10 『光』を求めて。
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みの方はご注意ください。
また、ご容赦ください。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
●-東京。上空-●
待てども出てこないイデスバリー戦士たちに、ドタマは業を煮やした。
鳥型の怪獣怪異を呼び、それを東京都の端で飛び回らせておけば、空戦能力のある戦士が出てくるだろう事を予想していた。
しかし、出てこない。
「これはアレね~。部隊の分散を読まれているんじゃないのぉん?」
鳥型怪獣怪異の上に立つニャランが、その隣にいるドタマに言う。
もちろん、この言い方に苛立ちを覚えたドタマがニャランを睨みつけた。
「あのような連中に、そんな事が分かるはずないだろう!」
「そーかしらぁ~? ドタマの思いつくことだもの。人間に思いつけないはずないでしょう?」
「俺が、人間と同レベルだと言いたいのか!?」
「そんなわけないでしょ? 以下よ。以下」
「なんだと!!」
感覚でモノを言うニャランと、理詰め(思い込み)のドタマによる口喧嘩は今に始まったことではない。
ドタマは確かに賢い部類だが、人間より優れているか?と問われれば、10人中10人が「そんなことあるわけがない」と答える程度である。
さらには、こういう策を練る事に関しては、ニャランの方が上の場合が多い。
感覚でモノを言うため、最終的に相手の裏を突くことが多かったりするからだ。ただ、理屈も屁理屈も無いので、誰もついていく事がないだけだったりする。
「そうねぇ・・・私なら、防衛戦にするかしらね?」
「なぜだ!」
「だって、この子一匹が飛び回っているならいいけどさ? 陸上行動できる怪獣ちゃんたちも東京都を囲むように集結してるのよ? たかが一羽の鳥を討つためだけに、出てくると思う?」
「う・・・」
「私ならしないわぁー♪ どうせなら全部まとめてかかってきなさぁーい!って、手招きするわね」
「なんでだ!」
「だってー。守る場所は一か所・・・秘密結社メシア日本・東京支社ただ一つだものぉ・・・戦士たちに犠牲者が出るとしても、全力で迎撃すればいいのだから戦いやすいでしょ?」
「う・・・ぐ・・・」
「それにぃー。この状況だったら、まずは外の仲間たちに増援を頼むでしょ? あんたが『光』を奪取するために方々へ協力を要請したみたいにさぁ?」
「う・・・む・・・」
「あーいかわらずぅ・・・相手を見下すのはいいけどさぁ? それで成功した事って、どのくらいあんのぉ~? 私が知っている限りだと、一回か二回くらいでしょ?」
「もっとある!! 見くびるな!!」
「はいはい。今回は失敗ねぇ~。それは間違いわぁ~♪」
ドタマは今にも頭の血管が切れてしまいそうになるが、しかし、ニャランの言うことも分かる。分かってしまう。過去にそうして相手を見下した結果、大失敗を幾度かやっている。
知性を高め、思考能力の向上した今の自分なら、すでに人間を超越している。という自負はあるが、すでにナンシーとランボーによって当初の計画は潰れているのだ。
ここで、敵は必ず部隊を出してくる。と、決めつけて待った結果・・・出てこないとなれば?
