解離魔術
ヴォルトが騎士団本部本館の外に出るとそこには当然の如くルドアが待っていた。彼女が取調室から出て行ってから、ジルフと話している間にそれなりに時間が経ってしまったこともあって、ヴォルトは彼女から『遅い』などと叱責されるかもしれないと想像していたが、どうやらそれは杞憂だったらしい。彼女は特に苛立っている様子もなく、
「じゃあ行きましょうか」
と淡白に言い放つと、騎士団本部本館から正門に続く白い石畳の道を歩き出した。ヴォルトも彼女の後ろを三歩離れてついて歩く。
「一緒にいた子――貴方の妹?」
不意にルドアにそんなことを聞かれて、ヴォルトは一瞬たじろいだ。取調室での彼女の態度はこんな世間話をするような雰囲気は持ち合わせていなかった。そのギャップに対応できず、口籠ったヴォルトは咄嗟に、
「まぁそんな所だ」
と適当に答える。どちらにせよ『姪だ』などと答えると説明がややこしくなりかねない。ヴォルトはまぁいいかと、まともに答えなかった自分を肯定する。
「ふーん」
ルドアが何か言いた気に、そう発したその時だった。
「ルードーアーちゃん!」
その元気いっぱいな声が聞こえた瞬間、その声の主は突然背後から現れヴォルトとルドアの間に割り入ったかと思うと、ルドアの身体に背中から抱き着いた。
「きゃ!」
抱き着かれた彼女の口から、らしくない声が漏れだす。セミショートの赤髪にお日様みたいなオレンジ色をした瞳。学園の制服を着た少女がルドアの肩に顎を乗せて溢れんばかりの笑みを浮かべている。
「アゼリア!? あなた授業はどうしたの?」
「忘れ物しちゃって、自室に取りに行くところなんだよね」
アゼリアと呼ばれた底なしに明るい少女は抱き着いていたルドアから離れると、今度は背後にいるヴォルトへ、顔を覗き込みながら歩み寄る。
「あなたがヴォルトちゃん? やっぱり男の子だったんだね」
やはりジルフのせいで特大の勘違いをされていたようだが、ルドアの時とは違いアゼリアはあっさりとヴォルトが男だったことを受け入れたようで、両手でヴォルトの右手を取って握手すると、
「私はアゼリア。アゼリア=シュタインフォルス。よろしくね! もうこれで友達だよ! ね!」
と屈託のない笑みを見せつけて来た。
「お、おう」
ヴォルトはその眩しすぎる笑顔に圧倒されて、それしか言えなかった。
「あ、そうだ! もう行かないと! またね!」
思い出したようにそう言うと、アゼリアはぶんぶんと両手を振りながら、二人の方を向いたまま後ろ歩きで去っていく。気付くとヴォルトもルドアも彼女につられて、小さく手を振っていた。
アゼリアが見えなくなった後、ルドアはどこか憂わしげに言葉を紡ぐ。
「あの子――いい子でしょ? いつも明るくて、誰とでも仲良くなれる。悪口なんか聞いたこともない。けどなんだか無理してるんじゃないかってちょっと心配になるのよね」
アゼリアを気遣う彼女をなんだかいじらしく感じたヴォルトは、
「そんな風に気にかけてくれるヤツが近くにいるんだ。きっと大丈夫だろ?」
そう楽観的に言った彼を意外に思ったのか、一瞬目を丸くしたルドアは、すぐに笑顔になって憂いを吹き飛ばすように言い放った。
「それもそうよね」
+
南大通りから外れた脇道をルドアとヴォルトは歩いている。大通りと比べてこの小道は、景色こそ大差ないものの人通りはかなり少ない。薄暗く陰気な空気が漂っている。二人は現在、実務研修の調査を行うため現場に向かっている最中――ヴォルトはそう思っていた。そう、ヴォルトだけは――。
「実務研修で調査する事件は学園側から指定されている。でも私この事件を調査する気はないの」
突拍子もない彼女の発言に、ヴォルトは苦い表情をする。
「言ってる意味がわからないんだが?」
