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【ヴィー】神獣ヒューの奪還

「え?」


「ヒューを解放しなさいと言っている。そこに閉じ込めている神獣を解放しなさい」


 わたくしは、【悪役令嬢】の左手の薬指に輝く、ランパードがドナテラに渡した婚約指輪を指さして、明確に伝えた。


 その指輪から【悪役令嬢】の様子を見に行ったまま帰ってこなくなった神獣ヒューの懐かしい気配を確かに感じた。


 神獣は時間の感覚がわたくしたちとは違う。


 ちょっと見に行くといって、数年帰ってこなくても、寂しいだけで、あまり心配していなかったけれど、指輪に閉じ込められていたのかと思うと【悪役令嬢】を殺したくなった。


 

「ヴィー、ここに神獣ヒューが封印されているのか? ヒューは生きているのか?」


 ランパードが【聖女】をほっぽりだして駆け寄って来た。


「そうだよ。ラニー。その指輪からヒューの気配がする」


 数年前から姿を表さなくなった神獣の名が出たこと、王太子がわたくしの名を愛称呼びしたことで、再び会場が騒然となった。


「閉じ込められているのか?」


「そこのドナもどきに聞いてくれ」


 わたくしは【悪役令嬢】からヒューの気配を感じた後、歯を食いしばって幼稚な断罪劇が終わるまで待った。


 断罪劇と神獣泥棒を別件処理してもらえるように待ったのだ。


 どうやってヒューを指輪に閉じ込めたのか知らないが、あの子にそんな虐待をした奴は絶対に許さん。



「ドナテラ嬢、婚約指輪は返さなくて良いが、神獣は人が所有して良い存在ではない。解放して欲しい」


 ランパードは、他人行儀で丁寧なお願い口調で頼んだ。

 呼び方から、ランパードも【悪役令嬢】がわたくしたちの知るドナだと思っていないことが分かった。


 優秀になった【悪役令嬢】がちゃんとこの国の歴史を学んでいるならば、建国からの長きに渡ってこの国を守ってきた神獣を他国に連れ去ろうとしたことにされたら、即刻捕らえられて処刑されることが分かるだろう。


 隣国だって別の神獣に守られている国だ。神獣同士の縄張り争いを避けるため、【隣国王子】が自国の神獣のテリトリーに別の神獣を持ち込まないだろうことも分かるはずだ。


 自国で神獣同士に縄張り争いされたら、ヒトなんて簡単に死滅してしまう。


 さっさとヒューを返せ!



「わたくしは何も知りません! こんなもの要りません!!」


 【悪役令嬢】は、ランパードから貰った婚約指輪を自分の指から外して、床に投げつけた。


 終わった、な。

 死は免れないだろう。


 神獣を閉じ込めた器にこんなことをするなんて、信じられない。


 【隣国王子】が言っていた「悪役令嬢と聖女の身体は、異世界の魂に乗っ取られている」と言うのは本当なのだろう。


 こんなことになるなら、もっと早くランパードを訪ねるべきだった。


 ランパードは、【悪役令嬢】が投げつけた指輪を大事そうに拾い上げ、わたくしに託した。



「ヒューは君の友達だ。君に持っていて欲しい。この女を尋問して解放する方法が分かったら連絡する」


 かつての「好きな子」を「この女」呼ばわりせざるを得なくなったランパードはどんな心境だろうか?



「わかった」


 ランパードから指輪を受け取ろうと手を出すと、義弟がその手を掴んで、自分の口元に寄せた。


「ちゅっ。義姉上、ダメです。王太子から婚約指輪を受け取るなんて、絶対にダメです」


 ああああぁぁぁぁーーーー!!!!


 この、クソ義弟。

 ブチ切れそうだ。


 話を聞いていなかったのか!?


 受け取ろうとしているのは「婚約指輪」ではなく、「神獣の器」だ。


 邪魔をするな。

 この狂人め!



 もし、【悪役令嬢】のように指輪を叩き落としていたら、【シスコン】も処刑される運命をたどっていただろう。

 わたくしの手がキスの被害にあった程度で済んだことは幸いだったが、どうしたものか?


 こうなったら、今日一日で真逆に覆ったこのクソ義弟の真実についての仮説をぶっつけ本番で試すしかない。



「だっこ」


 わたくしは義弟に向かって腕を広げて抱っこを強請ってみた。



「あ、義姉上……」


 やっぱりだ。

 義弟は歓喜に満ちたウルウル顔で、わたくしを抱き上げた。



「疲れたから、もう帰りたい。ヒューの器は持って帰りたいから、君が受け取ってくれ」


「かしこまりました」


 義弟はわたくしをお姫様抱っこから、片腕抱きに変えて、ランパードに向けて手を差し出した。

 ランパードは、自分の額を手で覆い頭を抱えながらも、義弟に指輪を渡し、【悪役令嬢】を【脳筋】に捕らえさせてどこぞに連行した。


 聖獣に関わることだ。

 誰も異論を唱えなかった。


 ヒューを呼び戻せるとしたら、わたくししかいないと思ったのだろう。



 【隣国王子】マーカスは、上手いことやってカイリーだけ自国に連れ帰った。


 わたくしは、王都の侯爵邸でクソ義弟に抱っこされたまま離してもらえなくなった。



「ケイレブ。君はいつからわたくしのことが好きなんだ?」


「物心ついた頃からです。好きなんじゃなく、溺愛しております。もう離しません」


「ふむ。君はわたくしが貰ってやるから、ヒューの器を私にくれないか? あの子を解放する方法を調べたいんだ」


「指輪は見せてあげますから、もう少しだけ、義姉上を堪能する時間をください」 


 義弟はそれから3日間、ひたすらわたくしを抱っこして、彼がいかにわたくしの事を愛しているか、語りつくすまで神獣の器を見せてもくれなかった。


 完全に壊れていた。



 その3年後、ヒューの縄張りはそのままで、ヒトの王がわたくしの文通相手に変わった。


 わたくしの領地は亡国の西端ではなく、隣国のド真ん中になって更に栄えた。


 第1子は齢1才。

 子供はまだまだ生まれそうだ。


 夫は狂人だが、猛烈に愛してくれる。


 傍目には幸せな人生を歩んでいるように見えるのではないかと思う。


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