方々に呼びかけて集めた人間憑依霊たちが、これ以上は付き合えないと去っていく事になるだろう。
「仕方ない・・・十分に待って、戦士共が出てこない以上・・・作戦を開始するしかないようだ」
「そうそう。突撃強襲強奪さよなら~♪ 計画はリズミカルにごりようくださ~い♪ってね?」
いちいち癇に障るヤツだ。と、歯軋りするドタマであるが・・・それでハズしたことの無いヤツだからこそ、無視できないのである。
「私の声に応え、集まったくれた全怪異に告げる!! これより、イデスバリー戦士の根城!! 株式会社・・・への攻撃を開始する!! 怪獣怪異たちよ!! 突撃せよ!!」
東京都を囲むようにして集結している怪獣怪異が、一斉に動き出す。
これに呼応して、鳥型怪獣怪異もさらに高度を上げて秘密結社メシア日本・東京支社の直上まで移動を開始。
彼ら、怪異の『宝』である『光』がそこにあるのだから、奪わないなどありえないのだ。
すべては生物への帰還。
すべては、人間への回帰。
彼らは、今再び、自分たちの肉体を得るべくして『光』に殺到する。
▲
通常空間にて、多くの一般人が仕事をする東京都の時間帯に、地震が発生した。
そこまで大きな地震ではない。
ゆえに、多くの日本人が周囲を見回すだけで特に気にも留めないのが、日常的になっている。そのため、自分たちが『停止』しているということにも気づいていない。
怪異が、ある企業の社屋へ向けて一斉に動き出したことでリバーシブル・フィールドは自然発生する。これによって、通常空間で活動しているすべての生物は『停止』する。
上空から急降下を仕掛けた鳥型怪獣怪異が、秘密結社メシア日本・東京支社の表側企業の社屋へと直上から突撃し・・・そしてそのままリバーシブル・フィールドを上書きして『ウィアード・フィールド』を展開。
すでにリバーシブル・フィールド時点で外に出ていた戦士たちは、久しぶりのウィアード・フィールドに歯を食いしばる者や、初めてのモノは吐いてしまう者もいる中で、迎撃戦を開始する。
鳥型怪獣怪異から、そこそこに人間憑依霊たちが飛び出して、社屋への侵入を試みたからだ。
会社屋上のヘリポートに降り立ち、下の階へと通じる扉へ殺到するも、空戦能力のある戦士たちから攻撃を受けて屋上より落とされていく。
「ち・・・待ち構えているとは卑怯な」
「あっはっは。それをアンタが言っちゃうのぉ~? どっちもどっちっしょ~?」
ドタマとニャランはヘリポートの真ん中で若者たちが奮闘するのを眺めながら会話を交える。
イデスバリー戦士たちの戦闘能力を眺め、ニャランが思うことは「光が弱いから雑魚ってわけではないみたいね」だ。
しかし、ドタマは「光の弱い雑魚戦士どもに苦戦するとはな」と見下していた。
「ニャラン。ここからは別行動だ。私は『光』を探す。邪魔をするなよ?」
「いいわよぉ~。なら、私はここに残って若手の援護でもしましょうかぁ~」
二人は分れる。
ドタマは下の階へ通じる階段の扉を守っている戦士に詰め寄り、気を練って作った弾を投げつつ人差し指に気を集中させる。
自身に接近する攻撃を防ぐため、防御の姿勢を取った戦士を見て、人差し指に集めた気を針にして撃ちだし、先に撃ちだした弾に刺して破裂させた。
閃光玉である。
「うわ!」
突然の光に、扉へ取り付こうと奮闘していた若手憑依霊たちも巻き込まれ、ドタマは戦士ともども彼ら全員を蹴り飛ばして屋上より外へ放り出す。
そうして、扉を守る戦士が一人欠けたのを確認してから、扉を蹴破った。
「進入路を確保した! おまえたち! イケ!!」
こうして見れば、若手の道を作るいい先輩。と思えるが、目的はと言えば。
「いかせるわけねぇだろ!」