「実務研修はルール上どんな事件を調査してもいいことになってるの。興味がそそられない事件を調査するなんてつまらないだけじゃない?」
(つまらないからどうとか、そういう感情は必要ないと思うんだが……)
そう思いつつも、彼女には彼女なりの考えがあるのだろうとヴォルトはそれを黙って聞き流す。
「私、気になってる事件があるの」
「なんなんだ? その事件って言うのは」
気乗りしない様子のヴォルトを横目に見ながら自信満々といった表情を浮かべたルドアは威勢の良い声で言った。
「小火よ」
そのあまりにも張り合いのない単語に、ヴォルトは何もないのに転びそうになった。
「もったいぶるからもっと大きな事件かと思ったじゃないか……」
どうやらヴォルトがこういう反応をする事も彼女の想定通りだったらしく、ルドアはふふんと鼻を鳴らして得意げにしながら話を続ける。
「もちろん、ただの小火じゃないわよ。騎士団の報告書には『事件性のない小火』と書かれているの」
ますます首をかしげるヴォルト。
「じゃあ事件ですらないじゃないか」
「貴方昨日ペイオリティに来たんでしょ? だったらその反応も頷けるわね。だってあれを見てないんだもの――」
そう意味深な発言をした後、唐突にルドアが足を止めた。つられてヴォルトも立ち止まる。
彼女は怪訝な表情をしながら辺りを見渡している。
「ねぇなんか聞こえなかった? 女の人の悲鳴みたいな声――」
そう言われてヴォルトは素直に耳を澄ます。
大通りの方から聞こえてくる喧騒に紛れて、かすかに絹を裂くような女性の叫びが聞こえる。それは二人の進路上にある道の脇、ひっそりと存在する狭い路地の先から反響していた。
それがわかったと同時に、ルドアは迷いなく走り出していた。
「行くわよ!」
「あ、あぁ」
ワンテンポ遅れて駆け出したヴォルトは足をもつれさせながら、たどたどしくルドアの後を追い、薄暗い路地の奥へと向かって進んでいった。
+
魔術による高速建築が原因か、大通りから外れた小道には多数のいびつな路地が点在している。昨今のペイオリティではこの手の路地裏で様々な犯罪が引き起こされている。まさに犯罪の温床とも言うべきロケーションが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
その一つを駆け抜けるルドアは、背後にいるはずのヴォルトが居なくなっている事に気が付いた。
だがヴォルトにかまっている暇はない。先ほどまで聞こえていたはずの叫び声が全く聞こえないのだ。この先から聞こえてきたのは間違いない。事は一刻を争うと察した彼女はついてこれなかったヴォルトの事は忘れて、女性の叫び声がした方へ直走った。
じめついた薄灰色の石造りの地面に、水はけが悪いのか数日前に降った雨が所々に水たまりとして残っている。ローファーが汚れることなど構わないとばかりに、水たまりを蹴って、日の光の届かない仄暗い細道をルドアは突き進んだ。
彼女の視線の先に開けた空間が現れた。その先で仰向けになった女性の上に覆いかぶさるスキンヘッドの男が見える。
上裸で革製のズボンを履いたいかにもゴロツキといった風貌の男はニタニタと気色悪い表情で女性を見下ろしながら舌をだらりと出して興奮している。男を制止するべくルドアは走りながら大声をあげた。
「その人から離れなさい!」
そんな言葉で相手が止まらない事はルドアも承知していた。走りながら咄嗟に握った拳の中で紫色した魔力を絞り出し、それを幾本もの繊維状に加工する。眼に見えない程か細い魔力の繊維を編み上げ、一本の魔力の糸を作り上げる。ルドアはその糸を女性に覆いかぶさる男の胴体に向かって投げ、巻き付けた後、立ち止まると同時に思い切り手前にそれを引っ張った。
