射撃班が持っている射撃武器を構えて、自身の力を込めていく。
後のことを考えずに、全力を武器に込めているのが分かる。
扉が開いた。
「うてぇぇえええ!!」
耳がダメになりそうな爆音が続々と発声し、開いた扉に向けて、全ての攻撃が何かに命中しているのが見て分かるのだけど・・・相手はまるで意に介している様子が無い。
「ナイトメアちゃん! 」
リザドラルさんの声で、私が頭真っ白になっていた事に気づき、急いでトリガーを引く。
「イデスバリー・キャノン! 撃ちます!!」
敵が、待機室へと踏み込んでくる。
木の枝を幾重にも編み込んで作ったような盾を構えており、相手の顔などが分からないのだけれど・・・強い視線だけは正面から向けられていることだけは分かった。
さらに、一歩・・・敵が踏み込んでくるのと、ほぼ同時に『イデスバリー・キャノン』がビームの照射モードで充填されていたエネルギーを発射する。
これに、敵は回避もしなければ抵抗する様子もなく扉の外へと押し出されて行き・・・廊下を越えて壁に激突すると、照射しているビームの圧?とも言えるような力に押し込まれて、社外へと消えていった。
「・・・敵反応・・・社外に消えました」
ゴーグルに表示される反応が消えた事を伝えると、全員が深いため息を吐いて緊張した空気が一気に緩む。
「イデスバリー・カマイタチとの戦闘で、敵も満身創痍だったんだな・・・」
「あっぶねぇーッ! こっちの全力射撃が防がれてるからダメかと思ったーッ!」
「人間憑依霊にあんな化け物クラスがいるとか、きいてねぇし!!」
皆さん。すごい涙目になって床に座り込んでいる・・・私も、怖かったですけど、今はちょっと安堵しています。
「・・・あの穴・・・表と繋がってる感じやなー」
「え? 表と繋がったのが何かあるんですか?」
リザドラルさんが目を鋭くして睨んでいる扉の向こう。
先のイデスバリー・キャノンの一撃によって、扉が完全に壊れてしまって大穴になっているけれど、確かに外の景色が見える。
・・・あれ? なんだか景色が上下逆さまのような・・・?
「んにゃ、今はカマイタチさんの心配が先やんねー」
「あ、そうです! カマイタチさんは、無事なのでしょうか!?」
私が部隊長さんに振り返ると、緩んでいた顔を引き締め直す。
「・・・そうだな。動けるヤツはいるか?」
ありったけの攻撃を行った後だからか? どことなく怠そうな様子で立ち上がると、大砲のエネルギー充填に協力してくれた方々が一斉に手を挙げた。
「よし、手前の三人は俺と一緒に来い。カマイタチの安否を確認する。他はこの場でナイトメアの護衛だ。ラナタスカ。この場の指揮をお前に任せるぞ」
「は! 了解しました!」
部隊長さんよりも、まだ年若いという感じだけど、明らかに私よりも年上な雰囲気の女性。ロボット系の人外戦士で、確か名前は『イデスバリー・ラナタスカ』さんだったと思う。
バズーカ系の武装を使う爆破火力系の攻撃特化戦士・・・という紹介を受けた。
数名が待機室より出て行くと、残った私たちは次にどう動くか?で、話し合いを始める。
「下手に動くのは危険ですので、部隊長たちがカマイタチさんの安否確認を終えて戻ってきたら移動するとして、このまま防衛態勢で待機しましょう」
残っている人たちが、とりあえずエネルギーを回復させる薬などを煽り、私がそれらの道具について質問をして、教えてもらったりする。
リザドラルさんは、どことなく気が抜けた状態で床に両手両足を投げ出してグデーってなっている。
「しかし、かなりの威力ですね・・・この大砲・・・」
「はい。お養父さん・・・あ、いえ・・・研究室の人たちが長い研究の末に、異世界武装を再現してくれたんです」
「良ければ、使い方などをお教えください」