扉の向こうで待ち構えていた戦士たちの迎撃を真っ先に喰らってもらう駒である。
ドタマが扉に飛び込んだ若手に隠れて侵入し、防衛している戦士たちを速攻で蹴散らしていく。潜り抜けて来た戦場の数・・・すなわち、場数が違うのだ!と、吐き捨てながら若手を率いて表向きの社屋へと侵入することに成功した。
「さぁ、我が『光』よ・・・今、迎えに行くぞ!!」
▲
「あーらら。張り切っちゃってまぁ~あ」
ヘリポート上空を飛び回っている戦士たちが、社屋に敵が侵入した事を連絡している様子を見つめ、ドタマはおそらく『イデスバリー・フェニックス』と戦うことになるだろう。と予想した。
若手を率いて中へと侵入するのはいいけれど・・・ちょっと短絡的なのよねぇ・・・などと、ため息交じりに思う。
「ヘリポートに残っているのは、一人だけだ! 一気に畳み掛けるぞ!!」
ニャランは思う。
この子たち、油断し過ぎねぇ~。と。
「ま、私の相手をするには・・・若すぎるわねぇ~」
「こ、これは!?」
ニャランへと攻撃を開始した戦士たちは、木の枝と見紛うような姿形をしている鞭に絡め捕られ、毒を打たれてヘリポート内に墜落する。
外に放っても良かったが・・・受け身も着地もできない状態で放るのは、食料が減る可能性があるので止めた。イデスバリー戦士には、無駄に死なれても困るからだ。
「うっふっふー。とりあえずー。命を奪わないであげた駄賃は貰っていくわね~」
「か、身体が・・・うご・・・エネルギーをすわ・・・れ」
そうして、展開した木の枝みたいな鞭を回収し、彼女もまた社屋へと侵入した。
▲
秘密結社メシア日本・東京支社。支社長室。
ドタマは、その扉を前にして立ち止まる。
いる。
探している『光』ではない。だが、かつて・・・『光』に溢れていた時代に幾度となく戦った強者が、この扉の向こう側に。
「ドタマさん?」
引き連れていた若手たちに声を掛けられ、ドタマは逡巡する。
目的は『光』の奪取・・・しかし、ここでこの強者を放置するのは、この作戦を覆される危険性が高いのだ。
若手のお守りも大事だが・・・。
「貴様たちは『光』を探せ。この社屋にいる人間を簡易汚染してもいい。探し出せ」
「・・・うっす。先に行きます」
若手たちが素直に先を行くのを見送って、ドタマは深呼吸した。ため息ではない。
緊張している。
この身体に憑依してから、ここまで緊張した事は無いが・・・この高揚感だけが楽しくてならないのだ。
「さて、どんな強者か?」
扉を蹴破った。
「ずいぶんと乱暴な訪問者だね」
燃え盛る炎を纏う女。
まるで火の鳥を彷彿とさせる・・・それは見事な芸術的造形。
神秘が成せる生物の美に、ドタマは思わず歪んだ笑みを浮かべた。
「イデスバリー・フェニックスか。チャプンに殺されかけた小娘だな?」
「何年前の話しかな?」
互いに、殺気が体から放出され・・・支社長室の受付カウンターに亀裂が走る。
「私は『光』を探している。出してもらえると助かる」
「強盗に、差し出すモノなどありはしないよ」
両者ともに、蹴りを交えた。
その衝撃で、支社長室を飾る調度品が木っ端微塵に砕け散る。
「ハッ! チャプン程度にッと思ったが!」
「鍛えたのさ!!」
蹴りからの拳。
殴り合いからの蹴りで距離を取り、二人の攻撃は激化する。
「窮の波状! 穿つ針!!」
「炎天篝!!」
気を練り上げて作る万物を穿つ針を、燃え盛る翼より放たれた火の羽が篝火のように燃え上がることで天を焼く炎となり、針を焼き尽くす。
「小手調べだ! ついてこれるか!?」
「小手調べをしているのは、私の方だよ!」
支社長室は、そして焼失した。
▲