ゴロツキ風の男の身体が不自然に真横に飛んだかと思うと、背負い投げでもされたかのように空中で一回転し背中から地面に激突する。どうやら倒れている女性から男を引きはがすことには成功したようだ。
二メートル程度離れた場所まで投げ飛ばされたゴロツキは気絶でもしているのか地面に寝てまま動かない。ルドアは男の事など見向きもしないで、未だ地面に倒れている女性の元に駆け寄った。片膝をついて屈み、倒れている女性の様子を見る。
女性は眼を見開いたまま唇を震わせている。極端に呼吸が浅い。
「貴方、大丈夫!? 立てる!?」
呼びかけているのに返事がない。いや返事ができないというのが正しいのかもしれない。視点はルドアの方を向いている。口も微かに動いている。しかし声が出せないようだった。
――身体の自由が奪われている。彼女の様子を見たルドアはそんな印象を覚えた。
ルドアには女性の身に起こっているこの症状に心当たりがあった。
「まさか――!?」
そう口にした時だった。ルドアの身体の表面に薄いベールの様な紫色の魔力が表出したかと思うと亀裂が走り、次の瞬間には弾け飛んで消えていった。
「基礎魔術防護が剥がされた!?」
生物には基礎魔術防護という生まれつき備わった『魔術に対する耐性』が存在する。これがある事で他者に自らの魔力を利用されるのを防いだり、寄生型魔術という相手の肉体に文字通り寄生させるタイプの魔術を阻むことができる。しかし、ある程度上のクラスの魔術師ともなれば、これを無効化し、凶悪無比な魔術を施すことができる。
今のルドアは魔術的に無防備な状態にある。目の前で倒れている女性は、おそらく同じく基礎魔術防護を剥がされたのだろう。つまりこの後、ルドアに待ち受けているのは、この女性と同じく――。
――察したルドアは、思考よりも早く、振り向きながら立ち上がり、先程投げ飛ばしたゴロツキ風の男の方を鋭く見る。
白い魔力で描かれた複雑な紋様を伴う魔術陣が展開されている。その向こう側にいる男の、やせ細った右手人差し指に白い魔石のはまった指輪が見えた。それが女性を動けなくした魔術の正体。
「簡易魔術輪――! あれさえ破壊すれば――」
指輪を目視した瞬間に、ルドアは紫色の魔力――雷属性魔力で自らの眼前に魔術陣を構築し、発動する。
紫色に強く光を放つ電気を纏った刃が魔術陣の前に生成され、目にも止まらぬ速さで前方に射出される。しかし狙ったはずの電気の刃はゴロツキのわずか数センチ横を掠め、路地裏の壁に当たり消滅した。路地裏の壁がじりじりと電気を纏いながら焦げている。
ルドアの魔術は狙いこそしたが、ほんの数秒の猶予しかなかったこの状況下で、外れてしまった。
諦めるかとばかりに、走り出そうとするルドアだったが、その足掻きもそれまでだった。
ゴロツキの目の前にある魔術陣が一瞬瞬いた後、ルドアの身体を包み込むように白い魔術陣が描かれ、すぐさまそれは肌に溶け込むように消え去り、見えなくなった。途端に彼女の身体は、転ぶような形で湿った石造りの地面にうつ伏せで倒れ込んだ。
「やっぱり……解離……魔術……」
解離魔術は寄生型魔術の一種だ。対象者の肉体の自由を奪い、無力化することができる。その効果自体は強力だが、基礎魔術防護によって簡単に阻まれてしまうほか、対策を知っていれば脅威とはなりえない。
しかし、ルドアはその対策を知らなかった。
起き上がったゴロツキ風の男は嬉しそうに舌なめずりをしている。
「なんだよ今日は大量だな」
うつ伏せになったルドアの腹を容赦なくけり上げ、仰向けにすると男は彼女に馬乗りになる。
(耳鳴りがする。視界がぼやける。声を上げることができない。ずっと首を絞められているみたいに呼吸もままならない)
何度も、何度も身体を動かそうとするが、全くいうことを聞いてくれない。目の前で気色悪く笑っている男に苛立ちを隠せず、せめてもの抵抗とばかりにルドアは男を睨みつける。
