表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

【ヒュー】神獣ウィルヘルミナの結婚

 俺様がドナテラのお供え物を選んだあと、ランパードのお妃候補じゃなくなったヴィクトリアは、自分の家に帰った。


 俺様はしょっちゅうヴィクトリアの家に遊びに行くようになった。

 ヴィクトリアもしょっちゅう帝都に来て俺様に会いに来てくれた。


 年に4回はしょっちゅうじゃないってヴィクトリアは言うけど、俺様にしてはかなりしょっちゅうだ。



 ヴィクトリアの家は、ヒトを創ったあいつの縄張りだった場所だ。


 あいつがまだ「聖獣」だったころ、何度も遊びに行ったことがある懐かしい場所。


 

 その場所は、あいつがいなくなってから、縄張りを守ってくれる「神獣」がいなくなった。


 ヴィクトリアの家は、「神獣」なしでヒトを守護していた強い家だった。


 ヴィクトリアが、心を押し殺して暮しているのは、「神獣」なしでもヒトを守護できるように強くなるためだった。


 心を押し殺せばどう強くなれるのか、俺様にはわからない。


 でも、ヴィクトリアの母親は、信念をもってヴィクトリアを「心」で意思決定をしない「理性的な」領主に育てようとしていた。


 ヴィクトリアの母親本人も、ヴィクトリアを甘やかしたい気持ちをギュッと抑え込んで厳しく育てていた。


 俺様、もやっとした。




 俺様たち「神獣」は、ヒトを含む「か弱き者」たちがどこに住もうと全く気にならないけれど、「か弱き者」には「か弱き者」の縄張り争いがあることは知っている。


 ヴィクトリアの家は、俺様の縄張りの「国」とネコの奴の縄張りの「国」の間にあるから、ヴィクトリアは、両方の「国」についてよく勉強していた。


 ヴィクトリアは、お妃教育の時に俺様の縄張りの「国」の住み心地は分かったから、ネコのやつの縄張りの「国」の住み心地を知るために留学すると言って、ネコのやつの縄張りの「王」の家に住むようになった。


 二つの「国」のいいところを勉強して、自分の領地に取り入れる目的だ。

 ヴィクトリアはまだ小さいのに中身は立派な領主だった。


 それが心を押し殺した代わりに得る物なのかもしれない。


 俺様も久しぶりにネコのやつに会いに行こうと思ってヴィクトリアの留学について行ったら、大騒ぎになった。



 俺様とネコのやつが縄張り争いしたからじゃないぞ?


 ネコのやつは、隣のやつが「神獣」をやめた後、俺様が縄張りに入っても怒らなくなったんだ。



 ネコのやつの縄張りの「国」は、大喜びの方の大騒ぎだった。


 ネコのやつがヴィクトリアの「ナデナデ」を試すために実体化したからだ。


 ネコのやつは、ヒトの前でネコの姿に実体化したのが初めてで、寒い寒いといって、ずっと俺様かヴィクトリアにくっついていたから、俺様とヴィクトリアはネコのやつの縄張りの「国」の人々からすっごく大切にしてもらえた。