支社長室で二人が戦っているのを見たニャランは、やっぱりこうなった。と嬉しそうに隠れている。
気の爆発と、炎の嵐で支社長室が激しく消し飛ぶのを見届け、ドタマが戦闘に没頭したことで目的を忘れている様子にほくそ笑む。
「まーったく・・・ホントは脳筋のくせに賢者ぶってさー」
先の爆発で、二人は社屋の外へ出た。
ドタマは一見すれば空を飛ぶ能力など無いように思う。しかし、さる漫画のように気を操る事で空を飛ぶ能力を得ているのだ。
ちょっと焼失した支社長室を覗き込み、窓を壁ごと砕いた外で両者が激闘を繰り広げている事を確認する。
「まぁまぁ、囮としては最高じゃないの?」
言うと、ニャランは動いた。
人差し指を自分の口に近づけ、指先に舌を這わせて唾液で濡らす。
まるで風の流れを確認するように翳し、そして・・・。
「あぁ・・・ここか・・・」
秘密結社メシア日本・東京支社。それは、通常空間には存在しない。
秘密なのだから、当然、すべてが秘密なのだ。ニャランはその人差し指を、支社長室の扉があった跡に差し込んだ。
指は、この空間から消失し、別の空間への侵入に成功する。
「うっふっふー。さぁ、私の『光』ちゃん・・・今、会いに行きますからね~」
指をまずは下に動かして、空間の裂け目を伸ばし・・・そのまま上に動かして裂け目をさらに伸ばす。
そうして、できた裂け目に両手を入れて、テントの天幕を開くように・・・空間の裂け目を押し広げた。
「まぁ! すんごい綺麗な造りの部屋じゃないの!?」
中に顔を入れ、その豪華な造りに眼を輝かせる。
「そ、そんなバカな! どうやってここに!!」
「あら? こんにちは~♪ おじゃまするわね~」
ロボット系の姿をした支社長の秘書が悲鳴を上げ、怖がらせてしまったことを申し訳なく思いながら、ニャランは秘密結社メシア日本・東京支社への侵入を果たした。
それは秘密結社メシアと、世界各国の支社にとって、史上初の事となる。
「ところで?『光』はどこかしら? 教えてほしいなぁ~」
秘書は、ニャランの鞭に掴まる寸前・・・受付カウンター下の緊急警報ボタンを押すことに成功した。
―――びー。敵の侵入を確認。敵の侵入を確認。非常事態発令。非常事態発令。非戦闘員ならびにバース・パーソンは避難室へ。非戦闘員ならびにバース・パーソンは避難室へ。戦闘可能人員は至急迎撃に出撃せよ。戦闘可能人員は至急迎撃に出撃せよ。
「まったく・・・」
秘書は、口を割ることは無かった。
それどころか、舌を噛み切って自決しようとしたため、無理矢理に口へ鞭を突っ込んでから気絶する一撃を叩きこむ。
「はぁ・・・覚悟決まり過ぎよ。戦国乱世じゃないんだから・・・」
ずいぶんと昔の事を思い出してしまい、焦った。
天下泰平など誰も想像できないような荒れた時代では、村娘やら町娘というのはゴロツキ共に襲われることなど度々あったことだ。
そういう娘たちの中には、襲われた時の覚悟が出来ている者もいて、舌を噛み切ったり、短刀などで腹を裂いたりする様を、見たこともある。
あの時代だ。別に不思議な事ではないし、あり得ない事でもない。
しかし・・・。
「今の・・・令和の時代に、そういうのは止めて欲しいわねぇ・・・」
短命なのが世の常だった時代を超え、長生きすることに希望を持つ時代を迎えたというのに、世の中は短命であることを求める矛盾を抱えている。
「命は、もっと大事になさいな」
舌から出血しているようなので、呼吸を妨げない程度にハンカチを口へ入れて、舌から出る血を吸わせておく。
警報を鳴らされたから、すぐにでも人が来るだろう。
それにしても、胸糞悪い。
せっかく高まっていたテンションも、秘書の覚悟を決めた行動に駄々下がりだ。萎えた。