「それなら、こちらのゴーグルをどうぞ。これが操作手順などを解説してくれる機能があって、欲しい情報を念じると表示してくれるんです」
「ほぉ・・・さすが異世界技術ですね。私、大砲系には目が無いので!」
ラナタスカさんは、私よりも年上のはずなのに・・・それはもう目を輝かせてゴーグルを装着し、休憩しているリザドラルさんの背に乗って大砲の操作を確認し始める。
「ぐぇー・・・せめて一言くれーぃ」
「おっと、失礼。淑女を乗せられる名誉に感謝しなさい」
「・・・うーーっすー」
わぁ・・・不満たっぷりという返事・・・。
でも、ちょっとそういう顔をしているトカゲって、なんだかカワイイかな?って思える。
「あぁー・・・危なかったわぁ~」
ゾワッと、私の背筋を悪寒が走り、私の足首に木の枝に似た鞭が巻き付くと引っ張られて床に倒される。
「まさか!」
「くそ!」
私の近くに居た方が、倒れた私の腕を即座に掴んで支えてくれると、周囲で待機していた方々が一斉に扉へ殺到する。
その隙間から、射撃系戦士が援護射撃を放ち、再び現れた敵へと飛んでいく攻撃・・・は鞭で叩き払われた。その勢いを維持したまま、殺到した近接戦闘タイプの戦士たちを薙ぎ倒していく。
「マジで気絶しちゃったから、危うく高層ビルからの飛び降り自殺みたいに死ぬとこだったわよぉ? この憑依している人間がねぇ~」
強く足を引っ張られ、私を支えてくれる人が鞭攻撃で叩き弾かれてしまう。
私を支えていたせいで、回避も防御も出来なかったのが申し訳なく思う。けれど、このままでいられない。
私は刀に手を掛けて自分から敵に向けて突進する。
カマイタチさんが、この敵を追い詰めていたことと、イデスバリー・キャノンで一度は吹き飛ばしたことで満身創痍なのは間違いないのだから、私でも一太刀浴びせることはできるはず。
「いらっしゃ~い♪」
両手を広げて歓迎するという姿勢の敵。
バカにしてッ!!
「夢幻一刀流・抜刀術!」
刀を引き抜き、相手の足を切断するための一撃を叩きこむ。
けれど、ドリルみたいな回転をしている鞭が、鞘より刃が引き抜かれる瞬間から巻き付いてくると、鞭と刀が火花を散らしながら熱を放ち、あっという間に刃は削り砕かれる。
「ごめんなさいねぇ~・・・刀の相手なら、戦国時代から散々やってきたからさぁ~♪」
あ。こ、この人・・・レベルがまるで違う人だ・・・。
初手の抜刀術は、刀の刃が失われたことによる空振りに終わり、私は自ら敵に抱かれに行ってしまう結果になる。
「さぁ、私の部屋に連れて行ってあげる! 今夜は寝かさないからねぇ~♪」
ギュッと抱き寄せられ、さらには木の枝みたいな鞭が私の身体に巻き付き拘束された。
木の枝みたいな鞭は手首から腕へ、脇を通り胸から背へ巻かれ、首を緩めに絞めつつ口を塞いでくる。また、足から脚へ移動すると内股からスカートの中へと入り、全身を余すことなく絞めてくる。
失敗した・・・間違えた・・・。
「じゃ、バイバーイ♪」
イデスバリー・キャノンで空いた大穴より、外へと飛び降りる敵。
とんでもない高層ビルの階から飛び降りるから、私は浮遊感からの落下に恐怖する。
でも、それ以上に・・・多くの人が私に気を使ってくれて、考えてくれて、頑張って守ってくれていたのに、自分の行動で無駄にしてしまった。
それが、落下する恐怖よりも、ただ悔しくて、涙が溢れてしまう。
「ラナタスカ先輩! 野郎を追うんで大砲操作をお願いしまっすよ!!」
「任されました!! 突貫しなさい!!」
すぐあとから、リザドラルさんとラナタスカさんが追いかけてきてくれる声を聞いて、歯を食いしばる。
ここで自分の案直な行動に絶望しているのはダメだから。
だけど、身体に巻き付く鞭が私を少し強く絞めると、絞められた部位に鋭い痛みが走り・・・直後に熱が発生して頭がぼんやりとしてくる。