その目を嫌ってか、ゴロツキはルドアの頬を力いっぱいビンタする。『痛い』そう発する事すら許されない。彼女の頬に赤く手形がついている。
「お前みたいな気の強い女は大好物だ。どこまでそれが続くか。楽しみだな」
彼女の襟元にあるネクタイに泥水で汚れたゴロツキの指が這う。スルスルと外された赤いネクタイの下、白いワイシャツのボタンを見て、男は自らのズボンのポケットにしまっていた。折り畳みナイフを取り出した。慣れた手つきで手首を振ってナイフの刃を展開すると、その切っ先をルドアのワイシャツのボタンに潜り込ませ、ピンッとはじく。糸の切れたボタンは、放物線を描き地面をコロコロと転がる。
「一個――」
数えるようにそういうと先ほど切り飛ばしたボタンのさらに一つ下のボタンにナイフを当て、再び切り飛ばした。
「二個――」
ルドアの柔肌が徐々に露になっていく。楽しそうにボタンを数えるゴロツキとは反対に、ルドアの表情にはすでに余裕はなくなっていた。睨んでいたはずの彼女は、現実から目を背けるように目を強く瞑っていた。
丁度三つ目のボタンにナイフの切っ先が迫ろうとしていた時だった。ゴロツキの身体はいきなり真後ろに吹っ飛んだ。
ドンッという衝突音に驚いて、ルドアは瞑っていた目を恐る恐る開く。そこにはここに向かう際に、はぐれたヴォルトの姿があった。ヴォルトはゴロツキの顔面に真正面から膝蹴りを見舞い、そして自分も痛がっていた。
「痛ぇ――膝の皿が――」
膝蹴りをした右足を抱えて、左足だけでぴょんぴょんと跳ねている。くしゃくしゃになった彼の顔がその痛みを物語っていた。
痛みが引いてきたのか余裕が生まれた様子のヴォルトは、そこでようやくルドアに声を掛ける。
「大丈夫か?」
それは既視感というやつだった。動けなくなっている女性に声をかけている間に、ルドアは基礎魔術防護を剥がされた。もう一度同じことが起こる。その予感は的中した。ヴォルトの背後で男がうつ伏せに寝転がったまま白い魔石の指輪を掲げている。それが目に入ったルドアは必至で目を見開き、ヴォルトに伝えようとするが、
「そんなに怖かったのか? 変な顔になってるぞ」
彼は呑気にも笑っていた。
(何で気付かないのよ! バカ!)
ルドアの思いも空しく、ゴロツキの指輪の魔術が展開されていく。目の前に複雑な白い魔術陣が描かれたかと思うと、それは淡く光り、魔術は発動した。
ヴォルトの身体の表面に薄いベールの様な金色の魔力が表出したかと思うとそれはすぐに消えていった。その後にヴォルトの身体に白い魔術陣が現れ、かと思うと風に吹かれた砂の様に粒子となって消えていった。
自分の身体に見覚えのない魔術が浮かび上がって、そこでようやくヴォルトは背後でうつ伏せになりながら指輪を掲げている男に気が付いた。
「何で効かない?」
ヴォルトは唖然としているゴロツキに近寄り、展開されっぱなしになっている魔術陣を眺める。
「なるほどな。防護破壊と解離魔術が一体になった魔術陣を簡易魔術輪なんかに入れてるのか」
ヴォルトはひとしきり魔術陣を眺めた後、その一部を指さすと、
「ここ、この部分」そう言ってゴロツキの視線を指の先に誘導して続ける。
「使用者から勝手に魔力を吸い上げる構造になってる。この部分をこうすると」
ヴォルトが指を横にスライドさせると、魔術陣の構造が変更される。
「あ、やり過ぎた」
ヴォルトがそうボソッと言った瞬間、ゴロツキの身体から色が抜け始め、あっという間に体中が半透明になってしまった。いわゆる魔力欠乏状態だ。ヴォルトは慌てて指輪を男の指から外す。すると出っ放しになっていた魔術陣は瞬間消えていった。
