01 プロローグ
こんにちは。こんばんは。
この作品は、性的描写。不適切。不快な表現が多量に出てくると思われますので、お読みになる方はご注意ください。
あと、ご容赦ください。
最後まで、お読みいただけたら幸いです。
庭先で激しい胸の痛みに倒れた時、私は何を思った事だろう?
声も出せず、助けも呼べず・・・。
走馬灯というモノを見るのかと思えば、特に何を見る事もなく・・・長く過ごした実家を見つめ、いつだったかに打ち捨てられていたので拾ってきた・・・小さな地蔵が視界に入った。
汚れを拭い、縁側に置いておいたモノが、こちらへ駆け寄ってくる姿を幻視する。
・・・あぁ・・・これで・・・。
▽
布団を払い除けるように剥いで、起き上がった。
あまりにも現実味を帯びた激痛を胸に感じた私は、布団から起き上がった勢いのままに自分の胸をまさぐって異常を探る。
・・・特に、なにが起きたという事も無い?
小さく息を吸ってから吐いて、小刻みに呼吸を繰り返して自分が生きていることを自覚する。
「ふぅ・・・なんて夢を」
汗でぐっしょりと全身が濡れていた。
最後に深呼吸をして、それから自室を見回してみる。
なんという事も無い。自分の部屋だ・・・特に飾り気もない・・・16歳の女子高生が使う部屋としては殺風景だと言われてしまうくらいの地味な部屋。
目覚まし時計を見て、ちょうど日課となる早朝トレーニングを始める時間だと知り、私は布団を出て汗で濡れた服を脱いで、運動用の下着に着替える。
そうして、運動着であるジャージを手に取りつつ、部屋に設置した姿鏡を見た。
・・・成長したな。
つい先日まで、まだまだ子供だと養父に言われてきたはずなのに、もう高校生だ。
体つきも大人の仲間入りをして、周囲の同世代よりも発育が良いせいで、私を見る目が次第に変わっていくことに恐怖を覚えた。
胸は大きくなり、腰のくびれを羨ましがられ、ご近所の方々には安産型のお尻でよかったね。と・・・ぐ。
これらの発育は良いと言うのに、なぜ身長は伸び悩むのだろう? 170cmに到達できそうにない。
成長が終わるまでに、ギリギリで165cmは超えられるかな?くらいの微増なのが納得できない。
何かしらの理不尽を覚えながらも、運動服のジャージを着込んで・・・私は部屋を出る。
〔おう? 起きたのか〕
「はい。お養父さん・・・日課のトレーニングに出かけてきます」
〔・・・あ、ああ。車などには気を付けろよ〕
ん? なにか驚いてる?
「・・・はい。気を付けます。行ってきますね!」
関東地方の北方にある田舎町。
私は、生まれて1年ほどの赤ん坊となる頃に、この家の近くで捨てられていた子供だったらしい。
それを拾って交番まで届けてくれたのが、この養父である『夜乃次蔵』さんだった。
結局、私の親は見つけられなかったことで、未婚で子供などが居なかった次蔵さんが私を引き取ってくれることとなり、実の娘のように育ててくれたのである。
ちょっと口が悪いのだけどね。
・・・とはいえ、今や高齢のお爺さんなので・・・いつまで一緒に居られるかな・・・。
ダメダメ。
ネガティブな事は考えてはダメ。ストレスは健康の敵だから、今日の朝ごはんを想像して帰宅するまでの楽しみにしよう。
毎日の日課としてやっていることは、まず『ランニング』。
家からスタートして、比較的に安全なコースを決めて町内を一周するのが一つ。
帰宅してからは、竹刀を手に庭で剣の素振り。
それからイメージによる擬似的試合を行うトレーニング。
学校があるのでこの二つだけだけれど、後は汗をシャワーで流して学生服に着替えて登校する。
信号が点滅を始めたら、無理をせずに青信号を待つ。その間は足踏みだけで身体を休め、呼吸を整える。
歩道の信号が点滅を始め、私は信号の前でいつも通りに止まり・・・赤に変わるという瞬間に世界の色が変色するのを見た。
青いはずの空も、周囲の建物も、唐突に変色して『赤』『青』『緑』の三色にブレて歪み出す。
思わず息を呑んで、周囲を見回しながら・・・自分は大丈夫なのだろうか?と、両手を確認したものの、見慣れた手は見慣れた色をしていたので安堵する。
「・・・じゃあ、これは?」
私は、まだ夢を見ているのだろうか?