 俺様の縄張りの「国」では、俺様が他の「国」に引っ越したと思って大騒ぎになった。


 神獣ヒューがいなくなったのは、ランパードのお妃をヴィクトリアにしなかったからだと誤解して、ランパードがヴィクトリアに求婚しに来てビックリした。


 俺様が人語を話す相手は、ヴィクトリアだけだから、俺様はヴィクトリアの膝枕でナデナデされながら無言で話を聞いた。



 ランパードが好きになったドナテラは、ヴィクトリアと比べるとかなり不出来らしい。


 俺様がヒト基準で優秀な方のヴィクトリアと一緒に別の「国」に行ったから、お妃選定で「王」が民にウソをついたと思われているらしい。



 俺様には「か弱き者」の個体ごとの優秀さの違いなんて分からない。



 ヴィクトリアは、神獣のいない土地で縄張りを守る家の子だ。覚悟が違うから、魂の匂いが独特ではあるが、ドナテラだって優しい子のいい匂いがする。


 そもそも、ランパードのお妃が誰になるかなんて、俺様、興味ない。


 ただ、「王」の家に臭い奴がいると、俺様が寄り付かなくなって、「王」が困るのは知ってる。

 だから、前にも説明した通り、お妃選定の時に王の子の好きな子が臭かったら、別の子のお供え物を選んで意思表示をするだけだ。



「ヒュー。頼みがある。ランパードと王城に戻って、ドナテラを守ってくれないか?」


 一通りランパードの話を聞いたヴィクトリアにそう頼まれたから、俺様、王の家に戻って、毎日ドナテラに会いに行くようになった。


 正直、面倒だったし、ヴィクトリアに会えなくてつまらなかったけど、ヴィクトリアの頼みだから、仕方がない。



 あんまりにも退屈な時には、ヴィクトリアに会いに行った。

 ヴィクトリアは、滞在が3日目になると困り顔で「帰れ」と言うようになった。


 でも、困っているのは顔だけで、心は俺様に会えて喜んでいたから、俺様、しょっちゅう会いに行って、その度に「帰れ」と追い返された。


 ネコのやつは、「か弱き者」の命令を聞くダメな「神獣」だと俺様のことを笑ったが、俺様は知っている。


 ネコのやつだって、実体化した後、自分の縄張りの王の子アーサーと友達になって、夜はアーサーの布団にもぐりこんで寝ている。


 「か弱き者」と一緒に寝るとか、俺様でもしない。


 ネコのやつだって、相当ダメな「神獣」だ。



 しばらくすると、ヴィクトリアの母親の具合が悪くなって、ヴィクトリアも自分の家に戻った。



 それからすぐに、ネコのやつが「神獣」をやめて、ヒトになった。


 アーサーと結婚するためだ。


 アーサーとの子供が欲しいらしい。

 そして、アーサーが死ぬときに自分も死にたいらしい。


 俺様、泣いた。


 猛烈に、泣いた。


 俺様、知ってる。


 この気持ち、喪失感って言うんだ。

 隣のやつの時にも経験した。


 あいつの子孫はあいつの気配を纏っているけれど、あいつじゃないし、俺様のこと覚えてない。


 権能も何も持ってなくて、か弱い。


 あいつはいなくなったんだ。


 ネコのやつまでいなくなったら、俺様、寂しい。


 ヴィクトリアは、俺様が泣き止むまでずっとハグしてナデナデしてくれた。


 

 **



「ヒュー、私の縄張りを引き継いでくれないかな?」


 ネコのやつは、いつもは俺様のことをイヌとか、さびしんぼうとか呼ぶのに、俺様の名前を呼んで頼み事してきた。本気の時だ。



「ウィルヘルミナ、俺様、縄張り広げる欲望、ない」


 俺様も、すごく久しぶりにネコのやつの名前を呼んだ。



「知ってる。でも、私の縄張りが他のやつの縄張りになるのが嫌なの」


「贅沢言うな。イヤなら神獣やめるな」


「シドニアスの贈り物を受け取りたいの。ヒューにも分かる時が来るかもしれない」


 ネコのやつは、隣のやつがいなくなってから初めてあいつを名前で呼んだ。

 もうどうしようもなく本気だ。


「シドの贈り物がアーサーなのか?」


「そう。縄張り争いなく共感し、愛し合える存在を見つけてしまったの」


 俺様、言葉が出なかった。


 またしばらく大泣きして、ヴィクトリアにナデナデしてもらった。


 ミーナはすぐに死ぬわけじゃない。


 ミーナとアーサーの子供を見たら、元気が出るかもしれない。


 俺様、自分を奮い立たせた。


 久しぶりに人化してヴィクトリアと一緒にミーナの結婚式に行ったら、凄く喜んでくれた。


 ミーナは結婚を機に「神獣」をやめて、ミーナの縄張りは俺様の縄張りになった。



 アーサーは俺様の為に縄張り内の「国」を統一すると約束してくれた。


 一つの縄張りに複数の王国があると、ヒトの縄張り争いが起きて、縄張りが汚れる。

 それを最短で済ませることで俺様の縄張りが出来るだけきれいに保つ約束だ。


 ついでにミーナの縄張りと俺様の縄張りの真ん中にあるシドの縄張りも俺様の縄張りにした。


 そうすることでヴィクトリアの領地も神獣の庇護下に置かれ、ヴィクトリアが心を殺さなくても生きて行けるようになることを願った。


 ヴィクトリアは、この時、アーサーが俺様の為にヒトの王国を統一するのに協力すると約束してくれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