この感覚は・・・樹木憑依霊に縛られた時と似た感覚・・・。
「無理をしてはダメよ? 大丈夫。わたしに任せなさいなぁ~・・・優しくしてあげるから」
男性の・・・たぶん裏声の声音だと思うけれど・・・この人は・・・いったい・・・。
不意に、浮遊感も落下も感じなくなり、ただ着地したのだという事だけは理解して、周囲を確認するべく視線を走らせる。
外は、暗黒色の淀んだ『赤紫』『青紫』『緑紫?』の三色が渦巻いた空間となっており、確かに『不気味』な空間へ変質していた。
そして、大量の怪異がイデスバリー戦士たちに襲い掛かっており、見れば動かないはずの樹木が根っこを脚代わりにして動き回っており、枝がブンブン振り回されて戦士たちを攻撃している。
木の怪物トレント?っていったけ? アレを彷彿とさせる動きに、この空間は確かにイデスバリー戦士には不利な状況だと理解した。
と、頭上から光る弾が数発ほど降って来て、敵がコレを回避するも一発だけ鞭を編んだ盾のようなモノで防いだ。
「ちょっと! この子に命中して死んだりしたらどうするのよ!!」
「あなたが守るでしょうッ!!?」
敵の文句に対するラナタスカさんの返答が、実に恐ろしい。
私を縛り捕えている男は、舌打ちをしながら全力で逃走を始め、直後に着地したリザドラルさんが後方から追いかけて来る。
ラナタスカさんが大砲の操作をしており、砲弾の連射モードにて追撃してくるのが、今一番怖くて改めて涙目になっている私です。
「ええい! しつこいわねぇ!!」
「待てーッ! 待ちなさぁーい!! このドロボーッ!!」
・・・あ、今の私ってそういう扱いなんですね?
ぁはは・・・はは・・・。
「ん? おいアレ!!」
「あ? マジか!!」
ラナタスカさんの怒声に反応して、続々とイデスバリー戦士が私を見つけ、相手する怪異を放ってこちらに駆けつけてくる。
そこに、続々と攻撃が撃ち込まれてきて・・・私は、今日。たぶん死ぬんだ。と覚悟を決めることにしました。
「あなたたちねぇ! この子に当たったらどうするつもりなのよぉお!!!」
「てめえが守れやドロボーッ!!」
「盗人猛々しいぞッごらぁぁぁあああ!!!」
「奪い返されるまで『お宝』を守るのがドロボーでしょうがッ!!」
・・・どういう理屈でしょうか????
近くで生じた爆発の本気具合に、私はもう気絶したい気持ちになる。
「あぁーもぉーッ! こいつら頭どうかしてんじゃないのぉお!?」
「「「「「「お前が言うなッ!!!」」」」」」
敵は、想定していなかったのだろう事態に相当焦っているようだった。
まさか、殺すつもりの威力で集中砲火を浴びるとは考えていなかったんだと思う。私も思っていなかった。
とにかく、私を守ることに意識を優先してくれているけれど、敵はもう息も絶え絶えという状態にまで疲弊していく。
私の身体から、エネルギーが吸い出されている感覚もあるけれど、消費量の方が多いみたい。
「んもぉおおおおお!! なんなのよぉこいつらああああああああ!!!」
・・・この戦場に居合わせた全戦士たちが、自分の持ち場を放棄して私を連れる敵に殺到している。もはや私の生死など構わないという様子で、必殺技級の攻撃が絶えることなく飛んできた。
私もそうだけど、この敵も涙目になって全力逃走中。
しかし、カマイタチさんとの戦闘でやっぱり疲弊しているみたい・・・動きにキレが無くなっていく様子が見て分かる。
すると、上空から男が一人吹っ飛んできた。
「ちょっとドタマ!! 退きなさい!! 邪魔だっつのぉよぉおおおおお!!!!」
自身の苛立ちを込めた・・・それはとてもシンプルなシュート。
ドタマと呼ばれた男性が、ただその蹴りで蹴飛ばされて飛んでいく。
「わ。私の『光』!!」