こんな非現実的な事が起こるなんて、あり得ないと思うのだけど・・・。
「リバーシブル・フィールド。世界の裏表を同時に表層へと引っ張り出して、神羅万象の処理能力を麻痺させる・・・まぁ、結界のような技術だよ」
男の声が響き、私はすぐさま向き直る。
「やぁ、良い朝だ。君のような美人さんに出会えるなんて・・・調査員を始めて、今日が初めてだ。やったぜ!」
・・・なんだろう?この人。
「あの、リバーシブルとか言っていましたけど、ご存じなのですか?」
「そうだよ。俺が展開した・・・こんな田舎町には似つかわしくもない超ド級の美人さんが居るんだぜ? 昨日確認された『リバースデイ』の対象者と疑うのは当然だ」
・・・?
昨日確認された? リバースデイ? そんな名前の日だったかな?
「んー? 君、『リバースデイ』を知らないのか? そうか・・・だとすると、野良異世界人によるものだな。メモメモ」
・・・野良異世界人?
スマホを取り出して、なにやらメモをし始めているところを見ても、怪しいばかりで警戒心が深まっていく。
「さて・・・俺が今日までに先発として調査に来た土地で、リバースデイを迎えたのは数名いるが、みんな男ばかりでさ。女の子が一人もいないかったんだよ」
だからなんなの?
「でも! とうとう君のような美人さんに出会えたんだ! これって運命だよね!?」
「いえ、偶然だと思いますが?」
「ふ。偶然と書いて『必然』と読むこともできるんだぜ?」
「できません」
なんだか背筋がゾッとするような決め顔で言われてしまったことで、私はドン引きしながら否定していた。
「・・・ふん。まぁいいよ。それよりさ? その様子だと『イデスバリー』も知らないか?」
「イデスバリー?」
そんな言葉は聞いた事も無いけれど・・・。
「そっかー。そっかそっか・・・じゃ、見せてあげるよ。イデスバリーッ!!」
男が子供番組のヒーローみたいなアクションでポーズを取ると、その全身が目に痛くない光を放って・・・こう・・・グニャグニャと蠢き始めると、なにやら人の姿とは思えないシルエットになって止まる。
そうして光が、泡のように弾けて消えて行くと・・・トカゲの意匠をふんだんに残した人型の怪人が現れた。
「ふ! どうだ!? イデスバリー・リザドラル! それがこの俺だ!」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「あ、特撮のスタッフさんだったんですね?」
「そういうボケはいらねーよ?」
違うらしい。
でも、いや、でもその姿はどう見ても・・・特撮に出てくる怪人の・・・。
「ふっふっふ。どうだ? コレが『リバースデイ』を迎える事ができた選ばれた人間にのみ使う事の出来る力! 超常的異能力者への変身能力!!」
・・・。
・・・・・・いけない。理解が追い付かない。
「さぁ! 君も『イデスバリー』をしてみるんだ!」
・・・え? 私も?
「私に、できるんですか?」
「できる! この結界、リバーシブル・フィールドで動ける人間は、間違いなくリバースデイを迎えた人間だ。となれば、君もまた変身できる!」
「・・・いえ、怪人になるのは遠慮したいのですが?」
「それは君次第だなー。リバースデイを迎える前までの生活が、変身する姿を左右する。らしいぞ」
らしいんですか・・・。
どうやら、この人は詳しいのではなくて教わったことを述べているだけのよう。
「変身するには『念じる』ことが重要だ。自分の理想の姿に変身することを強く念じれば『イデスバリー』は起動する・・・っと、先輩の話だと、巨悪に立ち向かうヒーローをイメージして、声に出して念じると一発で成功するんだ。俺もそうだった!」
ヒーローの姿をイメージして、トカゲ怪人に変身したと?