半透明になり、明滅を繰り返す自らの身体を見てゴロツキは慌てふためいている。
「お、おい。俺はどうなっちまうんだ? なぁ助けてくれよ」
「悪いけど、俺には治せないんだ。自然と元に戻るのを待つしかないな」
「そ、そんな」
がっくりと項垂れるゴロツキを尻目に、ヴォルトは倒れている女性に駆け寄って行った。
+
あの後、解離魔術によって身体の自由を奪われていた二人に、ヴォルトはそれを解除する魔術を施し、事なきを得た。
たまたま近くを巡回していた騎士団員にゴロツキを引き渡した後、ヴォルトとルドアは先程の現場から目と鼻の先にあるカフェに立ち寄り、一度休憩を取る事になった。
人通りの少ない脇道にひっそりとあるカフェのオープンテラス席で二人は丸テーブルを囲みながら椅子に座っていた。
ヴォルトは机の下で半透明になっている自らの右手の指先を見て、溜息を吐くとそれを隠すように拳をつくる。
(やっぱり解離魔術の解除となると、消費魔力も馬鹿にならないな――)
ルドアはゴロツキに切り飛ばされたボタンの四つ穴に、魔力で作り出した糸を魔力操作によって宙に浮かせながら通し、着ているワイシャツのもともとボタンがあったであろう場所に縫い付けていく。
「それ便利だな」
「寮に帰るまでの応急処置よ」
「一つ忠告だが、魔術防護は自作した方がいい。基礎魔術防護じゃあ魔術師相手には役に立たないからな」
そう言った後、ヴォルトは苦笑いを浮かべながら言葉を連ねる。
「と言っても俺も女子寮でお前に拘束された後に急ごしらえで作り直したんだけどな」
「通りで――だからあの時平気だったのね。……肝に銘じるわ」
ルドアは流石に参っているのか元気がない。自分自身でも気分が落ちていることを自覚したのか、直したボタンを留め、気合を入れなおすかのように赤いネクタイを結ぶ。
ヴォルトはゴロツキから奪い取った指輪を左手の中で転がしながら、心底関心した様子で言葉を漏らす。
「こんなのが出回ってるなんて、騎士団が手を焼くのも頷けるな」
「魔石盗の仕業でしょうね。最近ペイオリティで幅を利かせてるって聞いたわ。なんでも魔石を盗むだけじゃなくて、加工して、ザルクスの罪人やさっきのゴロツキみたいなならず者に格安で提供してるってウワサよ」
「魔石盗ねぇ。たしかジルフも言ってたな。厄介な輩だとかなんとか――」
それは話の腰を折るようなタイミングだった。
ドカーン! と突然何かが爆発する音が辺りに鳴り響いた。
そのあまりの爆音に、思わず二人とも椅子から立ち上がる。
視界の端に赤い何かが映って、ヴォルトは慌ててそちらの方を向く。そしてそれを見た瞬間――絶句した。
それとは相対してルドアは高揚した様子で指をパチンと鳴らした。
「ナイスタイミングね。アレが『事件性のない小火』と言われているものよ」
嬉しそうに微笑んでいるルドア。その視線の先、およそ数百メートル離れた場所で、建物の隙間から巨大な炎の柱が天高く打ち上げられているのが見える。その規模は目測でも家屋が一件まるまる飲み込まれてしまうほど広大とわかる。その膨大な熱量からか、それが煌々と発する赤い光が素肌に当たるだけでジリジリと熱を感じる。
「アレのどこが小火だって――!?」
どう見たって小火と呼べる規模ではない。炎の柱は時間とともに徐々に小さくなっているものの、何百メートルも離れたこの場所から目視できること自体が異様だった。
消えていく炎の柱を見て、ルドアはヴォルトを急かす。
「これで貴方も興味が沸いたでしょ? 行くわよ! もしかしたら、犯人に会えるかも!」
先ほどヘコんでいたことなど『もう忘れた』とばかりにルドアは炎の柱が見える方を目指して全力で走り始める。
「おいおい、お前は鉄砲玉かよ!?」
ヴォルトは呆れながらもルドアについていくために、その後を追って走っていった。