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【ヒュー】神獣シドニアスの子孫

 それからすぐにヴィクトリアの母親が死んで、ヴィクトリアが隣のやつの縄張りだった土地の領主になった。



 ヴィクトリアは、最初の日から、既に立派な領主だった。


 でも、俺様、猛烈に心配になった。



 ヴィクトリアの心が全く動かなくなったからだ。


 ヴィクトリアは母親の死を悲しんでいなかった。


 静々粛々と新領主として、弔問客をもてなし、やるべきことをやった。


 俺様、まだ死んでもいないミーナが「神獣」をやめただけで号泣した泣き虫だ。


 隣のやつがそんな俺様たちの心を模して創ったヒトが、全然心を動かさなくなるのはダメなことに思えた。


 俺様、ヒト型になって、ヴィクトリアをハグしたり、ナデナデしたり、いろいろ試みた。


 そういう時、ヴィクトリアは少し首を傾けて優しい顔をして、「ヒューは優しい子ね?」と俺様を褒めた。


 でも、俺様、知ってる。


 ヴィクトリアは俺様にハグされても、ナデナデされても、心を動かさないように我慢している。


 優しい顔は、俺様のための作り顔だ。


 領主になってからは、就寝前のちょっとの時間だけ、イヌ型の俺様のモフモフに顔を埋めて、心の力を抜く時だけヒトっぽくなるだけになった。


 俺様、いつでもヴィクトリアの「まくら」ができるように、ヴィクトリアの家に住むようになった。



 母親が死ぬ前は、ヴィクトリアにも少しだけ心が残っていた。


 俺様のことをハグして、ナデナデしながら俺様をいたわる時は、俺様に元気になってもらいたいと願ってた。


 そういう時のヴィクトリアは、すっごくいい匂いがするんだ。


 でも、母親が死んでから、パチッとスイッチが切り替わったように、心が動かなくなった。



 当時、ヴィクトリアの心を動かすのは、義弟だけだった。


 抱くのはいつも悲しい気持ちだったが、それでも全く心が動かないよりマシだと思った。



 義弟とヴィクトリアは、俺様が知っているヒトの家族構成とちょっと違うから、説明してもらったことがある。


 ヴィクトリアの両親は政略結婚だった。

 父親はヴィクトリアが生まれてすぐに俺様の縄張りの北側から入ってくる「魔獣」を退治するために「国」の北辺へ派遣された。


 「魔獣」は、「か弱き者」の一種だと思うが、よく知らない。

 ヒトにとっては脅威になる「か弱き者」なんだと思う。


 父親は、北辺で恋をして、別の女性と駆け落ちした。


 その女性が義弟の母親だった。


 義弟の母親は、その土地で夫を魔獣に殺された未亡人だった。



 義弟の母親は、前夫との間に出来た双子を置いてヴィクトリアの父親と駆け落ちした。双子のうち、男児の方はヴィクトリアの母親が引き取って、ヴィクトリアの義弟になった。


 女児の方は、別の家に引き取られた。


 ヴィクトリアの母親は、ヴィクトリアの義弟を手厚く育てた。


 領主となることが決まっているヴィクトリアのような心を殺す教育ではなく、心豊かに幸せになるための教育を施した。


 それが父親の駆け落ち相手の連れ子だったとしても、母親が「可愛がってもよい子供」を手に入れたことをヴィクトリアは祝福した。


 そして、母親が引き取ったのが、女児の方ではなく、男児だったことを母親の配慮だと言って、感謝していた。


 目の前で、同世代で同性の子が母に可愛がられていたら、流石に闇落ちしていたかもしれないって。


 この話をした時のヴィクトリアは、優しい気持ちでそう言ったのではなかった。


 諦めと、悲しみがないまぜになった、途轍もなく痛い気持ちだった。

 俺様、悲しくなって、ヴィクトリアに抱き着いて、ナデナデしてもらった。



 ヴィクトリアと義弟は、6才までは領地で、6才から10才まではヴィクトリアのお妃修行の為に王都で暮らした。


 母親は、ヴィクトリアをランパードに嫁がせることで「神獣」の守護がない自分の領地を王家に譲ることを考えていた。


 でも、ランパードとドナテラが両想いだということを知っていたヴィクトリアは、俺様にいつも通りランパードの好きな子を選んでやるように促した。


 ドナテラがランパードの婚約者になった後、ヴィクトリアは反対側の王国に送られた。ネコのやつの縄張りだ。



 ヴィクトリアはアーサーの国のいいところを学ぶためだと意欲的だったが、母親はヴィクトリアをアーサーの嫁にして、自分の領地をアーサーの国に貰ってもらいたかったのかもしれない。