・・・不安しかないから、言う事を聞きたくない。
「ん? どしたん? 早くしなよー・・・あ、言う通りにしないと、俺の爪でお前を八つ裂きにしてやるぜ? 身を守るためにも、俺の言う通りにした方がいいぞぉー」
脅し? 脅しなのかな?
「今の俺は、こんなことが出来る! そぉら!!」
自慢げな顔で声を張り上げるトカゲ怪人は、そしてトカゲ特有の爪を振るって、電信柱を豆腐のように引き裂いて壊して見せた。
その様子には呆気に取られ・・・ゆっくりと倒れて崩れる電信柱を見て、初めて恐怖を覚える。
「ほらほら。八つ裂きにするぞー! 早く変身しろって!」
ところどころで子供っぽくなるのが、どうにも不気味でしかたない。
けれど、あのような攻撃力を見せられてしまったら、言う通りにした方がいいのかも?とも思う。
あまりにも突拍子の無い事が起こり続けていて、冷静に考えることが出来なくなっていた私は、この不気味な状況を打破するキッカケとなるならば・・・と、トカゲ怪人の言葉に乗ってしまった。
「い・・・イデスバリーッ!」
その一言で、私の視界は光に包まれ・・・全身にこれまで感じたことのない摩訶不思議な力が漲ってくるのを知覚する。
それはとても力強くて、温かくて、私に勇気をくれるモノ。
そうして、光が泡となって弾けて消え、視界が・・・リバーシブル・フィールド?という結界?の風景に戻って、すこしがっかりした。
実はドッキリです。とか言ってもらった方が、嬉しかったのだけど・・・。
「うっひょー! やっぱ大当たりじゃーん!」
?????
大当たり? なにが? 私を見て大興奮しているのは何故?
そう思って、私は自分の姿を確認するべく身体へと視線を落とす・・・と、真っ先に自分の露出している胸元が視界に飛び込んできた。
「え!?」
まるで何も着ていないような露出した胸元に驚き、すぐさま服の有無を確かめてみると・・・身体にピタッと張り付く・・・そう、これはボディコン衣装とかいう服装によく似た格好をしていた。
この衣装、大胆にはだけた胸元もそうだけれど、スカート丈も非常に短くて歩くだけでも下着が見えてしまいそうだ。
「ひ!」
思わず露出している胸元を片手で隠しつつ、もう片手でスカートを抑えてしまった。
「へー・・・おれ、服装とかあんまり詳しくないけど・・・すごく、エッチです」
「うるさい!」
顔が火照るのを自覚して、どうしてこんな格好に変身したのか困惑する。
これじゃあ、悪の女幹部的な恰好ではないでしょうか?と、気付いていなかったけれど、マントを羽織っていることにここで気が付く。
膝上辺りまで届く長さのマントは、布というよりも金属質の何かで出来ているようだけど・・・このマント、なぜか前面は開けてる!?
なんでこんなデザインなのか?は、この際置いておくとして、とにかくマントの両端を手で掴み、引き寄せて前を隠すことにした。
「あ、あなた! やっぱり嘘だったんですね! ヒーロー的な姿に変身するとか言って!」
「んなこと言ってないぞ?」
言ってませんでしたッ!!?
は、恥ずかしい・・・なんてことだ・・・騙された・・・とも言えないのが悔しい。
「それに、ちょいエロ・ダークヒーローっぽくて良くね?」
「ちょっと黙って!!」
いったいぜんたい何がどうなってこうなっているのッ!?
誰か、もっと詳しい人! 教えてください!!
びびびびびびび ―――怪異警報。怪異警報。戦闘準備。戦闘準備―――
「お、おいでなすった」
トカゲ怪人のスマホが、不気味に鳴り始めると機械音声で意味不明な警報が発生する。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・情報過多が過ぎるでしょうがぁあ!!!?