「ま、私も脅かし過ぎたからね・・・夢毒は打たないでおいてあげるわ」
気絶している秘書の顔をしばし眺め・・・ニャランは支社長室を出る。
表側の空間ではない。裏側の空間である秘密結社メシア日本・東京支社内の廊下へ出る。
廊下を出て少し、周囲を見回してから、下を見て・・・上を見る。
「・・・なるほど、そこか」
上の階層より『光』が見える。
間違いない。見間違えるはずのない。
かつて、外を歩けばどこにでも見られた『光』が、あそこにある。
「とはいえ・・・ちょっと遠いわねぇ」
上の階へ行くために、窓の外を見てみるが・・・土に埋まっている。となれば、階段かエレベーターとなるわけだが・・・。
「当然、待ち構えているわよねぇ~」
当たり前だ。
それぐらいはできてくれないと困る。
どうしようか?という事を考える時間が、何よりも楽しい時だ。
光が弱くなり、雑魚ばかりに見えるイデスバリー戦士たちだが、表側で見た限りでは雑魚ではないと分かる。
彼らを求める怪異から身を守る術として、光を抑える措置は当たり前のこと。
その術を、彼らが会得したのだと考えれば・・・自分たちにとってこれほど効果的な攻撃はない。と納得できる。
自然消滅を待てばいいのだから。
「となると、この『光』ちゃんは、やっぱり偶発的な再誕かなぁ?」
廊下を歩いていると、遠くでエレベーターの音がした。
そして、廊下の奥で閃光が瞬き、飛来するビームを木の枝みたいな鞭で叩き払う。
エレベーターの扉が開くと同時に放たれる先制攻撃・・・悪くない。若手なら、今ので三人ほどは仕留められただろう。射手の腕もいい。
しかし、こちらに接近してくる動きがバラバラだ。
「ベテラン4。若手十数名・・・ってところか」
良い動きをしているのが四人ほど。あとは自分たちの若手とそう変わらないと判断する。
「はぁーい! こんにちはぁ~♪ それとも、こんばんは~♪ ニャランでぇ~す♪」
挨拶は大事。
古事記にも書かれている・・・と、どこかで誰かが言っていた。
「にゃ、ニャラン!?」
ベテランと思われる者の一人が、驚きに声を上げてしまったようだ。
「あら? 私を知ってくれている人がいるようね? 嬉しいわぁ~。仲良くしましょう?」
と、次の瞬間にはベテラン一人と若手4人が飛びだして攻撃を仕掛けてくる。
ベテランはハンドガン。ロボット系の人外戦士。
若手はいずれも獣人系の人外戦士。武装は斧または鉈と思われる。
ニャランは鞭を振るって迎撃する。その鞭捌きは変幻自在であるために、若手が避けきれずに足を払われて転び、鞭が巻き付いたことで一気に絞められる。
そんな若手を助けようとした若手を絡め捕り、一気に絞めて落とす。
殺しはしない。無駄に殺せば食料も減る。だから、殺さずに落とす。それと、ニャランは殺しが好きではない。
とはいえ、細々と相手するのも楽ではない。
「今だ! 一斉攻撃!!」
わざと隙を見せてあげると、やはり隙を見逃さないベテランの指示で、隠れていた者たち全員が一斉に襲い掛かる。
先行して迫っていた者たちも、勢いを増して向かってくる。
だから、その全員を鞭で縛り、一気に絞めて落とした。が、若手は全員落とせたものの、ベテランが回避と防御で持ち堪えた。
「うんうん。ベテランなら、それぐらいはしてもらわないとねぇ」
「やはり・・・おまえ、樹木鞭のニャランか・・・」
おや? また懐かしいニックネームを聞いた。と、ニャランはほくそ笑む。
「ずいぶんと久しぶりに聞くニックネームね。あなた達が付けてくれたものだから、結構気に入っているのよ?」
ベテランの一人が、明らかに震えている。
そして、他のベテランはニャランを知らないようで、震えている一人に尋ねる。その間も、ニャランへの警戒は緩まない。