最後の僅かな瞬間に、ドタマとかいう男性は私に手を伸ばしていたように思うけど・・・空へ消えて社屋の向かいにあるビルに激突して動かなくなった。
「さぁ、鬼ごっこは終わりにするぞ?」
上空から、空を覆い尽くすような膨大な炎の翼が急降下してくる。
その様は、燃える空が地上に落下してくると錯覚するほどの勢いと力を持っていて、世界が終わる瞬間を見るのだとすれば、それはこんな空なんだろう。と確信した。
「いやいやいや! そんなMAP兵器みたいな攻撃はズルいでしょうが!? 味方まで巻き込むわよ!」
「心配には及ばない。私の炎は味方を焼くことは無い」
「味方は焼かないけど、周辺は火の海になるんで後片付けが大変だったりするんよねー」
いつの間にか、私たちを追いかけていた方々が停止して、上空から降ってくる燃え盛る空に怯えつつ、リザドラルさんの言葉に全員が頷いている。
「君たち、減給」
「「「「「「そんなーッ!!!」」」」」」
「コントやってる余裕があるとか・・・まったくもぉ~!」
敵は、そして私をハンマー投げの要領で振り回し始めると、上空へと投げた。
「バイバイ。私の『光』ちゃ~ん! 次は絶対に盗らせてもらうからねぇ~♪」
捨て台詞みたいな事を吐きながら、私に投げキッスをして逃走を再開する。
同時に、上空へと投げられた私はイデスバリー・フェニックスさんの炎を叩きつけられ、身体に巻き付いていた鞭を残さず焼き払われてからキャッチしてもらう。
お姫様抱っこ。という状態で受け止め、抱き上げてもらうけれど・・・身体に毒を打ち込まれてしまったようで、鞭が消えてから全身に広がる熱がどんどん高まっていくのを理解する。
同時に、全身が痙攣を始めて動かなくなっていく。
「・・・毒を大量に打ち込まれているね。すぐに治療を」
フェニックスさんの声に、身体がビクッと反応する。
直後、私を投げた敵を追いかけていた皆の前に、何かが飛来した。
「あーん♪ ワンゴーッ! もっと早く来てちょうだいよ!! せっかく盗った『光』を返すはめになったじゃないの!!」
「ふん。あんな必殺技の雨霰に飛び込めるものか! 自殺志願者はお前ひとりでよい!」
見るからに武人。と言うのが分かる風貌と、良く鍛え、陽射しで焼けたのだろう日焼けした身体は、艶を持っており、ボディビルダーのように見栄えある筋肉が見えている。
そんな男が、力強く握った右拳を地面に叩きつけると、巨大な火柱・・・にも似た土柱を空高くまで発生させ・・・固まった。
さらに、左手を横薙ぎにして発生する砂埃の幕が、次の瞬間には固まって障壁のようになり、戦士たちの行く手を阻む。
そうして、二人は走り去る。
阻まれてしまった戦士たちが、壁を破壊・・・もしくは飛び越えて追撃をしようとするも、すでに二人は怪獣怪異に乗り込んで東京都の外へと移動を開始。
また、ウィアード・フィールドを展開していた怪獣怪異も続々とフィールドを閉じて撤退を始める。
この様子に、その他大勢の人間憑依霊たちが大慌てで撤退する怪獣怪異に乗り込み、逃げ去っていく。
「・・・ち。リバーシブル・フィールドを人工展開! 全職員は速やかに社内へ帰還せよ!」
私を抱えながら一度地上へ降りたフェニックスさんは、ラナタスカさんへ私を預けて指示を出すべく飛び去って行く。
そして、私はリザドラルさんに乗せられてすぐさま社内へと搬送され、緊急治療を受けるべく処置室へ運び込まれる。
他にも怪我人がたくさん居たけれど、私が行うべき治療とは別らしいので問題ないとのこと。
アリアネルさんとは別の医師が手早く措置を施してくれる中・・・。
私の意識は夢に溶けて行った。
次回は、悪夢の戦い。を予定しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