「なんなんですか!!!」
私の、ただ心からの叫びを放った時、町の外側で爆弾が爆発したような破壊音を響かせて、地中から土を打ち出したかのように、空へと土が飛んでいく様子を目撃しました。
・・・。
・・・・・・。
そうしてもはや目の前で何が起こっているのかも分からないままに、巨大な怪獣が姿を現す。
「ぬおぉぉぉぉぉおおおおんんんんんん」
気の抜けるような鳴き声に腰が抜けそうになった私。
全体は毒々しい紫色の液体に覆われているよう見えるけれども・・・スライムなどとは明らかに異なっていて・・・どす黒く変色した人魂が怪獣の周囲を飛び回っている。
「ど? 君のイデスバリーに反応して、あんな怪異転生した異世界人の成れの果てが出て来たぜ? 俺たち『秘密結社メシア』は、常日頃からこういう怪物を相手にして世界を守っているのさ」
「情報過多に情報を重ねないでください!! 頭がパンクしそうなんです!!」
「うっひょー。こっわ。悪の女幹部にピッタリじゃーん!」
「殴りますよ!!?」
普段の私であれば、こんなに荒れることなどない。
けれど、今は違う・・・もうとにかく、状況をキッチリと整理する場所と時間を設けて欲しいんです!
どうしてくれよう・・・泣きたくなってきた・・・泣いてもいいかな? いいよね?
「あ、ほらほら、コッチ見てる。狙いは君だぞ? 戦わないと食われるよー」
「他人事にしないで!!」
さっきから怒鳴ってばかりで、自分にこんな一面があったなんて思いもしなかった。
どうしてこうなってしまった!?と、誰も答えをくれないから苛立ちが天井を突破して溜まっていくのだと深呼吸を始める。
それに、変身時に得た感覚は確かなモノで、少しだけ意識をそちらに向けると、急激に沸騰していた思考が冷えて来る。
「あ、先輩? 予測地点範囲内に野良リバースデイ対象者を発見しましたー」
≪発見しましたー。じゃないでしょうが!! なんで怪獣怪異が出て来てんのよ!!!≫
「イデスバリーさせて、野良リバースデイ対象者の確認をしたからっす」
≪むやみやたらと変身させるなっていつも言ってんだろうが!! 戦闘員が別の場所で先に出現している怪異の対処で出払ってのよ!?≫
「じゃ、早く駆けつけてくれるように要請してくださーい」
≪ちょ、待ちなさい! き――――≫ブツッ
「よし。応援要請完了」
・・・この人・・・間違いなくアレな人だ・・・もっと早くに気づくべきだった・・・。
スピーカーにしてなかったにも関わらず、スマホからは女性の声が怒鳴り声で響いており、私の耳にもハッキリと聞こえて来た。
そして。このトカゲ怪人が先輩と呼ばれた女性を怒鳴らせている様子には、もはやアレな人なのだという確信しか持てない。
「ところで、君は戦える?」
「・・・変身して何も分からない私に、あの怪獣と戦えと?」
「うん」
「武器だって無いのに!?」
「その腰に差している剣みたいなデザインの刀があるじゃん」
指差しで指摘され、私は自分の腰を見やる。
全く気付いていなかったのだけど、腰にベルトが巻かれており・・・ここに剣のようなデザインをしている刀があった。
鞘・・・そして刀身の反り具合から、太刀だと思われる。
重さを感じなかったこともあり、武器を腰に差しているとは思っても見なかった。
「・・・いや、この刀剣で怪獣と戦えと?」
「そ。うちの戦闘員はみんなそんな感じの武器で、アレぐらいの怪獣を捌いてるんだよ」
・・・ケラケラ笑いながら言う事じゃないよね?