 ヴィクトリアは、ネコのやつの縄張りで、王の子アーサーと友達になった。


 俺様がヴィクトリアを気に入っていて、ネコのやつがアーサーを気に入っていたから、二人の間に結婚の話は出なかった。


 結婚したら、二人が住む場所で神獣同士の縄張り争いが起きて、どちらかの国が滅ぶことになりかねない。


 ヴィクトリアは、純粋な「ただの友達」が出来て嬉しいと言っていた。



 一方、義弟の方は6才からずっと俺様の縄張りの王都に住み続けていた。


 母親がヴィクトリアに領地の執政を任せて王都で療養していたころは、王都で顔を合わせれば家族として話をすることもあったようだが、母親が死んだ後は、ヴィクトリアに会うのを嫌がるようになった。


 ヴィクトリアが母親の代わりに義弟の学生寮に面会に行ったが、会ってもらえなくなった。

 

 ヴィクトリアは、面会を拒否されるたびに、悲しい気持ちになった。


 心が動かなくなったヴィクトリアが、唯一恋しく思ったヒトは、ヴィクトリアに会いたがらない。


 俺様は、ヴィクトリアの家族の代わりに、ヴィクトリアから離れないようにした。



 だから、母親の一周忌で義弟を見てビックリした。


 ヴィクトリアの義弟、隣のやつの気配を纏ったあいつの子孫だった。


 俺様、怒って義弟を嚙み殺すところだった。


 お前が「聖獣」をやめて縄張りを空けたから、ヴィクトリアみたいに我慢だらけのヒトが生まれたのに、会ってもやらないなんて、酷すぎるだろう?



 俺様、分かっている。

 義弟にはシドの記憶はない。

 ヴィクトリアの我慢はシドのせいだけど、義弟のせいではない。


 それでも、会ってもやらないで、ヴィクトリアを悲しませるのが許せなかった。


 俺様、その時、子供のヒト型だったから、後ろからガシッと掴まれてヴィクトリアでも止められたけど、イヌ型だったら義弟は今頃死んでた。


 危なかった。


 義弟の父親は、「魔獣」に殺されたと言っていた。


 あいつ、「か弱き者」に殺されるほど弱っちくなってしまったんだ……


 俺様に噛みつかれたら、絶対死んでた。



 同時に、俺様、分かってしまった。


 義弟がヴィクトリアに会わなくなったのは、ヒト型の俺様のせいだった。


 俺様、母親が死ぬちょっと前から、ヴィクトリアをハグするためにヒト型で過ごすことが多くなった。



 でな、俺様、イケメンなんだ。


 神獣だからな。

 神がかってイケメンなんだ。


 白銀の毛に水色の瞳の神様みたいなイケメン。


 義弟もあいつの子孫だから、神クラスのイケメンではあるけど、「神獣」じゃないからその分、劣る。


 ヴィクトリアが自分よりイケメンの男にナデナデしてもらっているのを見て、義弟は身を引いたのだ。


 俺様を見る義弟の瞳に劣等感が溢れ出ていた。


 イヌ型だったらきっと何とも思わなかっただろうから、俺様のせいだよな?



 俺様、ヴィクトリアの屋敷では、ヒト型になったり、イヌ型になったりしてるから、皆んな俺様の正体を知っているんだと思ってた。


 急にヒト型になると、使用人たちがローブを持ってぶっ飛んでくるから、ヒト型になる時は服を着るようになったのは、いつだったか?


 他に何を見られたかわからないけれど、義弟は俺様のことをヴィクトリアのつがいだと勘違いしていた。


 義弟は、ヴィクトリアの顔を見ると涙がでちゃうから、会いたくないという気持ちがバシバシ飛んでた。


 どうしよう。



 俺様、ネコのやつに相談した。


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