「樹木鞭のニャランとはなんだ?」
「・・・1000年以上も昔の樹木に憑依していた怪異が、長い年月で自己進化し、人間憑依霊へとなって、度々イデスバリー戦士を襲っていた・・・という話を、今は亡くなった師匠から聞いた程度だ」
「せ、千年以上・・・」
ニャランは眉を上げる・・・自身を知る戦士に、そのような情報を与えた事があったかどうか? 少なくとも、当人に覚えはない。
「まぁいいわ。私の事を知ってくれているのはとても嬉しいから、大サービスよ」
樹木憑依霊が使うモノと同じタイプの鞭を・・・まるで樹木の枝と勘違いするほどの量を放出し・・・。
「あなた達には、ちょっとだけ本気を見せてあげるわねぇ~♪」
ちょっと本気を見せただけで、ベテランもあっという間に倒れた。
「ふむ・・・手応えが無いわねぇ・・・」
長く憑依霊をやっているのも考え物なのかもしれない。
そう思うも、最後に残った若手の戦士を見る。
「ひ・・・」
「・・・そこのあなた? ちょっとお願いがあるんだけど」
「な、なんですか?」
獣人なので、パッと見で男女の見分けがつかない。しかし、腰が抜けている様子と、声、仕草などから女性であると判断したニャランは、そして支社長室を指さす。
「秘書の子ね。舌を噛み切ろうとして、舌から出血しているの。手当してあげてちょうだいな」
「は?」
それだけ言って、ニャランは「バイバイ」と手を振ってエレベータ―乗り場へ移動した。
先ほどの子が戦士として追いかけて来る可能性も考慮したが、足音からして支社長室へ向かったのだと察知する。
「いい子ね」
エレベーターの扉を鞭で破壊し、上へと続くそれを登っていく。
『光』はどんどんと近くなって・・・。
「ッ!?」
鞭を束ねて螺旋を描き、横回転からのドリル状にして降ってきた天井を突き破る。いや、天井が降って来たのではない。エレベーターの箱だ。
「ここより先は、行かせん」
一目見て、ハクビシンだと分かる獣人系戦士が現れる。
「・・・あら? あなた、カマイタチって名前じゃないかしら?」
「・・・ 知られているとはな」
「ナンシーが楽しそうに語っていたからね。覚えているわ」
片方の眉がピクッと動くのを見る。
「でも、あなた奥さんの護衛でしょう? こんなところに出てきていいのかしら?」
「妻は避難している。貴様以外の侵入者も確認されていない。ならば、貴様を倒すのが最大の守りだ」
「・・・それもそうねぇ」
ここで、ニャランは冷や汗が出ている事に気づく・・・。
間違いなく、この戦士は強者である。と、ニャランの感覚が察知している。生半可な攻撃など、この戦士には無意味だろう。
ナンシーと幾度も無く戦った経験が、彼の戦士をレベルアップさせてしまったのだと予想する。
「ナンシーったら、余計なことをしてくれたわね」
「ああ、ヤツは昔から、余計なことしかしない男だ」
「・・・ふ、っふふ。私より、彼を知っているなんてねぇ・・・いいわ。ちょっと早すぎるけど、全力で相手してあげる」
直後、束ねた鞭を再びドリルのように突き出して、イデスバリー・カマイタチを奇襲した。対し、大鎌をブーメランのように投げて自身の周囲で旋回させると、突き出される鞭を鉛筆削りのように裂いていく。
「久しぶりだわ! コレを削りカツオみたいにしてくれる人はね!」
「そうかッ」
ニャランは、髪の毛を鞭へ変換し、それらを膨張させて肥大化し、エレベーターが移動する狭い縦穴の隙間を埋めるようにしながらカマイタチを襲う。
一方で、カマイタチは大鎌を振るいながら殺到する鞭を切断しつつ、忍者が行う『印』を結ぶ。
「大鎌分身! 影鎌断裂!!」