冷静になった思考が、再び沸騰し始めた。このトカゲ怪人・・・人の気を逆なでするのが上手すぎて、油断すると一気に怒りのボルテージを満タンにしてくれる。
「あなたが戦えばいいでしょう」
「あー、それムリ」
・・・いら。
「俺は、君みたいな野良リバースデイ対象者が暴れた際に捕縛するのが仕事なんだ。怪獣は無理」
「捕縛する?」
「そ、俺のこの爪を見てくれ。こいつをどう思う?」
どう見ても爪ですが?
「・・・この爪の付け根から麻痺毒を出せるんだ。その毒は爪にコーティングされ、わずかなかすり傷だけで相手の全身を麻痺させることができる超強力な麻痺毒なんだぜ」
・・・そ、そうなんだ。
「君が暴れたら、この毒爪でどこかにかすり傷を負わせて、全身まひ状態にする。そんで捕縛して会社に持ち帰るのが俺のお仕事の一つなんだよね」
「・・・私を見て大当たりとか言っていたのは?」
「暴れたら麻痺毒で捕まえて、ちょっと・・・うん。安全確認でボディタッチェックさせてもらえるのを期待していただけー」
私の胸を凝視しながら言う事じゃないッ。
〔おい! そんなところで何をしている!? 早く逃げるぞ!〕
その声が、私のよく知る声であったことで、乱れていた思考が一気に正気へ引き戻され、同時に、助けを求めるべくそちらへと振り向いた。
「お養父さん!」
声の人物を呼ぶと共に、私の視界に入ってきたのは・・・。
〔んぁ!? おま、なんだその恰好は!?〕
私の視界に入ってきたのは石像だった。
日本では有名な『地蔵菩薩像』で、大きさは私の膝ぐらい。
そんな小さな石像から、どういうわけか養父の声が響いてくる・・・。
「あ、もしかして彼女の『バース・パーソン』? この正規アバターじゃない感じは、今や激レアの最初期異世界人!? ウルトラシークレットスーパーレアが来たじゃんか!!!」
トカゲ男の歓喜に満ちた声も、今の私には右から左へと通り抜けていく音に過ぎない。
そうして、私は・・・膝から崩れ折れた。
両手を地面について四つん這いで項垂れると共に、涙をボロボロと溢していた。
〔お、おい? 大丈夫か?〕
私の様子に、次蔵さんの声を発するお地蔵さんが歩み寄ってくる。
だけど、もう私の頭も感情もパンクした。大丈夫ではない。だから、私は怒鳴るように問う。
「どうしてお地蔵さんからお養父さんの声がするんですか!?」
〔え? いや、これには訳があってだな?〕
「その訳を聞きたいんですよ!」
「ひゅー。お父さんがんばれーッ!」
「あなたは黙ってて!!」
いや、そう・・・そうだ。
これはそう・・・夢、質の悪い夢・・・つまり、悪夢。
思えば、このトカゲ怪人が現れてからどんどんと話しがおかしくなって、私が変身してから怒涛の勢いで意味不明な展開が続いている。
そして、意味不明な状況を呑み込めないままに、次々と重要そうな情報が押し寄せて来て、私を圧し潰そうとしてくる。
これを『悪夢』と表現して何が悪い? 夢が悪い!
〔すまない。俺にも何がどうなっているのか分からないんだ・・・だから、どうか今は我慢してくれ。俺が知っていることは、ちゃんと説明する。この状況は俺にもサッパリ分からんが・・・〕
「最初期に地球へやってきた異世界人なら、知らなくても仕方ないっすよ! その説明なら『秘密結社メシア』がしてあげるっすから、後で連れてってあげまっす!」
〔ひみつけっしゃ? メシア?〕
お養父さん?も困惑しているところを見ると、私だけが知らないこと・・・ではない。そう思うと、なんだか急に安堵が拡がってくる。
そして、意を決して涙を拭い・・・うん? 手で目元を擦ったら、視界に入った指は肌色ではなく・・・これはグローブ? これ、ロンググローブを着用しているの?
改めて確認してみれば、左右の腕は肘上まであるロンググローブを。脚にはニーハイストッキングにニーハイブーツを着用していた。それもハイヒール・・・。
これらにも気が付かないなんて、本当に余裕がなくなっていたみたい・・・。
「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおんんんんんん」
先の巨大怪獣が、すごいもっさりとした動作で方向転換を始めると、こちらに頭を向けて・・・不気味な眼を見開いて凝視してくる。
「・・・さて、お嬢さん。君の名前を教えてくれないか?」
トカゲ怪人の声が、急に引き締まって男前な雰囲気に変わった事で、私は驚きながら最大限の警戒を顔に出してしまった。
「あ、本名じゃないよ? イデスバリーで変身している今の君の名前・・・えーっと、ヒーロー名とかそういうのね?」
「ひ、ヒーロー名?」
「そそ。よくある話。今の君が誰かに見られたときに、別人です。って言い訳するための名前だよ」
・・・あ、ああ。
つまり、素の状態の私と、変身している私で名前を分けることで別人扱いにするってこと?
「イデスバリーで変身している時の保護機能に、認識干渉操作があってね。素の状態と変身時の状態では、周囲の人間は同一人物と分からないようになっているんだ。既存概念てやつだけど、便利機能だよね」
そ、そうなんだ・・・。
こ、この格好を隣近所の町民に見られる。という可能性を思いついてなかった。
「ただし、変身時に本名を名乗ると、同一人物として定まっちゃうから・・・うっかり本名を名乗る前に、今のうちに変身中の名前を決めておいた方がいいよー」
「い、いまのうち!?」
そ、そんな急に言われても・・・早々に思いつくわけもないじゃない!?
「そっそ。なんでもいいんよー。例えば、今の自分を表す言葉。今の気持ちを一言で。または伝説神話伝承伝記。好きな植物動物空想童話。世界は名前に溢れている! 君が騙りたい! 君が名乗りたい! そんな名前を思いのままに名乗ればいい!」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・今すぐに思いつくのは『悪夢』
つい先ほど、コレは夢。質の悪い夢。そう考えて、結論として『悪夢』とした。
パッと思いつける他も、この状況では出てこず・・・。
「悪夢・・・そう、ナイトメア! ナイトメアで!」
「よし! ならば名乗るんだ! ちなみに俺は、イデスバリー・リザドラル!」
・・・あ、イデスバリーを入れろということですね?
「わ、私の名前は! イデスバリー・ナイトメア!」
瞬間。
カチリ。と、私の中で何かがかみ合い、身体が再び光を放ってすぐに収まった。
だけど、私には感じられる。
変身した時と同様の力・・・いや、それ以上の力が体に漲って、頭がどんどん冴えていく。
周囲を見回し、今の状況を瞬時に把握する。
もはや自分一人では理解不能な事柄は即座に思考から取り除き、もっとも自分にとって脅威となる存在への対応を最優先項目として判断する。
「トカゲ怪人さん。お養父さんをお願いしても?」
「はいよー。まかされたー」
小さな石像のお地蔵さんを抱きかかえるトカゲ怪人は、それはもう見事な脚力で逃げていく。
擬音系なら「ぴゅぅーん」でしょうか?
「・・・絶対戦えるでしょ? ねぇえ?」
どんな顔をしているのか、自分で想像するのは止めた。
けれど、間違いなくキレた顔になっているのは分かるので、やっぱり想像するのは止めた。
「この怒りと苛立ちと八つ当たりを、あなたにぶつけさせてもらいます!!」
腰に差した剣のような刀を納めている鞘を左手で握る。
そして、最速で駆け始めると・・・初速から景色が激流の川のごとく私の後方へと流れて見えなくなる。
普段であれば在り得ない速度に驚いて足を止めてしまうところだけど、割と結構キレている今の私には気になるような事柄でもなく。
巨体でありながらもっさりとした歩きしかしない怪獣・・・いや、これよく見るとオオサンショウウオに似てませんかね?