狭い縦穴の四方へと、黒い影状の大鎌が回転しながら飛んで行き、空間を埋めるようにして殺到していた鞭をスライサーのように千切りしていく。
「ちぃ!」
思わず舌打ちをしてしまうニャランは、この技に対応してくるとは予想していても、ここまで完璧に千切りされていしまうとは思っていなかった。
有象無象の石ころ程度の魅力しかないとはいえ、やはり、強い戦士がいる。という事実に自然と笑みがこぼれる。
「懐かしい! 昔はあなたぐらい強い戦士がゴロゴロいたものなんだけどねぇえ!!」
「平和の世だ! 強い者など、少なくていいッ!!」
「まったくだわ!」
千切りされた鞭を再度取り込んで、今度は網目状に固めて盾とし、カマイタチを押し上げるようにしてぶつける。
これには千切りしていた影の大鎌もスライスできずに押し返される。
「さぁ!『光』のいる階層まで、私がエレベーターをしてあげるわね!」
「無用だ!!」
腰のポーチより、可燃性の特製アルコールを入れた瓶を取り出し、コレを放って大鎌で斬る。
その瞬間に大鎌が空気を引き込み、わずかなイデスバリー光を当てるだけで発火する特製アルコールに火が付くと、爆発的に燃え広がる。
「鎌輪火斬!!」
高速回転する鎌は車輪のように。そして、燃え広がる火を取り込んで刃に熱を込める。
「焼き斬る!!」
「来いッ!!」
秘密結社メシア日本・東京支社の最下層にある支社長室から続くエレベーター。
下方から響く破砕音に、イデスバリー・ナイトメアが待機している階のエレベーター乗り場付近で敵の到着を待っていた部隊は、堪らず息を呑む。
と、物凄い爆発音共に、周囲の照明が一斉に停電すると、非常灯がつく・・・エレベーター乗り場の下層が爆発と破砕で歪な変形をしながら膨張した跡を残しつつ、扉を吹き飛ばして炎を吐き出した。
壁に激突して、廊下に膝を付きながら着地するイデスバリー・カマイタチに、待ち構えていた者たちが顔を真っ青にする。
「はぁ・・・はぁ・・・強い」
同期でも、最強として誰もが認めているカマイタチが、息切れするほどに追い詰められている。
その事実に、待ち構えていた者たちは震えた。
と、大口を開いて炎を吐き出し続けているエレベーターの乗り口だった大穴から、樹木の大蛇とも言えるほどに鞭を束ねて使うニャランが出てくる。
「はぁ・・・はぁ・・・はは。私が全力出して仕留め損ねるなんてねぇ・・・」
どちらも満身創痍なのは見て分かるが・・・。
飛び出そうとした若手を、ベテランが抱き止める。
そして、全員に後退するように促して、カマイタチに薬を投げた。
「・・・すまん」
薬が割れたりしないように、同期の彼はイデスバリー光で包んでいた。カマイタチはそれを確認して即座に薬を拾い上げ、片手で開けられる蓋をへし折り、口の中へと薬液を放り込む。
「あら? 回復役の類?」
「そうだ。仲間に感謝せねばな」
「そうねぇ」
いい判断だ。ニャランは素直に称賛した。
ここで助けに入るなどの行動をすれば、ニャランは鞭で絡め捕ってエネルギーを回収する。それで回復を行える。
しかし、カマイタチを助けに突入せず、薬を投げるだけで後退していくのを察知する。
いい判断だ。もう一度、ニャランは称賛した。
「時間も惜しいわ・・・お互いに、切り札でもぶつけましょうか?」
「いいだろう・・・」
▲
「いたたた・・・さすがに危なかったわねぇ」
うまい具合に騙せてよかった。ニャランはボロボロの身体をどうにか動かして移動している。
イデスバリー・カマイタチ。
ナンシーが一時、良く語っていた『宿敵』というイデスバリー戦士の名前を思い出した時は本当にどうしたものかと悩んだ。
現代では出会う事も稀な強者に育っていたことは、正直、ニャランにとって嬉しいけど迷惑な誤算だった。あの野郎。と愚痴ってしまいそうだ。
しかし、大技を使うとわずかに隙が生じる。という話を聞いていたので、あえて大技を使わせて隙を狙った。
最後なぞ、切り札をぶつけ合う最中に、こっそりと忍ばせた鞭でカマイタチを絡め捕り、エネルギーをいただいて窮地を脱する。
「おっそろしい技を使うじゃないのよ・・・ミキサーそのものねぇ」
廊下みたいな狭い空間で使う技じゃない・・・と思ったが、むしろ狭い空間で使うからこその大技とも言える。下手をすれば、使った本人も身体がミンチになる危険な技を、躊躇いも無く使ってくることに恐怖する。
ニャランは、そして『光』の元へ移動する。
先の待ち伏せ部隊がいる可能性を考慮しつつ、今の状態でも十分に対応できるだろうと予想。
過去にも、カマイタチに同等の戦士と戦って来た経験が、ニャランをギリギリで勝利に導いてくれたのだと、これまでの経験に感謝した。
同時に、カマイタチレベルの実力者にここ100年前後は遭遇していなかったために、鈍っていることも自覚する。本当に雑魚を相手し過ぎていた。
壁伝いに移動し、身体が訴える痛みを堪え、もう少しで『光』の元へ辿り着くことに笑みは増す。
「さて、到着ね」
今、ニャランは希望の『光』が待つ部屋の扉に到着する。
とはいえ、こういう場合のお約束と言えば、扉が開いた瞬間に室内にいる護衛などが一斉攻撃をするものだ。
馬鹿正直に中へ入ることはしない。
カマイタチにも使ったが、自身の最大防御技である鞭を束ねて網状に組み、扉と同じサイズで作り上げて分厚く重ねる。
コレを構えて、扉を開いた。
案の定。中から飛び道具などの攻撃が一斉射され、ニャランはヤレヤレとため息を吐いて・・・一歩、室内に踏み込んだ。
その正面に、求めている『光』がいる・・・。
この『光』を見なくなって、どれだけの月日が過ぎてしまったのだろうか?
ナンシーが言っていたように、この『光』の魅力を前にすれば、怪異としての本能が暴走する。というのは間違いじゃない。
情けないことに、久しぶりの『光』を見てニャランもまた暴走しかけていた。
だが、ナンシーより受け取った情報のおかげで、『光』には輪郭線なれど顔が認識できる。その造形美に理性が繋ぎ止められ、ニャランはさらに歩を進める。
美しい。これほどの美女に、自分が転生するための身体を産んでもらえれば、間違いなく美女の肉体を得られるだろう。その確信を持つ。
未来は明るい。
目が眩むほどの光が、美しい『光』までもを塗りつぶすように膨れ上がり・・・そして、構えていた鞭を編んで重ねた最硬防御の盾に激突してくる。
「へぁ?」
間抜けな声を出し、まったくもって予想もしていなかった光の激突に踏ん張ることもせず吹っ飛ばされる。
そして、部屋の扉から廊下へ押し出され、壁に激突することに気づいて背にも同様の盾を編んで噛ませた。紙一重の防御に成功した。
が、前面に構えた盾にぶつかっている光は衰えることが無く、ニャランを潰すために圧を増していく。
「う、ぐぅ・・・う」
イデスバリー・カマイタチとの戦闘で、すでにボロボロ・・・その上、自身のエネルギーもカツカツな状況となっている上で、この光・・・。
自分が求めていた『光』とは異なる光・・・。
「な、なんの光なのよぉぉぉぉぉおおおおおお」
ニャランの意識は、ここで途絶えた。
次回は、秘密結社、強襲。を予定しています。
話しのメインではないので、だいぶ端折っております。
申し訳ありません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。