そんな巨大オオサンショウウオみたいな怪獣の足元へ飛び込み、刀の柄に手を掛ける。
「夢幻一刀流・抜刀術!!」
この足を切り飛ばす技。と考えた時、すぐさま脳裏に浮かんだ技の名前と放ち方。
これも変身による物か? しかし、なぜか聞き慣れた名と、手に馴染む技の動作であるために、リラックスした気持ちで扱えた。
「おやすみ」
放たれた刀が、三日月のような斬撃の剣閃を残し、オオサンショウウオ怪獣の太い前足一本を切断する。
脚が急に無くなったことで、姿勢を崩して前のめりに倒れだす怪獣へ・・・私はすぐさま次の一刀を切り込むために最速で移動する。
目指すは、その頭。
「夢幻一刀流・斬撃術!」
刀を両手でしっかりと握り、上段から真っ直ぐに首を狙い振り下ろす。
「寝違え!」
ズバッと、言葉の意味をまるごと間違えているような気もしますけど、怪獣の首をそれはもう綺麗に切断してあげました。
私の一撃で頭が落下する・・・その下で着地し、巻き添えにならないよう再び最速で走り出して距離を取る。
さっきまで至近距離にいたというのに、頭が地面に落着する頃には十分な距離を取れている。
・・・すごい。まさかこんなに動けるなんて・・・。
自分の状態を確認し、特に疲労も消耗も感じない自分にただただ驚くばかり・・・。
「油断しちゃだめだ! ナイトメアちゃん!!」
トカゲ怪人の声がしたので、その姿を探して周囲に視線をさ迷わせた時・・・私の左右の腕に巻きつく蔦もしくは鞭のような何かが私を引っ張り地面へと引き倒す。
「いった・・・」
油断大敵とも言えますが、不意打ちとは卑怯なことを。
と、起き上がろうと足を動かしたところで両腕が引っ張られ、引きずられ始める。
「だからいったのにーッ!」
トカゲ怪人が私の両足を抱きかかえるようにして持ち上げると、私が引きずられないように両足の爪を立てて地面を掴み、踏ん張ってくれる。
両腕にそれぞれ巻き付いているモノを見て、その先を見れば・・・怪獣の周りを飛び回っていた人魂から伸びているモノだと理解した。
と、引っ張る力が強まって、私の足を抱えている腕から滑り抜けそうになるトカゲ怪人さんが、慌てて右手を私のお尻あたりに伸ばして掴んできた。
「きゃあああ!! どどどどどこを触ってるんですか!!!」
「ベルトだよ!腰のベルト! 君のお尻に触ってんのは爪だかんね!!」
「そ、そそそ、そう、そうですか!?」
ミチミチという音が私の身体で鳴り始めると、上半身と下半身の綱引き状態であることに今更ながら気づき、そして次第に痛みの熱が生じてくる。
これはもう、お腹が引き千切れる痛みであると思われ・・・ぃたたたたたたッ!!
痛みがどんどんと膨れ上がって、もはやどうしたらこの状況を脱せるのかも分からなくなってしまった私。
誰かに助けを求める声さえも出せなくなりつつある中で、空を駆け抜ける赤い玉が人魂に命中した。
途端、私を引っ張っていた両腕のソレが緩んで外れ、私を引っ張っていたトカゲ怪人さんが勢いよく後方へと倒れ込んで私は頭を地面に打ち付けた。
「ふむ。間に合ったようだ」
その全身を灼熱の炎で包み込み、美しくも恐ろしい熱量を放つ翼で空より舞い降りてくる人物が、そして私を見て微笑む。
「うっひゃー! 支社長!! 待ってましたーッ! 秘密結社メシア日本東京支社の支社長! イデスバリー・フェニックスぅ!!」
トカゲ怪人さんが大はしゃぎで拍手しているけれども・・・。
・・・。
・・・・・・。
あ、うん・・・本当にもう、無理です。
情報過多が限界突破で思考回路がショート寸前なので、私はこれ以上の思考を放棄した。
次回は、なるようにしかならないと思われます。
・・・性的描写を意識して描くことを考えると、もうメッチャビビってしまっております。
とりあえず、こんな感じで5話くらいの更新をなるべく早いうちにしたいと思っておりますが、できるか分かりません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。